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【M-1グランプリ2019】Final Round 「ぺこぱ」漫才ネタを文字起こし[定量的に分析してみた]

2019年12月に催されたM-1グランプリ決勝戦は、ファイナルラウンドに「ミルクボーイ」「かまいたち」「ぺこぱ」の3組が進んだ。

そのうちの1組、「ぺこぱ」の漫才のネタを文字起こしし、定量的に分析してみると、いくつか発見があったので記録しておく。

オードリーの若林がラジオで、ぺこぱをM-1で初めて見て感動したと話し、その漫才を“多様性を肯定する力を持つ新しい漫才”と定義づけ、注目を高めた。
そのウワサの漫才の中身がどういう構造をしているのか分析してみた。

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◆“文字起こし”の読み方の説明

「ぺこぱの簡単な紹介」
松陰寺 太勇(しょういんじ たいゆう) 「ツッコミ」と、シュウペイ「ボケ」の2人組コンビ

・松陰寺のセリフには「松」とつけた
・シュウペイのセリフは「かっこ」にくくった
・タイムをはかり秒数をいれた
・「ボケ」のセリフには、秒数の隣に※をつけた
・観客が笑ったシーンに(観客笑)をつけた
・特にウケたシーンに(観客笑★)をつけた

◆ネタ台本の“文字起こし”

松:どうもありがとうありがとう、自己紹介します、 松陰寺太勇です!ヒュー今日も決まった
そしてこちらが

[00.09秒]※
(後ろを振り向いて大声で)
「どーもー、ぺこぱのシュウペイでーす!お願いしまーす!」

[00.12秒]
松:イヤ、うしろに向かってしゃべった声が壁に跳ね返り確実にみんなに届いてる(観客笑)
今日もオレたちが届いてる、しゅうぺいです

[00.22秒]
「お願いしまーす」

(観客、拍手)
松:ありがとう

[00.27秒]
「突然なんだけどさ、これからくる超高齢化社会に向けてさ、お年寄りには親切にしたいなと思って」

[00.32秒]
松:ヒュー(口笛)
松:相方、なんて素晴らしい心構えだ

[00.37秒]
「じゃあ、電車で席譲りたいから、お年寄りやって」

[00.42秒]
松:オレがお年寄りをやればいいのか?悪くないだろう

[00.45秒]
(プシュー)
(おじいさん役の松陰寺が電車に乗ってくるが、相手もおじいさんになる)

[00.52秒]※
アウアウアウ…アウアウアウ…、
「アウアウアウ…ヨカッタラ席どうぞ」

[00.54秒]
松:イヤ、お年寄りがお年寄りに席をゆずる、…時代がもうそこまできている!(観客笑)
そうだ…、これが日本の現実なんだ。

[01.02秒]※
「あのぉ、キャバクラにいきたい」

[01.04秒]
松:イヤ、元気なじいさん!、に、こしたことはない。(観客笑)
そうだな?

[001.10秒]※
(パラパラダンスを急に踊りだすおじいさん)
「あわわ、カラダが覚えとる」

[01.15秒]
松:イヤおかしいだろ!、と、言えるのもあと30年だ(観客笑)

[01.20秒]
松:おいちょっと待ってくれよ相方、
なんでパラパラ踊ってんだよ、オマエがお年寄りやってどうすんだよ

[01.25秒]※
「……マチガエター!」(変なポーズ)

[01.26秒]
松:間違いっ、を、間違いと認められる人になろう。(観客笑)
そうだろう?
間違いは…故郷だ…。…誰にでもある。(観客笑)
どうもありがとう。

[01.41秒]
「ちょっと思ったんだけどさ、先にお手本を見せてもらっていい?」

[01.44秒]
松:お手本?オレが席をゆずればいいということか?悪くないだろう

[01.50秒]
(プシュー)
「今日の電車も混んどるのう」

[01.53秒]
松:おじいさん、よかったら席どうぞ

[01.55秒]※
(おじいさんドアに顔を挟まれる)

[01.56秒]
松:イヤマンガみてえなボケしてんじゃねえよ!、って、いうけどそのマンガってなんですか?(観客笑★)もう適当なツッコミをするのは辞めにしよう

松:時を戻そう

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(プシュー)
松:おじいさん良かったらぼくの席をどうぞ

[02.16秒]※
「すまんのう」
(席に座りながらそのヒザの上にゆずってくれた若者を座らせるおじいさん)

[02.21秒]
松:イヤ、おじいちゃんのヒザの上!は、懐かしい!(観客笑)
あの頃を懐かしがろう

松:時を戻そう

(プシュー)
松:おじいさん良かったら席をどうぞ

[02.32秒]※
「レロレロ、レロレロレロ、レロレロレロレロ
ワレワレハ、宇宙人ダ」

[02.38秒]
松:イヤ、宇宙人が電車に乗ってくる!ということは、宇宙船が壊れている可能性がある(観客笑)
移動手段を失っている
助け合っていこう

[02.48秒]※
「トキ、ヲ、モドソウ」

[02.50秒]
松:イヤッ宇宙人が!、戻したっていい(観客笑)

(プシュー)
松:おじいさん、席どうぞ

[02.55秒]※
「うるさいハゲ!」

[02.57秒]
松:いや、はげてねえ!、…のは今だけなのかもしれない!…先の事はわからない(観客笑★)

(プシュー)
松:席どうぞ

[03.05秒]※
「ウホウホウホー!」(胸を叩きゴリラのしぐさ)

[03.07秒]
松:イヤ、ゴリラが乗ってきた!、ら、車両ごとゆずろう(観客笑★)
命を守ろう…

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[03.14秒]※
(プシュー)
(架空のドアに肩をぶつけて)
「痛っ、痛っ、イタタタ体育大学主席で卒業!」(変なポーズ)

[03.19秒]
松:イヤ、どーゆーボケ?、 であっても、処理するのがオレの仕事なんだ(観客笑★)

[03.24秒]※
「痛っ、痛っ、イタタタ体育大学主席で卒業!」(変なポーズ)

[03.27秒]
松:……できない時はできないと言おう!
できない!(観客笑)

[03.33秒]※
(プシュー)
「今ボケの畳み掛け中ですけど、みなさんどうですかー?」

[03.36秒]
松:イヤ、聞かなくていい!、けど、実際のところどうですか?(さわやかな笑顔)(観客笑★)
悪くないだろう?

[03.45秒]※
(プシュー)
「おじいさん、席をどうぞ」
(プシュー、縦に顔がドアに挟まれる)

[03.47秒]
松:イヤ、同じボケ!、じゃ、ない!(観客笑★)
挟まれる角度が違う!

「イタタタ!」

松:待ってくれよ相方、ずっと何やってんだよ

[03.54秒]※
「いいかげんにしろ」

[03.57秒]
松:イヤ、オマエが終わらせ、たっていい!

[04.00秒]
2人:ありがとうございました


◆分析(ダイバーシティ漫才の本質とは)

まず、こうして分析してみるとぺこぱは、観客の笑いが「ツッコミのセリフのあと」にかたよっているのが特徴的だとわかる。すべての笑いがツッコミのあとに起こっている。ウワサの“相手を肯定する新しいツッコミ”だ。

4分間の漫才を、“1分間刻み”で分析してみると、下記の傾向がみえてくる。

◆〜1分(00.00秒〜00.59秒)
・ボケ: 2回
・観客笑: 2回
・そのうち観客笑★: 0回

◆〜2分(01.00秒〜01.59秒)

・ボケ: 4回
・観客笑: 5回
・そのうち観客笑★: 1回

◆〜3分(02.00秒〜02.59秒)
・ボケ: 4回
・観客笑: 4回
・そのうち観客笑★: 1回

◆〜4分(03.00秒〜03.59秒)
・ボケ: 6回
・観客笑: 5回
・そのうち観客笑★: 4回

◆合計

・ボケ: 16回
・観客笑: 16回
・そのうち観客笑★: 6回

はじめの1分間以外は「12-15秒に1度」の頻度で笑いがコンスタントにつくれていて、“大きな笑い”は最後の1分間に集中している事がわかる。

「ツッコミが相手を肯定する」というパターンをはじめの1分間でじっくりあたためて徐々にキャラクターが浸透してきたら、観客が“次はどう肯定してくれるんだろう”とツッコミを待ちはじめるようになり、後半はもう“ツッコミ待ち”のムードがつくれている。そうなればあとは「畳み掛け」れば、笑いが起こる構造に。

中でも一番良く練られてるなと感じたのは「宇宙人が電車に乗ってくる、ということは、宇宙船が壊れている可能性がある、移動手段を失っている、助け合っていこう」だ。ちょうど4分間のネタの中央あたりに置かれている。
普通のツッコミなら「なんで電車に宇宙人がおんねん、おかしいやろ」で充分成立するところで、想像をふくらませて、“なぜそこに宇宙人がいるのか”を不思議に思い、時間をさかのぼって原因の根幹に気づこうとする姿勢が背景にあり、場違いで笑える。でもそれはとても大切な“配慮の気持ち”だ。前述のオードリー若林の評価に乗っかるとすれば、“宇宙人が登場すること”が多様性なのではなくて、“宇宙人を理解して、宇宙人の価値観に合わせて配慮しようとする奥ゆかしい心遣い”が見え隠れするからこそ、ぺこぱの漫才は「ダイバーシティ漫才」と呼べるのではないか。

(おわり)
※他のコンビのネタ文字起こしはこちら↓



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