第27話 怪物の秘密

「ケンキリケンギャワロック!ケンキリケンギャワロック!」

けたたましい怪鳥の鳴き声で目が覚める。

ツグル「、、ここは」

ヘイスレイブ城の玉座の間で四天王の一人カナメルと決闘していた。
火の鳥を躱したところで距離を詰められて、、、、

記憶が曖昧だ、その後のことを覚えていない、、、

酷い頭痛と気怠さに襲われ、もう一度眠ろうかと思った。

セリア「ツグル?目が覚めたの!?身体は大丈夫!?」

突然の大声により、頭痛が悪化する。
手渡された瓶の薬を一気に飲み干すと、少し身体が楽になった。

ダイス「おおお!マジで起きた!おはようツグル」

モモ「やっぱちゃんとお礼した方が良いかも」

泣きそうなセリアと寝癖をつけたダイス、床に座ってこちらを見つめるモモがいた。

ツグル「、、、おはよう」

おはようとは言ったものの、気になることがたくさんある。

ツグル「俺はカナメルとの戦いに負けたのか?」

ガチャ

ムー「全部説明してやる」

ユラユラと宙に浮きながら小屋に入ってきたのは、黒いローブをまとった男だった。

ダイス「おおおおおおおはようございます!!マー様!!!」

モモ「ムー様でしょ!!あの、私たちそろそろ出発しますね、お世話になりました!いくよ!!ツグル!!」

忙しなく動き出す二人を無視して、セリアはムーの左手を握る。

セリア「ムーさん!ツグルが目覚めました!本当にありがとうございます!」

ムーの左手はプルプルと軟体動物のように震えている。

セリア「あ!!すみません」

セリアが咄嗟に手を離すと、ユラユラと宙に浮く身体に合わせて揺れ出した。

ムー「いいさ、てめぇらには今後存分に働いてもらうからな」

ダイス&モモ「よ、喜んで!!」

ムー「それでだ、気になることは沢山あると思うが怪物。まずてめぇはカナメルとの決闘の最中、致死量のダメージを受けた途端、怪物に変異した。さっきの質問に答えるとすると、てめぇはカナメルに負けた」

ツグル「怪物?俺が?」

ムー「ああ、そうだ。自己紹介が遅れたな、トゥールの親友のムー様だ。てめぇを助けた命の恩人でもある。てめぇが寝てる間に少しばかり身体を調べさせてもらった」

ツグル「俺の身体はどこかおかしいのか?」

ムー「おっと、怪物に変異した張本人が自分の身体の異変に気付かないとはどんだけ平和的に生きてんだ?まぁいいや、とにかくてめぇは怪物だ」

ダイス「とにかくてめぇは怪物だって、そんな説明があるかよw」

ツグル「怪物、、、」

ムー「簡潔には説明出来ないから長いがよく聞け。てめぇの身体は過去になんらかの実験によって、身体中に闇属性の魔力が蠢いていやがる。そいつは時間が経つにつれてお前の身体を蝕み、怪物と化す。それを抑えるのがてめぇがいつも飲んでる薬だ。そいつは聖属性の性質を持っていて、てめぇの身体に取り込まれると体内の闇属性と中和される。定期的に飲むことで闇属性の侵食を抑えられるってわけだ」

ツグル「、、、、致死量のダメージを受けて、俺の意識が無くなったところを、体内の闇魔力とやらが俺を乗っ取ったのか?」

ムー「ほう、察しが良いな。それで怪物と化したわけだ」

ツグル「トゥールの言う自我失ってやつに似てる気がする。俺は自分が死んだと思った、でもその後も何となく記憶があるような、、無いような」

ムー「なるほど、自我失に似ているか。だが自我失は記憶が丸々抜け落ちる感覚だ、経験者は語る。だから自我を失っているわけではなさそうだな。もしかすると僕の知り合いのように体内の蠢く力を利用出来るようになるかもな」

ツグル「闇の魔力とやらを扱えるようになるってことか?」

ムー「まぁ、可能性の話だ。そんなことより重要な質問がある。ズバリてめぇにそのガラス瓶を渡したのはどこのどいつだ」

ツグル「父さんだ。俺は昔から身体が弱くて幼い頃は歩くことすらままならなかった、でもこの薬を飲んでから、、、、待てよ。さっきあんたがした説明通りだとすると」

ムー「ああ、てめぇの父親は息子が怪物だと知っていたはずだ。それはただの風邪薬なんかじゃねぇ、この世に二つとない禁術に禁術を重ねた魔法瓶だからな」

ツグル「、、、、、」

何となく察しはついた、このローブの男の言うことはおそらく真実だろう。

ムー「てめぇの父親はどうして怪物になることを知っているのか、何故わざわざその怪物を留めるための薬を持っていたのか」

少しの沈黙が流れる。
固唾を呑んで見守る三人の表情は、ムーの演説が進むにつれて悪くなっていった。

汗が滴る、具合の悪さからくる冷汗なのか、精神的なものなのか。いずれにしても今のツグルの状態は正常ではなかった。

「ケンキリケンギャワロック!ケンキリケンギャワロック!」

外の奇声は今も鳴っている。
グツグツと煮えている大釜は、今も盛大に沸騰している。
ツグルは今、絞首刑にかけられている気分だった。

ここで、一つの真実が明かされようとしている。

ムー「てめぇを怪物にしたのは、おそらくてめぇの父親だ」

言葉を失った、まさか、、父さんが?どうして。
そう思った、でも言葉に出来なかった。

セリア「そんな!!マイケルおじさんはいつも笑顔で、私にも優しくて、そんな危ないことをするような人じゃありません!」

言葉を発したのはセリアだった。

ムー「まぁ、推測の話だ。信じるも信じないも好きにすれば良い」

ツグル「、、、、信じる」

セリア「え?」

ツグル「父さんが何のために俺を怪物とやらにしたのかは分からない、でもちゃんと対抗しうる薬まで用意したってことは何か理由があるはずだ。思えば俺は肌の色が褐色になった頃から誰よりも足が速かったし、誰よりも力もあった。幼い頃からどうして皆そんなにモタついてるのか不思議だった。きっとそれは闇の魔力が影響してるんだろうと思う」

ムー「確かに、てめぇの父親は息子に力を与えたとも言えるだろうな。怪物と化したてめぇはカナメルの腕を落としたくらいだ」

セリア「私は納得出来ません」

ツグル「いいんだセリア、俺はまだ父さんが悪い人だとは思えない。母さんを重い病気で失った父さんが、なんとか俺だけを助けようとした結果なのかもしれない。色んな解釈が出来るだろ?どう解釈したって推測に過ぎない。だから今は怪物だろうがなんだろうが、前に進む。セリアを守るための力ならなんだって構わない」

セリア「ツグル、、」

ムー「よく言った。だがな、守るための力になるか、殺める力になるかはてめぇ次第だぞ怪物。そこでだ、今のてめぇらは弱過ぎて駒にもなんねぇ。せめて戦力になるくらいには成長してもらう」

ダイス「えっと、んーーーと、待って。ツグルの父さんの話からどーなってるんだ?あと今てめぇらって言ったよね、らって。俺たちも入ってる?」

モモ「なんかツグルは理解してるみたい、とりあえず私たち殺されずに済むってことじゃない?」

ムー「いや、死ぬ覚悟で鍛えてもらう」

ダイス&モモ「よ、喜んで~!!」

ムー「基礎の基礎の基礎の基礎を俺が叩き込んでやる。表に出ろ」

ムーはそういうとユラユラと外へ出て行った。

セリア「修行だって!皆!!あんな強い人が私達を鍛えてくれるって、やったね!」

ツグル「どうやら俺が寝てる間に物語は進んでいたみたいだな」

セリアとツグルは外へ駆け出した。

取り残されるダイス&モモ

「ケンキリケンギャワロック!ケンキリケンギャワロック!」

外の奇声は今も鳴っている。
グツグツと煮えている大釜は、今も盛大に沸騰している。
モモとダイスは絞首刑にかけられている気分だった。

ムー「僕が表に出ろと言ったんだ、それともあれか?その大釜でスープにしてやろうか?それが嫌ならさっさと来やがれ」

ダイス&モモ「よ、よ、よよよよ喜んでーー!!!」

二人の涙が大釜に注がれ、小さな蒸気が上がるのであった。


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