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【セルフライナーノーツ】『理沙がいた季節』編

こんにちは、諏訪原天祐です。セルフライナーノーツの3回目、今回は5月に発行した新刊『理沙がいた季節』編です。

過去2作はいずれも基本的にはシュールやナンセンスといった要素を基盤としたコメディで、そこにときどきダークな感じもあるかもくらいの作風でしたが、今回の『理沙がいた季節』は前作までとは打って変わって、基本的にダークな雰囲気が作品集全体にあり、ジャンルで言うとホラーに分類される作品が多数を占めています。

今までの諏訪原のイメージとはまた違ったものになっているので、それも新鮮で面白いのかなあと思っています。まあ実際は、今までとは違った感じのものを出して新たな読者層を開拓したい、というスケベ心もちょっとあったりしているのですが。


1.ありがとう

こういった短編集において、作品の収録順はどうやって決めたらいいのかというのは、皆さん誰しも一度は悩んだことがあると思います。諏訪原の場合、最近そのいい塩梅がわかってきて、それが「1番目は作品の出来にかかわらずその作品集の雰囲気に1番合った作品、2番目にその作品集で2番目に出来がいい作品、3番目に1番出来がいいやつ、最後に作品集のコンセプトに合って、なおかつ出来がいい作品、その間は微妙な作品や似たような作品が連続しないように並べる」というものです。
その理論通り、この作品がこの作品全体のダークでやや不穏な雰囲気をかなり担っている部分があります。もともとこの作品を書き上げて「この作品を軸にして短編集を作ってみよう」というところから『理沙がいた季節』がスタートしたので、是非ともこれは読んでもらいたい作品です。
元ネタというほど元ネタではないのですが、松本人志氏作のコント「おめでとう」は書いててちょっと頭をよぎっていました。

2.キスマークラーメン

シュール要素はほとんどないといったな。すまない、あったわ。
というわけで、この短編集において唯一今までの諏訪原っぽさを踏襲したシュール系ショートショート。また、『遺伝子のゴール』に収録の「愛され続けて、五十年」に続く諏訪原の趣味嗜好反映シリーズ。諏訪原が実際に東京で朝6時から家系ラーメンを食べ、美味しさと背徳感で気絶しそうになった体験を下敷きにしています。
諏訪原が大学生のころは今よりもっとアイデアの引き出しが少なかったため、作品のほとんどで終盤特定の単語を繰り返しそのままフェードアウトさせるというオチのパターンを多用していました(たぶんちゃんとした名前があると思うんですが、わからなかったのでもしわかる人がいたら教えてください)。「ビート版になった男」や「目覚める日」、またこの作品集にも収録している「想い出がいっぱい」なんかがそうです。さすがにワンパターンが過ぎるということで社会人になってからは意図的に封印していたのですが、今回もともと用意していたオチがあまりにもひどかったので封印を解除しました。結果、シュール要素を担保しつつ、作品集全体の雰囲気も崩さないいい塩梅に落ち着いたので、今後も使いすぎない程度には使っていきたいなと思いました。

3.胃もたれ侍、異世界へ行く

前述のとおり、諏訪原は短編集を作るとき一番出来がいい作品は3番目に配置するようにしています。したがって、これがこの作品集では一番出来がいい作品ということになります。
出来がいい作品というのは何も諏訪原一人で決めるものではありません。そんなことしたら読む人を置いてけぼりにしてしまいかねないからです。アマチュアで趣味の範囲でしていることとはいえ、お金を出して買ってもらう以上、受け手の視点というものも持たないといけないというのが諏訪原の持論なので、ある種客観的な指標も用いつつ、作品の良し悪しは判断しています。それで言うと、この作品はカクヨムでの閲覧数、応援数、レビュー数がダントツで高い作品になります。「一番売れるものがいいものとは限らない」という言葉もありますが、結構な差がついている現状なので、今のところ諏訪原の最高傑作ということになるのかなあ? ややご納得がいかない部分もあるのですが。
ただ、完成度が高く面白いものであることに間違いはないので、是非とも読んでいただけたらと思います。noteにもアップしてます!

4.ブリ村ゴキ右衛門一代記

ヘミングウェイの有名な逸話に「6つの単語で小説一冊分の力を込められると豪語し、実際にそれをして見せた」というものがあります。諏訪原はその逸話が好きなので、いつか自分も挑戦してみたいなと思って書いたのがこの作品になります。
この小説本体の文字数は14文字。さすがにそれだけだと伝わりずらいかもと考え、「前回のあらすじ」という形で補足情報を入れました。結果それなりに読める作品にはなりましたが、ヘミングウェイにはなれませんでした。

5.師匠

諏訪原の好きな落語『粗忽長屋』を題材にした、本作品集一番の大作。
なんとなく今までの作品集も眺めてみたところ、どうも諏訪原は作品集の5番目に一番文字数が多かったり大作風味な作品を置く傾向にありますね。
たぶん諏訪原が敬愛するバンド人間椅子の一番好きなアルバム『黄金の夜明け』に無意識に影響されているからなのかなあ(補足:『黄金の夜明け』の5曲目が演奏時間8分越えの「水没都市」という曲)。
正直作品の中身に関してはあまり語ることはないのですが、これも諏訪原好みのシュールさと怪奇風味がいい感じにミックスされていて、もし諏訪原が第三者ならこの作品でファンになってると思います。

6.太陽の塔

この作品集の中では一番正統派ホラーの作品になります。ホラーと一口に言ってもその中身としてはかなり細分化されているのが実情ですが、これは何に分類されるのか自分でも正直よくわからないです。一応幻想ホラーっていえば一番近いか? でもなあ、うーん……。
この作品にはプロトタイプ版があり、途中までは展開が同じなのですが、終盤一転してホラーじゃなくなり、斜め下に着地してしまうような作品でした。特にオチがあまりにひどいため「これはさすがに世に出したらあかんのでは……」と大幅な改稿がなされてこうなったという経緯があります。ただ、改稿前のものもなんかもったいない気はするので、いつか思いっきりドシュールな作品集を作ったときにでも紛れ込ませようかなと思っています。

7.よかった

読んだ人なら思わずこのようなツッコミをしてしまうと思います。
「おい、思いっきりネタ被りしとるやないかい!」と。
それもそのはず、この作品はこの短編集のある作品と思いっきりネタがかぶっているのです。いつもの諏訪原のうっかりか?と思われるかもしれませんが、残念ながら違います。ちゃんと意識してあえてネタをかぶせました。
ショートショートというジャンルそのものが何を書いても誰かの類似作品になってしまうというのが諏訪原の持論なのですが、同じようなアイデアでも見せ方ひとつで全く違う作品にすることだってできるのだ!ということをしてみたかったのです。まあ、本音を言うとページ数埋めに都合が「よかった」というのもありますが。

8.宇宙一のクローザー

この作品集には諏訪原が大学生のころに書いた作品のリメイクが2つ収録されており、これがそのうちの1つとなっています。
もとは『ありふれた物語』というタイトルで、途中まではよくあるスポーツものの小説だったのが中盤である「ショートショートでよくあるやつ」が入ることによって一変してしまう、というコンセプトで書いたものになります。アイデアとしては好きな作品だったのですが、いかんせん文章が稚拙すぎてこれまで直視するのを避けてきました。今回は覚悟を決めてちゃんと向き合って、ちゃんと書き直しました。相変わらずへたくそな文章ですがちょっとはましになったんじゃないでしょうか。

9.カラフルな世界の浮気問答

もう特に言うことはありません。思いついて5分で書き上げた小説だから。
浮気、ダメ、ぜったい。

10.ハイキング

こういう意味怖系の話大好きなんですよね。電気グルーヴ『VITAMIN』収録の「ハイキング」という楽曲をインスパイアした作品になっています。
作曲の砂原良徳氏はこの曲を「明るいテーマだがどことなく不安感・不気味感を感じさせる曲」と語っており、実際聞いたらわかるように歌詞も曲調も一見するとめちゃくちゃ明るく楽しげなものになっています。でもよく聞いてみるとなんか裏があるような、「絶対それだけじゃないよね」と感じさせられる曲で、それを元ネタに一つなんか書いてみたいなと思って書いてみたのがこの作品になります。
ショートショートなのできっちりラストに「答え合わせ」をしているのですが、個人的にはしっかり後味悪く書けて満足です。

11.想い出がいっぱい

大学生のころに書いた作品その2。大学生活の最後に書いた作品になるのですが、ちょうどコロナ・卒論・就活などの大イベントの合間合間に書いていたからかなんかいまいちな作品で、実際に後輩との読み合わせのときもいまいち評判が芳しくありませんでした。今回、しっかり腰を据えて書き直そうと思い立ち、まずはいらん部分を削っていこうと試みたところ8000字の作品なのにあれよあれよという間に5000字になってしまうという想定外の事態に。そんなこんなで大きなところから細かいところまで修正をしていった結果、骨格のみを残し内装はほぼ全とっかえレベルでの改稿となりました。
これもけっこうホラーチックな作品なので、そういうのが好きな人にはぜひ読んでもらいたいなあと思います。

12.女A

この作品集の最後を飾る作品になります。
これまでも散々書いたように、この作品集全体がほの暗い雰囲気をまとっているのですが、この「女A」という作品はその中でも特に陰鬱な作品になってるなあと個人的に感じています。ある種のアンチ青春小説のような感じではあるのですが、ただそれだけにならないよう頑張って書いたつもりです。
ある意味、今の諏訪原だからかけた作品のように感じています。

EX.まとめ

諏訪原にとっては通算4つ目の作品集になるのですが、かなり今までとは毛色の違う作品集となり、いつの間にか引き出しが増えたなあと自分でも感慨深くなってしまいました。
ただ、これをもって諏訪原の大学時代のストックも使い切り、また個人的な事情でしばらくイベント参加ができそうもないので、次回は早くても来年1月19日に開催される文学フリマ京都となる予定です。約1年ぶりになる文学フリマに新刊がないのも寂しいので、何かしら新刊は出すつもりです。おそらく今までWebで公開してどの作品集にも入れていなかった作品のまとめ本になると思います。
ただ、最近なぜかnoteを見てくれる人がじわじわと増えているので、小説は難しくても、何か日記だったり近況報告だったりはアップしていきたいと思っていますので気にしていただけると泣いて喜びます。

また、この『理沙がいた季節』は架空ストアさんというサイトで通販委託もしておりますので、気になった方は是非お気軽にチェックしてみてください!!

それでは、またお会いしましょう!

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