街の魚
綺麗に短く散髪された
黒々とした髪をワックスで固め
スマホ片手に誰かと話す
もう片方の手は、力強く身振り手振り
仕事先の人か、
痴呆の入った母親と話しているのか、
朝から、そんなにも熱心で
かすかに怒気が伝わってくる
一瞬の翳り
ずんぐりむっくりの身体を
黒いTシャツと短パンで包み
息を切らしながら坂道を上る
まるで
マグロのよう
それは
街を泳ぐマグロ
街はマグロであふれている
街は小魚であふれている
通勤時は群れを成し
海流のように見えないルールがそこにはあり
一糸乱れぬようアクセルを踏むかと思えば
点々とブレーキランプを灯す
時に群れの中を縦横無尽に走るものもあれば
脇道にそれてゆくものもいる
カラフルな体とピカピカした装飾に包まれたそれが
朝の海の姿である
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?