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フレットの間が異様にスキャロップ加工されたベトナムギター

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ベトナムでローカライズされたユニークなギター

ベトナムは、ダンバウクニィなど実にユニークな弦楽器の宝庫なのだが、そんな中の一つにベトナムでローカライズされたユニークなギターがある。これはベトナムの音楽"カイルオン"で使われるギターで、アコースティックタイプにせよ、エレキタイプにせよ、一見普通のギターに見えるのだが、フレットとフレットの間の異様にスキャロップ加工された指板が特徴である。下の写真は私の所有ギターである。 

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指板のスキャロップ加工というとリッチーブラックモアやイングウェイマルムスティーンなどのロックギタリストを思い浮かべる方が多いと思うのと、クラシックギターでも指板がスキャロップ加工されているものがあるという。これはスムースな速弾きやビブラートの為とのことだが、そういったギターをはるかに上回るエグられ方である。 ベトナムには、Đàn đáyĐàn_nguyệtĐàn_sếnといった高さのあるフレットがついた伝統的な撥弦楽器があるが、指で押弦することでビブラートやピッチベンドをかけられるようになっており、ベトナム音楽ではその奏法が多用され独特なイントネーションで奏でられる(日本の琵琶もフレットが高く、押し弦で音程を変える弾きかたがあるのと共通している)。それを西洋から渡来したギターで指板をえぐる事でやってみようというのがこの楽器のコンセプトと感じる。これにより、通常のギターでは出来ない(やりにくい)更なる強いビブラートやピッチベンドを可能にしており、まさにアジアならではの工夫を感じさせるギターとなっている。ベトナム都市部の楽器屋で普通に売られているらしい。発案者は、ベトナム音楽カイルオンのギタリストであるキム・シン(Kin Sinh)氏と言われている。

本国の演奏例

その使い方は、ギターのノーマルチューニングよりも低く調弦することで(2度~3度下げているケースが多い)、押し弦することでビブラートやピッチベンドを掛けるのが主流のようでチョーキングに相当する奏法は見かけない(このギターだとより派手なチョーキングが出来るので、私はやっている。それについては後述する)。以下に本国の演奏例を幾つかご紹介する。

いかがだろうか。形はフェンダーギターの完全なパクリで2番目の動画のようにヘッドに露骨にFenderなどとロゴが有ったりもするのだが、やってる音楽は全く独自なものになっているのが実に素晴らしいと感じる。3つ目の動画ではその最後のほうでシャープなトレモロ・エフェクトが掛かる所なんかも実に面白い。

次の動画は、1:45あたりから1オクターブ下の音が出てくるのが確認できるが、これはギター内蔵のオクターバーエフェクトによるものだろう。というのも私が持ってるベトナムギターにそれが内蔵されているのと、他の動画でもこのオクターブエフェクトを掛けているケースがちょくちょく見られるからだ。

ベトナムギターの動画は、他にもVong co, Guitarでyoutubeを検索すると色々引っ掛かるのでご興味ある方はサーチしてみて欲しい。

他にもちょっとユニークな部分が

ご紹介した映像のギターのようにその多くがフェンダーストラトキャスターの形をしている。私が持っているのもそのタイプで、2番目に紹介した動画の赤いギターと多分全く同じ物だと思われる。私の物もヘッドに露骨に"Fender"のロゴがある(当然Fender製ではない)。2006年にベトナムに行った知人に買ってきてもらったものである。当時、日本円で6千円程度だった。(因みに私は2019年現在まだベトナムに行ったことがない) とアジアらしいチープさなのだが、中々多機能なギターでもある。私所有の物のボディをアップご覧いただきたい。

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スイッチとつまみが一杯ある。まず上のほうにある3つのトグルスイッチだが、これらは3つのピックアップそれぞれのオン・オフ・スイッチ。こうすることで、一般的なストラトのハーフトーンであるフロント・ミドル、ミドル・リアだけでなく、フロントとリアのハーフトーンや、3つのPU全てを並列出力することも可能なのである。ただこの位置にスイッチがあるとストローク奏法をした場合、手が当たって意図せずオフってしまうことがあり注意して弾かねばならないのが難点(ただYoutube動画を観ている限り本国ではストローク奏法は見受けないのでこれで良いのだろう)。そして下側にあるつまみ群の近くにある3つのスイッチは、オクターバーのオン・オフ・スイッチ。4番目に紹介した動画でも確認できるようにベトナムではこのタイプのギター演奏にオクターバーを掛けるのが好まれているようだ。3つスイッチがあることから各PUごとに掛けられるようだが・・・。つまみは、上3つはストラトと同じく音量とトーンで、一番下のはオクターバーエフェクトの音量である。オクターバー・エフェクトは当然電池が必要であるが、電池が切れてもオクターバーが使えなくなるだけでパッシブのギターとして使用可能である。そこここにいかにもチープな部品が使われているのだが、これだけの機能を詰め込んで日本円で6千円程度というのは大したものだ。

ベトナムギターを使った私のオリジナル曲

というわけで私自身このユニークな楽器を時折プレイし自身の音楽に反映させている。自作曲ということもあり先に記した本流な弾きかたでなく、この楽器の特性を考慮しつつ自己流で弾いている。特に普通のギターよりも激しくチョーキングが可能なのでそういう奏法をしているが、ベトナム本国の方から演奏を褒めて頂きつつも、そのような(チョーキングの)弾き方は本国ではしないとご指摘されたこともあった。そんな演奏を3曲ご紹介したい。

まずは"Asian Blue"というアジアテイストなオリジナルブルース。再生回数と評価数的には私の最大ヒット曲だったりする。

次は、より軽快なナンバーのLocust Hopという曲。

こちらはフォーキーなAutmun Nopparaという曲。

終わりに

と言うわけで、ベトナムにあるユニークなギターを本国の演奏と拙作の両面でご紹介させていただいた。自分で演奏してみて決して弾きやすいギターではないが可能性を秘めたギターだと感じている私のように自作の音楽のための楽器と捕えるのも良いのではないだろうか。アメリカで産まれたエレキギターがベトナムでこういう形になり独特な音楽が演奏され、さらにまた別な国に伝わりまた違う形で演奏される・・・なんてまた面白いではないか。2019年現在も日本国内で販売されている様子は自分が見ている限りでは伺えない感じだが、ベトナムに旅行に行かれた際はぜひチェックして頂ければと思う。かく言う私もベトナムへ行き本場で演奏を聞いてみたいと思っている。

リンク

ベトナムギター関連
Wikipedia - Guitar phím lõm(このギターのWiki解説)
Wikipedia - スキャロップド・フィンガーボード

コウサカワタルの琉球メルヘン紀行(現地取材でベトナムギターを紹介)
ホーチミンの楽器屋通り
Made in Vietnamギターが買える!~ホーチミンの御茶ノ水にいってきた~
Wikipedia ベトナムの民族楽器

私が演奏している楽器についてのノート
[自作楽器]電気擦弦楽器・回擦胡
[自作楽器]リボンコントローラー その詳細と演奏への応用


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