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☡数学の曲がり角~数学Ⅰ数と式~

出発点

教科書の学習区分とは異なるが,高校数学で扱う「数」と「式」に関する用語を確認するところが出発点だと思う。

「数」の出発点

自然数,整数という概念は既に理解できているとして,実数という概念の理解が1つのポイントとなる。ただし,正確な定義は不必要で「数直線上に表せる数を実数という」理解がよい。加えて,整数の分数で表される有理数と,実数であって有理数でない無理数という概念の理解から始めることとなる。

「式」の出発点

単項式と多項式,および単項式と多項式を併せた整式という概念,それらの次数,係数,定数項といった用語の理解が出発点として,「等号」への理解が大切になる。ここで,数学的に正確な定義ではないが,等号を用いた式を「求値式」と「等式」の2つに分類してみたい。

「求値式」は単なる式変形を要するもので,
$${\qquad\displaystyle{\frac{x}{5}-\frac{1}{2}+\frac{a}{6}=\frac{12x-30+10a}{60}}}$$
などと「式変形」するものである。

「等式」は両辺に同じ作用を施すことができるもので,
$${\qquad\displaystyle{\frac{x}{5}-\frac{1}{2}+\frac{a}{6}=-3}}$$
の両辺に$${60}$$をかけて,
$${\qquad12x-30+10a=-180}$$
両辺に$${180}$$を加えて,
$${\qquad12x+150+10a=0}$$
などと「等式変形」するものである。

1つめの曲がり角

「数」の曲がり角

ここでは,整数の細かい性質については後回しにして,実数という概念のある程度の理解が大切になる。ただし,ここでは高校数学の指導要領に従い,虚数という概念を導入しない前提で行おうと思う。正直なところ,虚数という概念をここで明らかにしてしまう方が,数学的には明確に概念が理解できるところだと思うが,初学者にとって実数という「普通の数」の扱いに慣れてもらう方を優先すべきだと感じている。

まず,自然数における除法と余りの概念の整数への拡張が,数直線を介して実数の整数部分(ガウス記号)の理解へつながる。この整数部分は,例えば$${3<\sqrt{13}<4}$$から$${\sqrt{13}}$$という無理数がおおよそどういう値であるかを理解することにもつながる。
また,数直線上における原点との距離という考えから,絶対値という概念を理解することも大切である。
このように,数直線上に実数が表されることが,出発点となっていることを認識しておくとよい。

そして,(ここは高校数学の指導要領には歯向かいたいのだが,)累乗根はこのタイミングでの導入が適当だと思う。累乗根$${\sqrt[n]{a}}$$は$${n}$$の偶奇により定義される$${a}$$の値の範囲が異なる。これは,指数関数$${a^x}$$が$${a>0}$$の範囲でしか定義されないことと整合性がとれていない。これが(影響はそれほど大きくはないが)数学Ⅱの指数関数・対数関数の単元における導入部分の累乗根の理解が難しくなる要因であると思う。

「式」の曲がり角

数学Ⅱの範囲にもかぶるが,「等式」を2つに分類して「方程式」(ある$${x}$$について成り立つ等式)と「恒等式」(すべての$${x}$$について成り立つ等式)の違いを理解できる必要がある。
また,実数が数直線上に表される数であるという理解から「不等式」の概念が理解できるようになる。不等式(すなわち数の大小)は数直線上に表される点の位置によって定まる。すなわち,負の数をかけることで不等号が反転することは,数直線上での位置関係を理解できているかどうかである。

2つめの曲がり角

この単元は,概念を理解するだけでは足りず,「計算力」「計算方法」を身に付けなければならない。

  • 分母の有理化

  • 式の展開と因数分解

  • 対称式の計算

  • 絶対値を含む方程式の解法

  • 不等式の解法

このあたりを基本として,次の発展的な内容まで抑えておくとよい。

  • $${3}$$乗根を含む分母の有理化

  • 次数下げの計算

  • ガウス記号を含む方程式の解法

まとめ

指導する側は,実数という概念から整数部分や不等式の成り立ちまでの論証の流れを的確に把握しておく必要があるが,学習する側はその論証の流れはそれほど気にならない単元である。気にされないからといって,1つ1つのテーマを小出しにしていては,学習する側にとって「数学とは解法を暗記するもの」と押しつけられるように感じる。この単元は高校数学の2つめの単元になっているため,「数学とは解法を暗記するもの」といった押しつけは,今後の学習の妨げになる。出来得る限り,そのようにならないよう気を配りたい単元である。

「定義」から導かれる,有理数や無理数の概念。実数の定義から「論証の流れ」を理解して得られる「絶対値」「ガウス記号」「不等式」の取り扱い。これらの数学的な本質?と計算の興味深さは区別して把握してみたい。展開の工夫や因数分解,対称式や次数下げといった計算は,数学の本質というよりは,その鮮やかさへの興味深い点にあると思う。繰り返しになるが,1つ1つのテーマを,流れを無視して小出しするのではなく,流れに沿った指導と計算の興味深さをしっかり区別して伝えていきたいものである。

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