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令和3年、桜の記録

ずっと待ち望んでいたはずの今年の桜は、虚をつかれるくらいさっさと咲いて、そして気付けばあっけなく終わってしまった。

うんと後について来ていると思っていた亀に、いつの間にか追い抜かされたウサギみたいな気持ち…とはちょっと違うかな。

去年、「来年の春にはきっと、安心してお花見ができるよ」と言って、我慢して我慢して我慢してきたのに結局今年も私たちはまだウイルスに怯えて生きている。
オリンピックとやら、本当にやるんでしょうかね。
こんなはずではなかったのに…茫然と立ちすくむマスク姿のわたしたちを尻目に、ピンク色の春列車は特急でやってきてびゅんと走り去ってしまうのだ。

そんな中ではあるけど、私はと言えば密を避けながらそこそこ桜の風情を楽しめた。これも転職に伴う有給ニート生活の賜物か。

世界がどれだけぐちゃぐちゃだろうが、人間が何人季節に取り残されていようが、変わらず美しかった今年の桜の記録を残しておこう。

たぶん最後な桜(?)

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のっけから拍子抜けなことだが、これ桜じゃないかもしれない。桃とか…?なんだろう。春に咲くピンクの花はとりあえず桜の仲間と思っている。

辞めた職場近くで咲いていた花。前職で担当していたSNSアカウントがあり、その最終更新日の朝に撮って投稿した写真だ。

わたしに今年いち早く春を感じさせたのは、駅から社屋へ向かう道中、この朝日に向かって咲く花である。

来年以降、あの街で朝、花のほころぶのを観察することはもうない。春の到来を知るのはきっと別の場所だろう。

家族で花見

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有給消化に入って翌週、転職祝いということで、両親にレストランアラスカへランチに連れて行ってもらった。

ド平日にのんびりランチというのも、有給ニート×週2契約社員×アフター定年嘱託フリーランスな今の家族構成だからこそ成せたものである。

その帰り、日比谷公園の桜がちょうど見頃だったので、思いがけずお花見もできた。

意外なのは、プレスセンターから見下ろした日比谷公園の全体には、桜の数が少なかったこと。桜が咲いていたのはほんの一角だった。

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平日の日比谷公園にいたのは、会社員風のスーツ姿の人や休憩中らしいデリバリー配達員。また、銀座あたりで買い物をしていたのだろうか、2~3人で連れ立っている女の子たちや老夫婦など。

きっと「今日は花見」と意気込んでやって来た人はひとりもいないのだろうけど、みんな眩そうに目を細めて桜の花を見上げていた。

吉日の桜

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今年、彼氏との花見の場所として選んだのは五反田だった。

花見だ!といって五反田へ出向くのはちょっとレアなチョイスかもしれない。これはお互いからちょうど中間くらいの位置なのと、花見のイメージが薄いからこそ人手が少ないだろうと読んだためだ。

まず五反田で集合し、昼ご飯場所にしたのが「五反田ふれあい水辺広場」という川沿いの公園。

ちょうど晴天の昼下がりとあって、まぁまぁな賑わいはあったが、ほかのグループとは2mの距離をとる余裕があるくらい。その顔ぶれは近くに住んでいるらしい家族連れが目立った。

食べたのはわたしが持参したピザまんと2色おはぎ。どちらも最近買ったダイエットおやつのレシピ本を参考に、ちょっとアレンジをしたものだ。自分の食欲に素直に従った結果がこの妙な組み合わせである。

ダイエットレシピの良い点は、小麦粉を使わないグルテンフリーのメニューが多いこと。これはアレルギー持ちの私にはありがたい。

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我ながらピザまんは快心の出来で、あんこから手作りしたおはぎもなかなかイケた。最近はこうして色々こさえるのが楽しく、きっと老後もこうしてせっせと何かを作っては食べたりする生活を送っているんだろうなあと思う。食べさせる相手もいればなお良いな。

2品だけだが、食物繊維の多いおからパウダーやオートミールを主材料にしているためか、割とお腹にはたまる。では腹ごなしといこうかと、川沿いをてくてくと歩き始めた。

この頃、ニュースでは連日都内の桜の名所がにぎわう様子が流れていた。例年に比べれば明らかに少なく、しかしこの状況下においては多いと言わざるを得ない人出。中目黒の目黒川沿いもまたそのひとつで、街頭インタビューに映る人の顔はちょっと申し訳なさそうに見えた。

さて、五反田から大崎、品川エリアを流れるこの川もたしかに目黒川なのだが。土曜の昼さがり、花見日和の気候だったにもかかわらず、テレビでみたのと比べずいぶん人影はまばらだった。

やはり「目黒川で花見」といえば、中目黒の印象が強いのか。しかし、これがまた見事な花盛りなのであった。人の少ないのを惜しく思ってしまうほどだ。

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途中見つけた神社に寄り道などしつつ歩きつつづけたところ、最後には目黒川の終わり、天王洲アイル近くまで辿り着いてしまった。その距離およそ3キロ。佳景は足に羽を生やす。

ちなみに到着したのは目黒川と天王洲運河の合流地点、東品川海上公園。実はこの場所も花見場所の候補だったので、結局1日のうちに2か所も桜を楽しめてしまった。なんだかお得な気分だ。

この日はこの後、いちど大井町へ出て早めの夕飯にし、夜はノリと思いつきで大井競馬場のイルミネーションへと繰り出したのだが、これがどちらもなかなかのアタリとなった。

五反田集合、くらいしか決めていなかった行き当たりばったりの1日なのにフルコース楽しめてしまったので、吉日と呼んでいいと思う。

桜納め

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「こんなところに桜があったんだね~」

と、ちょっと感動したのが前職場からその隣駅へ歩く道の途中にある、大きな病院前の公園の桜。

退職が決まってから最終出社まではそこそこ慌ただしく、またご時世もあるので、それまで仲良くしてもらっていても「最後にごはん/飲み行きましょう」とはなれない人が多かった。

この桜を一緒に見たのもそんな先輩たちで、最後に社内で会った日に「桜が咲いたらちょっとだけでも花見をしようよ。屋外だし、空いてるところで」とこっそり約束をしていたのだ。

しかし、前職場の周りでそんな程よく空いており桜も眺められる場所があるかしら…と思っていたところ、先輩がこの公園を見つけてくれた。

ずいぶん緑も混じりだした桜の下には、仕事帰りらしい人が2、3人、ベンチに座ってぼうっとしていた(ように見えた)。

帰り際、強く風が吹いて花びらがたくさん舞い散った。手をお椀にしてじっと待っていれば勝手にその中に花びらが落ちてくるくらいだ。

桜の花びらをキャッチすると幸福になれるという。つかみ取った!というよりも、なんだか棚ぼた感のある幸運である。

去年の桜と再会

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これは家から歩いて5分もかからない場所の桜。時系列は前後するが、有給消化に入って二日目、はやくも暇になり散歩へ出かけたところで出会った。

これが私が、一年ぶりに目にした満開の桜だ。

一年前、私は犬を抱いてこの桜を見ていた。

15歳になっていた犬は、私が子どもの頃よりずいぶんとおしりの周りが細くなり、それがかえって腕の中にすっぽりとフィットしてたまらなく愛おしかった。

それから数か月後、夏の明け方、犬は亡くなった。これが私があの子と一緒にみた最後の桜だったのだ。

カメラロールを遡ったけど、その日の写真は残っていなかった。どうして撮らなかったんだろうと思う。

記憶の中にはまだ残っている。桜の下でのぞきこんだ、犬のまんまるな目や濡れた鼻。頬ずりをしたふわふわの毛並み。でも、いつまでこの解像度を保ってくれるんだろう。

記録は記憶を呼び出すキーになる。褪せた思い出の色を蘇らせてくれるものだと思う。だからいつか墓に入るまでとっておきたいできごとは、ちゃんと記録をしておくべきじゃないだろうか。

そう思って書くことにした、令和3年、桜の記録。

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