人工言語の作り方#004 人工言語の音①

音声学と音韻論の区別

重要な前提として、音声学と音韻論の二つの分野を区別しなければならない。音声学は、どちらかというと個々の音がどのように発せられ、空気中を音波として移動し、どのように聞き手に受容されるかということを論じる分野である。これに対して音韻論では、音同士が特定言語の中でどういう関係を持っているか、また音がどのように配列されることになっているのかに焦点がある。

本投稿ではこの両方の分野に属する部分を扱う。タイトルを「人工言語の音」としたのはそのためである。

国際音声記号とビュッフェ料理の関係

人間の言語はほぼ必ずと言ってよいほど音声を用いる。その例外として重要なものの一つが手話であろう。手話は明らかに人間の言語の一種とみなすことができるが、音を用いない。

何を言語音とみなし何をみなさないかも言語によって異なる。例えばアフリカの一部の言語などにある吸着音という種類の音は、日本語の話者にとっては日常生活では舌打ちや雑音としか認識されないだろう。

ではどんな音でも言語の音とみなすことができる、つまり人工言語の中に使うことができるのかというとそういうわけでもない。人間が発し、認識し、区別することのできる音の種類はそれなりに限られていて、人間が言語に用いうるすべての音声の種類を統一された規格で書き表そうとしたのが国際音声記号(IPA)である。

人工言語創作においては、話者を現生人類と同じ器官を持つ生物であると想定するのであれば、国際音声記号の表から言語の音を選択することになる。表自体は、基礎的な言語学の本にならほぼ必ず載っていると思うし、公式のサイトにも一通り情報があるはずである。

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