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ヘミングウェイとアフリカ旅行

アフリカに行くのが長い間の夢だった。野生保護団体の会員だったこともあるくらい動物が好きなのも理由の一つだ。

でも本当の理由は、ヘミングウェイの『キリマンジャロの雪』の冒頭の部分にある。

キリマンジャロは高さ1万9710フィートの雪におおわれた山で、アフリカの最高峰と称される。西側の頂上はマサイ語で「ガエ・ガイ――神の館」と呼ばれている。その西側の頂上近くに、ひからびて凍りついた1頭の豹の死体がある。そんな高いところまで豹が何を求めてやってきたのか、だれも説明したものはいない。

この文章が何故かひたりと心に貼り付いて離れなかった。「キリマンジャロ」をいつかこの目で見るという野望がむくむくと沸き上がった。その日からキリマンジャロとアフリカは、私にとって言いようのないロマンに感じられた。

そして、数年前に実現したケニア旅行。もちろん宿泊には、キリマンジャロが目前に見えるロッジを敢えて選んだ。

ロッジから眺めるキリマンジャロは富士山でも他の山でもなく、やはり「キリマンジャロ」としてその雄大な姿を見せてくれた。

野生動物はラッキーなことに沢山見られた。視力が6以上あるケニア人ガイドは、サファリカーを走らせながら、私たちが望遠鏡でも見えない野生動物を探し出し近くに車を走らせてくれる。

 振り返るオグロヌー。

キリンの群れ。アカシアの葉が大好物。

悠然と歩くライオン。

チーターは、野生動物の中でも一番美しい姿をしていると思う。ぞくっとする程の美しさ。

しなやかな筋肉、凛とした横顔。いつまでも、いつまでも見ていたくなった。

イノシシの家族連れ。可愛すぎるウリ坊たち。

ロッジのレストランの下の川にはいつもカバの親子づれが。

でも一番見ることが出来て感動したのは、シロサイの家族連れ。お父さんはとても雄々しい。

バッファローの出産シーンにも遭遇した。母親は大量の血を流し、その後を生まれたばかりの子供が必死に着いて歩く。振り返り振り返り、我が子の存在を確認する母親。

ぴたりと母親象にくっつく子象。子育て中の母親象は、常に警戒モード。車で近づくと、雄叫びをあげながら追いかけられ、とてつもない恐怖を感じた。

守る者と守られる者。そして守られていた者が守る側に。そんなふうに歴史は続いて行く。

ライオンの狩りのシーンも見ることができた。逃げ惑うシマウマたち。

シマウマを追いかけるが、射止められずすぐに諦めるライオン。彼らはなるべく無駄なエネルギーを使わない。エネルギーを使うとお腹が空くから。そんな省エネ設計の野生動物たち。

そして何事もなかったように平和に草を食むシマウマ。

当たり前かもしれないが、ここにいる動物たちは、動物園で見る動物たちとは全く違っていた。常に死と隣り合わせのぴんと張りつめた緊張感が、怖いほどに感じられる。

でも死を感じているからこそ、その目は光りを帯び、身体は躍動している。

よく見ると滝のふもとにシマウマの屍が。水を飲もうとして足をすべらせたのだろうか。『キリマンジャロの雪』の冒頭をまさに地で行く光景だった。

野生動物と共存するマサイ族。ライオンは決してマサイの牛を襲わない。赤い服を見ると彼らと認識して近づかない。

牛はマサイ族にとって最も重要な財産だ。通貨としても機能し、賠償・結納・相続などは牛の受け渡しによって行われる。万が一彼らの動物(財産)を殺したら、報復によって自分の命も奪われることをライオンは知っている。その記憶はDNAに刻み込まれている。

マサイ族は高くジャンプができる男ほどモテるという。それは強さと生命力のアピールだ。一夫多妻制で、牛を多く持つ男は何人も妻をめとることができるが、牛を持たない男は女性に相手にされず、結婚も恋愛も難しい。

マサイ族の文化では、成人男性は猛獣退治や牛の放牧、火起こし以外の労働をせず、その他の仕事は全て女性や子供が行う。これは戦いのみが男性の仕事で、武器以外の道具を持ち運ぶことすら恥とする彼らの価値観によるという。

マサイの女たちは働き者。家を作り、料理をし、アクセサリーやブランケットを作り、それを観光客に売り、子育てをするのは全て女性の仕事だ。

雄が狩り以外何も行わないのは、ライオンも同じだ。マサイとライオンには不思議と共通点がある。

アフリカにはアフリカのルールがある。そこで動物も人間も慣例に従い生きる。ただ生きること、そしてその命を次に繋げていくことが彼らにとっては使命の全てだ。

サバンナの涙が出る程美しい夕日。今日もまた同じように日が暮れるけれど、二度と今日と同じ一日はない。

世界は広い。私たちには知らない世界がまだまだ沢山ある。ただどんな世界においても、「生」と「死」だけは普遍だけれど。

「死と同じように避けられないものがある。それは生きることだ」   映画「ライムライト」より

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