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J1第2節 ベガルタ仙台vs川崎フロンターレ ゲームレビュー

ベガルタ仙台が昨季王者川崎フロンターレをホーム開幕戦に迎える。

スタメン

スライド2

仙台はミッドウィークのルヴァンカップで久々に出場した富田をこの日スタメンに起用し、キャプテンマークを巻いた。他は前節と変わらず。ミッドウィークにリーグ戦を戦った川崎は前節から前線の3人を変え、さらに中盤に橘田を起用した。

ベガルタ仙台ボール保持戦術

前半はボール保持のリスクを考慮して、ボールを奪ってからサイド奥の高い位置へフィードを送り、2トップが裏流れて受ける。ゴールキックも蜂須賀を目掛けてロングボールを蹴ることが多かった。
後半はビルドアップから前進をする機会が増える。相手IHの背中側にSHと上原で選択肢を作り、CBやボランチから縦パスを入れやすくする。GKを含めてのビルドアップも行い、相手のセンターFWを引き付けると、その背後の中央の空間にグラウンダーのパスを送ってプレス回避を試みた。おそらく事前にスカウティングしていた点。

ベガルタ仙台ボール非保持戦術

前からプレッシャーをかける際、前半は西村がCB間に入って相手をサイドに誘導し、マルティノスがアンカーにマークにつき続けた。サイドに追い込むと2トップの役割が一列ずつ下がり、西村がアンカー番を務めた。奪ってからその二人がどのように動くかははっきりしなかった。それよりも後方は普段のボールサイド包囲網と大きくは変わらない。
しかし11:20 のシーンなどボランチの守備位置を攻略されるシーンが相次いだ。
後半はマルティノスを同サイド裏に専念させ上原が縦横無尽に動く。詳細は下に。

川﨑フロンターレボール保持戦術

IHが2トップ脇に降りてCBとともにビルドアップから前進を行う。そのIHは同時に相手ボランチを引き付け、ボランチの背中側のスペースを広げる。そのスペースに小林が入り、ボールを届けると、IHはリターンを受けにすぐさまサポートに向かい、ゴールに近づく。

サイドでは幅を取ってDFラインを横に広げる役割①、MFラインをDFラインに近づけて潰す役割②を行うそれぞれ二人が揃ってることが前提。①にはチャンネルを広げる効果があり、②はつまりDFラインのチャンネルに対して縦方向のランニングを相手MFを引き付けながら行うことになるが、ニアゾーンに侵入する効果、またその手前側にスペースを生む効果がある。IHやWG、SBが臨機応変にそれらの役割を担う。そこに他の選手がサポートしながらゴールへと向かって行く。②を行う選手にボールを届けられたとしても、そこからゴールまで距離が遠い場合、その後ろ側のマイナスのスペースにサポートに入って受け直し、DFラインに対して平行にカットインしながらゴールに向かう。

スライド3

図はそれが顕著に表れた11分のシーン。

ボールを失いそうになると、それを察知したタイミングで事前に相手選手をマークし、即時奪還の準備を行う。そのセンサーの鋭さは特異。というよりその即時奪還からの作ったチャンスの方が、ビルドアップから作ったチャンスより多かったかもしれない。この即時奪還の速さが前提にあるから、何度も何度も縦パスを入れられる。そもそもそれもズレないから通れば即チャンスだし、奪われても奪い返せるしでもう…

川崎フロンターレボール非保持戦術

ビルドアップに対して高い位置からプレッシャーをかけて奪いに行く。まずは小林がCB間に入りながら片方のCBに寄ってサイドを限定。するとWGが外側を身体で切りつつ、内側のパスコースに足を出して直接奪いにかかる。そこで奪えなくとも、これである程度相手のビルドアップの出口が限定できる。縦パスが入ると、その瞬間に中盤の選手が一気に寄って奪いにかかる。ここまでの守備戦術は近年多くのチームが取り組んでいる形で、昨季の仙台もそのうちの一つかもしれない。だが川崎が他と全く異なる点が大きく二つある。

一つは各個人の寄せのスピードと、寄ってから相手の懐(個人の間合い)で正確に停止するまでのスピード。一人一人が直接ボールを奪う意識で向かってくるのだが、それがとにかく速い。一旦止まったとしてもその距離が近いためボールをさらに動かす余地がない。
もう一つはプレスバック。川崎の選手たちはポジションにかかわらず、自分の背中側にボールが行ったら反転してそれを「必ず」追いなおす。基本的にはピッチの中央に流すように外側を消しながらプレスバックして、ボールホルダーに正対する選手と一緒に挟み撃ちする。バックパスから攻撃をやり直すこと、クリアするための空間を作ることを相手に許さない。

このように個々のフィジカル能力と、その意識の高さが川崎のハイインテンシティの守備戦術を機能させている。とにかく速い。速すぎた。狂気、殺気を感じた。

ゲーム展開と両チーム戦略

序盤から陣形をセットして川崎ボールを許容する仙台。2トップも前線から縦並びになってある程度制限をかけるが、結局降りてくるIHに落ち着かされて受ける形に。川崎は上記したボール保持戦術の下、確実に仙台のブロックを押し下げる。仙台がボールをカットしても、前線のプレスバックと中盤のパスコース制限で奪い返され、二次攻撃、三次攻撃につなげられてしまう。仙台としてもボールを奪ってから奪ったサイドの高い位置に2トップの一角が抜けたり、シミッチの周辺のスペースでボールを落ち着かせたりできれば良かったのだが、その隙も無く、奪ってからの狙いが見られないまま圧力を受けてしまった。

そうして押し込まれ続ける流れから失点。対面しながらドリブルで向かってくる遠野に運ぶコースの制限をかけられないまま前進を許し、引き付けられたことで空いていた外からワンタッチでクロス。タメを作ってからワンタッチの緩急によって対応も後手を踏み、クロスをフリーで合わされてしまった。失点以降も少なからずビルドアップから前進を試みるが、圧力を受けて防戦一方に。クリアしあぐねている状況でなんとか前に掻き出したボールをプレススイッチとして関口が追うが、そのプレーで負傷し交代。同時に飲水タイム。

飲水から仙台が一人少ない状態で再開。西村が2トップの二人分の役割を一人で懸命に行うが、クロスから失点。近いサイドのボランチ富田は抜かれてからのカバーを意識したポジションを取ったが、蜂須賀も長谷川と距離を詰めすぎずのこちらも五分五分の対応。結果、楽にクロスを上げられる。ボールには小林が合わせて一旦はポストに当たったが、こぼれたボールを逆サイドで構造上余っている遠野が押し込んだ。

以降も川崎がボール保持戦術通りのプレーで仙台を押し込み続ける。仙台も自分たちのボール非保持戦術の下守備を行ってサイドではめにかかり、マルティノスも川崎の軸であるシミッチにマークにつくが、そこを飛ばして逆CBにより逆サイドでやり直されてしまい、再現性を持ってボールを奪うことはできなかった。なされるがまま失点を二つ重ねられ、前半を0-4の川崎リードで折り返す。

ハーフタイムに両チーム選手を入れ替える。仙台は今シーズンリーグ戦初出場だったと見たと西村に代えて松下と平岡を投入。上原を西村と同じポジションに上げて、ボールを刈ることが特徴の吉野と攻撃面での貢献度が大きい松下をボランチに並べた。さらに秋山に代わって真瀬も投入し、蜂須賀を左SBへ。前半に攻め立てられた左サイドにてこ入れを図った形。氣田と蜂須賀の縦関係はミッドウィークの試合でも試され、この日も後半のチームに安定感をもたらした。一方の川崎はシミッチに代えて塚川を投入。スコアとプレータイムを考慮しての起用だと思う。

仙台は後半から巻き返しを図った。まず前半と比べて大きく変わったのはボール非保持局面。特に異なったのは、相手のビルドアップに対してボールをサイドに誘導してからの振る舞い。前半の2トップはボールをサイドに誘導した後に、アンカーを切ることだけに終始していた。しかし後半に2トップの一角に入った上原はそこからボールホルダーまで二度追い。前半川崎の攻撃のキーとなったIHにも、SHやボランチと前後の挟み撃ちをすることでプレーの自由を制限した。また前半は誘導したサイドと逆のサイドのCBを使ってプレス回避(やり直し)をされるシーンが多かったが、そこに対しても逆SHが勢い持って寄せていくことでアバウトなボールを蹴らせることに成功した。もちろん前線からプレッシャーをかけることで、後方の選手一人当たりの守備範囲も広くなる。その状況下で平岡は抜群の守備対応を見せた。

後半の仙台のボール保持局面に違いをもたらしたのもまた上原だった。上原は所謂トップ下として要所要所でボールに関わり、前半に比べてよりビルドアップから前進を図ろうとするチームの中でテンポよくボールを循環させた。ゴール前のマルティノスに決定的なパスを送るシーンもあった。また上原は主に川崎のアンカーとIH付近に立ち位置をとったが、それによって彼らの注意を引き、周辺の氣田や石原への川崎のプレッシャーをやや遅くさせることに成功した。そこまでボールを運び、厚みを作った蜂須賀や松下、真瀬などの貢献度も高い。

ボール保持・非保持の両局面で上原が中心となって巻き返した仙台。相手陣地でボールを失っても、ロングカウンターで縦に速く攻めようとする川崎の前線をDF陣が鎮圧し、敵陣でプレーする時間が着実に増えていった。そもそも後半ファーストプレーで松下がミドルシュートを放ち、川崎陣地からのゲーム展開を強要したことが効果的だったのかもしれない。そうして押し込む仙台は後半の序盤に1点返す。上原が起点となり、上原が押し込んだ。「ベガルタのホーム開幕戦、新加入選手が役者になりがち」が今年も体現された。

得点の勢いそのままに追加点を奪いたい仙台。両チーム拮抗した内容のまま、1-4のスコアは動かず飲水タイムを迎える。川崎は直後の71分に選手交代。家長と三笘を両ワイドに据えてサイドから再び仙台を押し込みにかかった。三笘はそれまでの長谷川と相変わらず、ロングカウンター気味に低い位置で奪ったボールを独力で運んで行った。彼の場合はそれでゴール前まで行けてしまうのだから恐ろしい。ただその三笘を味方が全力で追従するわけでなく、もしくは速すぎて間に合わないか、全体が仙台陣地に入り込むまでには至らなかった。そのため仙台も三笘のサイドでボールを奪ってから、ある程度スペースの猶予があり、対面する真瀬もそのスペースを利用して積極的に川崎のDFラインに挑むことができた。逆に家長は異質。後方も中盤も縦に速く攻めようとするなかで、一人だけゆっくりとボールキープしてタメを作り、全体の押上げを促す。すると仙台は再び押し込まれ、ボールを奪ったとしてもその切り替えで川崎の圧力の餌食に。それをかわして左サイドでカウンターに転じようにしても、同SHの氣田は長い距離を運ぶのに長けているわけではないため、カウンターは不発に終わることが多かった。

時間が経つにつれて川崎が仙台のプレッシャーをロングボールで回避することも増え、そこから素早い切り替えが要求される三笘サイド、着実に押し込まれる家長サイドのそれぞれで仙台の選手たちの体力が消耗されていく。現地で見ていてもマルティノスは特にしんどそうだった。仙台ベンチとしても、スペースへの飛び出しや素早い切り替えを武器とする千尋をもっと早く入れたかったはず。しかし関口負傷によって前半に交代カードを切っていたことで、残されていたカードはあと一枚。誰かが怪我する場合も想定して、それを終盤まで慎重に扱う必要があり、80分過ぎの苦しい状況で選手交代によって巻き返しを図ることも難しかった。川崎は疲弊した仙台に対し、無慈悲にも80分過ぎにとどめの追加点を突き刺す。以降反発力を見せたい仙台だったが、決定的なシーンは作れず、ゲームはそのまま終了した。昨季とはまた違った、川崎の強さ、速さに圧倒され続けた90分間だった。

試合結果

ベガルタ仙台 1 - 5 川崎フロンターレ

得点者

上原力也(仙台)小林悠、遠野大弥、旗手玲央、オウンゴール×2(川崎)


印象的だった選手

氣田亮真
ボールホルダーに対してのプレッシャーが非常に良かった。川崎の選手に劣らない寄せの速さ、止まるまでの速さ、プレスバックの頻度だった。さらに使われたくないスペースを身体で消し、パスコースは足で消して奪いに行くの守備セオリーも徹底されていた。28:50のプレーは見直しの価値あり。武器であるドリブルでの仕掛けは、より高い位置でやらせてあげたかった。外向き→内向きターンもスムーズ。

吉野恭平
前半のCBでのプレーは中途半端な対応が気になった。対人でボールを刈り取る特徴があるだけに、相手に飛び込まないことが好ましいCBでの動きはぎこちなく感じてしまった。ただ後半ボランチに入ってからは持ち前の稼働範囲の広さとボール奪取を見せた。

真瀬拓海
後半から出場しサポ自バック前で全力プレー。昨季とは違った強さが見えた気がした。活躍して名が馳せても髪型はそのままでいてほしい。

田中碧
昨季等々力で彼を見た際にとにかくサッカーが上手いといった印象を受けたが、この試合ではフィジカル的な強さに目がいった。瞬発力、ボール奪取能力など一瞬の爆発的な力に度肝を抜かれた。立ち姿、姿勢がまっすぐで重心も高く、体つきがターミネーターだった。

遠野大弥

プレスバックやスペースへのランニングなど、普段右WGに入る家長とは違った特徴をしっかりと示し、前線からハイインテンシティのチームを牽引した。この日のベースサイドとなった右サイドで、周囲とのコンビネーションから何度も仙台ゴールに迫った。

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