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「本の福袋」その7 『幽霊の2/3』、『殺す者と殺される者』、『暗い鏡の中に』 2012年1月

 この数年、ほとんどの本をインターネットで購入している。昔から書店の本棚の間を彷徨いながら読みたいと思う本を探すのも好きなのだが、たぶん8~9割の本はネットで購入している。雑誌や新聞の書評や地下鉄の中吊り広告をみて本を検索することもあれば、ネット書店のお薦めの本を買うこともある。お目当ての本を注文した後、ついでに面白そうな本を何冊か注文しておこうと思い、「こんにちは、前川徹さん。おすすめ商品があります」という表示をクリックしてしまうこともある。すると、コンピュータによるリコメンデーション機能による推薦書籍リストが表示される。
 
 同じ書籍を買う人の傾向を分析し、その傾向に合わせて別の書籍を推薦する技術は、限定された情報を対象とした検索エンジン技術の一種であり、「コラボラティブ・フィルタリング(collaborative filtering)」と呼ばれる。
 まれに変な本を推薦してくることもあるが、個人的にはこのリコメンデーション機能を気に入っている。本を探すにはなかなか重宝だ。この機能によってネット書店は売上をかなり上げているに違いない。
 
 昨年の秋、このお薦めリストの中で見つけた本の一冊が創元推理文庫の『暗い鏡の中に』である。著者の名前「ヘレン・マクロイ」がなんだかとても気になったことを覚えている。作品は読んだことはないが、記憶のどこかにひっかかるものがあった。
『暗い鏡の中に』の説明を読むとマクロイの最高傑作だと書いてある。そこで別のウィンドウを開いて「ヘレン・マクロイ」を検索してみる。Googleでは63,200件がヒットした。調査の経過は省略して結果だけ言えば、マクロイはミステリー小説の中では「ポスト黄金期」に属する作家で、その作品の評価はかなり高い。
 ちなみに、ミステリー小説の黄金期は、第一次世界大戦が終わった1918年から第二次世界大戦が始まる頃までであり、作家としてはお馴染みのエラリー・クイーン、アガサ・クリスティ、ディクスン・カー、F・W・クロフツなどがいる。どうも私が中高生の頃に熱中していたミステリー小説は、シャーロック・ホームズものを除いて、そのほとんどが黄金期のものだということが分かった。
 
 ミステリー小説(あるいはミステリー小説の歴史)に詳しい読者には笑われてしまうだろうが、ポスト黄金期である1940年代から50年代にかけて活躍したミステリー作家の作品は、ほとんど読んでいないばかりか、作品名も作家もしらないものがほとんどである。
言い訳がましいが、これは自分が不勉強であることだけが原因ではなく、この時期に欧米で発表されたミステリー小説が、太平洋戦争の影響で日本には十分に紹介されていないことも原因の一つになっている。たとえば、このマクロイの作品には和訳されていないものがかなりある。また、この『暗い鏡の中に』は長く絶版になっていて、2011年6月に新訳で復刊されたものである。
 
 マクロイの作品は他にも最近復刊されたものがある。『幽霊の2/3』は2009年8月に、『殺す者と殺される者』は2009年12月に復刊されている。
 マクロイの作品が立て続けに3冊も復刊されることになったのは、東京創元社が2008年10月から2009年2月まで実施した「文庫創刊50周年記念復刊リクエスト」がきっかけである。過去の絶版作品から復刊して欲しい作品を読者に募った結果、第一位になったのが『幽霊の2/3』であった。『殺す者と殺される者』も10位以内に入っているという。
 
 そんな経緯でマクロイの作品を続けて3冊読むことになったのだが、どれも時間を忘れて読んでしまうほど面白い。3冊とも甲乙つけ難いくらいの傑作である。個人的な好みで言えば1950年に発表された『暗い鏡の中に』が一押しである。ミステリーなのであえて内容は紹介しないが、まず期待を裏切られることはないだろう。
 
それにしても、お薦めリストの数多い本の中で「ヘレン・マクロイ」という名前が気になったのはなぜだろう。未だにその謎は解けていない。
 
 【今回取り上げた本】
ヘレン・マクロイ『幽霊の2/3』創元推理文庫 2009年8月
ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』創元推理文庫 2009年12月
ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』創元推理文庫2011年6月

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