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続・この文章はAIが書いたものではありません

はじめに

AIとSFという本がハヤカワ文庫JAから出版されました.最新のAI事情を踏まえた22人のSF作家によるアンソロジーです.
たまたま本書の巻末に解説を書く機会をいただいたので,最新のAI事情について駄文を書き散らかしてみたりしています.良かったらお読みください.
最新とはいえ,今の時代のAIはめまぐるしく状況が変化するのですぐに最新じゃなくなると思いますが・・・なんて解説にも書いていたら,早くも時代遅れの個所が出てきました.まさか一番最初に時代遅れになるのが藤井竜王→藤井7冠の部分だとは思わなかったけれど.

ところで,この解説残念ながら作家の方々の作品を見る前に書いたため,全作品を読み終わってから改めて見直すと一部説明が不足していたように感じます.
というわけで,ここで解説の補足を書きたいと思います.

AIとエージェント

ネタバレを避けるために作品名は上げませんが,いくつかの作品で「人間のようにやり取りを行うAI」が題材となっていました.
古くからSFにおけるAIといえば,鉄腕アトム,ドラえもん,2001年宇宙の旅のHALなど人間と知的な会話をするのが当然のように描かれています.もちろん,それをAIと呼んで差支えはないのですが,正確にはこれらのAIは「エージェント」と呼ばれ,研究レベルでは「人工知能研究」と「エージェント研究」は異なるものと捉えられています

本編の解説にも書いた通り,現在AIと呼ばれているものは奇怪がくしゅ・・・機械学習が主流であり,機械学習の精度が向上したことによって,その応用システムが様々な場面で使われるようになっているというのが現在の第3次AIブームのポイントです.

一方で,いくつかの小説内で扱われていた人とコミュニケーションを行い,まるで人間のように振る舞う技術は「エージェント技術」と呼ばれます.
元来エージェントは「人の代替で何かを行ってくれるモノ」という定義であり,コンピュータサイエンスでは正確には「知的エージェント」「ソフトウェアエージェント」などと呼ばれ,単に入力に対してのみ処理を行うのではなく,エージェント自体を取り巻く環境とインタラクションを行いながら自動的に連続的に動作して目的を達成するように作られるものです.
現在の機械学習が当たられた入力に対して適切な出力を返す一種のパターン認識であるのに対し,エージェントは自律的に動き,ユーザである人間や環境の変化に応じて適切に反応しながら目的を達成します.「一つの作業を代替してくれる機械学習AI」と「インタラクションを行いながら自律的に作業を行ってくれるエージェント」と分けることができるかもしれません.
人間のように見えるロボット技術もどちらかと言えばエージェント技術と言えるでしょう.もちろんエージェント技術も「人工知能」の一つと捉えられますし,内部には機械学習を始めとする最新のAI技術が使われています.一方で,必ずしも最新のAI技術が無くてもエージェントとして十分な動きをすることも考えられます.
SFの世界で登場する「人工知能」の多くが実はエージェントであると理解すると,「現実のAI」と「SFのAI」との違いが明確になるかと思います.

エージェントGPT

では,人間と対話を行うチャットGPTはエージェントといえるでしょうか?チャットGPTは環境とインタラクションするわけでもなく,自律的に行動するわけではなく,「入力に対して適切な回答を行う」ことに特化しているため,AI技術と呼んだ方がよいでしょう.
どれだけ人間のように応答があったとしても,それはあくまでも入力に対してモデルを通じて最適な回答と学習された結果を返すことを目的としたものです.放置しておいたら勝手に話しかけてきて何らかの目的を果たそうとしているのであれば,エージェントともいえるかもしれませんが,チャットGPTはあくまでも回答を返すこと自体が目的であり,そこの先に大きな目的があるわけではありませんので,その点からもエージェントとは言えません.
ただし,例えばチャットGPTを内部的に利用して,ユーザからの問い合わせに自動的に回答するシステムを構築したとすれば,それはエージェントと呼ぶことができるでしょう.情報安全保障などで問題となっているBotなども,特定の人間の思想を変更しようとしてソーシャルメディア上に情報を自動的に提供していれば,それは一種のエージェントという事ができるでしょう.
その意味では,エージェントとAIの境目は比較的あいまいになりつつありますが,少なくとも現状の素のチャットGPTはAIと呼ぶべき存在です.

俺より強いAIに会いに行く

いくつかの小説の中に出てくる"AI"たちは人間とコミュニケーションを行い,インタラクションを行うことを主目的としています.これらはエージェントと呼べばよいのですが,その中でも与えられた条件でインタラクションを行っているものと,自ら考えてインタラクションをはじめ,それ以上の存在になっていくものは現在のエージェントとはまたちょっと違う存在です.このような「意識をもった人工知能」を「強いAI」と呼びます.「強いAI弱いAI」については本編の解説でも書いていますが,現在の技術ではまだまだ到達は先の話になります.一方で,SFの中では扱いやすいテーマなのか本書にも数多く出てきています.
少しネタバレとなってしまいますが,「AIとSF」の中では高山羽根子氏の「没友」は強いAIを扱っているといえるでしょう.一方で,似たような雰囲気ではありますが,人間六度氏の「AIになったさやか」は弱いAIといえます.

おわりに

というわけで,AIとエージェントの違いについて解説の中に説明がなかったため,補足として本記事を書きました.
ちなみに,本書で「準備がいつまで経っても終わらない件」を書かれた長谷敏司氏に会った際に,
「AIとSFだけど,エージェントの話が多かったですね」
と聞いてみたところ,
「やっぱり会話ができると便利なんですよね」
という小説家ならではのご回答をいただきました.
創作者としては作りたいテーマを動かす舞台装置としてのAIが機械学習で沈黙を保っていては話が進まないというところでしょうか.

いずれにせよ,AI,エージェント,強いAI,弱いAI,あるいはAGIなど最新のAI技術にも色々あり,すべてを解説しつくすのはなかなか難しい状況です.また気づいた点があったら解説の続々編が必要かもしれません.
解説がいつまで経っても終わらない件.
ジャーン.


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