【物語】ナポレオン 歴史を楽しく
あーりーです。
歴史を楽しく身近に感じてもらいたいと思って書きました。
小説でもなく、シナリオでもなく、少し変わった会話形式の物語です。
ころんと寝転びながら、気楽に読んでいただけると嬉しいです。
それでは始まり始まり~。
第1話 フランス革命
18世紀末のフランス王国。
フランス王「さ~て、ジュースでも買おうかな~。あ!」
側近「どうしました?」
フランス王「30円しかない(TT)」
側近「30円じゃ缶ジュース一本買えませんよ」
フランス王「今月のお小遣い、これで終わりなんだよな~」
側近「使わないで取っておいたほうがいいんじゃないですか?」
フランス王「でも、ジュースも飲みたいしなぁ……」
側近「難しい問題ですね」
フランス王「あのさぁ、国民からもっとお金取る方法ないかな?」
側近「たぶん、税金とかいろんな制度を変えたら、もっとお金を取れると思いますよ」
フランス王「じゃ、変えちゃうか♪」
側近「でも、勝手に変えたら炎上しますよ」
フランス王「えー、じゃどうしよう……」
側近「国民たちを集めて会議を開いたらどうです?」
フランス王「どういうこと?」
側近「その会議で制度の変更とか決めれば、一応みんなで決めたことになるでしょ? そしたら国民も納得するんじゃないですか?」
フランス王「あ、なるほどね。頭いい~!」
こうして……
1789年5月5日、会議(三部会)が召集された。
そして会議終了後。
フランス王「どうだった?今日の会議。 うまくいった?」
側近「それが……」
フランス王「どした? 失敗した?」
側近「いや、なんか、国民たち異様に盛り上がっちゃって。『国王がだらしないからこんなことになるんだ~っ』て、文句言われちゃいました」
フランス王「おお……ちょっとショック(汗)」
側近「そして『あんまりだらしないようだと暴動起すぞ~』って脅されました。怖かったです」
フランス王「げ、それマジ怖くない? やばいよ……」
側近「まあでも、しょせん国民の言うことですから、ほっときましょう」
フランス王「そうかな……。変にほっといて暴動が起きたら最悪じゃない?」
側近「じゃあ、もし暴動が起きてもすぐに鎮圧できるように、一応、首都のパリに軍隊を配置しておきますか?」
フランス王「そうだね。念のために軍隊を配置しておこうか」
その結果……
市民A「ねぇ、最近パリの町さぁ、軍隊に監視されてない?」
市民B「なんか腹立つね。おれらなんにも悪いことしてないのにさ」
市民A「侮辱だよね、これって」
市民B「うん。かなりムカついてきた」
市民A「じゃあ、戦っちゃう?」
市民B「でも、おれら市民って、武器ないしょ」
市民A「武器商から奪えば?」
市民B「あ、いいね。だけどさ、それでもまだ火薬が足りないかもよ」
市民A「あのね、聞いた話では、『バスティーユ牢獄』っていうところに火薬たくさんあるらしいよ」
市民B「バスティーユ牢獄?」
市民A「うん」
市民B「じゃ、そこを襲撃して火薬を奪う?」
市民A「そうだね。みんなを集めて襲撃するか」
市民B「ふふ。おもしろそうだね」
市民A「これってけっこう大事件じゃない?」
市民B「王様とかびびるだろうね。ふふ」
1789年7月14日 PM2:00
フランス市民はバスティーユ牢獄を襲撃、占拠した。
側近「王様ぁ~、大変です~」
フランス王「ん? なにさ?」
側近「バスティーユ牢獄が市民に襲撃されました~(涙)」
フランス王「うそ、マジでぇ! ついに暴動!?」
側近「てゆーか、革命です」
人類社会を根底から揺るがした『フランス革命』は、こうして始まった。
第2話 若きナポレオン
フランス革命に対する外国の反応は……
外国の王1「聞いた? フランスで革命が起こったらしいよ」
外国の王2「え、革命?」
外国の王1「うん。革命。王様がやっつけられて、市民が自分たちで政治を始めたんだってさ」
外国の王2「ほんと?」
外国の王1「なんかね、『自由・平等・博愛』がフランス革命のテーマなんだって」
外国の王2「うわ、なにそれ、めっちゃカッコつけてない?」
外国の王1「やだよね。寒いよね」
外国の王2「ところでさ、市民が政治なんて出来るの?」
外国の王1「うん、市民が議会つくってうまいこと自分たちでやってるらしいよ」
外国の王2「詳しいね」
外国の王1「ニュースでやってた」
外国の王2「でも、そんなのニュースで流したらさ、おれらの国民もマネして革命起すかもしれないよね」
外国の王1「そうなったらやばいね」
外国の王2「かなりやばいよ」
外国の王1「じゃあ、とりあえずフランスの革命、つぶしとく?」
外国の王2「どうやって?」
外国の王1「フランスに戦争しかけてさ、 その『自由・平等・博愛』とか言ってる調子こいた奴らをやっつけるのさ」
外国の王2「なるほど」
外国の王1「そしたら、おれらの国民も『あ~革命起してもすぐやっつけられちゃうんだ~。やめておこう』 って思うしょ?」
外国の王2「そうだね。じゃ、さっそくフランスと戦争しよう」
こうして「フランス vs 諸外国」の戦争が始まった。
その結果、フランスの『トゥーロン港』が外国の軍隊に奪われた!
その当時、ナポレオンはフランス軍に勤務する下っ端の軍人だった。
上司「ナポレオン君、ナポレオン君、ちょっと……」
ナポレオン「え、なんすか?」
上司「あのさ、我がフランスが諸外国と戦争をしてるのは知ってるよね?」
ナポレオン「はい、まあ、なんとなく」
上司「で、我がフランスの重要な港、トゥーロン港が外国に占領されてるのも、知ってるよね?」
ナポレオン「まあ、そこそこ」
上司「そこでね、実は相談があるんだけど……」
ナポレオン「?」
上司「実はさ、おれね、『外国に奪われたトゥーロン港を19日に奪い返せ』って偉い人から言われてたんだけどさ」
ナポレオン「……はい」
上司「でもね、おれ、19日に別の用事入っちゃったんだよね」
ナポレオン「別の用事?」
上司「うん。ちょっとお得意先との忘年会とぶつかっちゃってさ」
ナポレオン「……」
上司「それでね、つまり……悪いんだけど、19日、おれのかわりにトゥーロン港を奪い返してくれないかな」
ナポレオン「え~! 僕そんなのできないっすよぉ……」
上司「頼むよ、ね」
ナポレオン「マジっすかぁ~、でも、作戦とか全然わかんないっすよ~」
上司「自由でいいよ、自由で。おれはほら、部下の自主性を尊重する、理解のある上司だから。自由にやってよ」
ナポレオン「でも、いきなりそんな……」
上司「自由にやってもらうかわり、もし失敗したら全責任は君に負ってもらうよ。 おれは能力重視型の合理主義者というスマートな一面も持っているから」
ナポレオン「……」
上司「そういうことで19日、頼んだよ」
ナポレオン「え、いや……(汗) ちょっと待ってくださいよ~」
上司「いいからいいから。じゃ、まかせたよ♪」
ナポレオン「そんなぁ~」
こうして、ナポレオンによるトゥーロン港奪回作戦がはじまる。
第3話 トゥーロン港の戦い
1793年12月19日。
トゥーロン港。
ナポレオン「えーと、兵士のみんな、今日は朝早くからどうも」
兵士「やる気満々で~す。今日の任務は何ですか~?」
ナポレオン「えーとね、そこのさ、トゥーロン港ってあるしょ?」
兵士「ありまーす」
ナポレオン「それって今、外国に占領されてるんだけど……」
兵士「知ってまーす」
ナポレオン「そのトゥーロン港をね、奪い返すのが今日の任務なんだ」
兵士「かっこいい~♪ がんばりまーす!」
ナポレオン「というわけで、まずどうしようかな……」
兵士「さっそく攻めましょー!」
ナポレオン「いや、でもさ、敵の軍隊めっちゃ強そうでしょ? やばくない?」
兵士「当たって砕けろでーす」
ナポレオン「えー、でも、砕けるのって嫌でしょ」
兵士「あ、誰かこっちに歩いてきますよ」
ナポレオン「うわ、まずい。敵だ。みんな、目ぇそらせ。目ぇそらせ」
兵士「戦わないんですか?」
ナポレオン「しゃべるな、見つかっちゃうぞ。あ、あっち向いてる。今のうちにこっそり逃げよう」
兵士「だって、戦いは……?」
ナポレオン「無理してケガしたら、最悪でしょ」
兵士「だって僕たち、大砲打つ準備ばっちりですよ。撃ちましょうよ、ドーンって」
ナポレオン「そんなことして相手が怒ったらどうするんだよ~」
兵士「どんどん打てば勝てますよ」
ナポレオン「やばい。あいつまたこっちに歩いて来る。みんな、さりげなく早足で逃げろ。 走るなよ。走ったら追いかけてくるから」
兵士「どこまで逃げるんですか?」
ナポレオン「あの岬の上まで逃げれば、追いかけてこないんじゃない?」
兵士「えー、あんなところまで!」
ナポレオン「だってさ、見つかってボコボコにされるよりましでしょ」
ナポレオン軍は『エギレット岬』まで移動した。
ナポレオン「ふぅ~。ここまで来れば安心だ」
兵士「あ、ナポレオンさん、この岬の上からだと、港の敵軍が丸見えですよ」
ナポレオン「ほんとだ。上から丸見えだ」
兵士「大砲、撃っちゃっていいですか?」
ナポレオン「やばいって」
兵士「まあまあ固いこといわないで。撃っちゃいますよ。それ!」
どーん! どーん!
ナポレオン軍は港を見下ろすエギレット岬から砲撃を開始した。
不意を付かれた外国軍は崩壊し、 フランスはトゥーロン港を取り戻した。
翌日。
ナポレオン「いや~、トゥーロンの戦いで大勝利したから、勲章もらっちゃった」
兵士「やりましたね」
ナポレオン「照れるなぁ~」
兵士「新聞の一面に載ってますよ。『24歳の青年将校、大勝利』って」
ナポレオン「うわ~写真まで。この写真、写り悪いんだよな~。恥ずかしい」
兵士「でも、あれですよね……」
ナポレオン「ん?」
兵士「フランスって、革命の精神を守るために諸外国と戦争始めたけど、 今までけっこう負け続きだったじゃないですか」
ナポレオン「まあね。うん」
兵士「だから、ナポレオンさんの今回のちっぽけな勝利も、 『大勝利』とかって大げさに宣伝して、国民にやる気出させようとしてるのかもしれませんね」
ナポレオン「え! ち、ちっぽけ……そ、そうか」
兵士「だって、なんか大げさ過ぎません? 勲章まで出して。わざとらしいですよ」
ナポレオン「……そっか。そうだね。そうかも(悲)」
兵士「そういう意味じゃ、ナポレオンさんって国家に利用されてますよね♪」
ナポレオン「グサっ!」
兵士「あ、ごめんなさい。悪気はなかったんです」
ナポレオン「……うん」
兵士「まあまあ、元気出していきましょうよ」
ナポレオン「うん。がんばる」(涙目)
このわずか9ヶ月後……
ナポレオンはある事情から逮捕・投獄されることになる。
第4話 ナポレオン逮捕!
1794年9月。
男「ちょっとすいません……」
ナポレオン「はい?」
男「あなた、もしかしてナポレオンさん?」
ナポレオン「そうですけど」
男「そうですか、じゃ、あんたを逮捕するね(手錠、がちゃん)」
ナポレオン「え!」
男「ふふ、びっくりするでしょう?」
ナポレオン「びっくりするよ~、なんで僕が逮捕されるの?」
男「とにかく、逮捕するよ。署まで来て」
ナポレオン「なんで! なんで!?」
男「ふふ。逮捕の理由を知りたい?」
ナポレオン「知りたいよ……」
男「じゃあ、まず、『ロベスピエール』って人、知ってる?」
ナポレオン「うん。政治家でしょ」
男「そのロベスピエールが最近、失脚したんだよね」
ナポレオン「ふうん」
男「それでさ、議会のムードが『ロベスピエール派の人たちを全部やっつけてしまおう!』という感じになったのさ」
ナポレオン「ふうん」
男「というわけで今、ロベスピエール関係の人を片っ端から逮捕してるの」
ナポレオン「で?」
男「そういうこと」
ナポレオン「え? 僕、ロベスエール関係の人じゃないよ」
男「いや、ロベスピエール関係の人だよ」
ナポレオン「なんで!?」
男「だってあんた、ロベスピエールの弟と仲いいじゃん」
ナポレオン「あ! そうか!」
男「でしょ? というわけで、はい、逮捕ね」
ナポレオン「う~~~(涙)」
ナポレオンはロベスピエールの弟と親交があったことや、 ロベスピエールの属する政治クラブに参加していたことなどから、逮捕・投獄された。
2週間後、ナポレオンは釈放された。
しかし軍隊はクビになった。
ナポレオン「軍隊、クビになっちゃった(涙)」
兵士「ナポレオンさんがいなくなって残念ですよ。ナポレオンさんの分まで僕らががんばりますね」
ナポレオン「ぅぅ……人生どん底だ~」
兵士「これからどうするんですか?」
ナポレオン「とりあえずバイト探すかな。情報誌、買ってきたんだよね」
兵士「いいバイトあります?」
ナポレオン「あ、これいいかも。テレホンアポインター。時給も高いし」
兵士「でもこれ、女性だけですよ」
ナポレオン「!Σ( ̄□ ̄;僕、男だ!」
兵士「じゃあダメですね」
ナポレオン「じゃあ、これ、ピザの宅配」
兵士「要普免ですよ」
ナポレオン「!Σ( ̄□ ̄;免許ない!」
兵士「じゃあダメですね」
ナポレオン「あ、これカッコイイかも、簡単な翻訳アシスタント」
兵士「英検2級以上ですよ」
ナポレオン「!Σ( ̄□ ̄;4級しかない!」
兵士「じゃあダメですね」
ナポレオン「じゃあ、これ、ホールスタッフ及び店内業務全般」
兵士「経験者のみですよ」
ナポレオン「!Σ( ̄□ ̄;経験ない!」
兵士「じゃあダメですね」
ナポレオン「……」
25歳から26歳にかけて、ナポレオンは職もなく希望もなく、どん底の貧乏生活を味わった。
第5話 ヴァンデミエールの乱
それから約1年後の1795年10月。
パリの民衆が暴動を起した。(ヴァンデミエール13日の反乱)
政府の偉い人たちは……
偉い人1「いや~、やばいね。暴動だね」
偉い人2「フランス革命が起きてから、もう6年たつけど、いまいち国内が安定しないね」
偉い人1「うん」
偉い人2「今回の暴動も、かなり拡大してるよね」
偉い人1「一応さ、軍隊は派遣してるんだけど、なかなか鎮圧できないんだよ」
偉い人2「困ったな~」
偉い人1「誰かバシッとあの暴動おさめてくれないかな~」
偉い人2「優秀な司令官、いないかな……」
偉い人1「そういえばさ、ナポレオンは? あいつ、この前のトゥーロン港の戦いでめっちゃ活躍したじゃん」
偉い人2「だって、おれらナポレオンのことクビにしちゃったしょ。だから、あいつもう軍隊にいないよ」
偉い人1「軍隊に戻ってくれるように頼んでみない? ダメモトでさ」
偉い人2「いまさら?」
偉い人1「うん。『クビにしてごめ~んっ。もうクビにしないから助けて~』って」
偉い人2「カッコ悪いけど、しかたないか」
そして。
偉い人1「……というわけなんだよね」
ナポレオン「はぁ……」
偉い人1「頼むよ、ね」
ナポレオン「……あの、でも僕、なんも力になれないっすよ」
偉い人1「だって、この前、トゥーロン港の戦いで見事な勝ち方したしょ。 あの調子で今回も頼むよ」
ナポレオン「あれは、たまたまですよ」
偉い人1「謙虚だね~、そういうところが素晴らしいよ。惚れた! フランスを救えるのは君しかいない! ぜひ君の力でパリの暴動をおさめてくれ。頼んだよ、よし決まりだ!」
ナポレオン「そ、そんなぁ……」
こうしてナポレオンは軍隊に復帰し、民衆の暴動を鎮圧することになった。
兵士「ナポレオンさん、お帰りなさい~!」
ナポレオン「ただいま~!」
兵士「またナポレオンさんと一緒に戦えることになって嬉しいです。今回はパリの暴徒が相手ですね」
ナポレオン「うん。がんばろう」
兵士「あ、向こうから押し寄せてくるの、あれ、暴徒たちじゃないですか?」
ナポレオン「うわ、ホントだ。怖~っ」
兵士「作戦はあるんですか?」
ナポレオン「うん。昨日ね、ちょっと考えたさ」
兵士「すごいっすね。どんなのですか?」
ナポレオン「あのね、大砲をばーんって撃つの」
兵士「はい」
ナポレオン「ばーんって……」
兵士「はい。そして?」
ナポレオン「いや、そしてって言うか、なんて言うか……。とにかく、ばーんって……」
兵士「それだけですか?」
ナポレオン「……いや、じゃあもっと、ばばーん、ばーん、ばーん・・・・って」
兵士「……」
ナポレオン「……」
兵士「わかった! この前、トゥーロン港の戦いで大砲を撃って勝てたから、また大砲撃ったら勝てると思ってる んですね? ふふふ。ナポレオンさんって単純でいいですね。素敵です♪」
ナポレオン「……うん」
兵士「パリ市内で大砲を撃つなんて、今まで誰もやらなかった戦い方ですよ」
ナポレオン「ほんと? なんで?」
兵士「あ、暴徒がすぐそこまで来てます。さあ、戦いましょう」
ナポレオン「あ、うん」
ナポレオンはパリ市内で暴徒を砲撃し、反乱を鎮圧した。
ナポレオン「けっこう簡単に鎮圧できたね」
兵士「はい」
ナポレオン「トゥーロン港の戦いのマネしてよかった~」
兵士「うまくいきましたね」
ナポレオン「でもさ、大砲を撃ったらこんなに簡単に鎮圧できるのに、 なんでみんな今までやらなかったのかな?」
兵士「え、知らないんですか?」
ナポレオン「なにが?」
兵士「パリ市内で大砲撃ったら、めっちゃ怒られるんですよ」
ナポレオン「え! ほんと?」
兵士「パリの街中で大砲なんて撃ったら、人や建物に当たって危ないじゃないですか。 だから普通の人はそんな危険なことしないんですよ」
ナポレオン「……知らなかった」
兵士「ま、怒られるときは気持ち良く怒られましょうよ」
ナポレオン「ぅぅ……(涙)」
兵士「これでまたクビになったら、ちょっとウケますね」
ナポレオン「うん(TT)」
とにかく……
このようにして『ヴァンデミエール13日の反乱』はナポレオンにより鎮圧された。
第6話 イタリア遠征
偉い人1「マジでぇ~。パリ市内で大砲撃ったのぉ~?」
ナポレオン「はい。すいません」
偉い人1「いや~、まぁ、反乱鎮圧できたからいいけどさ。でもちょっと非常識だよ」
ナポレオン「……はい」
偉い人1「あ、じゃあ、このなぞなぞ解けたら許してあげる」
ナポレオン「え、なぞなぞ?」
偉い人1「うん。そのかわり、解けなかったら罰ゲームね」
ナポレオン「いいですよ。僕、なぞなぞ大好きですから」
偉い人1「よ~し、いい? いくよ?」
ナポレオン「はい」
偉い人1「下は大火事、上は洪水、これな~んだ?」
ナポレオン「えー、わかんないっすよ」
偉い人1「正解は、風呂、でした~」
ナポレオン「なんで?」
偉い人1「だってさ、下で木とか燃やして、その上に湯船があるしょ」
ナポレオン「でも、いま時そんな風呂ないっすよ。今はボイラーとかガスとかで沸かせますもん。それ、古いなぞなぞですね」
偉い人1「……う、じゃあ、もうひとつ」
ナポレオン「はい」
偉い人1「赤い帽子をかぶると背が小さくなるものな~んだ」
ナポレオン「ロウソク!」
偉い人1「ぶぶー」
ナポレオン「え、違うんですか・・・・」
偉い人1「正解は、赤い帽子をかぶると小さくなるという珍しい特徴を持つ、 まだ人類に発見されていない生命体、でした~」
ナポレオン「そ、そんな……」
偉い人1「まいった?」
ナポレオン「ずるいですよ~。そんな生命体いないじゃないですか~」
偉い人1「いるよ。人類に発見されてないからおれも君も知らないだけで」
ナポレオン「そんなぁ~」
偉い人1「わかったよ。じゃあ、最後にもう一問」
ナポレオン「はい」
偉い人1「ヨーロッパが履いている長靴、な~んだ」
ナポレオン「これは現実的な答えですよね? いんちきナシですよ」
偉い人1「うん」
ナポレオン「じゃあ、答えはイタリア!」
偉い人1「どうして?」
ナポレオン「イタリア半島は長靴の形してるから。ね、正解でしょ?」
偉い人1「ぶぶー」
ナポレオン「え、なんで!」
偉い人1「正解は『そんなのない』でした。 ヨーロッパは人間じゃないので長靴なんか履いてません~」
ナポレオン「ず、ずるい……」
偉い人1「なんで? 現実的な答えだって言ったじゃん」
ナポレオン「ぅぅ~」
偉い人1「君の負けね。じゃあ、罰として……」
ナポレオン「どきどき」
偉い人1「イタリアを攻撃してよ」
ナポレオン「なんでイタリア……?」
偉い人1「今ちょうどなぞなぞで話題になったしょ、イタリア」
ナポレオン「まぁ、はい」
偉い人1「それにね、イタリアには悪い奴らがいるんだよ」
ナポレオン「悪い奴ら?」
偉い人1「うん。おれらが革命で血と汗を流して手に入れたこの共和政治を、 潰そうしてる人たちがいるんだ」
ナポレオン「はぁ、なんかよくわかんないですけど、イタリアを攻めればいいんですね」
偉い人1「そういうこと。じゃ、イタリア遠征、がんばってね」
ナポレオン「がんばります……」
1796年3月。
ナポレオンは遠征軍司令官となった。
ナポレオン「えー、今日から司令官になったナポレオンです。みなさん、宜しくお願いします」
老兵「なんだ、司令官っていうからどんなすごい人かと思ったら、坊やじゃないか」
ナポレオン「はい、がんばります」
老兵「こんな坊やが司令官なんて、よっぽど人材がいないんだなぁ」
ナポレオン「……ええ、まぁ、そのようで」
老兵「坊や、おれたち老兵が面倒見てやるからしっかりついて来いよ。わははははは」
ナポレオン「……はい」
遠征軍には、ナポレオンの先輩や士官学校時代の教官たちがいた。
彼らは若い司令官のナポレオンを軽く見ていた。
そのような雰囲気の中で、ナポレオンのイタリア遠征は始まった。(1796年3月11日)
第7話 ポー川の橋
イタリアに入ったナポレオン軍はポー川を挟んで敵と向かい合った。
老兵「おいおい、司令官の坊や」
ナポレオン「はい!」
老兵「橋の向こうの敵は、すごい大軍じゃねーか」
ナポレオン「はい」
老兵「こっちは2万人。向こうは10万人。ぜんぜん勝負にならないよ」
ナポレオン「はい……」
老兵「どうするんだよ。やっぱり若僧には無理かな」
ナポレオン「すいません。なんか作戦考えます……」
老兵「しっかりしてくれよ」
ナポレオン【心の声】 「あんな大軍に勝てるわけないよ~。降参しちゃおっかな~。でも、そんなことしたら老兵の人にめっちゃ怒られるだろうなぁ」
ナポレオンはまわりを見回した。
ナポレオン【心の声】 「……誰も見てない隙にこっそりダッシュで敵のところに行って、ひとりでさっさと降参しちゃお。あ、いま誰も見てない。今行っちゃおうかな。よし、今しかない、せーの。それ!」
老兵「ん? あの坊やどこに行くんだ?」
老兵2「橋を渡って敵のほうに行こうとしてるぞ」
老兵「危ないな~。敵の大砲にばんばん撃たれてるじゃないか。当たったらどうするんだ」
老兵2「でも、勇敢だな」
老兵「ああ、たいした度胸だ」
老兵2「おれたちも後に続こう」
老兵「そうだな。よし、行くぞ!」
大軍のおごりで油断していた敵は、フランス軍の決死の突撃の前に敗れ去った。(ポー川の戦い)
老兵「いや~、勝った勝った」
老兵2「敵め、こっちが少数だからって油断してたんだな。ザマぁ見ろ」
ナポレオン「……(・-・)?はて」
老兵「司令官、あんた、すごい度胸だな。見直したよ」
老兵2「いままで若いからってバカにしててごめんな」
ナポレオン「……僕たち、勝ったんですか?」
老兵「先頭切って突進するところなんか、アレクサンダー大王みたいだったぞ」
老兵2「いままでフランスにこんな司令官いなかったよ!」
この勝利に勢いを得たナポレオンはイタリアのローマを占領し、 さらに、隣国オーストリアのウィーンにもせまった。
ナポレオン「このままウィーンも占領しちゃっていいのかな?」
老兵「わかんないけど、いいんじゃない?」
ナポレオン「ウィーンの人たちも、僕たちのフランス革命に反対してるもんね?」
老兵「うん。反対してる」
ナポレオン「じゃあ、やっつけちゃっていいのかな……」
老兵「たぶん、いいと思うよ」
ナポレオン「でもさ、ウィーンの人たち、すっごい強かったら嫌じゃない?」
そこへウィーンの使者がやってきた。
使者「はいどーも~。ウィーンからの使者でーす」
ナポレオン「あ、どーも」
使者「今日はウィーンの偉い人からの伝言を持ってきました~」
ナポレオン「ウィーンからの伝言? どんな?」
使者「えーとね、内容は『やめて! 許して! ウィーンに来ないで!』です」
ナポレオン「じゃ、やめる?」
老兵「うん。そうだな」
ナポレオン「じゃあ、ウィーンに行くのはやめて、フランスに帰ろうか」
1797年10月17日。
ナポレオンはウィーン占領を見送った。(カンポ=フォルミオの和約)
偉い人1「おかえり!」
ナポレオン「ただいま~」
偉い人1「君、大活躍だね。国民にすごい人気だよ」
ナポレオン「ホントですか?」
偉い人1「歌でも出してみれば?」
ナポレオン「それは売れないですよ~」
偉い人1「いや、ネームバリューでけっこう売れるんじゃない? 売れたら紅白とか出れるかもよ」
ナポレオン「それ、ちょっといいっすね」
偉い人1「おれ、アーティストにコネあるから、頼んでみてやるか?」
ナポレオン「え、誰ですか?」
偉い人1「ベートーベンって、知ってる?」
ナポレオン「知ってますよ! めちゃめちゃヒットメーカーの大物プロデューサーじゃないですか~。 お願いしちゃおっかな~」
偉い人1「いいよ、じゃ、頼んでおいてあげる」
ナポレオン「なんか、夢見たいですね。音楽デビューかぁ~」
偉い人1「そのかわりさ」
ナポレオン「どきっ!」
偉い人1「エジプト、攻めてくれない?」
ナポレオン「エジプト……?」
偉い人1「エジプトってさ、貿易の要所なんだよね」
ナポレオン「……はい」
偉い人1「だからさ、そこを押さえておくと国際的にかなり有利なのさ」
ナポレオン「なんでそういうメンドクサイ任務ばっかり僕に回って来るんですか?」
偉い人1「君、地味に連戦連勝でしょ?」
ナポレオン「はい」
偉い人1「だから今回も頼むよ」
ナポレオン「自信ないですよぉ。イタリアでいっぱいいっぱいでしたから」
偉い人1「ベートーベンにはちゃんと言っておくからさ、ね」
ナポレオン「・・・・はぁ」
こうしてナポレオンはエジプトに遠征することになり、 ベートーベンはナポレオンの為に交響曲第3番『英雄』を作曲することになった。
しかし……
このエジプト遠征でナポレオンは、かつてない大ピンチにおちいってしまう。
第8話 エジプト遠征
ナポレオンの350隻の大艦隊は、1798年7月1日、エジプト・アレクサンドリア市の港に着いた。
ナポレオン「暑い……」
兵士「ナポレオンさん、ここは2000年くらい昔に、アレクサンダー大王が作った町ですよ」
ナポレオン「いや、そんなことよりね、暑いよ」
兵士「ナポレオンさんもアレクサンダー大王やカエサルみたいな英雄になったらいいんじゃないですか?」
ナポレオン「英雄って、かっこいいかな?」
兵士「かっこいいですよ」
ナポレオン「ほんと? じゃあ、目指してみよっかな~、英雄」
兵士「応援しますよ」
ナポレオン「でもさ、僕が英雄目指してるの、みんなに内緒ね」
兵士「なんでですか?」
ナポレオン「だって、もし失敗したら恥ずかしいしょ」
兵士「そうですね」
ナポレオン「……ん? 向こうから誰か来るね」
エジプトの人が現れた。
エジプトの人「おまえら、誰だ!」
ナポレオン「あ、フランスの軍隊です。どーも、はじめまして」
エジプトの人「4000年の歴史を持つこの偉大なエジプトに、フランス野郎が何しに来た!」
ナポレオン「……テンション高いですね」
エジプトの人「何しに来た!」
ナポレオン「エジプトを占領しに、ちょっと」
エジプトの人「なんで!」
ナポレオン「なんでって……そういえば、なんでだろう?」
兵士「僕が説明します。はじめまして、兵士です」
エジプトの人「はじめまして!」
兵士「実は9年前にフランスで革命が起こりまして、民衆が政治をやるようになったんですよ」
エジプトの人「ほぉ!」
兵士「そしたら回りの国の王様からやたら文句言われて、戦争になりまして……」
エジプトの人「うむ!」
兵士「ヨーロッパ中を敵に回す羽目になってしまって」
エジプトの人「大変だね!」
兵士「それで、少しでも他の国より有利な立場を得たいな~と思いまして」
エジプトの人「ふむ!」
兵士「国際貿易の重要な拠点であるこのエジプトを、ぜひ手に入れておきたいと、そういうわけです」
エジプトの人「なるほど!」
ナポレオン「なるほど」
エジプトの人「うまいこと言ったって、よーするに侵略者だな。許さん! 断固、戦うぞ!」
こうしてフランス軍とエジプト軍の戦いが始まった。
その激戦の中・・・・
ナポレオン「うちら、今のところけっこう優勢じゃない?」
兵士「こっちは大砲とか近代兵器がありますからね」
ナポレオン「じゃあ、勝てるね」
兵士「でも問題はこの暑さですよ」
ナポレオン「うん、確かに」
兵士「みんなダウンしてきてますよ」
ナポレオン「もうちょいで勝てそうなんだけどね」
兵士「ナポレオンさん。なんか、兵士たちにカッコイイ励ましの言葉、 言ってくださいよ」
ナポレオン「え~、僕が!?」
兵士「だって、司令官じゃないですか。」
ナポレオン「でも、どんなこと言えばいいの?」
兵士「歴史に残るようなカッコイイ言葉ですよ。はい、これマイクね」
マイク ON
ナポレオン「えーと、兵士の皆さん、こんにちは」
兵士「そうそう、その調子。ちょっとくらいウソが入ってもいいから、 カッコイイこと言ってくださいね」
ナポレオン「えーと、えーと……」
兵士「さぁ早く早く」
ナポレオン「えーと、えーと、ピラミッドの上から誰かこっち見てます」
兵士「わ! ウソつきすぎ!」
ナポレオン「え? やばい? どうしよう?」
兵士「マイク入ってますよ!」
ナポレオン「えーと、そうそう皆さん、知ってました? エジプトは4000年くらい前から文明があるらしいですよ。 僕はさっき知りました」
兵士「世間話してどうするんですか!」
マイク OFF
ナポレオン「あー、緊張した~」
兵士「ぜんぜんダメじゃないですか~」
ナポレオン「だって緊張するんだもん」
兵士「かなりめちゃめちゃな恥ずかしいスピーチでしたよ」
ナポレオン「うそぉ、そんなに?」
兵士「かなり」
ナポレオン「今から取り消せないかな……」
兵士「もう無理ですよ」
ナポレオン「何とかならない?」
兵士「戦いに勝つしかないですね」
ナポレオン「?」
兵士「戦いに勝てば、どんなカッコ悪いことでもカッコ良くアレンジされて人々に伝わるものなんですよ」
ナポレオン「じゃあ、今のカッコ悪いスピーチも、カッコ良くアレンジされるかな?」
兵士「たぶん」
ナポレオン「よし、何が何でも勝とう!」
奮起したナポレオン軍は勝利をおさめた。
そして、ナポレオンのスピーチは下記のようにアレンジされて人々に広まった。
『兵士諸君! ピラミッドの上から4000年の歴史が諸君の戦いぶりを見ているぞ!』
これはナポレオンの残した代表的な名言のひとつとなった。
兵士「勝ってよかったですね」
ナポレオン「うん。じゃ、エジプトも占領したし、フランスに帰ろうか」
兵士「そうですね」
そこへ老兵が現れた。
老兵「おーい、司令官! 大変だ~!」
ナポレオン「どしたんすか?」
老兵「おれたちの乗ってきた船が全部焼かれちゃってるぞ~!」
ナポレオン「え!帰れないじゃん(TT)」
ナポレオン軍は敵に船を焼かれ、エジプトで孤立してしまった。
第9話 祖国の危機
ナポレオン軍は、エジプトで孤立した。
ナポレオン「フランスに帰りたいよ~」
兵士「船がないと無理ですよ。思い切って、船、買っちゃいますか?」
ナポレオン「お金、いくらあるの?」
兵士「1万円です」
ナポレオン「それじゃ買えなくない?」
兵士「……はい」
ナポレオン「じゃ、ダメじゃん」
兵士「まあまあ、気晴らしにテレビでも見ましょう」
テレビ ON
(テレビショッピング)
司会者「……便利な小型船ですね~。それで、お値段のほうは? きっとお高いんでしょうね~」
実演販売員「今日はですね、この小型船に抗菌まな板をつけて、なんと1万円!」
司会者「え! さらに抗菌まな板までついて、たったの1万円ですか? これはお得ですね」
実演販売「今回限りの特別ご奉仕です」
司会者「お問合せは今すぐこちらの電話番号へ。FAX、メールでのご注文もお受けしております」
そして……
ナポレオン「小型船、買っちゃったね」
兵士「買っちゃいましたね」
ナポレオン「これでフランスまで帰れるね」
兵士「でも、港には敵の船がウヨウヨしてるから、こっそり出航しなきゃダメですよ」
ナポレオン「じゃあさ、安全な海域に出るまで、しゃべったらダメね」
兵士「はい」
ナポレオン「じゃ、行こうか」
兵士「はい」
こうしてナポレオンはエジプトを脱出した。
そして、フランス。
偉い人1「ああー、お帰り~、ナポレオン!」
ナポレオン「どうしたんすか? 悲惨な顔して」
偉い人1「いや、もうね、フランス、滅亡するかもしれんさ」
ナポレオン「滅亡!? なんで!」
偉い人1「君がエジプトに行ってる間、外国との戦争には負けつづけるし、国内のあちこちで反乱は起こるし、 最悪なんだよね」
ナポレオン「へぇ~、なんか大変そうですね」
偉い人1「うん」
ナポレオン「……まぁ、がんばって下さい。じゃ、お先に失礼します」
偉い人1「帰るの?」
ナポレオン「帰りますよ。だって、今日はエジプトから戻ったばかりで疲れてるし」
偉い人1「ちょっとお願いがあるんだけどさ……」
ナポレオン「またメンドクサイこと僕に押し付けようとしてるでしょ?」
偉い人1「メンドクサくないよ」
ナポレオン「ホントですか~?」
偉い人1「ホント。ね、だからちょっと頼まれてよ」
ナポレオン「……いいですよ。なんですか?」
偉い人1「あのね、大きな声じゃ言えないんだけどね」
ナポレオン「はい」
偉い人1「独裁者になってくれない?」
ナポレオン「どくさいしゃ????」
偉い人1「フランスを救うには、強いものが権力を握って、この混乱をおさめるのが一番なんだ。ね? 頼むよ」
ナポレオン「どくさいしゃ……ですか?」
偉い人1「すぐに、明日にでも。ぜひ頼むよ」
ナポレオン「はぁ、よくわかんないっすけど、いいですよ」
偉い人1「本当か! ありがとう! これでフランスは救われる!」
ナポレオン「明日、どくさいしゃ、というのになればいいんですよね?」
偉い人1「そう。よろしくね」
ナポレオン「で、どうやったらその、どくさいしゃ、っていうのになれるんですか?」
偉い人1「それは自分で考えてよ」
ナポレオン「え……」
偉い人1「なんとか自分で工夫して独裁者になってよ。じゃ、頼んだよ、よろしくね」
ナポレオン「……はい」
その夜。
ナポレオン「あ、そうそう」
兵士「?」
ナポレオン「明日ね、僕、どくさいしゃ、っていうのにならなきゃいけないさ」
兵士「え!?」
ナポレオン「ちょっとさ、偉い人に頼まれちゃて」
兵士「どうやってなるんですか?」
ナポレオン「なんとか工夫して」
兵士「……独裁者の意味、知ってて引きうけたんですか?」
ナポレオン「いや、知らないんだよね」
兵士「……」
ナポレオン「どくさいしゃ、って何?」
兵士「独裁者。国で一番権力持ってて、好き勝手に政治とか出来る人のことですよ」
ナポレオン「おお~、かっこいい! どうやったらなれるの? 教えて」
兵士「なるのは、難しいですよ」
ナポレオン「でも明日、独裁者にならなきゃいけないんだよ。約束だから」
兵士「そんなこと言っても……」
ナポレオン「お手軽な独裁者のなりかた教えてよ。入門編でいいから」
兵士「そんなのないですよ~」
ナポレオン「何とかならない?」
兵士「今のフランスは議会が政治をやってるから、 議会がOKを出せばナポレオンさんが独裁者になれるんですけど……」
ナポレオン「ふーん、よくわかんないけど」
兵士「議会で演説して、みんなを納得させて、『ナポレオンさんが独裁者になる法案』を賛成多数で 可決する、というのが一番スマートな方法かな」
ナポレオン「ほうあん……? かけつ……?」
兵士「もしかして、よくわかってないでしょ?」
ナポレオン「うん(恥)」
兵士「とにかく明日、議会で演説してみんなを納得させればいいんですよ」
ナポレオン「そんなのできないよ~。スピーチ苦手だもん」
兵士「エジプトのスピーチも何とかなったじゃないですか。大丈夫ですよ」
ナポレオン「そうかなぁ……」
翌日、ナポレオンは軍隊とともに議会の前までやって来た。
兵士「じゃ、がんばって下さいね」
ナポレオン「えー、議会の中まで一緒に来てよぉ」
兵士「僕たち軍隊は外で待ってますよ」
ナポレオン「なんで~。心細いしょ……」
兵士「軍隊が議会の中に入ったらダメなんですよ。反乱とみなされて処刑されちゃいますよ」
ナポレオン「げ!……それは嫌だ」
兵士「だからひとりでがんばって下さい」
ナポレオン「あー、緊張するよぉ~」
兵士「あ、それから」
ナポレオン「なに?」
兵士「あんまり変なこと言ってみんなの反感をかったら、 勢いでギロチンにかけられちゃいますから、気をつけて」
ナポレオン「まじで~!?」
兵士「そうやってギロチンにかけられて死んでいった人はたくさんいますからね」
ナポレオン「……( ̄∇ ̄;)」
兵士「いってらっしゃい」
ナポレオン「いってきます(泣)」
1799年11月9日。
ナポレオンはひとりで議場に入っていった。
第10話 権力への道
ナポレオンは議場に入った。
弟「あれ、兄さん、こんなところで何やってるの?」
ナポレオン「あれ、おまえこそ議会なんかで何やってるの?」
弟「僕、議会の議長だもん」
ナポレオン「まじで?」
弟「兄さんは何してるの?」
ナポレオン「あ、今日ね、ちょっと演説しに来たさ」
弟「演説!? すごいね」
ナポレオン「すごいしょ。でも、めっちゃ緊張してるよ」
弟「がんばってね」
ナポレオン「うん」
ナポレオンは演説台に立った。
ナポレオン「えーと、どーも、皆さんこんにちは(緊張)」
議員たち「……」
ナポレオン「今日は、そのぉ、皆さんに相談があってやって来ました」
議員たち「……」
ナポレオン「僕、実は、その……。独裁者になりたいんですけど、いいですか?」
議員たち「いや、やばいんでない?」
ナポレオン「そこをなんとか……」
議員たち「だってさ、せっかく革命で共和政治になったのにさ、 独裁政治なんか始めたら、王様の時代に戻っちゃうしょ」
ナポレオン「……でもぉ」
議員たち「ブーブー」
ナポレオン「お願いしますよぉ」
議員たち「しつこいぞ! よし、みんな、ナポレオンを捕まえてギロチンにかけろ~」
ナポレオン「わ!」
議員たち「それ、捕まえろ~」
ナポレオン「わ~(TT)」
ナポレオンは演壇から引きずり下ろされ、議員たちにもみくちゃにされた。
このとき、議員の一人が取り出したナイフがナポレオンの頬を切った。
ナポレオン「ごめん、ごめんって、謝ってるしょ、ごめん~」
議員たち「こいつは自由の憲法を踏みにじろうとしてる。死刑だ! ギロチンだ~!」
ナポレオン「助けて~」
弟「まずい……なんとかしなくちゃ」
ナポレオンはやっとの思いで議会の外に逃げ出した。
ナポレオン「やばい、かなりやばいよ」
兵士「まさか……失敗?」
ナポレオン「議会を説得しようと思ったのに、逆に反感かっちゃったよぉ。 逃げよう、ギロチンやだよ~(TT)」
兵士「マジやばいっすよ~。国家を敵に回しちゃいましたね」
ナポレオン「どうしよう……」
兵士「あ、ほっぺも切られてるし」
ナポレオン「うん」
兵士「独裁者どころか、これじゃ犯罪者じゃないですかぁ」
ナポレオン「僕の人生、これで終わりかなぁ……」
そこへ、ナポレオンの弟が現れた。
弟「おーい」
ナポレオン「あ、弟だ」
弟「軍隊のみんな、聞いてくれ」
兵士「?」
弟「僕はフランス議会の議長として諸君に報告する」
ナポレオン「おお、なんかカッコイイぞ、弟よ」
弟「今、議場内のカゲキな議員たちがナポレオン将軍をナイフで傷つけた。 自由の国フランスの議会で、あってはならない行為だ」
ナポレオン「そうだそうだ」
弟「兵士諸君、自由を守るために、カゲキな議員たちをひとりのこらず議場から追い払おう!」
ナポレオン「……どういうこと?」
弟「しっ! 兄さんは黙って(小声)」
ナポレオン「でも、議会に軍隊を入れちゃダメだって……(小声)」
弟「ギロチンになりたいの?(小声)」
ナポレオン「そりゃ、なりたくないよ(小声)」
弟「じゃ、僕にまかせて(小声)」
ナポレオン「どうするの?(小声)」
弟「兄さんがギロチンの刑になるまえに、兄さんをこの国の独裁者にしてしまうんだ。そうしたらギロチンの刑にならないですむでしょ(小声)」
ナポレオン「でもどうやって?(小声)」
弟「反対する議員を全員、議会の外に追い出してから多数決をとるのさ(小声)」
ナポレオン「おお!(小声)」
弟「そうすれば、どんな法案も通るしょ(小声)」
ナポレオン「なるほど~(小声)」
弟「反対する議員を追い出すためには軍隊の協力が必要なんだ(小声)」
ナポレオン「ふむふむ(小声)」
弟「ここで軍隊のみんなが動いてくれなければ、兄さんはギロチンの運命だよ(小声)」
ナポレオン「ぅぅ……(小声)」
弟「さぁ諸君、ナポレオン将軍に危害を加えた議員たちを議場から追い出そう!」
軍隊 しーーーん……
ナポレオン「え、どうしたの? みんな!?」
兵士「いや、あの~、議会の中に軍隊が入るのは、さすがにちょっと」
老兵「そんなことしたら、逆に国民の自由を踏みにじることになるんじゃないか?」
すると弟リシュアンは、兄ナポレオンの腰から軍刀を抜き取り……
ナポレオン「え?」
弟「兵士諸君!」
その軍刀をナポレオンの喉元に突き付けた。
弟「もしこのナポレオンがフランス国民の自由を踏みにじるようなことがあったら、 たとえ兄だろうと、僕は議長として、フランス国民として、絶対に彼を生かしちゃおかない!」
ナポレオン「ひぇ~(TT)」
老兵「そ、そこまでいうんなら……」
老兵2「やけくそだ! こうなったらナポレオンさんを信じよう!」
兵士「よし、みんな、前進だ!乱暴な議員どもを議場から追い出せ!」
軍隊「おー!」
ナポレオン「おお~! みんなありがとう~」
まさにこの瞬間から、ナポレオンは全ヨーロッパの支配者への道を歩み始めた。
軍隊はナポレオンに反対する議員をひとりのこらず議場から追い出した。
弟「ほら兄さん、反対派の議員がいなくなれば、どんな法律も作り放題だよ」
ナポレオン「なんか、ちょっと強引だけど、ま、いっか」
こうして『ナポレオンを独裁者にする法』が成立し、 彼は執政官となって30歳でフランスの頂点に立った。(ブリュメール18日のクーデター)
市民1「あのさ、ナポレオンっているしょ?」
市民2「ああ、将軍ね」
市民1「なんかね、執政官になったらしいよ」
市民2「執政官って?」
市民1「まぁ、独裁者みたいなもん」
市民2「ほんと!?」
市民1「うん」
市民2「じゃあさ、おれたちがフランス革命で勝ち取った自由は? 台無し?」
市民1「いや、そうでもないみたい」
市民2「なんで?」
市民1「ナポレオンって戦い強いしょ?」
市民2「うん」
市民1「だからね、国民の自由を敵から守ってくれるんだって」
市民2「じゃあ、市民の味方だ」
市民1「そう。いい独裁者」
市民2「じゃ、OKだね」
市民1「うん、OK」
こうして……
『ナポレオン時代』(1799-1815)と呼ばれる、伝説に彩られた時代が始まった。
第11話 アルプス越え
事件が起きた。
兵士「ナポレオンさん、イタリアでまた敵が暴れてるらしいですよ」
ナポレオン「やっつけに行かないとやばい?」
兵士「一応、そうですね」
ナポレオン「じゃあ、せっかく執政官になったことだし、ちょっと国民にカッコイイとこ見せちゃおっかな~」
兵士「ではさっそくイタリア遠征の計画を立ててくださいね。はい、これ地図です。 これに進行ルートを書き込んでください」
ナポレオン「うん、どれどれ……」
兵士「わ! いきなりマジックで書くんですか? しかも赤の極太」
ナポレオン「うん」
兵士「鉛筆で下書きしてからのほうがいいんじゃないですか?」
ナポレオン「いいよ、メンドクサイから」
兵士「間違えないで下さいね、地図はこれ一枚しかないんですから」
ナポレオン「えーと、現在地はここで、目的地はここね。どういうルートで行こうかな~」
兵士「悩みますね」
ナポレオン「メンドクサイから直線で結んじゃえ、ぴーーーーって。ほら、できた♪」
兵士「わ!」
ナポレオン「ナイスじゃない?」
兵士「なにやってるんですかぁ~」
ナポレオン「直線で結んだら最短距離で行けるしょ」
兵士「だからってこんな……」
ナポレオン「まずい?」
兵士「これじゃ思いっきりアルプス山脈突っ切ってるじゃないですか~!」
ナポレオン「それってやばいの!?」
兵士「アルプス山脈なんか越えられるわけないですよ~」
ナポレオン「マジで! じゃあ、書きなおそう」
兵士「しょうがないな~。じゃあ、今書いた線には×印つけてください」
ナポレオン「でもさ、×って書いたら、なんか汚くならない?」
兵士「仕方ないじゃないですか、地図、これしかないんですから」
ナポレオン「えー、でも×って書いたらさ、『あ、あの人、間違えたんだ~』 って思われるもん」
兵士「……」
ナポレオン「しょうがないから、このまま実行しちゃわない?」
兵士「アルプス越えですか?」
ナポレオン「アルプス越え」
兵士「そんな、無茶っすよ~。不可能だ~、最悪だ~」
ナポレオン「ふふふ」
兵士「?」
ナポレオン「不可能だと思うでしょ?」
兵士「……はい」
ナポレオン「ところがそうじゃないんだな~」
兵士「……?」
ナポレオン「ほら、見て、僕の辞書」
兵士「……」
ナポレオン「『不可能』っていう文字、ないでしょ? ふふふ」
兵士「印刷ミスですね。縁起悪い」
ナポレオン !Σ( ̄□ ̄;
兵士「でも、考えてみれば、アルプスを越えて攻めこむっていうのは、かなり敵の意表を突けますね」
ナポレオン「でしょ?」
兵士「そうか、ナポレオンさんの作戦は、あの『ハンニバル』を参考にしたんですね!」
ハンニバルとは、アルプス山脈を越えてローマ帝国に攻め込んだ古代の武将である。
ナポレオン「ハ……ハン……?」
兵士「さすがですね~」
ナポレオン「ま、まあね……」
兵士「あれ? もしかしてナポレオンさん、ヨーロッパ人なのに、彼のこと知らないんですか?」
ナポレオン「ま、まさか。知ってるよ(汗)」
兵士「じゃあ、彼の名前、言ってみてください」
ナポレオン「簡単だよ。……ハンにゃうる」
兵士「なにちょっと曖昧に言ってごまかそうとしてるんですか」
ナポレオン「……そ、そんなことないよ」
兵士「でも彼って素敵ですよね。男として憧れますよ」
ナポレオン「あ、ああ、うん、素敵だね」
兵士「どういうところが魅力です?」
ナポレオン「え、……まぁ、ダンサーっぽいよね」
兵士「ダンサー!?」
ナポレオン「あ、いや、フィーリングさ、フィーリング……(汗)」
兵士「全然ごまかせてませんよ」
ナポレオン「まぁ、そんなことよりも、どお? アルプス越え、出来そうな気がしてきたしょ?」
兵士「はい。アルプスを越えて、敵の意表を突きましょう!」
こうして1800年5月、ナポレオンは『第2回イタリア遠征』に出発した。
第12話 マレンゴの戦い
ここはアルプスの山の中。
兵士「さすがに、雪多いですね」
ナポレオン「でもさ、雪踏む音ってなんか良くない? ぎゅっぎゅって」
兵士「いいですけど、やっぱちょっと寒い」
ナポレオン「もっと厚着して来ればよかったね」
兵士「そうですね。……あれ?」
ナポレオン「なに?」
兵士「ナポレオンさん、それ思いっきり私服じゃないですか!?」
ナポレオン「うそぉ、わ、ホントだ!」
兵士「着替えてくださいよ。ちゃんと軍服、持って来ました?」
ナポレオン「いや、忘れた(汗)」
兵士「なにやってるんですか~」
ナポレオン「でもなんか懐かしくない? こんな焦り方したの、体育の授業でジャージ忘れたとき以来だ」
兵士「あ、それ焦りますよね」
ナポレオン「あと、スーツで結婚式とかに出掛けて、気づいたら靴がスニーカーだったこともあったさ」
兵士「けっこうやっちゃってますね」
ナポレオン「まあね」
兵士「で、軍服、どうするんですか?」
ナポレオン「私服のままじゃマズイかな?」
兵士「だめですよ~。そんなのめっちゃプライベートモードじゃないですかぁ~」
ナポレオン「じゃ、どうしよう」
兵士「仕方ないですね。じゃあ僕の古い軍服を着てください。袖が取れちゃってますけど」
老兵「どーも老兵です。おれの古い軍服で良かったら着てくれ。襟が取れてるけど」
兵士「どーも老兵2です。おれのほうがいいかもよ。ボタン取れてるけどさ」
ナポレオン「ありがたいけど、どれもかなりボロボロだね……」
兵士「そうだ! じゃあみんなの軍服のまともな部分をそれぞれ繋ぎ合わせちゃおう」
こうして一着の軍服が出来あがった。
兵士「さぁ、着てみてください」
ナポレオン「うん。ありがとう。どれどれ。……さて、どう?似合う?」
兵士「……かろうじて軍服に見えますね。似合いますよ」
老兵「縫い目がかなりザツだけど、似合うよ」
老兵2「みすぼらしいけど、似合うよ」
ナポレオン「……」
兵士「気に入りました?」
ナポレオン「……う、うん」
1800年6月、ナポレオン軍はアルプスを越えた。
アルプスを越えてやって来たナポレオン軍の奇襲攻撃に、敵軍は慌てた。
ナポレオン「まさか僕たちがアルプスを越えてやってくるとは思わなかったんだろうね。 敵、めっちゃ慌ててるよ。ね、兵士くん」
し~ん
ナポレオン「あれ?兵士くん、どこ?」
し~ん
ナポレオン「みんなとはぐれちゃった……。やばい、どうしよう(汗)」
ナポレオンのその様子をふたりの敵兵が見ていた。
敵1「ねぇ、あのフランス兵、なにやってるのかな?」
敵2「めっちゃキョロキョロしてるね」
敵1「みんなとはぐれたのかな?」
敵2「ちょっと泣きそうだよ」
敵1「顔が必死だね」
敵2「あいつたぶん下っ端の兵隊だよ」
敵1「なんで?」
敵2「だって軍服がボロボロだもん」
敵1「そっか。そうだね」
敵2「一応、捕まえて捕虜にする?」
敵1「いや、下っ端をひとりくらい捕まえたって仕方ないしょ」
敵2「そうだね。敵の将軍とかナポレオン本人ならまだしも、下っ端じゃあね」
敵1「見逃してあげよう」
敵2「うん」
敵1「まだ仲間と合流できないみたいだよ」
敵2「すごいオドオドしてるね」
敵1「あ、泣いた」
敵2「ホントだ、かわいそうに……」
敵1「強いナポレオン軍にも、ああいう惨めな奴がいるんだね」
敵2「あんなかわいそうな奴がいると思うと、本気で戦えないね」
敵1「そうだね。戦えないよ」
敵2「……なんか、しんみりしてきたね」
敵1「……じゃ、撤退しようか」
敵2「撤退しよう」
敵は撤退した。
こうしてナポレオン軍は『マレンゴの戦い』で勝利をおさめ、フランスに帰国した。
兵士「ナポレオンさん、国民にすごい人気ですよ」
ナポレオン「照れるね」
兵士「連戦連勝ですからね」
ナポレオン「えへへ」
兵士「フランス、っていうかヨーロッパ全体がナポレオンブームみたいな感じですよ」
ナポレオン「そおかなあぁ(照れ)」
兵士「だって、フランス革命の『自由・平等・博愛』の精神を守るために戦ってるんだから、 カッコいいじゃないですかぁ」
ナポレオン「あ、僕ってそのために戦ってるんだ?」
兵士「そうですよ」
ナポレオン「かっこいいね」
兵士「今のナポレオンさんなら、なにやっても許されるかも」
ナポレオン「ほんと!?」
兵士「はい。なにか、昔からやってみたくて、なかなか出来なかったことってあります。」
ナポレオン「えーとね、火災報知器の『強く押す』っていうボタンを押すこと」
兵士「……他には?」
ナポレオン「バーとかで『いつもの』って注文すること」
兵士「……」
ナポレオン「あとね、横断歩道で」
兵士「そんなことより……」
ナポレオン「ん?」
兵士「皇帝になってみません?」
ナポレオン「皇帝?」
兵士「そう、皇帝」
ナポレオン「でもどうやって?」
兵士「僕の計画はこうです・・・・」
兵士は自分の立てた計画を話し始めた。
第13話 皇帝
ナポレオン「でもさ、今、フランスに皇帝っていう職業あったけ?」
兵士「ないですよ。新しく作るんです」
ナポレオン「えー、やばくない?」
兵士「大丈夫ですよ」
ナポレオン「だってさ皇帝って、よーするに、王様みたいな感じでしょ?」
兵士「はい」
ナポレオン「やばいって、勝手にそんなことしたら」
兵士「大丈夫ですよ」
ナポレオン「またあの議員の人とかに、国民の自由がどうのこうのって怒られるかもよ」
兵士「ちゃんと計画がありますから、まかせてください」
ナポレオン「ほんと?」
兵士「はい」
ナポレオン「どうやるの?」
兵士「今のフランスは共和政治ですから、いきなり勝手に『おれ今日から皇帝さ』 って言ったらブーイングです」
ナポレオン「ほら、ダメじゃん」
兵士「だから、ここは発想を変えて、国民のみんながナポレオンさんを無理やり皇帝にした、という形をとりましょう」
ナポレオン「?」
兵士「つまり、国民みんなに『ナポレオンさんに皇帝になって欲しい人、手ぇあげて~』って聞くんですよ」
ナポレオン「うん」
兵士「今、ナポレオンさんは人気絶頂だから、きっとほとんどの国民がおもしろがって手をあげるでしょう」
ナポレオン「うん」
兵士「そしたらナポレオンさんは『みんながそこまで言うんなら、じゃあ……』って、皇帝になるんです」
ナポレオン「あ、カッコイイね」
兵士「カッコイイですよ」
1804年5月、国民投票の結果、賛成357万票、反対わずか2500票でナポレオンは『フランス皇帝』になった。
それに対する各国の反応は……
皇帝A「ちょっと、ねぇ」
皇帝B「なに?」
皇帝A「ナポレオンがさ、フランスの皇帝になったらしいよ」
皇帝B「え! ほんと!?」
皇帝A「ほんと」
皇帝B「でもさフランスって確か、革命以来、共和政治じゃなかった?」
皇帝A「うん。でもナポレオンは人気あるから、勢いで皇帝になっちゃったみたい」
皇帝B「勢いって怖いね。あいつ、つい10年前はただの砲兵隊長だったのに」
皇帝A「それが今じゃ、おれたちと同じ皇帝だよ」
皇帝B「うん」
皇帝A「しかもヨーロッパのほとんどの国は、ナポレオンの連戦連勝にびびってペコペコしてるしょ」
皇帝B「ナポレオンはフランス皇帝っていうよりは、なんかほとんど全ヨーロッパの皇帝って感じだよね」
皇帝A「おもしろくないね」
皇帝B「うん。おもしろくないね」
皇帝A「ふたりで、やっつけちゃうか?」
皇帝B「ふたりで?」
皇帝A「うん。ナポレオンは確かに強いけどさ、二人がかりなら勝てるしょ」
皇帝B「でもそれ、ちょっとずるいね」
皇帝A「いや、いいんじゃない、別に」
皇帝B「いいかな」
皇帝A「うん。いいよ」
そして……
兵士「ナポレオンさん、手紙来てますよ」
ナポレオン「え♪ ファンレターかなぁ~」
兵士「なんて書いてあります?」
ナポレオン「『ナポレオンさん、こんにちは。1805年12月2日、アウステルリッツで待ってます』だって」
兵士「差出人は?」
ナポレオン「皇帝A、皇帝B」
兵士「それ、果たし状ですよ」
ナポレオン「え!!」
ナポレオン、皇帝A、皇帝Bという3人の皇帝が激突する『アウステルリッツの三帝会戦』はこうして始まる。
第14話 アウステルリッツの会戦
1805年12月2日、アウステルリッツの三帝会戦が始まった。
カーーン(試合開始)
ナポレオン「コホン。ではさっそく。砲兵隊、行けぇ~」
ナポレオンはまず砲兵隊だけを投入した。
しかし……
ナポレオン「やばい、なかなか勝てない……」
兵士「やばいですね」
ナポレオン「うん。どうしよう」
兵士「でも、なんで騎兵隊とか投入しないんですか?」
ナポレオン「え! 騎兵隊もいたの?」
兵士「そりゃ、いますよ」
ナポレオン「じゃあ、騎兵隊も進めぇ~」
ナポレオンはつづいて騎兵隊を投入した。
しかし……
ナポレオン「またやばいかも……」
兵士「ところで、歩兵隊は投入しないんですか?」
ナポレオン「あ! 歩兵隊もいたの?」
兵士「いますよ」
ナポレオン「じゃあ、歩兵隊も進めぇ~」
ナポレオンは戦いの終盤になって歩兵隊を投入した。
敵の反応は……
皇帝A「ナポレオン、やるね、天才だ」
皇帝B「……え? そう?」
皇帝A「うん。まず最初に砲兵隊が大砲を撃ちまくってきたしょ?」
皇帝B「うん」
皇帝A「それでこっちの隊列は乱れて、ちょっと混乱したんだ」
皇帝B「したね。でも、ほんのちょっとだよ」
皇帝A「そこへすかさず騎兵隊が速攻で切り込んできたしょ」
皇帝B「おお~、そうだね」
皇帝A「この騎兵隊の速攻で、おれたちはかなりのダメージを受けたよ」
皇帝B「受けたかも……」
皇帝A「そして、とどめに歩兵隊が突っ込んできて、まんべんなく蹴散らされた」
皇帝B「確かに」
皇帝A「ナポレオンは天才だ」
皇帝B「怖いね」
皇帝A「逃げるか?」
皇帝B「うん、逃げよう」
カーンカーンカーーン(試合終了)
こうしてナポレオンはアウステルリッツで勝利をおさめた。
砲兵、騎兵、歩兵を段階的に投入していくこの戦法は、当時のヨーロッパにはない、まったく新しい戦い方だった。
人々はこの戦争の天才をいっそう恐れるようになった。
兵士「今回もまた勝ちましたね」
ナポレオン「勝っちゃったね」
兵士「これでヨーロッパ中がだいたいナポレオンさんの言うことを聞くようになりましたよ」
ナポレオン「へぇ~。それって、いいこと?」
兵士「いいことですよ。だって、フランス革命に反対する人たちが少なくなってきたっていうことですから」
ナポレオン「そっか」
兵士「だけどまだ、ナポレオンさんに反抗的な国がふたつくらいありますね」
ナポレオン「まあ、別にいいしょ、ふたつくらい」
兵士「でもほっておくと、どこで足下すくわれるかわかりませんよ」
ナポレオン「足下すくわれたら、どなるの?」
兵士「失脚して、ギロチンです」
ナポレオン「え!」
兵士「ね、嫌でしょ?」
ナポレオン「嫌だ」
兵士「じゃあ、反抗する勢力はやっつけないと」
ナポレオン「そっかぁ~。わかった。で、どことどこなの、反抗的な国って」
兵士「皇帝Aの国と、あと、イギリスです」
ナポレオン「え? 皇帝Aってさ、この前の戦いでやっつけたんじゃなかったっけ?」
兵士「それが、けっこうしぶといんですよ」
ナポレオン「ふうん」
兵士「どっちから攻めます?」
ナポレオン「どっちがラク?」
兵士「イギリスは島国ですからね、攻めづらいですよ」
ナポレオン「皇帝Aの国は、ラクちん?」
兵士「うーん、まあ、地続きですけど、ちょっと遠いかな。ロシアっていう国なんですよ」
ナポレオン「ロシア? それってどんな感じ?」
兵士「だーーーーっと、平原です」
ナポレオン「あ、ピクニックっぽいね。いいかも」
兵士「じゃあ、今度の遠征先は、皇帝Aのいるロシア帝国でいいですか?」
ナポレオン「うん、いいよ」
そして出発の日。
兵士「ナポレオンさん、もう出発しますよ。何やってるんですか?」
ナポレオン「いや、ちょっとさ、どの軍服着ていこうかな~と思って」
兵士「軍服?」
ナポレオン「うん。この前みんなに作ってもらったあの軍服にしようか、 それとも新しいちゃんとしたやつにしようか」
兵士「この前のって、あのアルプス越えのときのですか?」
ナポレオン「うん」
兵士「あんなボロボロなの、まだとってあったんですか?」
ナポレオン「あるよ」
兵士「捨ててくださいよぉ」
ナポレオン「でもさ、未知の土地に行くときは、 あれ着て行ったほうがうまくいくような気がしてさ。実際、あのときの遠征もうまくいったしょ」
兵士「はぁ、まあ」
ナポレオン「なんかあれ着てると、心強いんだよね」
兵士「お守りみたいなもんですか?」
ナポレオン「そう、お守り」
兵士「でもあれ、貧乏くさいですよ。ボロボロで、ツギハギだらけで」
ナポレオン「え、うそぉ! この前、似合うって言ったしょ!?」
兵士「はい。似合いますよ」
ナポレオン「……」
兵士「あ、もう出発しましょうよ。時間です」
ナポレオン「……じゃあ、今回は新しい軍服にするかな」
ナポレオンは、1812年6月13日、国境のニーメン川を渡河してロシア帝国に侵入した。
このロシア遠征が、ナポレオンの最大で最後の遠征となった。
第15話 ロシア遠征
ナポレオン軍はロシアのモスクワを目指して進んだ。
ナポレオン「さっきからずっと平原だね」
兵士「町もないし、敵も襲ってきませんね」
ナポレオン「わかった! ロシアに人間っていないんじゃない?」
兵士「いや、いるでしょう」
ナポレオン「でもさぁ、ロシアにいる人間ってあの皇帝Aっていう人だけだったらウケない? だってひとりなのに皇帝とか言ってるんだよ。ふふ」
兵士「勝手にウケないで下さいよ」
ナポレオン「あ。遠~くに町見えてきた」
兵士「あれがモスクワですよ」
そのモスクワでは……
副官「ねぇ将軍」
ロシアの将軍「なに?」
副官「今てんぷら揚げてるんですけど食べます?……あれ? なにやってるんですか?」
ロシアの将軍「ん、荷造り」
副官「なんで?」
ロシアの将軍「ナポレオンがすぐそこまで来てるんだよ」
副官「うわ、逃げるんすか?」
ロシアの将軍「だってあんな天才に勝てないもん。そりゃ逃げるさ」
副官「そんなことしたらペテルブルクにいる皇帝Aさんに怒られますよぉ。 なんとしてもモスクワの町を守れって言われてるんでしょ?」
ロシアの将軍「無視無視。自分の命のほうが大事だよ」
副官「ずっるいな~自分ばっかり。待ってください、僕も逃げる準備しますから」
ロシアの将軍「急いでね」
副官「あ、でも市民はどうします?」
ロシアの将軍「適当に避難警報とか出しておけば」
副官「そうですね」
ロシアの将軍「とにかく急ごう。どお、準備OK?」
副官「はい。OKです」
ロシアの将軍「よし。逃げよう」
副官「はい、行きましょう。……あ! てんぷらの火、消すの忘れてた。火事になっちゃう!」
ロシアの将軍「いや、そんなのいいしょ。それより早く逃げよう」
副官「そうですね」
ロシア軍もモスクワ市民たちも、みんなモスクワを捨てて逃げ出した。
1812年9月、ナポレオン軍は無人のモスクワに入った。
ナポレオン「……誰もいないね」
兵士「敵兵どころか、一般市民もいませんね」
ナポレオン「もしかしてみんな、かくれんぼやってるのかな?」
兵士「絶対ちがいますよ、絶対」
ナポレオン「鬼は誰なんだろう……」
兵士「(汗)……でも、誰もいないっていうのはおかしいですね。なにかの罠かな」
ナポレオン「もしかしてさ」
兵士「あ、何かわかりました?」
ナポレオン「僕たちウロウロしてるから、鬼だと思われてるのかもよ」
兵士「……」
ナポレオン「早く隠れたほうがいくない?」
兵士「いや……」
そのとき、ナポレオンのお腹が鳴った。
ぐ~。
兵士「なにか食べますか?」
ナポレオン「そういえば僕たちの食料の蓄え、もうなくなったんじゃなかった?」
兵士「モスクワには食料庫がありますよ。えーと、地図によると……あっちのほうです」
ナポレオン「あっちのほうね。どれどれ……。うわ! あっちのほう燃えてる!」
兵士「火事ですね」
ナポレオン「食料が燃えちゃうぅぅぅ」
兵士「あ~あ」
ナポレオン「なんか疲れたね。とりあえず休みたくない?」
兵士「民家で休みましょう……えーと、住宅街はこっちのほうですね」
ナポレオン「こっちのほうね、どれどれ……。わ! 燃えてる!」
兵士「こっちも火事ですね」
ナポレオン「最悪だぁ~。風も冷たいし」
兵士「じゃあ商店街でコートを調達しましょう」
ナポレオン「うん」
兵士「えーと、商店街は、……あっちですね」
ナポレオン「まさか商店街は燃えてないよね。どれどれ……って、燃えてるじゃん!」
兵士「お約束ですね」
ナポレオン「なんかこの町やだ……(汗)」
兵士「これはきっとロシアの『焦土作戦』ですよ」
ナポレオン「なにそれ?」
兵士「撤退するときに町に火をつけて食料やなんかを焼いちゃって敵を困らせる作戦です」
ナポレオン「そんなメチャクチャな」
兵士「それにしても敵が姿を見せないんじゃ、やっつけようがないですね」
ナポレオン「……うん」
兵士「それに、もうすぐ冬ですから、そろそろ撤退したほうがいいかも知れませんよ」
ナポレオン「なんで?」
兵士「だって、冬の準備して来てないじゃないですか~」
ナポレオン「してきたよ。ほら」
兵士「?」
ナポレオン「このスニーカー、スパイク付きなんだよね。くるっ回してスパイク出すやつ」
兵士「なつかしい……。でもそれだけじゃ冬は越せませんよ」
ナポレオン「そうかなぁ。僕はこれだけあれば平気だな」
兵士「じゃあ試してくださいよ」
ナポレオン「いや……ごめん」
ナポレオン軍は10月19日にモスクワから撤退し、 飢えと寒さに打ちのめされながら、ようやく祖国に帰りついた。
出発のとき60万人いた兵はわずか5000人に減っていた。
外国の王1「聞いた?」
外国の王2「なにが?」
外国の王1「ナポレオンね、ロシアからボロボロになって帰って来たんだってさ」
外国の王2「ほんと!(゜▽゜*)」
外国の王1「うん。めっちゃ弱ってるって」
外国の王2「ちょうどさ、 ナポレオンのヨーロッパ支配もいい加減にして欲しいなぁと思ってたところなんだよね」
外国の王1「おれもさ。だからもっと仲間集めて、 この機会にみんなでナポレオンをやっつけちゃおうよ」
外国の王2「うん♪」
こうしてヨーロッパ諸国による『ナポレオンいい加減にしてね連合軍』が結成され、 打倒ナポレオンの動きが活発化した。(解放戦争)
ここはフランスのパリ。
兵士「ナポレオンさーん。大変です~!」
ナポレオン「なになに?」
兵士「『ナポレオンいい加減にしてね連合軍』というのが出来たらしいですよ」
ナポレオン「えーーっ! 名前、長くない!?」
兵士「いや、そうじゃなくて……」
ナポレオン「それって、やばいの?」
兵士「こっちはロシア遠征でボロボロですからね」
ナポレオン「もし戦ったら、負ける?」
兵士「かなり負けますよ」
ナポレオン「逃げよう」
兵士「いや、実はもうパリの町は包囲されちゃってます」
ナポレオン「えっ!」
1814年3月31日。
『ナポレオンいい加減にしてね連合軍』がパリを占領した。
第16話 ガスの元栓
連合軍は、ナポレオンのいる宮殿に迫っていた。
ナポレオン「いやー大ピンチだね」
兵士「はい」
ナポレオン「こういうときに混乱しないおまじないがあってさ、たしかゆで卵を……あれ、なんだっけ?」
兵士「……もう混乱してるじゃないですか」
そのとき!
連合軍の兵隊がナポレオンの執務室に踏み込んで来た。
連合軍「ナポレオンはどこだ~」
ナポレオン「ひぇ!」
連合軍「ん? おまえがフランス皇帝のナポレオンか?」
ナポレオン「は、はい(泣)」
連合軍「よく聞け。おまえに残された道はふたつだ」
ナポレオン「はい」
連合軍「ひとつはフランス皇帝としてのプライドをかけ、 死を覚悟でおれたちと戦うか、あるいは……」
ナポレオン「あるいは?」
連合軍「命惜しさにプライドを捨て、フランス皇帝を辞めるか。どちらか選べ。難しい決断だろ。10分だけ時間を……」
ナポレオン「辞めます」
連合軍「早っ!」
ナポレオン「辞めます」
連合軍「そ、そうか(汗)」
こうしてナポレオンは敗北した。
1814年4月4日、彼は10年間在位したフランス皇帝を退位し、 その後、連合軍の手によって地中海の小さな島に閉じ込められた。
ナポレオンという稀代の英雄は、歴史の舞台から姿を消した。
……かと思われた。
時は流れた。
ここはナポレオンが閉じ込められている小さな島。
ナポレオン「何やってるの?」
見張り「いや、別になんでもないですよ」
ナポレオン「僕がこの島から逃げ出さないか、さりげなく見張ってるの?」
見張り「ぎくっ!」
ナポレオン「当たり?」
見張り「一応ですよ、一応……」
ナポレオン「僕、逃げないよ。 ここ暖かいし、綺麗だし、最高でしょ。一生ここにいたいなぁ」
見張り「じゃあ見張りの仕事、必要ないってことですか?」
ナポレオン「ないかも」
見張り「いや、そんなこと言わないで、ちょっとは逃げようと思ってくださいよ。 僕の仕事なくなっちゃうじゃないですか~、お願いしますよぉ」
ナポレオン「やだね」
見張り「パリにいる友達のこととか気にならないですか?」
ナポレオン「手紙とかあるしね」
見張り「でも、他にもなにかあるでしょ、気になることのひとつくらい」
ナポレオン「そう言われてもな~。あ! ガスの元栓!」
見張り「気になること発見しました?」
ナポレオン「ガスの元栓、締め忘れて来たかも……」
見張り「だんだんパリに帰りたくなってきましたね。よかったぁ」
ナポレオン「ちょっと確認してきていい?」
見張り「え? パリまで行って?」
ナポレオン「部屋を出る直前にさ、ゆで卵を作ろうとしてたんだよね。そのまま出てきちゃったから、ガスの元栓、締め忘れたかも」
見張り「それを確認に行きたいんですか?」
ナポレオン「うん。爆発したら困るしょ」
見張り「この島からは出しませんよ。僕、見張りなんですから」
ナポレオン「でもさ、ばーんってなったら危ないしょ、ばーんって」
見張り「……そうですね。危険ですもんね」
ナポレオン「じゃ、ちょっと行ってきていい?」
見張り「いいですけど、そのボロボロの軍服で行くんですか?」
ナポレオン「うん。これ大切な軍服なんだ」
見張り「そのほうが逆にバレないかも知れませんね」
ナポレオン「でも一応、変装していったほうがいいかな」
見張り「はい。顔隠していったほうがいいですよ」
ナポレオン「じゃあ紙袋に眼の穴ふたつあけて、かぶっていくかな。これで怪しまれないしょ?」
見張り「怪しいですよ」
ナポレオン「そう?」
見張り「その袋に顔の絵描いたらいいかも」
ナポレオン「こんなこともあろうかと、マジック持ち歩いてるさ」
見張り「おお、しかも赤の極太!」
ナポレオン「眉毛描いて、鼻描いて……っと、これでどお?」
見張り「しびれますね」
ナポレオン「じゃ、行ってくるよ」
1815年2月26日に島を脱出したナポレオンは、南フランスのジュアン港でタクシーを拾った。
ナポレオン「パリまでお願いします」
運転手「うわ、あんた汚いかっこうしてるなぁ、変な袋かぶってるし」
ナポレオン「いえ、これは……」
運転手「寄るな、車が汚れる」
運転手はナポレオンを突き飛ばして走り去った。
ナポレオン「痛ってぇ~頭ぶっけたぁー(TT)」
そこへ一人のイギリス公爵が現れた。
公爵「ヘイ! 大丈夫かい?」
ナポレオン「あ、はい」
公爵「ケガはないかい? 頭をぶつけたようだけど」
ナポレオン「はい、大丈夫です」
公爵「念のため病院まで送ろうか?」
ナポレオン「ありがとうございます。でもホント大丈夫です」
公爵「ならいいけど……」
ナポレオン「僕、こんな変なカッコしてるのに、ぜんぜん普通に接してくれるんですね」
公爵「そのカッコも、なにか事情があってのことだろ?」
ナポレオン「いい人だ~。ところで、これからどちらへ?」
公爵「私はウィーンに行くよ。ウィーンで重要な会議があるのさ」
ナポレオン「僕はパリです」
公爵「ではここでお別れだね」
ナポレオン「そうですね」
公爵「紙袋で君の素顔を拝見できないのは残念だけど、またどこかで会えるとイイね」
ナポレオン「はい、ぜひ!」
公爵「ではその日まで、ぐっばぁい♪」
ナポレオン「さようなら~」
ふたりは約4ヶ月後にベルギーの小さな村で、敵として再会することになる。
第17話 紙袋マン
ルイ18世という男がいる。
ナポレオンがいなくなった後のフランスを治めている王だ。
彼はフランスを『革命前の状態に戻す』と発表した。
フランス国民「うそ! 革命前の状態に戻しちゃうの?」
ルイ18世「え、なんかやばいっすか?」
フランス国民「じゃあ、フランス革命の『自由・平等・博愛』は?」
ルイ18世「それはまぁ、なし、ということで」
フランス国民「えー、それだったらナポレオンさんの方がよかったなぁ~」
というわけで彼はあまり国民に人気がなかった。
そんなある日の夜。
ルイ18世「あ! いま何時?」
側近「PM7:00です」
ルイ18世「『あの人は今』見なきゃ。おれあの番組、好きなんだよね」
テレビ ON
リポーター「こんばんは。『あの人は今』の時間です。今週はナポレオン・ボナパルトさんの今を取材するため、 地中海の小島に来ています。あ、村人発見! お話を伺ってみましょう。すいませ~ん」
村人「なにさ?」
リポーター「この島にあのナポレオンさんが閉じ込められていると聞いてきたんですが、本当ですか?」
村人「本当だよ」
リポーター「どちらに行けばお会いできるでしょう?」
村人「うーんとね、実は、これは内緒なんだけどね……」
リポーター「はい」
村人「つい先日、パリに行くって言って、こっそり出ていったさ」
リポーター「え!」
村人「紙袋かぶって」
リポーター「え!」
村人「ガスの元栓締めに」
リポーター「え!」
テレビ OFF
ルイ18世「やばい……やばい……。ナポレオンが来る……」
側近「パリに来る前にナポレオンをやっつけるように、すぐ手配しましょう」
ルイ18世「うん」
側近「それにしても顔がばれないように紙袋をかぶるとは」
ルイ18世「あ、じゃあさ、ナポレオンのこと暗号で紙袋マンって呼ぶか」
側近「いいですね」
ルイ18世「おれたちだけの暗号ね。誰にも言ったらダメね」
側近「はい」
ルイ18世「なんかおれたち、暗号使って、スパイっぽくない? 紙袋マン、紙袋マン、ふふ」
側近「そうですね」
ルイ18世「紙袋マンってカッコつけながら言ってみな。スパイっぽい気分になれるから」
側近「紙袋マン、紙袋マン……。本当だ」
ルイ18世「ね」
ここはパリ近郊のフランス基地。
下っ端「ねぇ兵士さん」
兵士「ん?」
下っ端「兵士さんは昔、あの英雄ナポレオンと一緒にエジプトとか行ったんですよね?」
兵士「うん」
下っ端「すっごいな~、じゃあアルプスやモスクワにも行ったんですか?」
兵士「行ったよ」
下っ端「すっごいな~、かっこいいっすよぉ」
兵士「もうむかしの話だよ。ナポレオンは1814年に敗北して今は小さな島に閉じ込められてるし、 僕も今ではナポレオンの兵士ではなく、国王ルイ18世の兵士だもん」
下っ端「あ、そのルイ18世さんからメールですよ」
兵士「なんて?」
下っ端「えーと『紙袋をかぶったすごい悪い奴がパリに来る。やっつけろ!!!』ですって」
兵士「なにそれ?」
下っ端「わかんないですが、びっくりマークが3つも付いてるから、かなり悪い奴なんでしょうね」
兵士「そうだね。じゃ、この砦で迎え撃とうか」
下っ端「あ、100メートルくらい先に見えてきましたよ、袋かぶった奴」
兵士「ほんと? どれ」
下っ端「あの人のことじゃないですか、悪い奴って」
兵士「間違いなさそうだね。よし、命令通りやっつけよう。銃で狙い撃ちだ」
下っ端「僕が撃っていいですか?」
兵士「いいけど、ゲームとは違うよ」
下っ端「はい、わかってます」
兵士「ゲームはリセットしたらやり直せるけど、これはそうはいかないからね」
下っ端「でも僕、ゲームでリセットするの、あんまり好きじゃないんですよ」
兵士「そうなの?」
下っ端「リセットしたら、また最初からになるので、それがメンドクサイんですよ」
兵士「……ナポレオンさん並みのナマケモノだね。……とにかく、ちゃんと狙ってね」
下っ端「はい。まあ見ててください」
彼は紙袋マン(ナポレオン)に狙いを定めた。
そして銃の引き金を引いた。
第18話 100日天下
下っ端はナポレオンに狙いを定め、銃の引き金を引いた。
しかし……
下っ端「あれ?」
兵士「安全装置を解除しなきゃ銃は撃てないよ」
下っ端「すいません、下っ端なもんで。へへへ」
兵士「僕が手本を見せてあげるよ」
下っ端「はい」
兵士「こうやって銃を構えてスコープを覗きこんで……」
下っ端「ふむふむ」
兵士「相手をよーく見て、狙いを定めて……え?」
下っ端「どうしました?」
兵士「……あの軍服は?」
下っ端「え? なに?」
兵士「それに、紙袋に書かれた赤の極太マジック……」
下っ端「どうしたんですか、僕にも教えてくださいよ」
兵士「いや、ちょっと、あの紙袋の男、知り合いかも……」
下っ端「知り合い?」
兵士「ナポレオンさんかも……」
下っ端「うっそぉ、まさか!」
兵士「うーん、違うかもしれないけど、それっぽいんだよなぁ~」
下っ端「でもナポレオンさんって今、島に閉じ込められてるんですよね。ありえないですよ」
兵士「うん、ありえない」
下っ端「それにナポレオンさんがあんな変な袋かぶりますか? ありえないですよ」
兵士「いや、そういうことは、ありえるんだ。残念ながら」
下っ端「残念です」
兵士「一応、確認してみようか、撃つ前に」
下っ端「そうですね」
兵士は紙袋マン(ナポレオン)に声をかけた。
兵士「おーい、そこの紙袋の男、止まれ! 手を上げろ!」
ナポレオン「あ、兵士くん♪」
兵士「……その声は」
ナポレオン「僕だよ、僕。待って、いま紙袋とるから」
兵士「動くな!」
ナポレオン「え、なんで。動かないと紙袋とれないしょ」
兵士「実は別人で、僕を油断させておいていきなり攻撃してくるという可能性もある」
ナポレオン「そんなぁ、本物の僕だよ」
兵士「……では、ひとつ質問」
ナポレオン「え?」
兵士「ひとつ質問に答えてください。それでナポレオンさんかどうか判断します」
ナポレオン「いいよ」
兵士「むかしアルプス越えをした将軍の名前は?」
ナポレオン「ハンにゃうる」
兵士「あ~♪ ナポレオンさ~~ん!」
ナポレオンは紙袋を取った。
ナポレオン「兵士く~ん、ひさしぶり~!」
兵士「元気でしたか~」
ナポレオン「うん。元気だったよ」
兵士「でも、ダメですよ、こんなところウロウロしてたら。捕まっちゃいますよぉ。ていうか、僕たちが捕まえる役の人なんですよぉー」
ナポレオン「いや、ちょっと、パリに気になることがあってさ」
兵士「気になること?」
ナポレオン「うん。だからさ、ちょっとパリまで付き合ってくれない? 僕、道とかよくわかんないしさ」
兵士「しょうがないですね、いいですよ」
ナポレオン「やった」
兵士「でも、こっそりですよ、こっそり」
ナポレオン「わかってるよ」
下っ端「あのー、僕も一緒に行ってイイですか? 英雄ナポレオンさんのそばについていたいんで」
ナポレオン「いいよ。みんなでパーっといこう」
兵士「こっそりですよ」
ナポレオンは各地で兵士たちを従えてパリを目指した。
途中、ルイ18世の命令でナポレオンに銃口を向ける兵士もいたが、結局一発も発射することなく彼らは皆ナポレオンに従った。
パリに着く頃には、ナポレオンに従う兵士は2万人にふくれあがっていた。
ナポレオン「そうそう、ここに来る途中にね、すっごいイイ人に会ったさ」
兵士「どんな人ですか?」
ナポレオン「あのね、タクシーでばーんってなったらヘ~イって来たの」
兵士「……よくわかりませんが、とにかく、イイ人なんですね」
ナポレオン「また会いたいなぁ。約束しておけば良かった」
兵士「でも、約束しても、会えるかどうかわかりませんよ」
ナポレオン「なんで?」
兵士「だって人生どこでどうなるか、わからないじゃないですか」
ナポレオン「そりゃそうだけど、そんなこといったら何も約束できないしょ」
兵士「だからめったに約束なんかしないんです、僕は」
ナポレオン「そうなの?」
兵士「よっぽど思い入れのあること以外はね」
ナポレオン「そういうもんかな。でもあの公爵にはまた会いたいな」
兵士「もしかしたら、どこかでばったり会えるかもしれませんよ」
ナポレオン「そうか、そうだね」
パリに到着したナポレオンは宮殿の執務室に入った。
ナポレオン「なつかしいな~」
兵士「あのころのままですね」
ナポレオン「うん」
兵士「ところで、重要な用事って?」
ナポレオン「ああ、あれね」
兵士「重要というからには、もしかしてウィーンの国際会議と関係が?」
ナポレオン「いや、ガスの元栓、締まってるかな~と思って」
兵士「え」
ナポレオン「あ、締まってる。よかったぁ。じゃ、帰るね」
兵士「うーわ……」
ナポレオン「じゃあ、またね」
兵士「いや、ちょっと、待ってくださいよ」
ナポレオン「え?」
兵士「2万の兵士たちはナポレオンさんが政権を奪い返しに来たと思って、 ここまで付いて来たんですよぉ。どうするんですか!?」
ナポレオン「そんなつもりじゃないよ」
兵士「でも、兵士のみんなはかなり盛り上がってますよ」
ナポレオン「えー、そんなこといわれてもなぁ」
兵士「あと、ナポレオンさんのパリ入りをニュースで知った各国の王様も、政権を奪いに来たと思ってますよ」
ナポレオン「げ! それってめちゃめちゃ印象悪くない?」
兵士「悪いですよ」
ナポレオン「じゃあさ、また『ナポレオンいい加減にしてね連合軍』の人たちにボコボコにされる?」
兵士「こっちも戦いの準備、しといたほうがいいですよ」
ナポレオン「そんなぁ~……」
そのとき、老兵たちもナポレオンのいる宮殿に駆け付けてきた。
老兵「じゃーん。老兵、駆けつけたぞ~」
老兵2「老兵2も駆けつけたぞ~。また昔みたいに暴れまわろう!」
ナポレオン「やばい、なんかオオゴトになってる……」
すると、窓の外から兵士たちの歓声が!
兵士たち「皇帝ナポレオンばんざーい、ばんざーい」
ナポレオン「わ! あの、ちょっと、兵士のみんな、あんまり皇帝とかって大きい声で言わないで。人に聞かれたらまずいんで……」
兵士たち「おおー、謙虚だ! 素敵だ! 皇帝ナポレオンばんざーい、ばんざーい!」
ナポレオン「静かに! しーっ!しーっ!(汗)」
兵士たち「皇帝ナポレオン、ばんざーい! ばんざーい!」
このようにして1815年3月20日、ナポレオンはフランス皇帝に返り咲いた。
ちょうどその頃、ナポレオンが引っ掻き回したヨーロッパの秩序をどのように回復するかを話し合う国際会議がウィーンで開かれていた。
議長「ちょっとみんな聞いて!」
出席者たち「なに?」
議長「今入った情報によるとね、ナポレオン、復活したさ。また皇帝になったって」
出席者「マジッすか! 誰かやっつけないとやばいんでない?」
議長「じゃあ、この会議に遅刻したイギリス公爵が罰としてナポレオンを退治することね」
公爵「え……」
議長「公爵、あんた、タクシーに突き飛ばされた男を助けてて遅くなったんでしょ?」
公爵「はい」
議長「でも遅刻は遅刻ね。だから罰としてあんたがナポレオンをやっつけて」
公爵「……わかりました」
こうして、ウィーン会議に出席中だったイギリス公爵がナポレオン退治の司令官になった。
最終話 ワーテルロー
ナポレオンのもとに果たし状が届いた。
ナポレオン「うわ、さっそく目ぇつけられた。やだなぁ」
兵士「『6月18日、ワーテルローで待ってますbyイギリス公爵』だって」
ナポレオン「わーてるろお?」
兵士「ベルギーの小さな村ですよ」
ナポレオン「ふーん。差出人は?」
兵士「イギリス公爵」
ナポレオン「あ♪ ここに来る途中に出会ったいい人って、その人だよ」
兵士「え、そうなんですか」
ナポレオン「いい人だから、もしかしたら話し合いで決着つくかも」
兵士「話し合いですか。それで決着がつくんならラッキーですね」
ナポレオン「うん。まかせてよ」
6月18日。
嵐の朝、ナポレオンの生涯最後の戦いがワーテルローで始まった。
ナポレオン「今日は公爵に会うから、おめかしして立派な軍服に着替えちゃった」
兵士「そのほうがいいですよ」
ナポレオン「じゃ、ちょっと話しに行ってくる」
兵士「でも、本当に大丈夫ですか」
ナポレオン「大丈夫だよ」
ナポレオンは一騎、敵陣に向かって駆け出した。
一方イギリス公爵のほうは……
部下「公爵、フランス軍が突撃してきます。先頭はナポレオンです」
公爵「Oh! あれがかの有名なナポレオンか」
部下「ナポレオンを見るのは初めてですか?」
公爵「私はイギリス人だからね。はじめてさ。それにしても軍隊の先頭になって突撃してくるとは、噂どおりの勇敢な将軍だね」
部下「でも、ちょっと無防備すぎる突撃じゃないですか?」
公爵「彼は名将なんだろ。なにかの作戦かもしれない」
部下「そうですね」
公爵「全軍一斉射撃の用意だ」
部下「はい」
ナポレオン「おーい、公爵ぅー」
部下「ねぇ公爵、ナポレオンのやつ、こっちに手を振ってません?」
公爵「まさか。あれは軍隊を指揮してるんだろう」
部下「こっちに向かってなにか言ってますよ。もしかして公爵とナポレオンって知り合いなんじゃないですか?」
公爵「おいおい、そんなわけないだろう」
部下「そうですね」
公爵「私の知っているフランス人といえば、ウィーン会議の連中と、あとジュアン港で出会った男くらいだ」
部下「ジュアン港の男?」
公爵「袋で顔を隠した変わり者だが、とても良さそうな男だった。またどこかで会いたいと思ってるんだ」
部下「じゃあまず、この戦いを片付けてしまいましょう。ナポレオンがすぐそこまで迫ってますよ」
公爵「そうだな。よし、全員銃を構えろ」
ナポレオン「公爵ぅー、また会えて良かったぁ~♪」
公爵「撃て!」
お昼のニュース。
アナウンサー「1815年6月18日。イギリス公爵『ウェリントン』が『ワーテルローの戦い』でナポレオンを敗りました。
これによりフランス革命の『自由・平等・博愛』の理想は完全に葬り去られました。 ヨーロッパは、王様が民衆をいじめる古い体制に戻りそうです。さて、次はお天気です……」
再起の夢を砕かれたナポレオンは、イギリス軍によって大西洋に浮かぶ絶海の孤島セントヘレナに流され、 1821年5月5日AM5:30、そこで死んだ。
兵士は島を訪れ、ナポレオンの世話をした召使と話をした。
召使「ナポレオンさんの最後の言葉は『France……Tete……Armee……』でした」
兵士「『フランス……先頭……軍隊……』」
召使「一緒に戦ったみんなのことを思っていたんでしょうね」
兵士「この軍服で遺体をつつんであげて下さい」
召使「これは?」
兵士「マレンゴの戦いのときにナポレオンさんが着ていた軍服です」
召使「というと、アルプス越えの時の?」
兵士「これはナポレオンさんのお守りなんです」
召使「そうですか……」
兵士「見知らぬ土地に行くときにこれを着ると安心するって言ってましたから、 これで天国でも寂しくないでしょう」
召使「わかりました」
ナポレオンの遺体は召使マルシャンにより、マレンゴの戦いの軍服でつつまれ、棺におさめられた。
彼が死んだ日はワーテルローの戦いの日と同じく、嵐だった。
召使「革命の偉大な理想はワーテルローに消えてしまったんでしょうか」
兵士「かも知れませんね。でも」
召使「でも?」
兵士「まだ、僕たちがいますよ」
召使「そうですね」
兵士「僕たちが倒れたら、その次の世代が……」
彼らの志は、1848年のヨーロッパ革命につながってゆく……
パリ、北駅のホーム。
下っ端「気をつけてくださいね」
兵士「うん」
下っ端「どの辺を回るつもりなんですか?」
兵士「イタリアとかエジプトとか、アルプスとか……その辺りをふらっとね」
下っ端「それってむかし、ナポレオンさんと歩いた道ですか?」
兵士「うん」
下っ端「いいですね」
兵士「あの人の存在を、もう一度振り返っておきたいんだ。ひとつひとつ。 雪を踏むみたいに、ぎゅっぎゅっとね」
下っ端「ぎゅっぎゅっと?」
兵士「そう。……例えば、アルプスの雪をナポレオンさんと二人で踏むみたいに」
下っ端「なんかいい感じですね」
兵士「うん。なつかしい音だよ。敗北とか別れとか死なんてものはこの世に一切なくて、 ただ懐かしい仲間がいるような、そういう音」
下っ端「……いつ頃戻ってくる予定なんですか?」
兵士「これはね、ナポレオンさんの遺志を継いで戦う仲間を集める旅でもあるんだ」
下っ端「そうなんですか……」
下っ端「だから仲間が集まったら、ここに戻ってくる。 1年後かもしれないし、10年後かもしれない」
下っ端「ねぇ兵士さん」
兵士「ん?」
下っ端「あの革命って、結局なんだったんでしょうね」
兵士「さぁ……。さんざん振り回された割には、全部リセットだもんね」
下っ端「そうですね」
兵士「いつかもう一度スタートボタンを押さなきゃ」
下っ端「そのときは、僕にも声かけてくださいね」
兵士「スタートボタンを押すのはメンドクサイんじゃなかったの?」
下っ端「これは特別ですよ。そのときまでには僕もきっと一人前の兵士になってますから」
兵士「わかった。約束」
下っ端「あれ。約束はしないんじゃなかったんですか?」
兵士「特別だよ」
下っ端「……はい」
兵士「時間だ。もう行くよ」
下っ端「良い旅を」
兵士「ありがとう」
下っ端「いってらっしゃい」
兵士「いってきます」
……列車はアルプスへ遠ざかった。
ナポレオンの死から27年後、この偉大な遺志を引き継いだ世代よってヨーロッパの古い体制は崩壊し、 人類は新しい時代を迎える。
ナポレオン 完
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?