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輪郭

半年以上ぶりに会う祖母は、
魂がすこし剥がれちゃっていた。

5月のコロナ禍、トイレに行く途中転んでしまって動けなくなってから認知症が加速した。

周りの家族はもう自分たちのことなんか覚えてなくて記憶が常に混線してるというけれど、わたしにはすべて覚えているが記憶の引き出しにたどり着く途中に疲れてしまうことがあるだけなようにみえた。

母親の車に乗ってドライブしている祖母。ちょうど美容院の帰り道らしい。

「こっちにおいで?一緒に出かけよう?」と手招きされるが、車には乗れないので窓ガラス越しで顔をぐっと近づける。

「綺麗になったねえ?」と変わらない表情のままにっこり笑う。褒めるのがとても上手な祖母。いつも誰かと会うときも必ず髪型の変化や似合っているお洋服を褒めてくれた。

「ありがとう」と返すと、ゆっくり頷いて「こっちのほうに引っ越してきたの?いまの生活はどう?」と聞かれたので「いろんなひとが訪れてくれて、賑やかで楽しいよ。」と答える。

伝わってるのかどうかよくわからない表情で、何度も何度も頷いている。運転席で母親が「ちゃんと覚えてるんだねえ…」と涙ぐんでいる。まだ生きてるってば。

昔、亡くなる直前の蜷川幸雄さんをお見かけしたことがある。稽古部屋へ向かう途中、車椅子を押してもらっていたのだが身体という入れ物から魂が飛び出しちゃってるけど執念でしがみついているようだった。すれ違っただけだったけれども、死相が漂っているのにものすごいエネルギーを感じた。

死んだらどこにいくかなんて知らないけれど、息をしていない身体に触れるともう肉体と魂が切り離されていることはわかる。

あまりスピリチュアルなことは信じていないからその後の魂の行方なんてまったくわからないんだけれど。

たった5分。家の下に停めた車の中にいる祖母と話をしただけなのだが、柔らかい空気は健在でとても温かい気持ちになった。

天国にいる大好きだった祖父と半分だけ手を繋ぎながら、いまもわたしたちに微笑みかけてくれる祖母。顔の筋肉はあまり動いてないけれど、優しい眼差しからこちらに向ける表情は笑顔であることはちゃんと伝わってくる。

無理しない程度にまだまだ長生きしてね。

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