見出し画像

「リレー詩をつくろう」の評価結果

はじめに

 講義の一コマとして、フィードフォワードする評価について、以前に書いたことがあった。共同詩の一種であるリレー詩の制作を通して国語科評価の本質に迫りたいという内容について、講義で活動に取り組むことを想定して書いたものだった(というか、実際に講義で行った内容)。

 上の記事では書かなかったが、この講義の後半において、「自分の作ったリレー詩を評価する」、そして「リレー詩という国語学習そのものを評価する」という活動を設けていた。今回の記事では、この活動において学生からどのような反応が得られたかを報告する。

選択したテーマ/10点満点で自己評価

 まず自己評価として、次の項目に答えてもらった。結果は表の通り。

  • A 完成作品のテーマは何ですか。「空」「風」「山」「鳥」「野原」「花」「時」

  • B 完成作品に10点満点(1~10)で点数をつけてください。

  • D 「リレー詩をつくろう」の指導目標(学習者に身に付けさせたいこと)は、「詩の推敲の観点に気づき、推敲しようという姿勢を養う」でした。自分の取り組みを振り返って、この目標は達成できたと思いますか。10点満点(1~10)で点数をつけてください。

表1 選んだテーマおよび自己評価の集計結果

 リレー詩ではグループで一つテーマを選ぶことになっていた。選んだテーマは「風」「時」が多く、「山」「野原」が少なかった。大学生には抽象性の高いテーマが選ばれやすかったといえる。
 完成作品の出来栄えは、平均7.5点であった。高い。成績評価でいえば「良」がとれる。「優」や「秀」も多い。これは国語学習において、学習者の手ごたえを重んじていくうえで肝心な部分だといえる。
 これに対し、「推敲」に関する能力の達成については、結果にばらつきがあった。平均こそ7.2点だが、最高点と最低点の開きは8ポイントと、かなり大きい。学生によって評価にちがいが出た。この結果から察するに、学校現場においても、担当教員の考え方や進め方によっては、「推敲」の目標に必ずしも迫ることのできないケースが生じやすいと考えられる。
 ここが国語教師の立場として肝心な部分だ。この問いを設けたのは、国語学習における目標と評価の整合性を考えるうえで、リレー詩の活動が効果的な教材の一つになると思われたからであった。

完成作品のよいところを一点見つけて、説明してください。

 次に、自分のグループの完成作品を自由記述式で評価してもらった。次のような回答があった。

  1. 流れがあって読みやすい

  2. 見えない登場人物がいてよくわからない(ところが良い)

  3. 始めでアクションを起こすか、終わりでアクションを起こして、まとまりをもたせる

  4. 物をそのまま使わず、雰囲気や他のものに例えて動作を表している

  5. 擬音語・擬態語・擬人法・反復などの表現技法を取り入れている

  6. 詩の内容の壮大さやあたたかさなど雰囲気をよく表している

  7. 五感を駆使して情景が浮かびやすくしている

  8. 技術面で工夫されている

  9. 同じ構造、言葉が多くつかわれている

  10. テーマの良いところが書かれつつ、題名にとらわれない言葉が使われている

 具体的・概括的な印象を述べているものも多かった。問い方に修正の余地があるかもしれない。たとえば、「完成作品の特徴・特色について説明してください」とした方ほうが、深く考えることができるかもしれない。結果の中で、3は、出来上がった作品の感想というより、リレー詩を書くコツに着目していて興味深い。

この学習指導において問題がある・改善すべきと思われる点を、1点書いてください。

 同じく、この学習指導をどう評価するか、自由記述で書いてもらった。

  1. 他人が書いた元の文章を推敲するのが、時間がかかったり恥ずかしかったりして少々難しいかもしれない

  2. それぞれがどのような意図で文章を書いたのか説明する時間がない

  3. 推敲することが重要だと言う割に、最初からその目標が読み取りにくく、時間が足りずそのまま写した子がいたから、目標の達成につながりにくい

  4. もっと話し合いの場面を作って自分のイメージを説明したほうがいい

  5. グループで活動するために自分の意見が反映されづらいこともある

  6. 推敲の仕方がわかりにくい

  7. 自分の描いたイメージと違うものになってショックを受けるかも

  8. なかなか思いつかなかったり、恥ずかしがって書けなくなる。誰が書いたか分からないようにすれば良いと思う

  9. リレー詩の作り方は説明だけでは分かりにくい。例示が必要

 この答えをみるに、教育法の講義としては、この問いの設定がもっとも有効かつ必要だったようである。とくに、3の指摘は、目標と活動の整合性に着目して述べている。私の授業進行のまずさに起因するともいえるが、この活動自体が構造的にはらむ問題でもあり、私としてはぜひここに着目してほしかったという感想であった。教師として「学習指導を評価する」とはこういうことだろうと思うからである。

「リレー詩をつくろう」は、国語科の学習として、どのような意義や可能性があると思いますか。「詩の推敲の観点に気づき、推敲しようという姿勢を養う」以外の点を1点考えて、書いてください。

 同じく、この学習指導の可能性を自由記述で答えてもらった。

  1. 詩の創作についての表現を知り、他人の良い言葉を見つけ、表現する力を養う

  2. 人のことを考えて協力しながら自分独自の発想力を育てる

  3. 自分の考えや感覚を表現し伝える力

  4. テーマや作者の意図を読み取り、想像する力

  5. 詩を作ることで、詩を作る楽しさ、豊かな表現力、リズム感覚を養う

  6. 自分と他者の同じテーマに対する様々な捉え方を知ることができる

  7. 他者の自分とは異なる感性に触れてそれをつなぐことができる

  8.  発想力や表現力、構成力を養う

  9. 一つのテーマを決めそれに観点を置くこと感性や想像力を養う

  10. 詩を書くことで表現力、また詩の美しさに気づくことができる

 「~力」という書きぶりにみられるように、国語学力の中身に着目した感想が予想以上に多かった。ここから、本活動を国語学力論の検討につなげることもできるかもしれない。

授業感想から

 以上のほかに次のような感想も多かった。

  1. みんなのリレー詩を読んでみたいと思いました

  2. 実際にどんな詩をみんなが書いているのか見てみたかったです

  3. 集計の時はC(完成作品のよいところを一点見つけて、説明してください)を担当したので色んな人の詩のよい所をたくさん読んだから、その人たちの作品を読みたくなりました

 「ほかの人の作品を読んでみたい」という感想が多くの受講者から出てくるというのは、その活動が学びになりえたことを示す一つの根拠になる。教師にとって学習指導の手ごたえを感じる感想の一つだ。

おわりに

 国語科学習指導の評価においては、学習者にとって肝心な部分と、教師にとって肝心な部分がある。――この考え方は、そのまま、目標の二重性の議論につながっていく。つまり、教師のねらいと学習者のめあては、一つの単元において異なっていてもよいのかどうか、という議論である。今回、この評価結果を整理していて、クラスのだれにとって何が肝心か、という視点で評価を考える意味に気づけたことは、有益であった。教師あるいは個々の学習者が、学習をどのように価値づけているのかを捉えていくのだ。
 本原稿はドラフトである。今後の書き直しの過程において、このテーマに取り組んでみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?