猫もしんどい

土曜日、知人の友人の家へ遊びに行った。
初対面だけど、気負うことなく話ができる人だった。

彼は知人の美大の同級生で(知人も彼も陶磁科)、小田原近くの目の前が海、というか海しか無い場所の古家を2軒買い取って、1軒を制作のための工房にしていた。

住むための家も工房も、いちから自分の手で作り上げていて、出てくるコップや食器、テーブルやベッドまで全て手作りで、この人は"暮らす力"がある人だ、という感想が浮かんだ。

お喋りの最中、彼の恋人の話になってどんな人なの?とか写真が見たいと知人とわたしでせがんだので、彼が恋人の写真を見せてくれた。

知人が「小さくて可愛い感じの女の子が好きなんだよ」と教えてくれたので写真を見て、納得。
小さくて可愛らしい、いわゆる"小動物系"の女の子だった。
人の恋愛の話を聞くのは、いつも楽しい。

知人がトイレに行き彼と一瞬2人きりになった時、彼から「結婚とか考えてる?」と聞かれた。
ううん、と答えたら「彼女から今年から結婚の事考えようね、って言われてる」と、怖いの苦手なのにホラー映画を観なきゃいけない、て感じの表情で笑いながら教えてくれた。
なんだかわたしまで背筋が、ひゅお、と少し寒くなった。

わたしは、やっと、漸く、もう、25歳になったけど「今のところその予定は全く無いよ」と言ったら「25だもんね、まだ考えないよなー」と言っていた。

誰か(人と)と一緒に住むのが苦手かも知れない、とわたしが言うと彼は「自分も住めないと思う。野良猫でもしんどかったもん」とガチトーンで言ったのが面白くて、すごく笑った。
同じ言語を話さない意思疎通を図るのが難しい動物、しかも猫は外に遊びに行ってくれる(イメージ)のに、そんな生き物とも共存が出来ないって、面白いなあ、と思った。

人間同士だと何となく相手の考えている事がわかってしまうから、猫くらい表情も表現も豊かでない生物の方がちょうどいい気がした。(猫にもよると思うけれど)

知人は家賃が高いからルームシェアをしたい、と言ったけどわたしはルームシェアはしたくない。
相手の生活音とかが気になって苛つくだろうし、まず気を使うしでストレスフルな生活に自ら身を投じる必要は無いと思うから。

お喋りが落ち着いた頃、工房に電動ろくろがあるのでやる?と誘われると知人が即座にやる!と挙手したのでわたしも後ろからくっついて行った。

工房も手作り感溢るるレイアウトだけど、いちから1人で作り上げたんだなあと思うとすごく感動した。ほんとにすごい、と思う。

知人にお手本を見せてもらい下準備をしてもらってから、電動ろくろの前に座る。
びびりながらペダルのスイッチを入れるとやっぱり思う様に土をコントロール出来ず、やきもきしながらもろくろのペダルを踏み続けた。

上手くいかないけど土を触っていると、心の中がしんと静かになる気がして、妙に落ち着いた。

最近はがしゃがしゃと仕事の事、悩み事、余計な事まで考え込み過ぎていたので、頭の中がすっきりした気分で、とても良かった。

その後は知人にバトンタッチして、その背後で彼と学生時代の話をしていた。

わたしは育った環境のせいか初対面の人と話す時、癖で話にオチをつけたり少し色をつけて話してしまう(本当はこの癖を治したいと模索中)し、彼の話が面白かったので、笑いの沸点が人より低めの知人が聞いていたみたいで「笑わせないで!」と土をぐにゃぐにゃさせていた。

お腹が空いたから住居に戻り、知人と彼が近くで魚を買って来てくれて、彼が調理をしてくれた。その間わたしはリビングで小さなヒーターを独り占めしながらぬくぬくと待機していた。

わたしは半分眠りながら、知人は彼らの教授の作品集を読みつつ料理が出来るのを待っていた。

アジとしめじとほうれん草をオリーブオイルや塩、ニンニクなどで味付けをした煮物が出てきて、わたしも知人もめちゃくちゃテンションが上がり、温かいパンも出てきて「スペインバルみたい!」とわたしは歓喜した。

お腹が満たされ、またお喋りをして、彼に感謝をして帰った。

駅までの道程で一気に眠気と疲れがきて、実は緊張していたと気付き、知人に引っ張られる様にして歩いた。

彼と話していると、自然で気を遣わなくて良いなと思えて楽しかった。

そして、自分の居場所は自分で作るものなんだ、と強く感じた。

悩んでいた事が一気に纏まる感覚がして、やるかやらないかで決まるんだ、と決意みたいなものが芽生えた気がした。

やりたい事、行きたい所があるならやるべきだ、と呪文の様に、今、心の中で何度も唱えている。

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