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手がふるえる

なんか違う。
なんか、違うな?
なんか…違う…?

気が合うと思っていた友人達に会った。
私の発言は空中に漂って、店の照明の光に溶けていった。

“やんわり否定をされた“と、感じる様な返しを受け、焦燥と混乱が胸中に入り混じり、涙が出そうになるのを堪える。
必ず相手が100%自分の気持ちや思想を理解してくれるとは限らないと肝に命じていたはずなのに、心の奥底で期待をしてしまっていた。

仕事を辞めたいと言い、次は何をするか決めたかと聞かれ、わからないと答えた。
「焦らないと」
「もう良い歳だし」
そう言ったニュアンスの事を言われ、焦った。
具体的に言われて、初めて焦った。
何も決めないで仕事を辞める事がやばいのか、スキルが無くて30代に突入する事がそんなにリスキーなのか。
ふかふかのソファーに座ってるのに、崖の上に立たされた様な気分だった。
見下ろすと下は真っ暗で何も見えない。
霧の中で手を伸ばしたら、手のひらが丸ごと見えなくなったみたいな気分。
「前からふわふわしてるよね」
「1年後も同じ事言ってそう」
「なんか、可哀想」
確かに。
彼女らは真面目に考えてくれての発言だったし、その通りの事を言い当てられて、めちゃくちゃ焦った。
動機、息切れ、冷や汗、手の震え、エトセトラ、エトセトラ…。

恐らく、彼女達には私が、現状は辛いけど頑張りたく無い様に見えたのかも知れない。
事実、そうだと思う。
勉強や努力が嫌いで、テストも一夜漬けだったし、センター試験も受けたく無くて、指定校推薦で短大へ進学した。
幸い真面目だったので、真面目に通って無事卒業は出来たけど。
まあ真面目さ故に病気にもなった節はあるけど。
自信が無い事を理由に、努力や勉強を怠けている。
卒業制作や就活は、必死に目の前を見て走り続けたけど、その時に燃え尽きた様な気がする。

休まずに毎日学校へ通っても、夜遅くまで制作をしても、泣きながら履歴書を書いても、みんなが帰った後も残業しても、報われた事はあっただろうか。

ぽつん、と1人立ち尽くす。
私の人生、何が正しかったのだろう。
生きる上で、正解と不正解は無いとわかっているけど、あまりにも虚無が脳味噌を覆うので、素直にそんな事を考えてしまう。

「きちんと“何か“を決めて、勉強したりスキルを身につける事をしないと。焦らないと」
仰る通りです、ええ、はい。

だけど、その“何か“って、何?
私がやりたい事、仕事にして生きて行きたい事って何?
それがわからないから、不安で悲しくて辛い。
結局、彼女達の言いたい事はよくわからなかった。
わかるんだけど。
わかるんだけど、今はわからない振りをしていたい。

冷たい食べ物や飲み物を摂り、冷風が直撃して冷え切った頭は良く無い方向ばかり考え、心身共に暖を取るため、大好きなヴィレッジヴァンガードへ行った。
沢山の色があって、音があって、普段はうるさいくらいなのに、心が段々落ち着いてきた。

彼女達は、彼女達の人生があって、思想があって、信念がある。
私にも、ある。
私の人生、思想、信念がある。

棚に並ぶ前から気になっていた本を少し読むと、ざっくりだが、“自分は自分“的な事が書かれていた。
そうだよな、そうなんだよな。
彼女達も真面目な故に、私への助言をしただけであって、それが私にはまらなかっただけだ。
攻撃をされたのかと考えてしまっていたけど、暖まった心はその考えを打ち消した。


死んでしまいたい、消えて無くなりたい、と言う気持ちはうっすらと頭に横たわっているけど、すぐに忘れてしまえる様になった。
死ぬよりも、消えるよりも、生きて行く方に興味が湧いてきた。
辛い事や悲しい事や、怒りや妬み嫉みを感じても、それでも生きてたいよな、と考える様になった。

私は私で、唯一無二で。
幸い、私は素直で良い子なので「焦らないと」と言う助言は、小指の爪ほど自分の中に取り入れようと思う。

あとは私なりに思考して、奮闘してみる。
私の体、脳、人生は、私だけのものだから。

これからの人生楽しみで、手がふるえる。