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NAR(全米リアルター協会)とその倫理規定(Code of Ethics)

不動産業をある程度の期間やっていて、ある程度のアンテナ感度を持っている方でしたら、NAR(全米リアルター協会)やリアルターという言葉は一度は見聞きしたことがあるかと思います。

とはいえ、日本語の情報は乏しく、最近では変な動向もあるので、とりあえずは基本のおさらいと、その倫理規定について詳しく紹介してみたいと思います。

リアルター(REALTORS®)とは

まずは、日本語で一般的な説明を見てみましょう。

NAR(全米リアルター協会)の会員である不動産仲介人(broker)をいう。

REALTORという名称は商標登録されており、協会の倫理規定(The Code of Ethnics)に従うことを誓約し、入会が認められた者のみがREALTORと称することができる

なお、不動産仲介人以外に、不動産の営業に携わる者(salesperson)としてNARに認定された者は「Realttor-Associate」と呼ばれている。

リアルター(REALTOR)(株)不動産流通研究所「R.E.words」

*「Realttor-Associate」ってタイポがありますね、Tが一つ多い。
*正式にはREALTOR®やREALTOR-ASSOCIATE®と、全部大文字で、かつregistered trademark symbolをつけることになっています
*あと、「不動産仲介人(broker)」というのもちょとアレかな・・・
*あ、「Ethnics」もタイポ。Ethicsであります。

(あ、不動産流通研究所の『月刊不動産流通』編集部さんフォローありがとうございます>お手すきの時にでも上記「R.E.words」修正しといた方が良さそうです。これAthomeや多数の不動産企業サイトに配信されて転載されているようだから。自分は別に間違い探しとかアラ探しをしているわけではないのですが・・・自分もしょっちゅうやるし・・・、ただ商用サービスで主要サイトに掲載される不動産用語集にしては、ちょっと単純ミスが多すぎだなと。もともと、日本語での米国不動産業界情報って、色々となんでもありのメチャクチャ感が凄いんで。タイポだらけとかは直した方が良いかと)

これはつまり、単に免許を受けているブローカー(日本であえて言うなら宅建免許を受けた不動産業者)やエージェント(日本であえて言うなら宅建士)の意味として「リアルター(REALTORS®)」を「決して使ってはいけない」、ということです。

NARもそう明言しています。

A REALTOR® is a member of the National Association of REALTORS®. The term REALTOR® should never be used as a substitute for "real estate agent."

Top 5 Things You Need to Know About the REALTOR® Trademarks

また、NARは、会員のことを、「不動産業界におけるプロフェッショナル」や「不動産プロフェッショナル」、と表現しています。

Our membership is composed of residential and commercial brokers, salespeople, property managers, appraisers, counselors, and others engaged in the real estate industry. Members belong to one or more of approximately 1,200 local associations/boards and 54 state and territory associations of REALTORS®.

The term REALTOR® is a registered collective membership mark that identifies a real estate professional who is a member of the National Association of REALTORS® and subscribes to its strict Code of Ethics.

About NAR

つまり、会員はブローカーやエージェントだけに限定はしていない(いわゆる不動産鑑定士とかカウンセラーとかその他、不動産業界で働くプロフェッショナルを含む)、ということですね。

そして、「厳格な倫理規定(Code of Ethics)」を信奉というか遵守することを誓約するものに限り、リアルター(REALTOR®)と名乗ることが出来る、と。

因みに、 "realtor"という言葉は造語で、1916年にCharles N. Chadbournという人が考案したものだとか。 "actor"、"creator"のように、「する人」みたいな意味で、"real (estate)"に"tor"をくっつけたと。

ややっこしいのは、realtorとREALTOR®は別ってことですね。

なお、ブローカーは、免許(ライセンス)を受けて不動産業者をやれるエージェントのことで、エージェントは免許(ライセンス)を受けてブローカーのもとで営業を行う人、みたいな感じかと。

NAR(全米リアルター協会)とは

National Association of REALTORSの略。「全米リアルター協会」と訳される。アメリカで最大の不動産業者界団体。

設立は1908年(設立時の名称はNational Association of Real Estate Exchanges)であり、独自の倫理規定を制定し、会員の専門能力を研鑽・認定し、会員が共同で取引する仕組みを確立・運営するなどによって、アメリカの不動産業の発展に寄与している。また、情報通信技術を活用した共同仲介のシステム構築を先導してきた。

その会員は、REALTORと称することができ、その名称は登録されている会員以外は使うことができない。

NAR(株)不動産流通研究所「R.E.words」

倫理規定だけではなく、使命やビジョンも表明しています。

使命
リアルター(REALTOR®)をエンパワーして、すべての人の不動産への権利を維持し、保護し、促進するものであります。

MISSION
To empower REALTORS® as they preserve, protect and advance the right to real property for all.

About NAR

ビジョン
我々のビジョンは、信頼する同士となることであり、会員を常に進化し続ける不動産の市場・未来を導くことであります。

VISION
Our vision is to be a trusted ally, guiding our members and those they serve through the ever-evolving real estate landscape.

About NAR

全宅連とか、都宅建とかに、こういうのありましたっけ?見たことも聞いたこともないなぁ・・・w 

「安心のハトマーク」「ハトマークだから安心」というのはどこでも目にしますが、論理的に「なぜ」というのがまったく言語化できていないですね。そんなんで合理的な人間が「あぁそうですね」と思うとでも思っているのだろうかと、いつも不思議に思います。まぁ、こういうの、すごく「日本的」です。

いずれにせよ、会員構成や入会基準から言っても、日本の不動産業界団体とNARはまったくの別ものです。

上記の動画はNARの公式30秒コマーシャルですが、「エージェントとリアルター(REALTOR®)の違いは本当(real)です」、とし、

The ethics to do the right thing even it's the harder thing. That's who we are.
たとえそれがより大変(難しいこと)だったとしても、(NARの)倫理に基づき「正しいこと」をする。それが我々なのです。

と、結んで高い倫理基準をアピールしています。

NARの歴史と功績

1908年にNAR(全米リアルター協会)の元となるNational Association of Real Estate Exchangesが設立され、1913年に倫理規定(Code of Ethics)を採択し、現在のthe National Association of Realtor(NAR)へと繋がっていきます。(参照:"History" )

NARは、その発足以来、様々なことをしてきましたが、その中でも特筆すべきものを独断と偏見で以下に取り上げます。

MLSの普及促進

米国における不動産情報流通の基底にあるのがMLSですが、それを全米に普及させたのは、他ならぬNARであります。

近年、カナダはもとより、アジア諸国といった諸外国にもMLSのシステムは普及しつつあります。

1908年、NARの前身である「全米リアルエステイトエクスチェンジ協会」(National Association of Real Estate Exchanges )が、それを広く全てのエージェントに広げることを推奨したことにより、一歩々々段階を踏みつつ急速な発展をとげ、現在のモダンで様々な条件検索の出来るオンラインの情報システムとなりました。

In 1908, the National Association of Real Estate Exchanges (the organization that later became the National Association of Realtors®) endorsed the use of this system by all agents. It quickly caught on from there, evolving, stage by stage, into the modern system in use today—online and fully searchable by price, neighborhood, and home features.

What is the MLS? - realtor.com

詳細は、「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」にて解説しましたので、ご参照ください。

Multiple Listing Policyの策定

日本では、「米国では売り手と買い手にそれぞれエージェントが付くことが一般的で、『両手仲介(dual agency)』は少ない」、という話しが一般的な認識としてあるかと思います。

これはこれで事実なのですが、なぜなのか、という説明はどこでもされておらず、中には「アメリカでは両手仲介は違法」などというデタラメも出回っています。そもそもアメリカは連邦制の国なので、州によって不動産取引における法律が異なります(免許も州ごとに違う)。「両手仲介(dual agency)」が違法または規制が強いのは、50州あるうちの9州ほどに過ぎず、それぞれ例外など色々と規定も異なります。厳密な意味においては4州だけ、という話しもあるのです。

なので、一概に「アメリカでは」というのは誤りなのです。

また、「ポケットリスティング(非公開物件)」も違法ではありません。自分の不動産を知人に売る際に、それをMLSに登録しろ、というのも無意味な話しであって、そんな義務はありません。また、著名人が自宅を売る際や、事情があって手放す必要がある場合など、人に知られずに売買したい場合に「ポケットリスティング」となる場合はあります。それらを禁止する法律なんぞ存在しませんし、売り手の自由というかプライバシーにかかわる権利であります。

しかし、言うまでもなく行き過ぎた「ポケットリスティング」による情報の「囲い込み」は、蔓延すると不動産取引の根本を揺るがすような問題となり得ます。

では、アメリカではどうやって行き過ぎた「ポケットリスティング」つまりは「両手仲介(dual agency)」を目的とする「囲い込み」が蔓延することを抑えてきているか、というと、NAR(全米リアルター協会)の規定にあります。正確に言うと、Multiple Listing Policyという規定の中の"Clear Cooperation Policy"と呼ばれる項です。

Within one (1) business day of marketing a property to the public, the listing broker must submit the listing to the MLS for cooperation with other MLS participants. Public marketing includes, but is not limited to, flyers displayed in windows, yard signs, digital marketing on public facing websites, brokerage website displays (including IDX and VOW), digital communications marketing (email blasts), multi-brokerage listing sharing networks, and applications available to the general public.

Multiple Listing Policy

つまり、一般向けに広告をする住居用不動産物件の情報は、広告を出した1営業日以内にMLSに登録して物件情報を他の不動産業者やエージェントと共有しなければならない、という規定です。

これはチラシや看板、ウェブサイト、メール、その他SNS等を含めて、一般(事業者間共有も含む)向けに情報を流したり広告するような(住居用物件)ものは広告に出した1営業日以内に全てMLSに登録して共有せよ、というものです。(違反すると、内容に応じて加盟するMLSから警告から罰金や利用権停止等の罰則規定あり。売主が希望する場合にのみ、書面によるオプトアウト。ただ、office exclusive listingという例外もあり)

全米に数百とあるMLSは、このポリシーを採用しています。

日本では宅建業法で、法律によって、売買物件でかつ取引態様が専任・専属専任の場合にのみレインズへの登録を義務付けていますが、一般媒介等では登録義務は無く、ザルというか、NARの自主規定と比較すると、日本の法律は中途半端でガバガバです。

米国のリアルターの間では、MLSに登録するなどして協力し合うことは"Code of Ethics"、つまり倫理規定に定められたことであり、リアルターのもっとも基本的な「職業倫理」であるとしています。

日本は単なる中途半端な法的義務、米国は倫理規定にもとづく厳しい自主規定・・・。

以下は、NARの啓蒙動画なのですが、「ポケットリスティング」は一般的に顧客の益を損ない、業者の利益を優先するものとされているとし、"Clear Cooperation Policy"の重要性の論点として3つ挙げています。

1)住宅市場の公平性、2)(本来蓄積されるべき履歴の)データの歪み、3)Fiduciary Duty違反のリスク

1、2は分かり易いので良いとして、3のFiduciary Dutyは日本的な法律では丁度良い概念が存在せず、説明しにくいのですが、以下の説明が分かり易かったです。

米国の法律では非常に頻繁に出てくる用語であるのに、その日本語の訳語のないものがあって困ることがあります。(中略)

私が仕事でよく遭遇するのは、「Fiduciary Duty」という用語で、よく「善管注意義務」と訳されているのを見ますが、「Fiduciary Duty」には2つあって、「Duty of Care」と「Duty of Loyalty」とに分かれ、Duty of Careというのは「同様のポジションにある賢明な方が選択するであろうという方法で奉仕する」ということですので、これに「善管注意義務」は対応しますが、「Duty of Loyalty」には対応していません。

「Duty of Loyalty」というのは、「自分の利益を後回しにしてでも忠実に義務を果たす」ということ

Fiduciary Duty (善管注意義務) とは何か? 山本法律事務所

米国における英米法の「受託者義務(Fiduciary Duty)」には、日本の民法で言う「善管注意義務(Duty of Care)」だけではなく、それ以外にも信託法などで言う「忠実義務(Duty of Loyalty)」などを含む、ということですかね。この辺りも日本はユルい。

因みに、米国の不動産エージェントの「受託者義務(Fiduciary Duty)」には、Obedience, Loyalty, Disclosure, Confidentiality, Accounting, Reasonable Care、という6つの義務が含まれるそうです(頭文字を取ってOLD CARと覚えんだそう)。

で、「ポケットリスティング」や「両手仲介」を顧客に対して明示的な説明と同意なく行って(自己の利益を優先したり)何かあったら、倫理規定に違反するだけではなく、Fiduciary Duty違反で訴えられるリスクがあるよ、という事を言っているんですね。

リアルター・ドットコム(realtor.com

しばしば、「NAR(全米リアルター協会)が(主体となって)運営する」といった紹介がされる全米最大規模の不動産物件検索サイトのリアルター・ドットコム(realtor.com)ですが、これまたちょっと事情は異なります。

運営しているのは、Moveという会社です。元はRealSelectという会社だったのですが、1990年代の終わりにNARが少しだけ出資して提携(パートナーシップ)を結んで、そのRealSelectが後にMoveを買収してNASDAQへ上場し、後にMoveに社名変更、2014年にNews CorpがMoveを買収・・・という経緯(ややっこしい)。で、NARはRealtor.com というアドレス(URL)をライセンス許諾している、という・・・。(ややっこしい)

この件、関連して、「国交省が主導した『不動産ジャパン』が大失敗をした理由」でも、リアルター・ドットコム(realtor.com)について紹介しています。

RESOで技術の標準化

MLSが米国の不動産情報の背骨だとすれば、RESOは大動脈であります。

RETSとは、コンピューター同士やサイト間で共通の言語でより簡単にMLSのデータのような不動産情報データの交換ができるようにするものです。1999年に、全米リアルター協会(NAR)と関連業界団体がRETSを立ち上げました。

Short for Real Estate Transaction Standard, RETS provides a common language so that computers can more easily transfer real estate information, such as MLS data, to other computer programs or websites. The National Association of REALTORS® and other industry groups launched RETS in 1999.

Field Guide to Real Estate Transaction Standards (RETS) | realtor.org

詳細は、「不動産の標準化組織 RESO(Real Estate Standards Organization)とは」にて解説しましたので、ご参照ください。

NARの倫理規定(Code of Ethics)

NAR(全米リアルター協会)の倫理規定(Code of Ethics)

概要

NAR(全米リアルター協会)やリアルターというと、必ず、この倫理規定(Code of Ethics)についても言及されるでしょう。

アメリカの不動産エージェント(特にリアルター)が尊敬される存在である、という話しを聞いた事があるかも知れませんが、その理由はここにあります。(「宅建士」で「士」が付くようになったからどうなるというような表面的な話しではないのです)

この倫理規定は、リアルターとリアルターアソシエイトの仕事と振る舞いの良し悪しを判断するためのものとして、一般とプロフェッショナルの間での合意(コンセンサス)を確立するべくデザインされている。この倫理規定の遵守は、自主的に承諾した義務であり、高い基準のプロフェッショナルな行いでクライアントとカスタマーに対する利益に貢献するためのものである。

The Code is designed to establish a public and professional consensus against which the practice and conduct of REALTORS® and REALTOR-ASSOCIATE®s may be judged. Adherence to the Code is an obligation voluntarily accepted by REALTORS® and REALTOR-ASSOCIATE®s to ensure high standards of professional conduct to serve the interests of their clients and customers.

Code of Ethics Translations

実際、このNAR(全米リアルター協会)の倫理規定(Code of Ethics)が、全米リアルター協会の起源であり、現在においてもその存在意義そのものであるのです。

倫理規定(Code of Ethics)が採択された1913年当時、不動産業の黎明期でもあり、不動産の取引を行う上で、詐欺などを行う悪い輩も跋扈していたわけです。そういう中で、「我々はそういう輩とは違う、プロフェッショナルな高い職業倫理を持つ集団なのだ」ということを宣言し、差別化する為に、倫理とスタンダード向上の為に組織を作り、「自分にしてもらいたいと思うような行為を人に対してせよ」という黄金律を基調にした、倫理規定(Code of Ethics)を採択して、今の全米リアルター協会(NAR)の元が出来ることになるのです。

NARの1913年に採択された倫理規定(Code of Ethics)は、職能団体の中でも最も早く成文化された倫理的な義務である。この綱領は、リアルターに対してお互いの協力を求めることによって顧客への利益を最大化させることを消費者に保証するものである。

NAR's Code of Ethics, adopted in 1913, was one of the first codifications of ethical duties adopted by any business group. The Code ensures that consumers are served by requiring REALTORS® to cooperate with each other in furthering clients' best interests.

https://www.nar.realtor/about-nar/governing-documents/the-code-of-ethics

全米リアルター協会(NAR)のサイトを訪れると、トップページの一番にCode of Ethics(倫理規定)のへリンクするボタンが目に飛び込みます。

文字通りトップページのど真ん中にドーンと「REALTOR® Code of Ethics」というボタンが出てくるのです。

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NAR(全米リアルター協会)の公式ウェブサイト

この倫理規定(Code of Ethics)は、リアルターにとっては憲法のようなもので、文字通り「この倫理規定(Code of Ethics)を順守しないものはリアルターに非ず」、な訳です。特に、職能団体の中でも成文化したのが一番に早かったという事もあり、リアルターの倫理規定(Code of Ethics)は現在の会員(リアルター)の誇りでもあり、実際、そういう話しを色々な所で見かけます。

リアルターの団体として、カギとなる文書が採択されてから100年。1913年に採択された倫理規定(Code of Ethics)は、不動産業界の原理原則(プリンシプル)と信念の宣言と見なされ、不動産業のサービスとプロフェッショナリズムのスタンダード(標準)を高める為に身を捧げる者たちを紡ぐ『金糸』となっている。

One hundred years have passed since a key document in the REALTOR® organization’s history first made its debut. Written in 1913, the Code of Ethics was seen as a declaration of the real estate industry’s principles and beliefs, a “golden thread” uniting those devoted to raising the standards of professionalism and service in real estate.

uncovering the origins of under all is the land

意義

一般的にも、全米リアルター協会(NAR)のような職能団体は、倫理規定(Code of Ethics)を持つわけですが、その成り立ちの背景を知れば、その重要性を理解することが出来ます。

例えば、医療の世界でも、医師と言っても倫理がなければ立場を利用して患者に色々と害を加えるような闇診療を行ったり、臓器売買に手を出したり、なんでもありな訳です。医療の歴史を見れば、生体実験のような「人体実験」から「強制堕胎」から、色々あったのです。そういう中から、西洋では、「ヒポクラテスの誓い」から始まって、「ニュルンベルク綱領」などもあり、学問としてだけではなく実践としての医療倫理が発達してきた訳です。

しかし、現代の日本の医療では、そもそもこのような倫理観に乏しく、長らく医師の教育にも「医療倫理」すら無く、そこそこの年齢の医者だと「医療倫理?なにそれ」の人も少なくありません。何しろ、日本で「インフォームドコンセント」の概念が普及したのは比較的最近の事ですし、未だに、「説明と同意」の意味を取り違えて「何があっても異議を唱えません」的な単なる「同意書取り」に化してしまっていたりします。

日本の医師会はと言えば、今でも「患者の権利」や「患者の自己決定権」を認める事にも抵抗し続け、日本の医療では未だに「パターナリズム」が蔓延しているのです。日本では倫理審査の規定もなければ(治験の場合しかない)、「患者の権利」すら法制化すらできずにいます。当然、看護の領域においても、倫理をないがしろにした行為がまかり通っているのが日本の医療であります。

昔から日本では、西洋的な職業倫理という概念に親しみがないため、なかなか社会に浸透して来ませんでした。

プロフェッショナリズムという言葉は、もともとはキリスト教修道会の誓いに当てはまるものだった。少なくとも1675年までにはこの単語は世俗的な用法を見出し、3つ学問的職業に適用された。神学、法律、および医学である。プロフェッショナリズムという言葉は、同じ時期に職業軍人にも使われていた。

プロフェッショナルや定評のある職業で働く人々は、専門的な知識とスキルを身に付けている。そしてその知識がどのように用いられなければならないかを倫理道徳的問題と捉え、それが職業倫理と呼ばれることになった。

職業倫理 ウィキペディア

これは、日本であえて言うと、一種の武士道の精神の一つに通じるところもあって、「武士という帯刀を許されたものは、その特権の使い道に高度なモラルが求められた」というような話しに近いのかも知れません。「騎士道」にも通じるかもしれません。

職業倫理とは、自ら培って高めていくもので、時に法律をも上回る概念であり、様々な職能団体がその発足の由来と共に作り上げて来た職業ごとの倫理であります。

それぞれの職業倫理に共通する要素は以下のように挙げられているものです。

正直さ(Honesty)
信頼性・インテグリティ(Trustworthiness)
透明性(Transparency)
アカウンタビリティ(Accountability)
守秘(Confidentiality)
客観性(Objectivity)
相手に対する尊重(Respect)
順法(Obedience to the law)(いわゆるコンプライアンス)
忠誠心(Loyalty)

職業倫理 ウィキペディア

順法(いわゆるコンプライアンス)は、職業倫理の要素の一つにしか過ぎません

倫理というのは法律や規則より高い位置にある概念なのです。つまり、法律などの規定で要求されなくとも自ら培った高い倫理観にあてはめて行動する、という事であります。

一方、「Regulatory compliance」、日本では「企業コンプライアンス」なんて訳されたりするものがあります。これを略して単に「コンプライアンス」と言ったりします。それはそれであくまでも文脈上でのことなので間違いではなく、問題はありません。ビジネスの文脈上は「コンプライアンス=法令等を遵守(する枠組み設定)」となります。

職業倫理は自主的に培って自ら実践する一方、企業コンプライアンスは誰かから言われて従う、という真逆の方向となる話しであります。

日本の不動産業における倫理規程

日本の不動産業界団体は、倫理規定(Code of Ethics)を旗印にしている、または柱とする、というよりかは、同業者の互助会と政治的ロビー団体的な側面の方が強いような気がします。

少なくとも、NARと比較して、とても「内向き志向」の団体であることは間違いありません。

日本の不動産業界団体にも、一応は倫理綱領(倫理規程といったり倫理憲章といったりする)はあるんです、一応。ただ、内容もなにも、NARの倫理綱領(Code of Ethics)と比較するとショボ過ぎて・・・。しかも全宅連や都宅建の倫理綱領はサイト上で探しても存在しませんし、検索しても出て来ません。(もしかして、存在しない?自分が見たのは支部独自のだったかも)

Orz

それでも地元ローカルな昔気質の街の不動産屋の社長同士の間では、昔から「信義則」といった倫理コードが存在し、一種の任侠チックな倫理観が存在していたのです。ですから古くからある地元の不動産会社の社長・会長などはことあるごとに「信義」を口にします。お目付け役、みたいのもいたりして。古めの不動産屋を訪ねると、店頭に古びた倫理綱領みたいのが掲げてあるのを目にするでしょう。(「モグリ」云々とか書いてある古めかしいやつ)

今では、カタカナ名のチェーン店や中堅・大手も増え、そういった古くからある倫理観はまったく通用しなくなって来ました。哀しい話しです。

ただ、資格名称が「宅建士」になったタイミングで倫理綱領を見直そうという動きは少しだけ起きて(業界内の身内からも「名前に中身が伴っていない」、という批判が湧いたからです)、改定の動きはありました。でもね、前述のように、そもそも検索しても出てこないし、表にも出さないのだから、存在していないのと同じ事です。

また、新しめの資格である「賃貸不動産経営管理士」などでは、ごくごくシンプルなものですが、一応は「倫理憲章」などを掲げるようになってきました。もちろん、NARの倫理規定とは内容もなにも、比較にもなりませんし、遵守しなくても誰も何も言いませんし、自己規制、罰則規定的なものもありませんし・・・これもまた、まったく意味がありません。

そんな中、国交省の天下り団体である不動産流通推進センターは「不動産業におけるコンプライアンス確立に関する取組み」というあらたな事業を始め、「コンプライアンス(職業倫理)」と定義した上で、コンプライアンスとは法令等遵守ではなく職業倫理だというデタラメを宣伝するようになりました。

日本の不動産業における職業倫理とはコンプライアンスに過ぎないのか」で詳しく書いた件であります。(このエントリは、あの文章を元に追記して書き直しているものでもあります)

不動産業における「職業倫理」についての理解を深め、講演会などを行いたいのであれば、このアメリカの事例である、NARの倫理綱領(Code of Ethics)についての解説と紹介をしていく方が100倍マシなのです。

なんであれば、日米不動産協力機構(JARECO)に頼んで、NARの倫理規定(Code of Ethics)を解説する講師を依頼すべきだったでしょう。既にそういう講座があるそうですから。

倫理綱領研修 (Code of Ethics Training) 米国不動産業の仕組みを支え、全米リアルター協会(NAR)が提供している 100年以上の歴史を持つ倫理綱領を、日本語、英語で学びます。

事業内容 日米不動産協力機構(JARECO)

つくづく、国交省の天下り団体である不動産流通推進センターは異常な組織であります。

あんなデタラメが広まったらイカン、というのが、ここで色々と翻訳したりして紹介する動機となっています。

日本語文献

NARの倫理規定については、中々、日本語での情報がないのですが、以下の(PDF)が、不動産業における職業倫理とNARの倫理規定(Code of Ethics)を絡めて上手くまとまっていたと思います。

宅地建物取引業における職業倫理と内部統制
米国不動産流通業の倫理コードと内部統制強化の動きを踏まえて
https://www.retio.or.jp/attach/archive/106-072.pdf

宅地建物取引業における職業倫理と内部統制 RETIO

独自翻訳の断念と発見

ここで、NARの倫理規定(Code of Ethics)の内容を日本語で紹介したくて、日本語に翻訳しようと思ったのです。でもですね・・・一行目からして「あ、これダメだ」と思ったのです。なぜなら・・・

Preamble(序文)

Under all is the land. Upon its wise utilization and widely allocated ownership depend the survival and growth of free institutions and of our civilization. REALTORS® should recognize that the interests of the nation and its citizens require the highest and best use of the land and the widest distribution of land ownership. They require the creation of adequate housing, the building of functioning cities, the development of productive industries and farms, and the preservation of a healthful environment.

https://www.nar.realtor/about-nar/governing-documents/the-code-of-ethics

あ、無理w

これ、アメリカの憲法の前文が、有名な、「We the People of the United States, ・・・」(社会とか英語の授業で習った人も多いのではないかと)で始まる(そして"people"とは)色々と歴史的背景と含蓄のある物凄く重い言葉であるのと同様に、「Under all is the land」とか、カッコよすぎて、詩的で、含蓄があり過ぎて、色々な意味を包含していて、もうですね、訳すのを放棄したくなるような言葉(フレーズ)なんすよw

これ、リアルターの中でも有名なフレーズらしく、度々引用される言葉で、リアルターの新規会員向けのクイズにも出るくらいになっていましてw

The phrase "Under all is the land":

a. is the first sentence in the Preamble.
b. indicates the all-encompassing nature of the real estate business.
c. embodies the idea that land is the foundation of food and shelter and sophisticated aspects of economy and prosperity.
d. all of the above.

https://www.nar.realtor/COEEduc.nsf/Quiz3a4?OpenForm&pn=21&nkey=285000022_0

答えは、(d)の「全てに当てはまる」、です(自分は全問正解でしたイェイ)。こんなん一言で日本語に訳せと言われても、無理wというか、この言葉の日本語訳を考案して広めるような重大な責任は負えないですw。英語の初学者がやりがちな単なる直訳ではマズイことになる良い例でもあります。

と、悩んでいたら、なんと、NARの公式サイトに日本語訳がありました。素晴らしい。

日本語訳も、自分が訳すのとそうかわらない(かちょっと違和感のある)レベルで安心したw

以下、原文と翻訳文です。

Code of Ethics of the National Association of REALTORS®

この規定とその序文の中でREALTORS® またはREALTOR® という用語が使用される場合、その中にはREALTOR-Associate®s またはREALTOR-Associate® も含まれるものとみなされる。

法律で定める義務よりも倫理規定の方が厳しいことがあるが、倫理規定と法律が一致しない場合は、法律上の義務が優先される。

Where the word REALTORS® is used in this Code and Preamble, it shall be deemed to include REALTOR-ASSOCIATE®s.

While the Code of Ethics establishes obligations that may be higher than those mandated by law, in any instance where the Code of Ethics and the law conflict, the obligations of the law must take precedence.

序文

すべての物は土地の上になりたっている。自由主義制度と人類文明が存続し発展し得るか否かは、土地の賢明な利用と土地所有権が広く分散しているかどうかにかかっている。REALTORS®は、土地の最高かつ最善の利用および土地所有権が幅広く行き渡ることが国とその国民の利益のために不可欠であることを認識すべきである。そのためには、適切な住宅の創設、機能する都市の構築、生産性のある産業や農業の開発、および健全な環境の保護が必要である。
Under all is the land. Upon its wise utilization and widely allocated ownership depend the survival and growth of free institutions and of our civilization. REALTORS® should recognize that the interests of the nation and its citizens require the highest and best use of the land and the widest distribution of land ownership. They require the creation of adequate housing, the building of functioning cities, the development of productive industries and farms, and the preservation of a healthful environment.

このような利権を守るためには通常の商業目的以上の義務が必要となる。上記により、REALTORS®には重大な社会的責任および愛国心の義務が課され、REALTORS®はこれを厳守して勤勉にまい進するものとする。よって、REALTORS®はその職務水準の維持・改善に努めるとともに、他のREALTORS®にもその倫理性と名誉に対する共通の責任を分かち合うべく熱意をもって行動する。
Such interests impose obligations beyond those of ordinary commerce. They impose grave social responsibility and a patriotic duty to which REALTORS® should dedicate themselves, and for which they should be diligent in preparing themselves. REALTORS®, therefore, are zealous to maintain and improve the standards of their calling and share with their fellow REALTORS® a common responsibility for its integrity and honor.

REALTORS®は、クライアント、顧客、一般大衆、およびお互いに対する責任を理解・認識し、不動産関連の課題についての情報に通じるべく継続して努めるとともに、知識豊富なプロフェッショナルとして、その経験より得た事柄を進んで他者と共有する。本倫理規定の実施および規制当局への協力を通して、一般大衆の害となるか、不動産業の信用を傷つけ、名を汚すような慣行を識別し、これを排除するための方策を講じる。REALTORS®は、クライアントや顧客の資金または財産の不正流用、意図的な差別、相当な経済的不利益をもたらす詐欺など、本倫理規定に反する行為を個人的に直接知った場合、REALTORS®の協会または理事会にその事柄を通報する。(2000年1月改定)
In recognition and appreciation of their obligations to clients, customers, the public, and each other, REALTORS® continuously strive to become and remain informed on issues affecting real estate and, as knowledgeable professionals, they willingly share the fruit of their experience and study with others. They identify and take steps, through enforcement of this Code of Ethics and by assisting appropriate regulatory bodies, to eliminate practices which may damage the public or which might discredit or bring dishonor to the real estate profession. REALTORS® having direct personal knowledge of conduct that may violate the Code of Ethics involving misappropriation of client or customer funds or property, willful discrimination, or fraud resulting in substantial economic harm, bring such matters to the attention of the appropriate Board or Association of REALTORS®.
(Amended 1/00)

REALTORS®は、他の不動産専門家と協力することがそのサービス利用者たちの最善の利益になることを認識した上で、クライアントに対して専属代理契約の締結を勧める。ただし、競合相手より不当に有利にならないように務め、かつ他の同業者に関する意見は質問された場合にのみ伝えるようにする。REALTORS®としての意見を聞かれた場合またはコメントする必要があると確信した場合、REALTORS®は個人的な動機もしくは潜在的な利益や有利性に影響されない、客観的でプロフェッショナルな方法で自分の意見を述べる。
Realizing that cooperation with other real estate professionals promotes the best interests of those who utilize their services, REALTORS® urge exclusive representation of clients; do not attempt to gain any unfair advantage over their competitors; and they refrain from making unsolicited comments about other practitioners. In instances where their opinion is sought, or where REALTORS® believe that comment is necessary, their opinion is offered in an objective, professional manner, uninfluenced by any personal motivation or potential advantage or gain.

REALTOR®という用語は、倫理的な職務遂行という高い理想を掲げ、それを追及することによって生じる高度な能力、公正さ、高潔さを意味するようになってきている。よって、どんな利益があろうとも、またクライアントからどんな依頼があろうとも、この理想から逸脱することは正当化されない。
The term REALTOR® has come to connote competency, fairness, and high integrity resulting from adherence to a lofty ideal of moral conduct in business relations. No inducement of profit and no instruction from clients ever can justify departure from this ideal.

この責任の解釈においてREALTORS®が一番信頼できるのは、何世紀にもわたって受け継がれてきた「自分が他の人にしてもらいたいと思うことを他の人にしなさい。」というゴールデンルールに象徴される指針である。
In the interpretation of this obligation, REALTORS® can take no safer guide than that which has been handed down through the centuries, embodied in the Golden Rule, “Whatsoever ye would that others should do to you, do ye even so to them.”

REALTORS®はこの基準を自分自身の基準として受け入れるとともに、自分自身によるか、アソシエーツやその他の人を通しての、もしくは技術的手段を通しての、すべての活動においてその精神を守ること、そして以下に定める理念に従って職務を遂行することを誓約する。(2007年1月改定)
Accepting this standard as their own, REALTORS® pledge to observe its spirit in all of their activities whether conducted personally, through associates or others, or via technological means, and to conduct their business in accordance with the tenets set forth below. (Amended 1/07)

クライアントと顧客に対する義務

Article 1

エージェントとして売主、買主、家主、テナント、その他クライアントを代理する際、REALTORS®はクライアントの利益を守り、促進することを誓う。クライアントに対するこの義務は最優先されるが、それゆえにすべての当事者に正直に接するというREALTORS®の義務から免除されるわけではない。売主、買主、賃貸人、テナント、その他のクライアントに対して代理人ではない立場で接している際は、REALTORS®はすべての当事者に対して正直に接する義務がある。(2001年1月改定)
When representing a buyer, seller, landlord, tenant, or other client as an agent, REALTORS® pledge themselves to protect and promote the interests of their client. This obligation to the client is primary, but it does not relieve REALTORS® of their obligation to treat all parties honestly. When serving a buyer, seller, landlord, tenant or other party in a non-agency capacity, REALTORS® remain obligated to treat all parties honestly. (Amended 1/01)

Article 2

REALTORS®は物件や取引に関する関連事実を誇張したり、不正確に伝えたり、隠すことは避けなければならない。ただし、REALTORS®は、物件の隠れた欠陥を発見したり、不動産免許の範囲外の事項について助言したり、代理関係または州の法律で定義される非代理関係の下での秘密とされる事実を開示する義務を負っていない。(2000年1月改定)
REALTORS® shall avoid exaggeration, misrepresentation, or concealment of pertinent facts relating to the property or the transaction. REALTORS® shall not, however, be obligated to discover latent defects in the property, to advise on matters outside the scope of their real estate license, or to disclose facts which are confidential under the scope of agency or non-agency relationships as defined by state law. (Amended 1/00)

Article 3

REALTORS®は他のブローカーと協力するものとする。ただし、協力することがクライアントの最善の利益に反する場合は例外とする。協力義務にはコミッションや手数料を分かち合うか、その他の方法で他のブローカーに報酬を支払うことは含まれない。(1995年1月改定)
REALTORS® shall cooperate with other brokers except when cooperation is not in the client’s best interest. The obligation to cooperate does not include the obligation to share commissions, fees, or to otherwise compensate another broker. (Amended 1/95)

Article 4

REALTORS®は、自分の真の立場をオーナー、またはオーナーのエージェントもしくはブローカーに知らせずに、自分自身のために、または自分の直近の家族、自分の会社やそのメンバー、または自分が所有権を有している事業体のために不動産の利権を取得したり、不動産を購入したり、不動産に対してオファーを提示してはならない。自分が所有しているか利権を持っている不動産を販売する際、REALTORS®は自分の所有権または利権について買主または買主の代理人に書面で知らせる。(2000年1月改定)
REALTORS® shall not acquire an interest in or buy or present offers from themselves, any member of their immediate families, their firms or any member thereof, or any entities in which they have any ownership interest, any real property without making their true position known to the owner or the owner’s agent or broker. In selling property they own, or in which they have any interest, REALTORS® shall reveal their ownership or interest in writing to the purchaser or the purchaser’s representative. (Amended 1/00)

Article 5

自分が現在利権を持っているか利権を得ようとしている物件がある場合、REALTORS®は、その利権の影響を受ける当事者全員に明確に開示した場合以外は、その物件またはその価値に関して専門家としてのサービスを引き受けてはならない。
REALTORS® shall not undertake to provide professional services concerning a property or its value where they have a present or contemplated interest unless such interest is specifically disclosed to all affected parties.

Article 6

REALTORS®は、クライアントに説明して承諾を得た場合を除き、クライアントのための出費に対するコミッション、リベート、利益を受け取ってはならない。

REALTOR®またはREALTOR®の会社が不動産関連の製品やサービス(住宅所有者保険、保証サービス制度、不動産金融、タイトル保険など)の紹介を通して経済的な利益または料金を直接的に受け取ることがある場合、REALTORS®は、不動産紹介手数料は例外として、紹介する相手であるクライアントまたは顧客にこれを紹介する際に、その利益または料金について開示しなければならない。(1999年1月改定)

REALTORS® shall not accept any commission, rebate, or profit on expenditures made for their client, without the client’s knowledge and consent.

When recommending real estate products or services (e.g., homeowner’s insurance, warranty programs, mortgage financing, title insurance, etc.), REALTORS® shall disclose to the client or customer to whom the recommendation is made any financial benefits or fees, other than real estate referral fees, the REALTOR® or REALTOR®’s firm may receive as a direct result of such recommendation. (Amended 1/99)

Article 7

たとえ法律で許可されていても、REALTORS®はひとつの取引において複数の当事者から報酬を受け取ってはならない。ただし、全当事者がこれについての十分な説明を受け、REALTOR®のクライアントがそれを理解した上で同意した場合はその限りではない。(1993年1月改定)
In a transaction, REALTORS® shall not accept compensation from more than one party, even if permitted by law, without disclosure to all parties and the informed consent of the REALTOR®’s client or clients. (Amended 1/93)

Article 8

REALTORS®は、他者のために委託されて預かる金銭、例えばエスクロー、信託基金、クライアントの金銭、その他の同様な資金を、自分自身の資金とは別の、適切な金融機関の特別な口座に維持する。
REALTORS® shall keep in a special account in an appropriate financial institution, separated from their own funds, monies coming into their possession in trust for other persons, such as escrows, trust funds, clients’ monies, and other like items.

Article 9

REALTORS®は当事者全員の保護のため、リスティング契約、代理契約、売買契約、リース契約などの不動産取引に関するすべての契約および合意については、これを書面で作成し、その中で明確で理解しやすい言語で具体的な条件および当事者の義務や誓約を表明することを、できる限り確実に実践する。それぞれの契約書の写し一部は、当該契約の各当事者に、その署名またはイニシャルをした時点で提出する。(2004年1月改定)
REALTORS®, for the protection of all parties, shall assure whenever possible that all agreements related to real estate transactions including, but not limited to, listing and representation agreements, purchase contracts, and leases are in writing in clear and understandable language expressing the specific terms, conditions, obligations and commitments of the parties. A copy of each agreement shall be furnished to each party to such agreements upon their signing or initialing. (Amended 1/04)

一般大衆への義務

Article 10

REALTORS®は、いかなる人に対しても人種、肌の色、宗教、性別、障害、未成年者のいる家族構成、出身国、性的指向、または性自認という理由により公平な専門家としてのサービスを拒否してはならない。REALTORS®は、人種、肌の色、宗教、性別、障害、未成年者のいる家族構成、出身国、性的指向、または性自認を根拠として人を差別する計画または契約の当事者となってはならない。(2014年1月改定)

REALTORS®は不動産業の雇用慣行において、人種、肌の色、宗教、性別、障害、未成年者のいる家族構成、出身国、性的指向、または性自認を根拠として人を差別してはならない。(2014年1月改定)

REALTORS® shall not deny equal professional services to any person for reasons of race, color, religion, sex, handicap, familial status, national origin, sexual orientation, or gender identity. REALTORS® shall not be parties to any plan or agreement to discriminate against a person or persons on the basis of race, color, religion, sex, handicap, familial status, national origin, sexual orientation, or gender identity. (Amended 1/14)

REALTORS®, in their real estate employment practices, shall not discriminate against any person or persons on the basis of race, color, religion, sex, handicap, familial status, national origin, sexual orientation, or gender identity. (Amended 1/14)

Article 11

REALTORS®がクライアントや顧客に提供するサービスは、その従事する具体的な不動産分野、特に、住宅不動産仲介、不動産運営管理、商工業用不動産仲介、土地仲介、不動産鑑定、不動産カウンセリング、不動産シンジケーション、不動産競売、国際不動産、において合理的に予期される実務および能力基準に適合するものとする。

REALTORS®は、自分の能力範囲を超えた物件の種類またはサービスに関して特化された専門的なサービスを引き受けてはならない。ただし、当該物件の種類またはサービスに適任の人の支援を得てこれに従事するか、クライアントに事実を完全に開示した場合は、その限りではない。その支援提供者に関して、クライアントにはしかるべき紹介がなされ、その人の本件に関する貢献については規定されるべきである。(2010年1月改定)

The services which REALTORS® provide to their clients and customers shall conform to the standards of practice and competence which are reasonably expected in the specific real estate disciplines in which they engage; specifically, residential real estate brokerage, real property management, commercial and industrial real estate brokerage, land brokerage, real estate appraisal, real estate counseling, real estate syndication, real estate auction, and international real estate.

REALTORS® shall not undertake to provide specialized professional services concerning a type of property or service that is outside their field of competence unless they engage the assistance of one who is competent on such types of property or service, or unless the facts are fully disclosed to the client. Any persons engaged to provide such assistance shall be so identified to the client and their contribution to the assignment should be set forth. (Amended 1/10)

Article 12

REALTORS®は、不動産に関しては正直に真実を語り、またその宣伝、マーケティング、その他の表明においては実態を偽りなく伝える。REALTORS®は、その宣伝、マーケティング、その他の表明において自分が不動産の専門家であることを明確にするとともに、不動産に関するすべてのコミュニケーションの相手に対し、そのコミュニケーションが不動産の専門家からのものであることを現在に至るまで、また今後においても常に通知することを確実にする。(2008年1月改定)
REALTORS® shall be honest and truthful in their real estate communications and shall present a true picture in their advertising, marketing, and other representations. REALTORS® shall ensure that their status as real estate professionals is readily apparent in their advertising, marketing, and other representations, and that the recipients of all real estate communications are, or have been, notified that those communications are from a real estate professional. (Amended 1/08)

Article 13

REALTORS®は、取引の当事者の利益のために必要な場合には弁護士に相談することを奨励するものとし、非弁行為に該当するような活動に従事してはならない。
REALTORS® shall not engage in activities that constitute the unauthorized practice of law and shall recommend that legal counsel be obtained when the interest of any party to the transaction requires it.

Article 14

REALTORS®は、非倫理的行為で告発された場合、または専門職務基準の手続きにおいて証拠提出もしくはその他の方法での協力を要請された場合、加盟団体の理事会、関連組織、協会、または委員会の適切な裁決機関の前にすべての関連事実を提出するものとし、その手続きを妨害または阻止する行動をとってはならない。(1999年1月改定)
If charged with unethical practice or asked to present evidence or to cooperate in any other way, in any professional standards proceeding or investigation, REALTORS® shall place all pertinent facts before the proper tribunals of the Member Board or affiliated institute, society, or council in which membership is held and shall take no action to disrupt or obstruct such processes. (Amended 1/99)

REALTORS®への義務

Article 15

REALTORS®は、他の不動産専門家について、またはそのビジネスや業務遂行方法について虚偽のもしくは誤解を招くような供述を故意にまたは無謀にしてはならない。(2012年1月改定)
REALTORS® shall not knowingly or recklessly make false or misleading statements about other real estate professionals, their businesses, or their business practices. (Amended 1/12)

Article 16

REALTORS®は、他のREALTORS®がそのクライアントと交わしている専属代理契約または専属ブローカー契約に反するような行動をとったり、そのような慣行に従事してはならない。(2004年1月改定)
REALTORS® shall not engage in any practice or take any action inconsistent with exclusive representation or exclusive brokerage relationship agreements that other REALTORS® have with clients. (Amended 1/04)

Article 17

実務基準17-4に定義される契約上の紛争または特定の非契約上の紛争が異なる会社で働く(代表)REALTORS®の間でREALTORS®としての関係に関して生じた場合、理事会がメンバー間の調停を義務付けたときは、REALTORS®はその紛争を調停にゆだねる。調停により紛争が解決しない場合、もしくは調停が不要な場合、REALTORS®はその紛争を訴訟に持ってゆくのではなく、理事会の方針に従って仲裁に付す。

REALTORS®のクライアントが不動産取引に関する契約上の紛争を調停または仲裁に付すことを希望する場合、REALTORS®は理事会の方針に従ってその紛争を調停または仲裁にゆだねる。ただし、クライアントがその結果としての合意または裁定に拘束されることに同意することを条件とする。

本条が意図する調停および仲裁に参加する義務には、(代表)REALTORS®がその会社も調停および仲裁に参加し、その結果としての合意または裁定に拘束されるように仕向ける義務が含まれる。(2012年1月改定)

In the event of contractual disputes or specific non-contractual disputes as defined in Standard of Practice 17-4 between REALTORS® (principals) associated with different firms, arising out of their relationship as REALTORS®, the REALTORS® shall mediate the dispute if the Board requires its members to mediate. If the dispute is not resolved through mediation, or if mediation is not required, REALTORS® shall submit the dispute to arbitration in accordance with the policies of the Board rather than litigate the matter.

In the event clients of REALTORS® wish to mediate or arbitrate contractual disputes arising out of real estate transactions, REALTORS® shall mediate or arbitrate those disputes in accordance with the policies of the Board, provided the clients agree to be bound by any resulting agreement or award.

The obligation to participate in mediation and arbitration contemplated by this Article includes the obligation of REALTORS® (principals) to cause their firms to mediate and arbitrate and be bound by any resulting agreement or award. (Amended 1/12)

以上であります。

実際には、「実務基準(Standard of Practice)」といって、実践、実務において具体的にどのような場合にどのように適用されるのか、という規定がとても詳細に補足事項として記されています。分量としてはこの数倍から10倍はあります。


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