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アニー・ローリーが切なくて・・・・「感謝離」の感想文

私よりはかなり年下なんだが、その生き方も
感じ方も、熱い吐息までもを丸ごと尊敬して
いる編集者がいる。

今日は彼女が手掛けた本を紹介してみたい。

その本は「感謝離 ずっと一緒に」河崎啓一著
双葉社・2020年3月発行

著者の河崎さんは御年90歳。
昭和4年(1929年)生まれ。
私の父と同じ年だ。
それゆえ、私は娘目線で読み進めてしまう。
父が生きていたら、今頃、私と父は
目を合わせて笑い合えていただろうか…。

この作品は夫目線での回想記である。
62年間連れ添った最愛の妻への恋文で
あると共に、妻との日々の積み重ねの
結晶である「遺品たち」と向かい合う話だ。

著者のご母堂が元々、物を大切になさる方
だったそうだが、例えば、眼鏡ひとつ
とっても名前を付けており
「わたくしの『京極』を知らない?」と
おっしゃる方であったという。

奥様も同じように物を大切に扱う方で
且つ、そこにはユーモアのセンスが
溢れていらした。

例えば、穴が開きそうな靴下は「ご出世」
いよいよ穴が開いてしまったら「ご栄転」。

これらひとつひとつのエピソードに
夫婦が重ねてきた日々が偲ばれる。

持ち主が去った後の「物」はどうなる
のだろう?

90歳・・・。
妻亡き後、自らの終活を意識し、妻の
遺品整理をすることを決意する著者。

著者は語る。

「未練を残さず、感謝だけを残して。
愛着はいいけど、執着しちゃいけない」

そして、写真もビデオテープも旅先で
買った思い出の品も「ありがとう」と
言って、手放していくのだ。

「いつか見よう、いつかやろう」は来ない。

「結局、『いつか』より『今』なんだ」と。

多感な時期に戦争があり、企業戦士として
駆け抜けてきた時代があったであろう人生。

「天国でふたりの新しいパジャマを買おう」
という著者。

私は「そっか、それでいいのかな・・・」
って思ったのだ。
なんか赦された気がしたんだな。

私は親の家を整理した時に、もぬけの殻に
するために、すべてを捨て去ったんだが
あまりにキツイ作業になったので
頭を空っぽにして、すべてを捨てた。

捨て過ぎなくらい捨てたので、親が生きて
いたという気配すら、今はもう跡形もない。
アルバムすらも残さなかった。
でも、これでいいんだなぁって思ったのだ。

父も母も私の中にいるから。

私は「今」を生きていく。

ひとつ、この本で懐かしいものに出会った。

著者夫婦の新婚時代からある目覚まし時計。
目覚めの時刻を告げる時に、この時計は
「アニー・ローリー」のメロディを鳴らす。

https://www.youtube.com/watch?v=XgkgtDPJUKc

甘く物悲しいスコットランド民謡は歌う。

「Gave me her promise true
That ne'er forgot shall be
And for Bonnie Annie Laurie

真実の愛をくれた愛しい
アニー・ローリー
この愛を忘れることはできない」

もしかしたら、人生は
アニー・ローリー。
精一杯、誰かを愛したというだけで
もう十分すぎるほど価値があるもの
なのかもしれないと思わせてくれた本。

真希さん(「感謝離」担当編集者)、
また良い子を産んでくれて
ありがとう。読めて、よかった。

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