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不動産の標準化組織 RESO(Real Estate Standards Organization)とは

RESOは、Real Estate Standards Organizationの頭文字を取ったもので(発音する場合は「リソ」)、不動産業界において技術標準を策定することを目的とした、米国の非営利団体です。

名称について

Standardsは標準(規格)の複数形なので(標準仕様群というか一式というか)、直訳すると「不動産標準(化)組織(団体)」みたいになりますが、日本語でうまく簡単に表現できないのが面倒です。

日本ではこういう複数企業が参加する団体は「協議会」とか「コンソーシアム(共同企業体)」なんていったりする傾向がありますが、どれもちょっと違う気がするので、ここでは「RESO(という標準化団体)」で通します。RESO(Real Estate Standards Organization)は「Consortium」ではなく「Organization」ですし、日本ではNPO(Non-Profit Organization)のことを「非営利団体」といったりしますからね。

目的

RESOの目的は、不動産の技術を標準化(技術標準を策定)すること。

RESOのような標準化団体は、技術の発展を確実なものとする為に、殆ど全ての業界に存在しています(訳注:日本の不動産業界には存在していません!)。一般に良く知られているのはW3Cで、ウェブの標準(訳注:HTMLやCSSと言ったこのページを表示する為の規格)を策定しています。世界でもっともパワフルなテクノロジー企業達が、競合他社を含むみなの技術基盤の底上げをする公共のウェブを造る為に協力することに賛同しているのです。

Open standards organizations, like RESO, exist in most industries to ensure technology advancement. A well-known example is W3C, which creates the standards for the World Wide Web. The most powerful technology companies in the world agree to collaborate to build a common web that raises the technology foundations of all competitors.

これがゆえに、我々は例え競合企業のスマホからであってもデータを取得しアプリやサービスを利用し製品を入手できます。ウェブベースの製品はもとからオープンな標準規格の上に作られているのです。

This is why you can get data, apps, services, and products from many different competing companies on the same smartphone. Web-based products are built on an open standard.

不動産業界においては、RESOの標準規格がそれと同じようなものになるよう作られました。つまり、MLS、ブローカー(不動産業者)、エージェント(訳注:宅建士というか不動産営業)、消費者向けツール、といった全ての間での相互運用性を図るためであります。

In real estate, RESO’s standards are created to promote that same experience: interoperability between MLS, broker, agent, and consumer technology tools.

About RESO | RESO - Real Estate Standards Organization

*MLSについては>「米国の不動産業におけるMLS(multiple listing service)とは何か」を参照。

RESOは、現在までに、RETSという標準フォーマットとプロトコルや、データディクショナリー、各種ID、Web APIの仕様を策定してオープン・スタンダードとして公開しています。

これが米国での不動産情報流通の根幹をなす技術であり、米国における「不動産テック」の保守本流というかすべての基底というか一種の無形の情報基盤になっていると言えます。

RESO Standards
RESO標準(規格仕様群)

RESOの目的は、不動産物件情報を扱うMLSなどの種々のシステム同士で「話す」ための「共通言語」を作成する事にあります。この「共通言語」により、目の前にあるパソコンで様々な異なる不動産システムやMLSから情報を取得したりすることができるのです。いちいち特別に「学習」する必要なくお互いに情報が理解できるようになります。

The Real Estate Standards Organization (RESO) has set its goals to produce a common language spoken by systems that handle real estate information, such as multiple listing services (MLS). A common language enables computers like the one on your desk to receive information from many different real estate systems or MLSs without being specially "trained" to understand the information from each.

標準規格である、データディクショナリや、Web API、RETSと似たようなものは、様々な業界に存在します。例えていえば、航空管制では母国語がなんであれ、共通言語として英語が使われます。これは、パイロットが世界中を問題なく飛ぶことができるようにするためです。

Standards like the Data Dictionary, Web API and RETS 1.8 exist in many different industries. For example, air traffic controllers at international airports all speak English, no matter what their native language, so pilots are guaranteed that they need learn only one language to fly anywhere in the world.

RESO標準規格は、この不動産情報を扱うすべてのコンピューター同士で共通の言語を「話す」ことができるようにする、という目的です。これによって、1つのデスクトップのプログラムが、複数の異なるMLSと連携を取る事ができるようになります。

The RESO standards is a language that was built for a specific purpose: to have all computers that deal with real estate information "speak" the same language, so that you can use the same desktop computer program with any MLS that has adopted RETS.

ソフトウェア開発者やIDXサイトの運営者や、ポータルサイト運営者、などにとっては、一度RESO標準規格に対応したシステムを開発さえすれば、沢山の異なる種類のシステムと連携を取る事が可能となります。つまり、低コスト、より多くの製品、健全な競争によるより良いシステム、これらは全て、不動産に関わる職業をするすべての人々のメリット、利益となります。

For software developers and providers of services like IDX sites, web portals and Broker in-house systems RESO Standards means having to write programs to use only one language in order to work with many different systems. This means lower costs, more products, more competition among vendors, and faster implementations of new systems, all of which directly benefit people who work with real estate information as a living.

RESO Standards 
ttps://reso.memberclicks.net/reso-standards

(この、ごく基本的な意義とその重要性をず〜っと理解できない日本の不動産業界とテック界隈の人達って一体・・・?)

歴史

1999年に、全米リアルター協会(National Association of Realtors)- 通称NAR(日本であえていうと全国宅地建物取引業協会みたいなイメージ) が中心となって、他の業界関係者も巻き込んで標準化作業を始めたことにさかのぼります。

RETSとは、コンピューター同士やサイト間で共通の言語でより簡単にMLSのデータのような不動産情報データの交換ができるようにするものです。1999年に、全米リアルター協会(NAR)と関連業界団体がRETSを立ち上げました。

Short for Real Estate Transaction Standard, RETS provides a common language so that computers can more easily transfer real estate information, such as MLS data, to other computer programs or websites. The National Association of REALTORS® and other industry groups launched RETS in 1999.

Field Guide to Real Estate Transaction Standards (RETS) | realtor.org

余談ですが、当時は、XMLは普及して既にメインストリーム化していたものの、「REST」なんて概念も普及してなく、Webサービスとしてはマイクロソフトなどが推していたXML-RPC系統の「SOAP」が最新テックでしたね。

そんな時代なので、「日本の不動産情報を標準化すべきなんでは?」と、2002年に自分が日本の不動産業界に提言した内容は「XML」と「HTTP」で、みたいな今で言うREST風のものでした。(当時書いた文章は読めたもんじゃない・・・若かったなぁ)

その後、2000年代なかばぐらいからWebサービスで「REST」が普及してきた感じです。(日本でも、オライリー本の「RESTful Webサービス」が出版されたのは、2007年)

2010年頃までにはREST のWeb API が主流となり、世の中のブログブームによってブログ投稿APIやRSS/Atomフィードの普及でこれらテクノロジーが一気に身近なものに・・・(熱い時代でした)。

余談終わり。

2011年、非営利団体のRESOが設立(法人化)され、NAR(全米リアルター協会)が中心となって行ってきた不動産情報流通の標準化作業が、独立したRESOへ移管されました。NARでの作業部会が分離独立した形です。もちろんNARも全面的にバックアップしています。

会員

NAR(不動産業界団体)をはじめとして、大小様々のブローカー(不動産業者)、不動産物件検索サイトの大手から不動産関連テクノロジー企業、各MLSベンダー、今どき「不動産テック企業」として話題のZillowやCompass、などを含めて、まさに不動産業界と関連サービス企業の全員大集合状態です。

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(自分も参加したい・・・)

RESOの標準規格

現在のRESOでは、RETS時代の仕様はレガシー仕様となり、deprecated(非推奨)となっています。

ただし、特に各項目を定義したデータディクショナリー(Data Dictionary)などは今でも広く使われており、現在の不動産情報のデジタル流通において情報基盤となっています。他にも関連するIDX、VOWと言った仕組みがあります。

現在RESOでは、API仕様の「RESO Web API」、項目定義の「Data Dictionary」、各種IDの仕様を定めた「RESO Unique Identifiers」をメンテナンスしてます。

RESOは米国の組織ではありますが、これらの標準規格は米国内に限定したものではなく、同様の取引慣習やMLSがある他の国、例えばカナダなどでも使えるような仕様に意図されて作られています。

RETS(レガシー)

ここにレガシー規格としてすべて残されています。

RESO Unique Identifiers

米国版『不動産ID』、RESO UPIの事例を紹介」で詳しく書きましたので、そちらを参照ください。

RESO Web API

RESO Web APIとは、不動産業界におけるデータ流通のモダンな方法です。このAPIは、オープンな規格かつ良く知られているテクノロジースタンダードを採用している為、効率的に素早いデータ送受信を、どんな組織であっても実装することが出来ます。

The RESO Web API is the modern way to transport data in the real estate industry. It is built on well-known, open technology standards so that any organization can use it to deliver or receive data quickly and efficiently.

RESO Web APIで、データ転送における、より多くの相互運用性を図ることが可能です。システムやアプリが相互により効果的に連携出来ます。全ての業界関係者が採用する事によって、不動産プロフェッショナルはシームレスに情報にアクセス出来ます。

Using the RESO Web API for data transport allows for more interoperability: systems and apps can interact with each other in a more efficient manner. Real estate professionals and consumers have access to more seamless technology experiences when all industry participants adopt the Web API in their exchanges of data.

RESO Web APIは、ほぼ全ての業界で広く採用されているRESTfulなアーキテクチャーを採用しています。RESO Web APIにより、不動産データを、ウェブ上からモバイルからまたはHTTPベースのアプリケーションなどから直接アクセスできるようにもします。

Michaal Wurzer, RESO Vice Chair and CEO of FBS, explains the need for the industry to move forward with the transition to the RESO Web API:
The RESO Web API moves the industry forward to widely-adopted RESTful design in use by most industries today. The Web API promotes greater access to real estate information directly from the web, mobile, social and other HTTP-based applications.

RESO uses open standards and off-the-shelf tools that are supported across industries. By ensuring standards and protocols like OData and OAuth are at the core of the Web API’s functionality, industry incumbents and newcomers can be assured that they’re building technology that will be well-supported in the future.

What is the RESO Web API?

RESO Data Dictionary

項目定義です。共通言語の単語集、みたいなイメージ。

専用サイトのWikiサイトを作ってて、そこで見れるようになっています。

日本

日本にはRESOのような標準化団体は存在しません。

関連:「『不動産ID』の仕様策定も標準化団体を設立してそこでやるべき

その他:「標準化が進まない日本〜理由は『自分が損をしてでも人の足を引っ張ろうとする日本人』? 」、「日本の不動産業界の発展を阻害する元凶『不動産流通推進センター』の問題点まとめ」、「エコーチェンバー現象:なぜ不動産業とIT・デジタル化・DXにまつわる話しにはデタラメが多いのか

*RESOの日本語の情報がなく、適当なリンク先となる説明が欲しかったので、「不動産情報デジタル標準化の覚書」からの抜粋に、あらたな情報を加えてウィキペディア風にまとめてみました。

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