炊飯器が吐く飯は今日も白い

炊飯器は水と硬い米が好きだ。お釜に水と米を入れ数十分の食事時間を与えると、代わりに白いホカホカでツヤツヤの白飯を吐く。釜をセットする時に強く押し込む事が大事で、喉に指を入れて吐かせるように、炊飯器に飯を吐く練習をさせる。ゔぉええええーーーとなったら準備完了。スイッチを押して彼の食事が終了するのを待つ。吐いている間は決して人には見せないが、彼の努力が、小さな通気口から勢いよく出る蒸気から伝わってくる。暫く待つと吐き終わりの音が鳴り、期待を込めて蓋を開ける。そこには彼の嘔吐物であり私の今日の夕飯でもある物体が、確かなその白い輝きを放っている。

そんな彼と私の関係は長くは続かなかった。突然、彼が『自分も白飯が食べたい』と言い出したのだ。確かにいつも冷たい水と硬い米ばかりでは可哀想だと思っていたが、私の白飯を取られたら困る。だから私は吐き終わりの音が鳴るのを待つよりも早く、彼の出す蒸気が収まると同時に蓋を開け、彼の吐いた飯をいち早く回収することにした。段々とその行為はエスカレートしていき、食事中に開けてしまい彼の気まずい視線を受けることもあった。

そんな事が続いた結果、彼はとうとう吐くのをやめた。いや、吐く以前に食べるのをやめた。水と硬い米を与えても、一切口にしなくなったのだ。彼はただ『自分も白飯が食べたい』と繰り返し主張する。自分の吐いた物を食べたいなんてそんな物好きがいるだろうかと思うが、私は彼の頑固さに白旗を揚げ、冷凍していた白飯を解凍し釜に直接放り込んだ。そしてそれから1日の用事をこなし、深夜再び釜を開いた。するとそこには彼の嘔吐物が温かさを保ったまま静かに鎮座していた。その嘔吐物は彼が新しく吐いたものか、結局口に出来ず残したものか、それは定かではなかったが、どちらにしても白飯を私に提供することを辞められない絶望を釜の中の静けさから感じ取り、静かにまた蓋をした。

それから彼は機嫌を取り戻し、以前のように白飯を吐き続けた。彼が吐く飯は今日も白飯。

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