三方の小品【35:テレビ】
〇〇に入るキーワードは、配信中にスターとコメントのキリバンを取っていただいたリスナーさんにリクエストしていただきました。
鎌倉屋トルテという少女の思い出や、頭の中に触れていきませんか。
テレビ
テレビ (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
あれは、春の雨の日だったと思う。冷たくて生ぬるい水滴たちが雨どいをたたきつけて盛大な音を鳴らしていたことを覚えている。
部屋の中でぼんやりとした灯りを放っていたのは四角い箱で、その中では昼夜沢山の小さき人たちが動き回っている。付属の魔法のステッキについているボタンを押せば、くるくると舞台が変わっていく。
これは好き、これは嫌い、もう少し見ていたい、早く始まらないかな、あれは終わってしまったんだっけ……そんな駆け引きのような時。一瞬にして、砂嵐へ還る場所。
あくる日もまた、ボタンを押せば小さき人たちが現れて、それぞれの生活を送り、主義主張を声高に叫び、あることないこと情報を共有してくれる。
これだけたくさんの人たちは一体どうやって暮らしているのか。笑っている人が多いけれど、その笑いは本物?作り物?ふたを開けて話しかけたら、誰かホントの答えが返してくれるのか。
頭のどこかで引っかかった、乾いた笑い声だけがむなしく耳に残り続ける。ぽちりと押せばそれとも一気にお別れできればいいのだけれど、のどに刺さった鰻の小骨の様にいつまでも存在感を消してはくれない。
あれから時は過ぎ、ぼんやりと灯りを放つのは箱ではなくなって、薄っぺらく姿を変えてそこら中にこれまた小さき人たちの住まいを増やしたようだ。
どこからか迷い込んできた手乗り文鳥が一生懸命挨拶を繰り返しているけれど、こちらがちょっと目線を外した隙に舌打ちをしたのは見逃さなかった。すかさず外へと窓際へ駆け寄り払った指先には文鳥はもうおらず、中くらいの金平糖がころりと存在していた。つまんでごりっと奥歯でかみ砕けば、甘さと欠けた鋭さで口内の切れた味がした。
初出:2022年4月21日
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