見出し画像

2021年3月に読んだ本

猫奥 (モーニング KC) 

生涯独身の女性が多く詰める江戸時代の大奥が舞台の作品。本当なのかどうなのかは分からないけれど彼女たちの多くが猫を飼っていたという設定。上手いのは本当は猫好きなのだけど周囲からは猫嫌いと思われているちょっと上位の女性を主人公にしているところ。ほんとは猫を可愛がりたいのに表向きシャキっとしてなきゃ、の悶々具合が面白い。そういう作品。

雨と君と(1) (KCデラックス) 

どこで見かけたのかな…たぶんTwitterかな。
これ単行本になったら読もうと思っていた作品。
綺麗だけど寡黙なお姉さんと、彼女が雨の日に道端で拾った自称犬〜どう見ても狸〜との日常を描いた作品。動きもほとんど無く、ドラマ性も無い、ただの日常が淡々と進むのだけど設定が少しだけ異常というところが楽しいのかな。良い作品だと思います。


起業の天才!: 江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 

個人的な関心もあってすごく読んでみたかった作品。自分は1990年から社会人を始めたのだけど江副さんが逮捕されたのが1989年。ちょうど自分が就職活動をしていたタイミングがリクルートという会社が世間からめちゃくちゃに叩かれていた時期だった。まだバブルの尻尾くらいの時期で売り手市場だったので面白半分といっては怒られるけどもいろんな会社を受けたのだけどリクルートも受けていて、当時も超人気企業で例年だったらすぐ落とされちゃう自分みたいな者にも内定をくれたのだった。結局、製造業志向だったこともあってIT会社を選択したのだけれどそういう因縁もあって非常に興味深く読んだ稀代の起業家である江副浩正の一代記。アメリカのベンチャーの話を読んだ時に世の中にあるべきなのに無いものを俺が作る、という起業でないと成功しない、とあってなるほどな、と思ったのだけど正にそういう起業の物語。帯にジェフ・ペゾスの上司だった、とあるけどこれも本当でペゾス(さらっと触れられているけどやっぱり優秀さが尋常ではない)が勤めていた国際決済のベンチャー企業をリクルートが買収した時期があったらしい。求人情報から始まり様々な情報を商売のネタにして会社を拡大したところは実はGoogleのかなり先を行っていたし、大型の電算センターを作ってAWSのかなり先を行っていた、というあたり稀代の起業家の名に恥じないだろう。また、創業期の社員たちの〜時には今ならアウトだろみたいなことも含めて〜活躍も読んでいてすごく楽しい。製造業志向ということともう一つ、自分にはリクルートで活躍できるバイタリティが無いな、と思ったことも選ばなかった理由の一つ。そして…入ったら金融関係を…と言われていたがこれを読んでやめといて良かったとつくづく思った(笑)
後半のリクルート事件について作者の見立ては既得権益を奪われたマスコミをはじめとする古い体制に半ば嵌められたという印象なのだがそれが正しいとすると自分も同感。周囲の敵意に気がつかず不用意に脇腹を晒してしまったところが失敗なのだろう。読んでも何があれだけの人を有罪にした犯罪だったのかいまいち分からない。そして本筋ではないが検察の取り調べが酷い。まるで古い映画に出てくる特高警察そのものでこんな取調べがまだ行われているのなら後進国そのものではないかと思った。江副さんのDVみたいなこともきちんと書いてあって公平な評伝といった印象。とにかく面白かった。おすすめです。そういえば俺の中内功の評伝借りたまま返してない奴いるな…ということも思い出した(笑)


近代日本と軍部 1868-1945 (講談社現代新書) 

ミャンマーの状況を見てるうちに国と軍の関係ってどうなのか…つまり軍って国の中では圧倒的に力を持っているはずでどこの国でも簡単に軍に支配されてしまうのではと思い…言わばリファレンスとして我が国の軍の成り立ちと政治との関係を知りたいと思ったので手に取ってみた。しかしこれは労作。明治維新で日本軍ができてから太平洋戦争敗戦で解体されるまでの政治と軍との関係を丹念に書き切っている。ほぼ一年毎に何があったかを書いてあるような形式なので正直ちょっと退屈になる部分や小説ではないので盛り上がりに欠ける部分はあるのだが近代日本の政治中央がどのように発展したのか、が分かる形になっている。元々は維新の勝利者である薩長の武士団を中心とした日本軍が徴兵によるあまねく国民が参加する軍へと変貌を遂げる経緯、名高い長州の奇兵隊が暴力的に解体されたことも知らなかったし、それ故に地元の武士団との柵が薄まった長州出身者が軍の中枢を担っていった、ということが意外だった。そして何より評価が変わったのは言わば藩閥政治の権化で権力を悪どく握っていたと個人的に理解していた山縣有朋が、軍を政治から分離させることに心を砕いていた、ということかな。一般的には日露戦争で慢心した帝国陸軍が日本を戦争に巻き込んだ挙句、破滅に導いた、と説明されることが多いように思うのだけど実態はかなり乖離していてそもそも清国にめちゃくちゃな要求を突きつけて国際的な孤立を招いた大元は世論とそれに乗っかったポピュリストの大隈であったとか、元々陸軍は大陸への派兵に消極的であったとか知らなかったことが多く参考になった。植民地とそこに駐留する軍は必ずおかしなことになるので、という元々の陸軍の懸念が結果的に満洲国と関東軍という形で的中してしまうところがなんとも皮肉。諸々大変参考になりかつ興味深い作品でした。


心は孤独な狩人

驚きました。自分で訳したいと思っていた作品を順次出されてきた村上春樹さんが最後までとって置かれた作品というのが売り文句で…果たしてどうなのかという目線で手にとってみたのですがこれはもの凄い作品。アメリカ文学をちゃんと学んだことがなくこの作者と作品のことも恥ずかしながら知らなかったのだけどアメリカでは古典として大事に扱われている作品だとか。第二次大戦直前のアメリカ南部の小さな町を舞台にした物語。いちおう主人公らしき少女はいるのだけど...親が下宿屋を営んでいるけどけっして裕福ではないその白人の少女、街で深夜営業しているダイナーの主人、黒人の地位向上を願う黒人医師、流れ者の共産主義者の白人男性、聾啞の白人男性、の五人を中心に語られる物語。登場人物の殆どが言ってしまえば貧困層で明るく楽しい話は全く出てこない。黒人の地位向上を願い必死に学んで尊敬される医師となった男は子供達を立派に育てようとするが今で言う毒親、モラハラになって子供全員に出ていかれてしまって孤独に暮らしているが、それでもたまに顔を出してすれる娘相手に演説をぶってしまう…。共産主義者の男は熱心に主義を説くが誰にも相手されず町の変わり者扱いされる。ダイナーの主人は主人公の少女に邪な気持ちを抱きつつも(白人だけだけど)客を公平に扱おう、善き人であろうとする。そしていろいろな希望を持ちつつ現実と折り合いをつけざるを得ない少女、その四人がそれぞれ満たされない思いを一方的にに語りに来る相手としての聾啞の男性。彼には彼で思うところがあり、という具合で華やかな人物が全く出てこない陰鬱な物語がなぜこんなに魅力的なのか...読後感も全く悪くなく不可解なのだけどそのあたりが翻訳者をして「このような物語はこの作者にしか書けなかったし今後も書けないだろう」と言わせた所以なのか...。全く気持ちは盛り上がらないけれども何故か非常に心惹かれる物語。おすすめです。


Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生

音楽ファンとして非常に気になる存在。スウェーデンで起業したスタートアップがいかに世界的な存在になったのか、について非常に興味があったので手にとってみた。一般的な音楽の聴き方がレコードからCDになりそして今ではストリーミングとなっている認識なのだが、そして自分はAppleMusicに加入しているのだが、やはりストリーミングを一般的にしたのはSpotifyという認識を持っている。その彼らがどういう動機とどういうやり方で新しい世界を作ったのかを知りたいと思っていた。その観点からまず言いたいことは…原文が悪いのか翻訳が悪いのかわからないけれどもすごく読みにくい、ということでもしかしたら技術的な核心の部分には触れられなかったのかもしれないけれど一見簡潔に書かれている文章がなぜかものすごく読みにくい。そして物語そのものも、違法ダウンロードを無くし音楽家にも利益が出るようにいわば音楽の裾野を広げようとした、という美しい動機が語られてアップルやテイラー・スウィフトとの戦いなどが描かれているのだが...その辺は割と淡白に書かれていてどちらかというと金に関するところが生き生きと描かれている印象。あまりも生臭くて後半ちょっと気持ち悪くなったくらい。どういう目的で書かれたのかわからないけれども正直なところSpotifyのことが嫌いになりました。これは逆効果じゃないかな。お金の話が大好きな人にはおすすめします。


RAGE(レイジ)怒り 

ニクソンを失脚させたことでお馴染みの大ジャーナリストの作品。民主党系のワシントン・ポストに今も在籍しておりトランプに対してはアンチなはず。そのバイアスがかかっているはずだがニクソン以後の大統領全てに直接取材を行い、著作もいくつか出してきたジャーナリストがどうトランプを描くのかに興味があったので手にとってみた。作者はこの前にも一つトランプをネガティブに書いた作品を出しているのだが作者も驚いたことに本作に関しては17回も直接のインタビューを行い、金正恩と交わした書簡も開示されるなどトランプ側もかなり協力している。前半では初代の重要閣僚...国務長官(ティラーソン)、国防長官(マティス)、国家情報長官(コーツ)がいかに解任に至ったか、が主に描かれ後半はコロナ対応が主に描かれている。それぞれ非常に興味深いエピソードが語られているのだが...特に北朝鮮との対応でトランプが過激なツイートを行うたびに神経をすり減らすマティス長官の話が読んでいて辛かった。イラクやアフガニスタンで実戦を指揮していた元将軍は200万人を焼き殺すようなことをしなければならないかも、と一人で教会で何度も祈ったという...。後半のコロナ対応の話も興味深く、日本になぜか多いトランプ支持者というか盲信者(アマゾンのコメント欄見てびっくりした)以外の人にはおすすめできるかな。とても興味深かったです。


ロヒンギャ危機―「民族浄化」の真相 (中公新書 2629) 

ロヒンギャと呼ばれる人たちがミャンマーでひどい目にあっているというニュースをよく目にするがどういう問題なのかわかっていないと思ったので手にとってみた。現時点、軍がクーデターを起こして政権を奪ってしまいロヒンギャの話をあまり目にしないけれども...。真面目な学者の作品らしくわからないことはわからない、と明記されていて好感を持った。ミャンマーというのは多民族国家で100以上の民族がいるらしい。まず政治経済を牛耳ったインド人、中国人への国民的な反感があり、ミャンマーの土着民族を優位にするという政治決定があったこと、またロヒンギャと呼ばれる人たちがミャンマーの中でも最貧のラカイン州という土地に暮らしており、ラカイン州の主要民族は少数民族のラカイン人で彼らは中央政府に反感を持っており独立運動もあったということ。そしてラカイン州がイスラム国家のバングラディシュと国境を接しておりロヒンギャもムスリムである、ということなどがベースにあったということがわかった。このような複合的な条件で、しかも軍政が民主化に移行したことによる自由化でいろいろな情報を得た一部のムスリムがミャンマーとラカインからの独立をもくろんで警察や軍にテロ行為を行い、その対応において軍の一部が暴走し虐殺を行ってしまった、というのがどうやら事の経緯らしい。虐殺を黙認したと世界的に非難されているスーチーさんも戦争犯罪は認めていた、ということもわかった。そのまま進むと軍の責任を追求せざるを得ず、しかし民主化したといっても軍は微妙な位置づけにいて、ということでスーチーさんも対応に苦慮しているうちに焦った軍が再度クーデターを行ってしまった、というのが現状ということのようだ。いろいろな複合要因を見てみると一方的に軍が横暴とも言えないなと思っていたのだけど...日に日に混乱を増す状況でこの先どうなるかわからないけれどわからない度合いが少しマシになったと思います。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?