見出し画像

勢いと協働、メディアとコミュニティ - 『クラブと生活』の実践/inkyo・wanu・さのかずや

活動を始めることは難しいが、続けることはもっと難しい。ノリが合う人と協力して何かをつくることも難しいが、人を巻き込むことはもっと難しい。それはどんな場所であっても、どんなコミュニティであっても、「つくる活動」において共通していることのように思う。

クラブや、クラブで遊ぶ人々に起きていることを記録するnoteマガジン『クラブと生活』。見て見ぬ振りされがちな部分をしっかりと見つめながら、クラブの楽しさを伝えてきたinkyoとwanuの2人と、その活動で向き合った「勢い」の良し悪しと「協働」の難しさについてゆるく話し合った。

(文・佐藤遥)

inkyo:1996年早生まれ、東京拠点のフリーライター。今はおおむね引きこもっています。
https://inkyo-seikatsu.hatenadiary.com/entry/profile
wanu:1994年北九州生まれ。大学から上京。大学卒業後、記者/ライター/編集の仕事などをしています。今は病気であらゆることをお休み中。
https://note.com/apeapa
さのかずや:1991年早生まれ。株式会社トーチ代表。渋谷LUSHで開催しているイベント「TIPS」VJ。今はお気持ちがだいぶよくなってきました。
https://www.instagram.com/sanokazuya0306/
佐藤遥:1995年生まれ、札幌在住フリーライター。遠くにいきたいです。
https://satoharuka222.studio.site/writing


地獄の感情?

スクリーンショット 2021-08-19 23.59.15

さの:『クラブと生活』について話を聞いてみたいなと思いまして、運営を始めたお二人に来てもらいました。ゆるく話せたらなと思います。

wanu:前回の記事、読みました。おもしろかったです。ゆるくていいなって。

さの:あんな感じの、太めのテーマがあるけどトーンはゆるい記事、意外とないよね。

inkyo:ないですね〜。

wanu:ゆるいのって難しくないですか?わたしは何でも詰めちゃうタイプなので、『クラブと生活』の記事も作り込んで硬い感じになっていたし、活動自体も根詰めてやっていて「地獄の感情」だったことに気づきましたね(笑)。

さの:「地獄の感情」?

wanu:う〜ん、何かを作ること自体は生産物ができるからポジティブで楽しいんですけど、わたしの場合、作りたいっていうモチベーションはイラつきとかのネガティブな気持ちから出てくるんですよね。

さの、inkyo:めっちゃわかる。

wanu:だから追い込んで生み出したいものと向き合っているときは、自分の中のネガティブな感情と向き合っているのと同じというか。そのときの感情が「地獄の感情」ですね。

さの:なるほど〜。

wanu:当時『クラブと生活』をやろう!ってなったのは、イラッとすることが楽しいことよりも目につき始めたタイミングだった気がします。最初の打ち合わせは喫茶店に丸一日いたんだよね。クラブでの愚痴とかも話して。

inkyo:8時間くらいしゃべってたらしい。イラつきが原動力になる始め方とかがさ、似てたんだよね。

wanu:ポジティブにものを生み出す二人ではなかったから。「地獄の感情」みたいに自分のネガティブな感情を説明してわかってくれる人は結構少ないと思っていたので、自分から人を誘えなかったけど、inkyoちゃんは稀有な人だった。

inkyo:奇跡の出会いみたいだったよね。

wanu:そうそうそう、それは思った(笑)。初対面のときはこんなに話すと思わなかった。

inkyo:物事にはまっていくスピード感とかも似てるんだよね。初速がめっちゃ速くて、やりたいと思ったらすぐにばーって始めるみたいな。

wanu:そうそうそう。それで急にプツンと終わっちゃう。そういう性格がたまたま合致したから『クラブと生活』の活動が勢いで始まった感じはあるよね。


「小さなこと」の積み重なり

さの:『クラブと生活』を始めるくらいのときは何にイライラしてたの?

wanu:象徴的なきっかけがあったわけじゃなくて、些細なイラつきの積み重なりですね。それを消化するために「自分なりのアウトプットをやらないと!」って思っていた気がします。

inkyo:そうそうそう。二人ともクラブに通うようになってちょうど1年経ったくらいで、中にある悪いものを含めていろんなものが見えてきたタイミングだった。

wanu:いろんな人と知り合いになって関係性ができてくると、自分が社会で見てきた嫌な男性性みたいなものがクラブの中でも結構見えて、うわ〜っていう。

inkyo:あるね〜(笑)。自浄作用はないんだなっていう話もした気がする。普通に社会で起きていることの縮図がそこにあるっていう感じだよね。「あ、最悪ってここにもあるんだ」って。

さの:男目線だからかな、全然イメージがつかない。どんなやつらがどんなことをしてたの?

wanu:はは(笑)。いや、具体的に名指しするのはアレですが(笑)。……なんか、……なんだろう(笑)。まあ、女性が男性からの性的な意味でのお誘いを断ると、「せっかく声をかけてやったのによ」っていう話を男性陣の中でネタにして広めるとか。たぶん向こうは無邪気にそれをやっていて、悪意はないんですよ。日常的にあるじゃないですか、そういうことって。

inkyo:うんうん。

さの:あ〜。

wanu:非現実的な場でもあるからテンションが上がってやっちゃったのかもしれないけど、言われた側、された側ってそのことを覚えているんですよね。そのときは笑って流すけど、酔いが覚めたときにすごく嫌な気持ちになるっていう。

inkyo:うんうん。「クラブは特別な場所、なんでも許される場所だと思うのはやめてくれよ」っていう話はめっちゃしてたよね。

wanu:あと、だいたいそういう男性のほうが出演者だったりして、いろいろ言ったらハブられるのがわかっているから言わない判断をするみたいなことはよくありますね。

inkyo:そういうのが起きたときにさ、結局嫌な思いをしていなくなる羽目になるのは、お客さんの女の子が多いんですよね。

さの:あ〜なるほど?おれの目線だとピンと来ないことかも……。


「クラブ」と「生活」は地続き

さの:そういう話をして、実際に『クラブと生活』を始めるにあたって、どういうことを目指して始めたんだろう?

wanu:始めたときは「地続きにある」っていうことの言語化を目指していました。それで『生活』っていう名前をつけたのもあります。

inkyo:うんうん。名前を付けたのはwanuちゃんだったよね。

wanu:クラブに行くことが生活の一部であるのと同じように、クラブでのイラつきとかムカつきとか嫌な出来事も、その一瞬だけのものではなくて、朝になったらまたやってくる普段の生活の中にある。これを、いかにイラッとさせずに伝えるかを考えていましたね。直球でセクハラの話をとりあげたら、それを読んでほしい人たちは絶対読まないから。「クラブにいる人たちのやってきたことが今に繋がっている」っていう記事を書いていけば、「『ハメ外したけどまあいっか』を毎週やったらそれは『まあいっか』じゃない」ってことが伝わるかなと思っていました。

inkyo:最初にwanuちゃんと8時間しゃべったとき、「クラブのカルチャーって全然残っていないよね」って話もしたんです。たとえばVISION(渋谷にある最大1000人収容の大きなクラブ。カルチャー性の強いイベントを含め幅広いパーティーを開催している。)とかでググるとギラギラしたちょっと怖い感じの写真ばかりで、実際にどういうパーティーがあるかとかは全然残ってなくて。DJにインタビューしているメディアももちろんあるけど、やっぱり有名なDJしか取りあげられてないし。せっかく私たちはこの1年で、クラブの楽しいところにいっぱい感動したのに、それが残ってないのはなんでなんだろうって思ったんです。そこの場所で私たちよりもっと前から遊んでるお客さん、DJ、箱の人とかがいるのに、なんでやってこなかったんだろうって。

wanu:プレイヤーとか音楽に詳しい人たちが書くメディアはあるけど、クラブのことがカジュアルに書かれているものはあまりないじゃないですか。わたしたちみたいなお客さんの視点で書かれた記事のほうが、クラブに行ったことがない人たちにとっては読みやすいだろうなとは思っていました。「地獄の感情」にならない、ポジティブな話だとこういうのがありましたね。

inkyo:「そこにいる人たちが誰のなんて曲で踊っているか」にも興味はあるけど、曲だけに人が集まっているわけじゃないと思うんです。「なぜクラブは人を集めるのか、そこにはどんな楽しさがあるのか」ということのほうが、わたし個人としても興味があるから、クラブで遊ぶ人の声を残していきたいなって。だからやっぱりお客さんに参加してほしかった。二人のやろうとしていることをすり合わせなかったのは、お客さんに参加してほしかったからでもあるよね。

wanu:同じお客さんという立場の人に気軽に参加してほしかったんですよ。だから誰でも書いていいですよ感を出したくて。

inkyo:でもさ、コンテンツを作るなんて面倒くさいことには巻き込まれたくないよね(笑)。


できたこと、できなかったこと

さの:二人が中心になって、いま20本くらい記事が出てると思うんだけど、実際にやってみてどうでした?

wanu:思ったよりも最初からポジティブな反響が多くてびっくりしました。ツイッターでもクラブでも、クラブに行ったことがない人からも。こういうコンテンツって、つくり手の視点で書かれたものではないから、音楽をやっている人たちからしたら面白くはないだろうと思っていました。なのでそういう人たちからも好反応だったのはちょっとびっくりしましたね。

inkyo:あとさ、友達がその友達に「『クラブと生活』のinkyoちゃんだよ」って紹介してくれて、「あ!知ってます!」って言ってくれたり。

wanu:そうだね。できなかったことでいうと、負の感情で始めたからポジティブな反応が多かったことで、逆に「そうか…なるほどね…」みたいな気持ちになって火が消えちゃって。一番の問題はそのあとに「もう一度やらなきゃ!」って思えなかったこと。

inkyo:活動がちゃんと続くように、わたしたちができないスケジュール管理をしてくれる人に参加してほしかったよね(笑)。

wanu:それを願って見切り発車しちゃったから、事前にルートを作っておくのは大事なんだなって始めたあとに気づきました。

inkyo:仕事じゃない記事を作ることでかえって締め切りを設けて、お金をもらう責任も持ちながら書くことの大事さが、やっていくうちにどんどん分かってきましたね。

wanu:わかるわかる。「仕事で記事を作る時、制作進行に仕切られているのはすごく大事なことだったんだな……」っていうメディアをつくる上での気づきはあったね。


続けることと人を巻き込むことは、やっぱり難しい

さの:おれは二人が『クラブと生活』を始める前に、「こういうことをやろうと思っているんです」みたいな話を新宿の喫茶店で聞いたけど、「いつまでも続くわけじゃないからウェブ以外のアウトプットを一区切りの目標にするのはどうか」って話した気がする。

wanu:目標を作ろうって二人でも話したんですけど、二人とも「始めること」が好きなので、とりあえずやってから考えよう、で終わっちゃって。そしたら結局さのさんの言った通り、ウェブにあがって終わりになっちゃいました(笑)。「会社とかの縛りがないなかで継続することってなんて難しいんだ」って、やってみてわかりました。

さの:そうですね〜。何やるにしても、始めることがいちばん楽しいもんね。

inkyo:いや〜ほんとそう。だから逆に、よくこんなに記事が出たなとも思う。最初から誰かの参加を当てにしてたけど、やっぱり人に頼んだり人を巻き込んだりするのは難しかったね。

wanu:難しかったね。

inkyo:うん、お金払えないからさ。たとえばZINEを作るとなると、わたしは文章を書くことしかできないから、デザインやってくれる人とかを巻き込まなきゃで。でも自分も大変さをわかっているから、無料で「お願いします」って誰かを名指ししてやるのが、気持ち的にも難しかった。コロナ以後の遊びにいけない状況的にも、「みんなそんなにモチベーションもないだろうしな…」とかいろいろ考えちゃって、腰が重くなっちゃいましたね。

さの:人を巻き込むのって本当にむずいよね。これはおれにとっても永遠のテーマだけど、自然に人を巻き込めちゃう人っているじゃん。たとえばイベントの主催で「イベント遊びにおいでよ」って言われて遊びに行きたくなる感じの人。そういう人を見るとすごいなって思うし、そういう人の周りには人が集まる。陽キャのパワー、まじですごいなって。

wanu:わたしたちには陽のパワーが足りなかったのか…。

inkyo:クラブに1人で行くタイプの2人だから…?。

wanu:思えば巻き込むほどの関係性を築けている友達っていなかったですね。当初は二人の話が合ったから前向きになっていて、「わたしたちにはまだ見えていないだけで同じことを考えている人がいるんじゃないか、何か始めたら集まってくれるんじゃないか」って思ってました。

inkyo:そうだね。それこそ自分の行くパーティーにはテンションの合う人がいるみたいな感じで、やりたいことが合えば自然と誰かが集まってくれるって希望を持ってたんですけど。

wanu:そんな簡単じゃなかったですね。


公にするエネルギー

さの:「テンションが合う人たちが同じパーティーに参加する」ことと、「やりたいことが合う人たちが『クラブと生活』に参加すること」は、どう違ったんだろうね。

wanu:必要なエネルギーが全然違うじゃないですか。パーティに行くこと自体は一晩で完結するけど、記事を作るにはかなりの作業量が必要で。そこまで時間と労力をかけてもらうのは難しい。

inkyo:遊びか仕事かくらい違うと思う。

wanu:わたしたちをはじめ、いわゆるライターとか文章を書く人って普段はお願いされる側にいるんですよね。だから人を巻き込む側、お願いする側のお作法がわかってなかったかもしれないですね。

inkyo:あとは、二人のできることが書くことで、最初に出したコンテンツも文章だったから、「誰でも動画や写真で参加してもいいよ」って言ってはいたけど、書かなきゃいけないと思われちゃったのもあると思う。あとは取材をするにも、しゃべってくれる人があんまりいなかった。クラブと言葉って相性が悪いのかもしれないよね。クラブは解放感を楽しむために行く場所でもあるから、そこで起きていることをわざわざ言葉にしたり難しく考えたりするのは、あんまりしたくないと思うんですよ、特にお客さんは。

wanu:お客さんもコンテンツを見る人にはなってくれるけど、出たり書いたりはしたくない人が多いだろうなとは正直思うよね。もらったレスポンスもポジティブだけど一歩引いたものが多かったので。「頑張ってね」みたいな。

inkyo:めっちゃ言われたね。「楽しみにしてるよ」みたいなね。だからやっているうちに「ひとりだなあ」ってどんどん思うようになった。

wanu:そうだね。

inkyo:実際にさ、クラブで会う友達と「ああいうナンパのされ方が嫌だった」「あのパーティーどうだった?」とかはしゃべったりするじゃん。でもそういう話題を記事にしようってなると責任を感じてしまうんだろうなって思う。

wanu:もちろんすごくありがたいことなんだけど見る人を最初に結構集めちゃったせいで、気軽に「書くよ」とも「出たいよ」とも言えないものになっちゃった感じが正直あるよね。

inkyo:ツイッターのフォロワー数も予想の10倍以上だったしね。頼まれたほうは「400人に向けて書くの?」ってやっぱりなっちゃうよ。

wanu:そうそう。ネットの400人ってそんなに多い人数じゃないけど、クラブの界隈の400人っていうのは結構多いじゃないですか。なんとなく顔を知っている人も多いし。

さの:そこから路線をどうにかしようか考えたりしたの?

inkyo:いや〜もうその前に終息しちゃったよね。

さの:一度お休み状態になったあとに2019年の夏頃、クラブでのセクハラをやめてほしいって呼びかける署名活動があったじゃない。

inkyo:あの署名は『クラブと生活』でやったわけじゃないんだよね。わたしも怒ってたけど。

wanu:そうなんですよね。あれも勢いでやってしまったというか……。リベラルなことを言うんだけど実際に行動しない人が自分の周りに多くて。問題があったときにツイッターでのお気持ち表明で終わらせちゃうような。そういうのが目に付いたっていうことにめちゃめちゃイラついちゃって、名前書くぐらいならやるかなと思って、勝手に始めました。始めたあとに、せっかく『クラブと生活』があるからタグをつけたっていう感じですね。実際にクラブに張り紙をしてもらうっていう変化もありましたけど、あの後剥がされてるクラブもありますし。ここも見切り発車で終着点は決めていなかったですね。


「『クラブと生活』やんないの?」

さの:そのあとLINEオープンチャット作ったりDiscord始めたり、色々やろうとしていたように見受けられたけど、それは何をしようとしていたの?

inkyo:それこそゆるさを求めてですね。コンテンツとして残らなくても、しゃべる場があるだけでも違うかなって。Discordのチャンネルを作るのはannaちゃんに手伝ってもらって始めました。実際にしゃべってみたりもしたんですけど、当たり前に入りにくいし、Discordの使い方がよくわからない人もいるし、何が失敗だったとか何が成功したとか以前に何もできてない感じがありますね。あ、思い出したんだけど、その頃は「今こそ『クラブと生活』やったほうが良くない?」って言われてやってる感じだったよね。

wanu:そうそう。周りに言われて「たしかに」みたいな。

inkyo:コロナ初期のだんだんクラブで遊べなくなって自分のモチベーションもなくなり始めた時期に、「『クラブと生活』やんないの?」って結構言われたんですよ。それが重くなっちゃって。「そこで楽しめないのになんでクラブのために一生懸命やらなきゃいけないんだろう」って思ってしまうこともありました。最初は自分たちがやりたくて始めたのに、人に求められてるからやんなきゃいけない状況になって、そのバランスが逆転しちゃったんですよね。それに「だってやってくれないじゃん、参加してくれないじゃん」って思うし。

さの:でもそのあと誰かに記事を頼んだりとかはしてたよね?

inkyo:クラブで踊れなくなってどう?っていう話を聞く記事が3回出たけど、それもなかなか集まらなかったですね。あと、コロナはみんなにとって未知のものだったから言葉にできないのもあったと思う。いまだったら1年以上経ったし、みんなしゃべれるんじゃないかなって思ってもいるんですけど。


クラブに行けなくなって

さの:コロナが始まったくらいからあんまり活動してなかったけど、wanuちゃんが元気なくなったのは何がきっかけだったの?

wanu:前に勤めていた会社でいろいろあったのが原因ですね。尊敬している女性の先輩が会社からの評価に怒っていなくなっちゃったんですよ。そのあともその先輩と連絡を取っていたら、会社がそのことを気にくわなかったのか、上からの当たりが強くなってきて。気持ちのリソースが職場でのことに割かれていたので遊ぶどころじゃなくなっていました。それで元気がなくなってクラブに行けなくなったんですけど、行かない場所に対して自分のリソースを割くことってできないじゃないですか。だから行かなくなったことは『クラブと生活』を続けられなくなった原因として結構大きいかもしれないです。

さの:元気ってなんなんだろうね?モチベーション?

inkyo:モチベーションももうほぼないですよね。わたしたちがやりたいことって、クラブのグレーな部分に突っ込むとか、手放しで楽しめることをわざわざ言葉にすることだから。前は片手に『クラブと生活』、もう片手に現場があるから「クラブ最高、楽しい、音楽最高!」っていう気持ちがあってバランス取れてたけど、いま現場がないのに、その苦しい部分だけを見つめていくのは難しいですよね。行かないから怒ることもそんなになくなってくるし。

wanu:それは絶対そうだね。わたしに至ってはもう負の感情さえも向いてないので、クラブについて何か書けって言われても、何を書けと……?ってなっちゃう。やっぱり楽しいことに言葉を尽くせる人間ではないんですよ。負の感情を「わかってほしい」という気持ちが強くて、それは他人に向いているから言葉を尽くせる気がします。

さの:でもYOSA&TAARの記事は楽しさが出ている記事だなと思ったけど。

inkyo:その記事はたしかに好きな人たちの楽しいことだから残したいっていう気持ちがありましたね。だけど根本にあるのは、「脈々と続いているローカルカルチャーがちゃんとあるのに、なんで誰も記録しようとしないんだろう」っていう思いです。口伝だとコミュニティーに入った人にしか伝わらないから。ツイッターで「楽しかった~!」と言ってるだけじゃ残らないですからね。


まずはしゃべることから

さの:このあいだ、discordでデモについて話すチャンネルを立てていたよね。思った通りにはできなかったみたいだけど、どんな感想だった?

スクリーンショット 2021-11-29 17.24.47

inkyo:わたし自身、実際にサウンドデモに行って、モヤっとするところがあったんです。それをツイートしたことをきっかけに何人かとDMでやりとりして、いろいろと考えている人もいるんだなと思いました。1、2年前からDJを使ったデモに見知った顔があんまりいないのが不思議だったんですけど、もしかしたらデモのやり方自体に不満を持っているからなのかもと気づいて。だったら賛成反対いろいろあるだろうけど、いくつか意見が見えたらいいし、とりあえずしゃべる場を開いてみようかなと。でもオープンな場で「じゃあしゃべってみましょう」ってなるとやっぱりなかなか難しいよね。

wanu:表に出るとなるといろんな人がいるし勇気がいるかも。それこそ怒りのモチベーションとかがないと表に出て話すことって難しいし。

inkyo:あと、行っていないから意見しちゃいけないと思ってる人もいたと思う。Discordでしゃべる難しさはわかっていたから、しゃべれた量は少なかったけどそんなもんだよなって。

さの:なるほど。自分もメディアや会社をやってみて大体同じようなことは思っているけど、実際に自分たちがこうだったらいいのにって思うところに向かっていくにはどうしたらいいんでしょうね。

inkyo:デモの話も結局「今のデモに不満があるなら、じゃああんたはなにをするの」っていう話になるなと思っていて。今すぐ新しいデモを始めるみたいなことは難しいけど、小さな一歩として、こういう雑談レベルでいいからしゃべることはできるなって改めて思ったんです。最近は雑談さえ減っているじゃないですか、クラブに行かないからする場所もないし。

wanu:議論できる人たちは既にしてるよね。だから、いま議論に参加していない人たちを外に引っ張り出すのはすごく難しいと思う。

さの:引っ張り出すってできるのかな?

wanu:本当に余裕とか興味がない人に出てきてもらうことは、難しいんじゃないかっていう感じが正直しますね。わたしはいま自分が大きな病気になって生活自体がちょっと大変で。もともと政治や社会に対してあーだこーだ言ってたタイプの自分でも情報を受け取るので精一杯で。前はSNSでもリアルでも積極的に議論に参加できてたけど、いまはもう無理ですね。そんな元気ないよって。自分がそうなってみて出てこない人たちもそれぞれ大変なんだとわかりました、気持ち的なキャパも人それぞれだし。

さの:そもそもインターネット上で議論することが結構むずいよね。ツイッターだと届いているようで誰にも届いていない。

inkyo:でも種を撒くみたいにいろんなことに意見しまくって、相手の意見を聞くスタンスでいることは、効果はすごく小さいけど、今のところ唯一やれることなのかなって。デモの意見をDMで聞きながら、やっぱり大事だなと思いました。それをしながらもっと効率のいい方法を探っていきたいですね。

さの:たしかに、それしかないんじゃないかって思うところもあるよね。おれも最近ツイッター開いてDMだけして、会ってしゃべって帰るっていうことをしたり。そういうことのほうが大事だなって思う。

wanu:でも自分だったら、わたしみたいな人に「会いたいです」って連絡するの嫌ですね。理由は怒られそうだから(笑)。ツイッターの文面も硬いから怖いと思われているし。ここで言う議論に参加していない人って、わたしたちとは違うタイプの人だから、そういう人たちにアプローチするのは難しそうだなと思います。もっと若い頃はメディアの波及力みたいなものを信じてましたけど。

さの:まあ状況が変わってきてるのもあると思うよ。今のメディア環境が興味ある人に伝わりやすいように、興味ない人に伝わらないようにできているからね。

inkyo:どうしたらいいんでしょうね。こんなに絶望したりとか、もう方法はないんじゃないかなと思うのに、やっぱり世の中もクラブのことも、ある程度よくしていきたいなと思っちゃうし。なんかシンプルに自分が快適になりたいから。

wanu:そうそう、自分の不快を少なくしたいのはやっぱりあるね。


『クラブと生活』の向かう先

さの:というところで、『クラブと生活』はこれからどうしていきますか?

wanu:う〜ん……、先述したようなDiscordで話すっていうのはちゃんとやれたら楽しそう。だけど、雑談でいいってわかってもらうのは難しそうだね。

inkyo:それこそ前に、『MODERN DISCO』に来る名古屋の人たちとDiscordでしゃべったんですよ。そのときに誰も面識がない人がひとりだけ入ってきてくれて。でもやっぱり自己紹介したあと、その人はずっと黙る感じになっちゃって。だけど、そこでもいいから、なんかしゃべれたらいいんだろうな。

さの:クラブだと内輪なのかオープンなのかの境目がすごく曖昧になるけど、オンラインのビデオ通話とかだとなかなか難しいよね。

wanu:そうなんですよね。こういうサービスの特性ですけど参加者が見えるじゃないですか。それでハードルはちょっと高いのかもしれないですよね。アカウントと個と結び付けられると言いたいことが言えない人とか、聞いていることすらあんまり見られたくない人とかいると思うので。

inkyo:インターネットの「いますよ」って強調される感じもつらいですよね。

さの:うーん。まあそのへんを柔らかくしながら雑談するみたいなのはできそうだし、なんかやったら面白そうな気がする。

wanu:一昔前の凸待ちのニコ生みたいな(笑)。例えばDiscordだけ公開しておいて「自由に入ってきていいですよ」って。聞きたい人たちは、キャスとかYouTubeとか別の所で聞けるようにする。そうすれば聞くハードルは下がるのかなって思いました。

さの:逆にいまラジオが出てきてるじゃん。ラジオってひたすら一方通行だし、みんながみんな参加したいわけじゃないことの現れな感じがするよね。

inkyo:ポッドキャストもちょっと考えたんですよ。パーティーに行った感想を5分でしゃべるみたいな。でも名前を出さずにやるのが難しくて。テキストにするハードルはなくなるけど、出てもらうことのハードルはやっぱり高いままで、別に解決はしないなという。でも、とりあえず『クラブと生活』を完全に辞めちゃう必要はないのかなとは思いますね。

wanu:年1で動かすとかでもね。やるにしても無理しない、自分を追い込まない範囲で。

さの:たとえば、わーってやって消えるのを年に一回でもやっていれば続けていることになる気がするよね。あとは、一瞬燃えるタイプの人たちが交代で燃えるとか(笑)。

wanu:リレー形式で燃え尽きるのか(笑)。

inkyo:なんにしても人に入ってきてほしいです。燃える人でも、まとめられる人でも。最近はこの記事を書いてくれるハルカちゃんも、まだ水面下ではあるけど企画を動かしてくれていてすごくありがたいんです。ハルカちゃんの存在や今回のインタビューでまた少し気持ちが上向きになってきた気がするし、「最近どう?コロナ禍まじきついよね?」みたいなことを率直に話すコンテンツはやっぱりやってみたい気もします。あとはなにより自分自身がクラブの楽しさを思い出したいですね(笑)。

wanu:この話し合いがきっかけで、わたしもまた何かやりたくなるといいなと思っています。このインタビューを受けたこと自体、自分にとっては前向きな判断だったので。負の感情が原動力になっているという自分の良くない特性も改めて見つめ直すきっかけになりましたし、次は熱くなりすぎず継続的に何かできるようになりたい……。


画像4

画像3


ライター:佐藤遥
編集:さのかずや
カバー画像デザイン:キシリュウノスケ
写真:Shotaro Shiga



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?