日の名残り と 夜想曲 を読みました

カズオ・イシグロを読む運動はまだ続いている。

先日読んだ二冊と同じく「日の名残り」も「夜想曲」も主人公の一人称で進む物語だった。とは言っても、夜想曲は短編集で、語り部はいるもののあくまで物語の主人公となるのは別の人、というパターンもあったが。

「日の名残り」は、アンソニー・ホプキンス主演で映画化されたことは知っていたが、こんなにジョークの効いた物語だとは思わなかった。お話自体ではなくて、散りばめられたエピソードがくすっと笑ってしまうものなのである。主人公の生真面目な執事が生真面目に考えているからこそ面白い。

でも、所々で笑っているうちに、執事が振り返るこの人生は、一体幸せだったのだろうかと考えさせられていく。由緒あるお屋敷で尊敬すべき主人に仕え多くの従業員を束ねる、忙しいけれど充実した幸せな人生と見えていたものは、思い出すエピソードが増えるごとに少しずつ崩れ、読者に違和感を与えていく。本当は最初からその違和感は存在していて、気づかないのは鈍感な私のせい、という可能性もあるけれど、兎に角私はそう思った。取り戻せない、あったかもしれない人生を思って胸をつかれたけど、最後の執事の語りで少し救われた。


「夜想曲」は色々な味わいの詰まった短編集だった。全て音楽にまつわる物語である。そして、この小説、実は既読であったことに読み初めてすぐに気づいた。でも、以前はどういう感情で捉えれば良いのかわからなかったのだが、イシグロ節に慣れたのか、ある程度的確に読めたのではと感じている。

そもそも、イシグロさんの語り口はとても穏やかで繊細なので、ものすごく深刻なのか、それとも実はコメディーなのかが一見分かりにくいのだ。すごく上品な先生が教壇に立ち、素敵な声でかなりおかしな冗談を言っているような感じだ。私たち生徒はその雰囲気にのまれているので、冗談に気づくのが一拍遅れてしまう。今回は、先生の授業の進め方や性格にようやく慣れてきた2年生になれたのかもしれない。


今読み進めている「忘れられた巨人」は初の三人称長編である。しかもファンタジー(っぽい)!とても楽しみだ。


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