見出し画像

なぁ、これで満足か?

僕は、エビフライやエビ天を食べるときは必ず尻尾も食べる。というか、必ず尻尾から食べる。
バリバリとして食べ応えのある食感と、鼻に抜ける香ばしさがたまらない。もちろん、「尻尾がメインだ!」と主張するほどの尻尾狂いではないが、エビフライやエビ天の魅力の20%ほどは尻尾が握っていると思っている。有るのと無いのとじゃ大違いだ。そのくらい、僕は尻尾が好きだ。

『一緒に食事をした相手が尻尾を残していたら必ず貰う』というようなエピソードがあれば僕の尻尾に対する本気度が伺えるはずなのだが、あいにく持ち合わせていない。
基本的に、一緒に食事をする相手に尻尾を残す人間がいないからだ。というより、尻尾を残す人間とはそもそも一緒に食事をするような間柄にならない、と言った方が正しいかもしれない。
おそらく僕は脳内で、無意識に他人を”尻尾食べるか残すかセンサー”にかけており、そのセンサーが「この人は尻尾も食べそう」と判断した人にだけ僕は100%心を開き、一緒に食事をするような親しい間柄になるのだ。そしてそのセンサーはかなり高精度だ。

そんな高精度なセンサーを潜り抜けてくる人もたまにいる。
だが、僕は目の前に尻尾を残す人がいたとしてその人を揶揄したりすることはない。
僕と僕の周りでは尻尾を食べるのは当たり前だが、世間全体に目を向けると尻尾を食べる人と残す人の割合はだいたい半分に別れる、という事を知っている。僕と僕の周りの言動が必ずしも世間の総意と同じではない、という事を知っている。
だから、尻尾を残す人を「人生損してるね」なんて誰も幸せにならない言い回しで揶揄することは決して無いのだ。

尻尾を食べるかどうかはその人の自由なので干渉するつもりは無いし、その人の判断を尊重している。だから僕も干渉されたくないし、僕の判断を尊重してほしい。
だが、センサーを潜り抜けてくる人の中にはごく稀にとんでもない無礼者もいる。
その無礼者は、尻尾を美味しそうに頬張る僕を見て「エビの尻尾ってゴキブリの羽と同じ成分らしいよ」なんて薄ら笑いを浮かべながら言ってくる。
うるせえよ!ネットで得た知識をそのままひけらかしやがって!祖先が一緒なんだからそりゃそうだろ!成分が一緒だろうが美味いなら食うわボケ!と、僕は無礼者に対して頭の中で唱えるのだが、実際に口から出るのは「あぁ、なんかそうらしいね。まあ美味しいならなんでもいいんだけどね…」といった、ほんの少しの抵抗を含んだだけの言葉。
こんな言葉しか返せない自分の弱さに驚く。どう考えても僕に非は無いのに、自分の惨めさが悔しくて、その夜は自室で人知れず涙を流す。

そもそも、何故にそんな情報を僕に投げつけてくるのだろうか。
過去に尻尾を喉に詰まらせて亡くなった家族が居て、僕が同じ轍を踏まぬよう遠回しに忠告してくれているのだろうか。いいや、そんな善人があんな他人を見下した表情をしていいわけが無い。
僕が「マジかよ!最悪!」と言って尻尾を吐き出しているところが見たいのだろうか。いいや、ピエロを演じるのは御免だ。

無礼者が僕に何を求めているかは分からないが、僕はこうしてやりたい。

すみません店員さん。『ゴキブリ羽フライ』を一つください。
お、きたきた〜!ありがとうございます!
じゃ、いただきま〜す!あれ、お前食わないの?
そっか。じゃあ俺1人で食っちゃうよ?
バリバリッ!
あ、めちゃくちゃ美味い!
食わないの?めっちゃ美味いよ。
いらない?ふ〜ん、そっか。
じゃあマジで全部食うからね?
ボリボリッ!
美味い!ちょっともう箸いらないわ!手でいっちゃうね!
ムシャムシャッ!バリバリッ!
うんめ〜〜〜‼️
ボリボリッ!バキバキッ!バリバリッ!
うっひょ〜‼️止まんねぇ〜〜〜‼️‼️
ムシャムシャムシャムシャッ!バリバリッ!ボキボキッ!
ゴキブリの羽うんめ〜〜〜〜〜‼️‼️‼️‼️ ‼️‼️‼️‼️
バリバリバリッ!ボキボキッ!ギャリギャリギャリッ!
あ、もう全部食べちゃった。
すみません店員さん!『ゴキブリ羽フライ』を、もう100皿ください!

ここで僕は、ドン引きしている無礼者に不敵な笑みを浮かべて言ってやるのだ。

「なぁ、これで満足か?」


この記事が参加している募集

今こんな気分

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?