見出し画像

霞ヶ関文学研究3 EBPMガイドブック

皆さんイラっとすることはなんでしょうか?

通勤で混んでる駅で前の人のスイカのチャージがピッと切れて立ち往生したり
釣りタイトルのYouTubeに引っかかったり、
スーパーでやたらとレジが混んでいたり
タイパを意識する現代人からするととにかく時間がかかるものって
いやですよね。

そしてわかりにくいコンテンツ

そのみんなのイラっとか、嫌!ってのを凝縮したかのような
存在が行政文章なのではないかと私は思います。

ところが日本国内に色んな仕事がありますが少数の人はこの行政文書を仕事で読むことが仕事で、そうしたものを読みまくっている人がいます。

私もその一人です。

読みまくっていると、あっ!こんな表現使うんだ。とか
表現の変化、展開の変化に気がつくわけです。

変わり映えしない毎日だなぁと思っていても、道を歩いていたらハナミズキに花が咲いているなとか、蝉の声も静かになってきたなと季節の移ろいを感じるように、毎年おんなじような行政文章出てるなと思っていても、注意深く観察をしているとそこに変化はあるわけです。

そこに霞ヶ関文学の趣があるわけです。

最近発見した宮崎県西都市の仕様書なんて最高に面白い

https://www.city.saito.lg.jp/10_shiyousyo.pdf

業務目的
本市には西都原古墳群という集客資源があり、花の時季は多くの観光客が訪れるが、宮崎県観光入込客数統計調査におけるその観光客数は減少傾向にあり、また、県外客の観光 満足度においては県内の他の観光地より評価が低い結果となっている。

これは、これまでの本市の観光施策が、ターゲットを絞り込むこともなく取組を行ってきたことにより、観光地と地域が乖離し、地域との関係が希薄になったことが満足度の低さにつながっているものと思われる。

そこで、本市の観光施策の一環として、マーケティング調査によりターゲットを絞り込 み、地域資源の発掘・開発、磨き上げを行い、高付加価値化を図ることで観光地としての 魅力を高め、誘客を促進し、観光消費額を増加させるための西都市観光戦略(以下「観光 戦略」という。)を策定することを目的とする。 

西都市 仕様書より

こんなこと書きます?事実だったとしても。

「ターゲットを絞り込むこともなく取組を行ってきたことにより、観光地と地域が乖離し、地域との関係が希薄になったことが満足度の低さにつながっている」

これ、ターゲット意識してない地域もあるし、行政⇔観光地⇔地域住民が乖離しているケースもあるし、満足度が低いところもあるけど、それを推論(仮説)として過去の痛いところをつくわけですよ。

相当HIPHOPしてる仕様書です。

この弱みや過去の上手くいかなかったことと向き合わうことから避けて、良かったように取り繕うと、また次の人たちが表面をなぞって同じ落とし穴に落ちてしまう。

そこに立ち向かっている意味においては、この西都市の仕様書を書いた人とそれを認めた管理職や財務部とか議会も見てるのかわからんけど勇敢です。本当にこの地域では共通認識なのかも知れないけど、日本でこうして知らない人の目につくところに記述するのはすごい。

それにしてもこれはなかなか書けない。こう書かれるとこの案件に応札はしないけど、提案する際にテンション120%アップしますね。

ほんと担当はHIPHOPが好きで同郷のGADOROの影響を色濃く受けてるんじゃないかと勘違いしたくなるレベルの仕様書の目的の記述っぷりです。

さてこれはジャブ程度です。

かなり破壊力のある文章を見つけてしまいました。

https://www.gyoukaku.go.jp/ebpm/img/guidebook1.0_221107.pdf

内閣府が出しているEBPMガイドブック
EBPMというのはエビデンスに基づく政策決定の略です。
(Evidence Based Policy Making)

ちなみに逆の概念がPBEMでやりたい施策に基づいて証拠を作り出したり特定の統計を集めることです。イギリスの議会で2006年頃に揶揄するために生まれた言葉だそうです。

このガイドブックの破壊力がどれくらいすごいかというと

これまでの従来型の政策の前提は、PDCAをしても現状維持になる。
と書いてる。それA(改善・プランの変更)しないならPDCやん!というかサイクルになってないやん!!と明言しているわけです。

そしてこの資料のサブタイトルにもなってる核心部分である「無謬性神話」=行政は絶対に間違わない、現代風に言うと「謝ったら死んでしまう病」にかかってると、国民の利益を損ねちゃうよって書いてるわけですよ。

なんでこうなったかと考察すると天皇主義(明治時代の天皇の言葉は神の声、明治憲法には現人神と書かれていた)から、戦中戦後マスメディアの時代から、インターネット・SNSの時代に移り変わる中で、無謬(間違いがない)でいることや無謬風に振る舞って神格性(偉い人が言っているから間違いがない)で人を動かすのができなくなった。大きくゲームは変わっているのに行政の動き方が変わっていないのを変えようぜってところなんでしょうね。

このガイドブックは掘り下げれば掘り下げるほど面白みがあって、キリがないのですがいくつかかいつまんでおきます。

あまり反映されていないが66%いるけど、選挙行ってない人はそりゃ反映されんやろ・・・というところは置いておこう

冒頭に書かれている公務員のやりがい。霞ヶ関文学研究家としてはTwitterで公務員のアカウントもフォローしてるんですが、これマジで低い。まあ低い人がSNS発信しているから偏りはあるんでしょうけど。
そして志は果たせないし、中核人材と期待される人物になればなるほど、離職しはじめたり、離職検討しているって行政に近いところの人からそうした噂も聞くことあります。

知ってる方からもそんな話を聞いている身とすると、こういう文書を出さざるえない行政側の人事の悩みの状況の理解できます。
何がアジャイルやねん!とは言っちゃダメですよ。

https://note.com/torukidachi/n/n9b8a9e9dd923

こちらのエントリーにも書いているよう行政は超巨大なタンカーのようなものなので、船の向きを変えるための舵(ラダー)の先についてる小さなフラップのようなもんです。数年から数10年って長いスパンでの方針の変換です。(まあ途中で潰されるかも知らんけど)
決して切った舵は簡単に変えないのがいいところでもあり悪いところが行政の良いところ。自民党も危機感持ってるでしょうからね

まず、この表紙の次に変更履歴を持ってくるところ。この一手目が面白みがあります。

将棋の対局を見ていると一手目ってとても大事で、どこの歩を動かすかで居飛車で行くか振り飛車で行くかといったその後の大きな戦況が見えるわけです。

プロの将棋でいうと飛車の前か角道を開ける手しかほとんど出ないわけです。そんな中に月下の棋士って漫画のように初手端歩とかあまり刺さないくるとエエエッ!って将棋ファンは、どよめくようなもんです。

私はこの2ページ目にどよめきましたね。
このガイドブック中身を変える気満々やん!
変わらないことと間違わないことで有名な行政君がイメチェン宣言をしてるわけです。静的な世界から動的に、状況に合わせて変えようぜ!って制作者の思想が2ページ目に現れているわけです。

そして、ここ

読んでくれてありがとうございます。って感謝から入るわけです。
この頭を下げる姿勢から入るって行政資料もなかなかないですよ。「こっちは発信した。理解できないのはお前が悪い」ってツンデレスタンスからの転身。

しかし夢のない話をすると行政に近い人に話を聞くと、いくら現場が頑張ってもこの手のEBPM系の話は首長や議員が理解がないと進まないそうです。

だからと言って諦めるわけではなく、この資料の内容は良いお話なので実現することにやっていきたいですね。

私は台湾のデジタル担当大臣オードリータンさんにセミナーでお話を伺ったことがあるのですが、「日本は投票率が低く、政治にどうやって関心を持ってもらえばいですか」という質問に対してタンさんは「投票に行くことだけが政治じゃないです。町内会に入ることや市民として活動することも政治です」とおっしゃってました。

なので与党を応援する、野党に投票するということじゃなくて、こうして行政の良い文書を広めたり、受託事業に良い結果を残すことも私は政治への参加だと思ってるわけです。

えっ!?現状維持が前提だったの?
30年間成長しない日本は起こるべきして起きてるし、この後、人口の減少に伴いどんどん落ちてくやん!?ってところに明快な答えをここでサラッと告白してるのが驚きですわ。

もう一度掲載しますがこのページは、パンチラインが集中してます。
このサビの部分、何回もかけて欲しいくらいです。

結果として現在や将来の国民に不利益をもらたらすことになりかねません。
って行政が行政の人に向けて言いますか?ってことを言っているのがすごいわ。これを自浄作用と言うんだろうね。

いやそれPDCAちゃうし、とかエビデンスがないとチャレンジしない。とか、パワーワードが連発。その理屈だと縄文時代の人が「稲作とかエビデンスねえし」つってチャレンジしなかったら永久に狩猟最終生活をしていたわけで、大袈裟に捉えると文明の発展を否定してるよな。強烈なカウンターパンチだよな

ただこの文章を実行に落とし込んでいくのは極めてチャレンジング。物を何か作るのではなく、色んな考えを持った人の心や仕事の向き合い方、地域や政治のあり方を変えていかないといけない。
しかしどこまでこの文章が読まれているかは謎。私もEBPMの勉強をしている時に偶然見つけた。これを広めていくこと。公務員に関係ない人も私の周りにいる人たち(行政に関わる人)が読むことで、少しはPBEMをやっている人たちに対しての牽制にはなるんじゃないかな。

外国はこういった取り組みをしているのを考えると日本も待ったなしなんでしょうね。そしてフォーカスグループインタビューも取り入れられないこともあるけど批ここにきて表に乗ってきてるのが心強いです。

このエピソードに関する取り扱いもかなり面白い。
しかしこうなればなるほど、正直に話せるかどうか?や、偏った人選をしないかって人格や倫理観が結構問われてきますよね。

この辺のデータがないかもしんないって言っているのも面白い

これはインバウンドのPVやインフルエンサーのフォロワー数ありきになりがちな案件全てに言いたいっす。事業終了期間間際に公開してPV伸びなくて、アウトカム足りませんとか言われても「いやいや、コントロール不可だし」って言いたいでうよね。

よくあるよね。やりたいこと解決策のために課題を作るパターン

これもわかる。要望と課題をごっちゃにするパターン。特定団体からの陳情→それを裏付ける限定的なエビデンスの収集→実行がやりにくいってことですよね。

このあたりはホントに勉強になる。
現実ではアウトカムに行かないと次年度の仕事はないだろうからということで広告に金を注ぐことで表面上の数字を整えて、根本原因と向き合えば良いような事業とかなりぶつかっていた。この辺りをなんとかするだけでもインバウンド観光は大きく変わるんじゃないだろうか

観光以外の他の分野はよくわからんけど、観光においては未整備なものをなんとか今の理屈にはめている感があるのでちゃんとEBPMできる基礎はマジで築いた方がいいしそうしていきたい。

そう、とある会社で自治体の仕事をやってるんだけど実績・成果のところに作ったら地域でこんなけ外国人旅行者増えたって宿泊統計の数字書いてたとことかあって
、日本全体で伸びてるし、あんたが関わってない地域も等しく伸びてるんだから、それ関わった影響度だけじゃなくね?っても平気で出しちゃうところがあったわけです。

でもこの政策評価の考え方が浸透してくると事業全体のデザイン(個々の事業を繋いだり複数年度で考える視座)がないと成果は出ない。

そう考えるとインバウンドにおいては外的要因が大きすぎるのと、ベンダーが次に受託したがために捻じ曲げて欠損させたり拡大解釈された情報が出回り、かつ発注が側が人事異動で私の頭の中の消しゴム現象が起こるのでマジで辛い。

国益への貢献度がデカいんだから、少しでもカオスを減らしてコントロールできる領域を増やしたい物です。

EBPMと言うと大袈裟かもしれませんが、ちゃんと仕事やっていこうよってことだと私は捉えています。見栄を張ったり恥を隠したくなるけど、良いことも悪いこともオープンにしていく。
できるだけ根拠に基づいて(それも完全ではない自覚を持って)計画立ててやろうぜって話ですよね。

このデザインが上手にできるか、できないかで日本の観光の未来は大きく変わりそう。そして冒頭の西都市の仕様書じゃないけど行政と民間の観光プレーヤーがちゃんと話し合いしながらできるかどうかです。

ダニエルキムさんがいう、関係の質が結果の質につながるってのはホントです。なのでこれまでは静的だったけど、動的にやっていくって言っている行政の取り組みをみんなで推し進めていきましょう。

言いたいことは私もあるけど、過去こうだったじゃん!ってこれからのルールで過去を断罪してもなんも良いことはないです。

<これまでの霞ヶ関文学>




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?