見出し画像

計算を楽にするために(小学生と分配法則)

小学4年生から5年生にかけて『計算のきまり』を習います。「交換法則」「結合法則」「分配法則」の3つです。

交換法則とは、前と後を「交換」しても答えはかわらないという法則です。
例えば、2+3=3+2、2×3=3×2。
引き算、わり算では成り立ちません。

結合法則は、項が3つ以上あるとき、どちらを先に計算しても(どちらを「結合」しても)、結果はかわらないという法則です。
例、(2+3)+4=2+(3+4)、(2×3)×4=2×(3×4)。
この法則も、いつも成り立つのは加法乗法だけです。

分配法則とは、( )内を先に計算してその答えにある数をかけても、( )内のそれぞれの数にある数を(分配して)かけても、計算結果はかわらないという法則です。
例、(2+3)×4=2×4+3×4。

この逆も分配法則といわれます。
例、2×4+3×4=(2+3)×4

交換法則と結合法則は、後々、あまり使い道がありません。
分配法則だけは、6年生でも、中学生になっても、しばしば登場します。

余談:教科上の用語のわかりにくさは、どう考えてもおかしい。計算法則は子どもたちの苦手な単元ですが、その責任の大部分は用語にあります。
最近は、刑法や民法などの法律用語でさえ現代語に書き換えるようになってきています。国語の審議会で漢字制限の枠をチマチマ改定するより、教科の用語を子どもたちにわかりやすい用語に改めるほうが、ずっと国民のためになると思うんですが、誰も主張しませんね。

★分配法則で「円」の問題は何倍も楽になる

単元「計算のきまり」で分配法則を学ぶときは、まだあまり有用性はありません。習うから、仕方なしに覚えないといけないだけです。

例えば、最も子どもたちがいやがる問題に、「102×23を工夫してしなさい」という問題があります。正解は、
102×23
=(100+2)×23・・・分配法則を使う準備として、きりのよい数字を用いて式を変形する
=100×23+2×23・・・分配法則を使ってそれぞれの数字に23をかける
=2300+46・・・ちゃんと分配法則を使ったご褒美として、計算が非常に楽になる
=2346
ですが、「筆算をすればよいのになぜこんな遠回りをするの?」というのが子どもたちの本音で、ま、そう言われればそうです。

問題文中の、「工夫してしなさい」ってのは、「工夫した証拠を途中の式に書いておきなさい」って意味だよと強調しても、こちらが目を光らせているときはいやいや書きますが、油断するとすぐ答えだけを書いたりする。
その横に、102×23の筆算をして消しゴムで消した痕跡がうっすら残っていたりして、「人の言うことなんか素直に聴くものか」という子どもの本能にはおそれいるしかない。

いやいや覚えさせたって意味がないんで、私は最初教えるときは、少々のズルは見逃します。
但し、しつこくやっておく意味はある。人間は、時期をおいて、繰返し言われるのが一番頭に残る。最初はできなくても、そこでくどく言っておくと、後でそれが生きてきます。

分配法則のありがたさを身をもって知ってもらえるのは、5年生、6年生で習う「円」の単元です。

おうぎ形の図で、太線で囲まれた図形の面積を求めるとします。
中心角が90度で円の4分の1ですから、式は9×9×3.14÷4-5×5×3.14÷4です(9×9×3.14×90/360-5×5×3.14×90/360でもよい)。

馬鹿正直に計算すると、3.14×81を筆算でして答えを4で割る、次に3.14×25を筆算して4で割る、最後に引き算をすると、計5回の筆算をしなければなりません。

分配法則を使うと、
9×9×3.14÷4-5×5×3.14÷4
=(81-25)×3.14÷4・・・3.14÷4が共通であることに着目する
=56÷4×3.14・・・56÷4を先に計算する
=14×3.14
=43.96
となり、筆算1回だけで簡単に求められます。

分配法則を使うほうが、何倍も早くできますし、計算を間違える可能性も大幅に減少します。

中学入試の問題でも、円のからんだ問題は、円の問題というよりは分配法則を上手に使えるかどうかを試す問題のほうが多いくらいです。

つまり、分配法則が本当に威力を発揮するのは、「計算のきまり」の単元より「円」の単元であり、分配法則を使わないで円の問題を解くようでは、合格はおぼつかないということになります。

ところが、子どもたちはなかなか言うことを聞いてくれません。

子どもが苦労する前に、「分配法則を使いなさい」と言ってしまうとだめなんですね。
円の問題を、分配法則を用いないで馬鹿正直に何回もさせて、いい加減うんざりさせた後に、おもむろに「実は・・・」と分配法則を使うように誘導する。
それも、こちらが強制するのではなくて、子どもが自分が気がついたように持っていく、あるいは、そのほうが得だと自分で気がつくように仕向けるのが、上手な指導法だと思います。

★小学6年生と分配法則(分数計算と分配法則)

小6では、分数のかけ算・わり算で再び分配法則が登場します。

6年生の場合、小5の円のときのような、苦労させてその後でという手は使えません。生意気盛りで根拠のない自信を持ち始める年頃ですから、頭を使って分配法則で楽をするより、頭を使わないで複雑な計算で苦労するほうを選んだりします(わかっていても人の忠告を無視してあえて苦労したがるのは、大人も一緒かもしれませんね)。
もう、強制的に覚えさせてやらせるしかありません。

分数の分配法則の場合、「分配」という言葉の意味から覚えさせます。両方に分けてかけるから、両方に「分配する」から分配法則だと強調します。

上の式の場合は、「同じ数字の部分(この問題だと4/7)があるのが分配法則を使う目印だ」という言い方をすると、短時間でわかってくれるようです。

小学生の場合、問題を見てすぐに「分配法則を使う問題だ」と、自分で気がつく子はほとんどいません。
しかし、小学校の段階で、遅くとも小6までに、「分配法則」の概念を子どもの頭に残しておいてあげることは絶対に必要です。

中学生になったら、分配法則という言葉を使うだけで教えやすくなる単元がたくさんあります。そのためにも、小学校の間に分配法則を上手に習得させておくべきです。

俊英塾代表。「塾学(じゅくがく)」「学道(がくどう)」の追究がライフワーク。隔月刊誌『塾ジャーナル』に「永遠に未完の塾学」を執筆中。関西私塾教育連盟理事長。