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【M-1グランプリ2019】Final Round 「かまいたち」漫才ネタを文字起こし[定量的に分析してみた]

2019年12月に催されたM-1グランプリ決勝戦、ファイナルラウンドに進んだうちの1組、「かまいたち」の漫才のネタを文字起こしした。

他の2組のミルクボーイとぺこぱが構造的には比較的シンプルな、同じ仕組みの中でボケ方とツッコミ方に変化をつけながら繰り返す“ループ構造”をしているのに対して、かまいたちだけはより複雑な、自由演技で多数の異なるネタを積み上げて組み合わせたような“多層階構造”を演じてみせた。優勝はできなかったものの、技術の高さを見せつけたのはかまいたちだったのではないか。
文字起こしを元に、構造の分析を試みてみる。

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◆“文字起こし”の読み方の説明

「かまいたちの簡単な紹介」
濱家 隆一(ツッコミ)と、山内 健司(ボケ)の2人組コンビ。
2004年結成。大阪NSC26期。キングオブコント2017 優勝。M-1との二冠を狙うが、惜しくもならず。

・山内のセリフには「山」とつけた
・濱家のセリフは「かっこ」にくくった
・タイムをはかり秒数をいれた
・「ボケ」のセリフには、秒数の隣に※をつけた
・観客が笑ったシーンに(観客笑)をつけた
・特にウケたシーンに(観客笑★)をつけた

◆ネタの“文字起こし”(トトロ自慢)

2人:どうもかまいたちです、よろしくお願いします、ありがとうございます

[00.05秒]
「人に自慢できる事ってあったほうがいいなと思うんですけどね」
山:自慢できる事?
「ええ、なんかあったりする?」
山:まあ、1つはありますよ
「ありますか、何が自慢なん?」

[00.13秒]※
山:ぼく、映画の、「となりのトトロ」、あれ、1回も見たこともない
(沸くのを静止するポーズをする)(観客笑)

[00.20秒]
「いやなんにもなってない」(観客笑)

[00.22秒]
「トトロ見たことない事が自慢?なんなんそれ」
山:いやオマエ、トトロ見た事あるやろ?
「もちろんありますよ」
山:みんな1回はトトロって見てんねん
「そりゃそうですよ、ねえ」

[00.30秒]※
山:でもオレはレンタルした事もないし、何回も繰り返されてる再放送の網もぜんぶすり抜けて、
生まれてから37年間、1回も見てない
(沸くのを静止するポーズをする)

[00.43秒]
「沸いてへんねん、沸いてへんのよさっきから」(観客笑)
山:すごない?

[00.47秒]
「37年間1回も見たことない?オマエ39やないかい、なんの2年やねん」(観客笑)

[00.54秒]
「見てないことなんて自慢にならへん、見てたほうがいいんすよ、ねえ」
山:ほなオマエどういうんが自慢やと思てんの?

[00.58秒]
「いやたとえば、オンリーワン的なことね。人ができないこと、「ボク手品得意なんですけど」そういうのが自慢ていうねん」

[01.04秒]
山:ほな、オマエのほうが自慢になってへんで。
「いやなってますよねえ」
山:手品うまい人なんて他にもいっぱいおるし
「いや、少ないやん」
山:でも今からでもみんなががんばったらオマエに追いつく可能性あるやん
「いや、難しいんですよ」
山:ほなもうオンリーワンちゃうやん、
「いや、」

[01.15秒]※
山:その点!その点な!(観客笑)
「なんやねん」

[01.18秒]※
山:オレの「となりのトトロ見た事ない」は、もう今からじゃどうにもなれへんねん(観客笑★)
わかる?
「わかるよ」

山:もう、見ちゃってるのよ(観客笑)

「見ちゃってるけどなんやねんとしか思わへんけどな」

[01.30秒]※
山:だからみんなががんばってこれから「トトロ見んとこ」としても、意味がないわけ。
だって、
見ちゃってるから(観客笑★)

「おいやめろそれ、小馬鹿にしたような感じのヤツ」

[01.40秒]※
山:みんながオレの自慢に追いつく方法がもうないやろ?
じゃあ追いつける?
追いつける?
追いついてみてよ?
追いつかれへんやろ、なんで追いつかれへんか教えたろうか?
それはオレが時間という壁に守られちゃっているから。(観客笑★)

「うるさいよオマエ」

[01.53秒]
山:もう守られちゃったんですよ
「守られちゃってるし、もう目がキマッちゃってるやん」(観客笑)

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[01.57秒]※
山:もうワタシとアナタがたとは、立ち場が違うんです。(観客笑)
見てないって事は、これから見ることもできるし、見ないこともできるんです。ワタシにだけ、選ぶ権利が与えられているんです。(観客笑★)

「宗教っぽいのよ。宗教っぽいのよ何か」

[02.11秒]※
山:選ぶ権利っていうのは、わかりやすくいうと、自分だけジャンケンで2回出せるようなもんやん
「わからへんけど」

[02.16秒]※
山:じゃあやってみて、やってみて
ジャンケンほい、ほい!
「負けてるやん」(観客笑★)

山:この権利は、ワタシにしかないんです!

[02.23秒]
「いやいや、みんな手品のほうがスゴイ思てんのよ」
山:いや、オマエの自慢は道具に頼ってんのよ。
自慢する時にトランプいるやん、コインいるやん、モノが。
「そりゃ手品やもんね、」

[02.32秒]※
山:いや、その点!その点!
「なんやねん」
山:オレの「トトロ見た事ない」は、トトロすらいらんのよ(観客笑★)

山:トトロにも頼ってないのよ、な?
「トトロなんて絶対見てたほうがいいしね!」

[02.44秒]※
山:いや、トトロなんて、絶対見てたほうがエエねん!
「どないやねん」(観客笑)
「見ろよほんなら」
山:だからみんな見てんねん、それをオレが見てへんねん

[02.55秒]※
山:見ろよ!(観客笑)

[02.57秒]※
山:ふつう、見やなアキマヘンヤン
「すごい関西弁しゃべってる」
山:それを見てないから自慢にナリマンネン(観客笑)
「出身島根やのに」
山:すごいでっしゃろー

[03.08秒]
「見てないのが自慢になるんやな?」
「オマエじゃあタイタニック見たことある?」
山:タイタニック見たよ
「オレ見たことないねん、じゃあこれ自慢やな?」
山:でもスゴさが違うから
「何が違うねん」
山:映画やったら何でもええわけちゃうやん

[03.17秒]
「タイタニックだって不朽の名作ですよねえ」
山:オマエ、タイタニック見てないやん、じゃあ何をもって不朽の名作ってゆったの?
「たしかにね」

[03.23秒]※
山:こっちはタイタニックちゃんと見た上で、トトロのほうがスゴイってゆってんねん。

「オマエ、トトロ見てへんやないか」(観客笑★)
山:たしかにたしかに

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[03.32秒]※
2人:でも聞いて!聞け!(せめぎ合い)
山:老若男女が!楽しめるという点において!トトロのほうが他の映画より!(スゥー)、オリジナリティがある
「どこで息吸うてんねん!」(観客笑★)
山:そうやろ?
「そうやろちゃうねん、聞け、聞け、」

[03.40秒]※
山:だから!何回再放送しても!視聴率がまったく落ちる!(スゥー)、ことがない
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬよそんなとこで息吸うたら」(観客笑)

[03.47秒]
「じゃあオマエ、ほかにトトロ見てない人おったら自慢にならへんな?」
「聞いていいですか、お客さんの中で、人生で1回もトトロ見たことないという人、正直に手を挙げてください、正直に!」
「1、2、3、4、5、6、…めっちゃおるやん」(観客笑)

[04.07秒]※
山:…………ボクね、「火垂るの墓」も見た事ないんです(観客笑)

[04.11秒]
「もうええわ!」
ありがとうございました

分析(難度の高い多層階構造を解剖する)

まず、4分間のネタを“1分間区切り”にして、その構造を要因分解してみよう。

◆〜1分(00.00秒〜00.59秒)
・ボケ: 2回
・観客笑: 4回
・そのうち観客笑★: 0回

◆〜2分(01.00秒〜01.59秒)

・ボケ: 5回
・観客笑: 8回
・そのうち観客笑★: 4回

◆〜3分(02.00秒〜02.59秒)

・ボケ: 6回
・観客笑: 5回
・そのうち観客笑★: 2回

◆〜ラスト(03.00秒〜04.11秒)

・ボケ: 4回
・観客笑: 5回
・そのうち観客笑★: 2回

◆合計
・ボケ: 17回
・観客笑: 22回
・そのうち観客笑★: 8回

驚異的なのは、「1〜2分台」の60秒間のあいだに“8回もの笑いポイント”を作っている点だ。終盤ではなく立ち上がりの「1〜2分台」にこのピークポイントを持ってきているのもかまいたちの特徴だ。

ボケの回数より「観客笑い」の回数のほうが多いのも特徴だ。
ミルクボーイとぺこぱは、ほぼ100%、ボケたあとではなく“ツッコミのあとに笑いが起こる”というコンビだが、かまいたちは山内がボケたあとに観客がドッと笑うのをベースに、そのあとの濱家のツッコミの語彙にも笑うポイントが作れているため、笑いが途切れずに続く。このあたりにもコンビとしての技術差が見てとれる。

そしてそれと、ミルクボーイとぺこぱが同質を繰り返す“ループ構造”を得意としているのに対し、かまいたちは“多層階構造”でネタをつくっている。その階層要素を分解すると以下の6つがこのネタ内に包含されている事がわかる。

①沸くのを静止するポーズのくだり
(〜00.53秒)
②宗教っぽい「時間に守られてる+選択する権利」のくだり
(00.54〜02.22秒)
③手品は道具に頼ってるくだり
(02.23〜02.43秒)
④興奮して関西弁になっちゃうくだり
(02.44〜03.07秒)
⑤タイタニックのくだり
(03.08〜03.31秒)
⑥興奮して変なところで息を吸うくだり
(03.32〜03.46秒)

このネタのピークポイントであった「1〜2分台」は、実は“階層要素の切り替わりがない”時間帯で、すべてが②の「時間に守られてる+選択する権利のくだり」で占められている。
階層を切り替える際には、どうしても“繋ぎのセリフ”を要してしまうため、次の笑いポイントまで時間がかかる。これを頭から繰り返しすぎてしまうと、“全体的に笑いが少なかった印象”を残してしまうリスクが伴うので、かまいたちは、“比較的長いタームの要素”を4分間の前半戦にひとつ準備してあるのではないか。そこでまずまとめて笑ってもらっておいてから、あとはギアを切り替えて、後半は得意のやりたい“大ネタの要素”をボカンッボカンッと準備するような構造が見てとれる。
後半戦の2分間は、「観客笑い」の回数こそ「平均12秒に1回(1分間に5回)」にまで落ちるが、そのうちの40%が「爆笑」をとっていることからも得意ネタをかけている事がわかる。
(階層要素自体を20秒に1度切り替えながら、1分間に5箇所も笑いポイントがつくれている事がそもそも驚異的でもあるが)

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そのほかにも、山内が少ない身振り手振りと表情を織り混ぜて表現力を高めている工夫や、濱家が“観客に問いかける話芸”を地道に挟む事で劇場に親近感がつくれている工夫など、気になった点はいくつかあるが、またの機会に触れよう。

(おわり)
※他の決勝ネタの文字起こしはこちら↓



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