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009『西日本を歩く4~福岡・大分・宮崎・鹿児島~』

文:守屋佑一

2010年9月15日

前日に九州に突入し、北九州市のコロナワールドの漫画喫茶で夜を明かした僕たち3人は、朝からしっかりと牛丼屋で朝食を摂り、福岡城址に少し寄ってから次なる街を目指した。

小田原に戻らねばならない日が決まっている以上、計算ミスは許されない。前半に少しでも距離を稼いでおかねば、九州を一周し、日本海側まで廻ることはできないかもしれない。

この日はできれば宮崎、いや、鹿児島までいこう。そういうことを3人で決めた。下道で、北九州から鹿児島へ行くということは観光スポットをゆっくり見ている暇なんかない。

見るべきものをゆっくり見れない以上、食だけにはこだわりたい。

漫画喫茶においてあった観光ブックでしっかり予習し、この日の昼食は大分のとり天に狙いを定め、海沿いの国道10号線をひた走った。

12時過ぎに大分とり天発祥と言われる「東洋軒」に到着。平日だというのに車はいっぱいで少し並んでいる。これは期待できそうな店だ。そう思い、意気揚々と店に入った僕たちに少しのハプニングが起きた。

僕は最初、そのハプニングに気づかなかった。それはあまりに自然で違和感を感じさせなかったからだ。それに気づいたのはS。SはTYの首にあるものを指摘した。

「それ、つけっぱなしで体と一体化して外すの忘れてるじゃん」と。

TYの首についていたものは、Sのタオルケットに続く旅のお役立ちアイテム、ネックピローという首につける枕だ。

このネックピローがあれば長時間にわたる車の移動も快適に過ごせる。TYはネックピローのもつあまりの快適さに外すのを忘れてしまっていたのだ。それはまるで漫画「すごいよマサルさん」の主人公花中島マサルが肩につけているアレのようであった。ぼくは2015年のいまだにネックピローを使用したことがないのだが、このエピソードがとても心に残っていていつか機会があればネックピローを使ってみたいといつも思っている。

そんなハプニングはさておき、大分名物とり天はボリュームも十分で満足する美味しさだった。実は僕はこの東洋軒に2015年の4月にも再訪している。

店を出た僕たちはまたひたすら西へ進む。温泉好きとしては別府温泉はチェックしておきたがったが、入浴なんてしてしまえば軽く1時間は浪費してしまう。ましてや地獄めぐりをしようもんならこの日のうちに鹿児島にたどり着けなくなってしまうということで泣く泣く断念。

今思えばもう少しゆっくりいろんなものを見てもよかったかもしれないが、この時は若さゆえかただ進むことしか考えていなかった。

移動がメインの旅だったが、その移動の中にだって楽しみはたくさんある。コンビニでの休憩がその一つだ。

九州には本州では見かけないエブリワンとRICマートばかり見かけた。

コンビニに寄る機会はトイレ休憩や運転の交代など実にたくさんあって、その全てでしっかり商品を購入した。

コンビニだけでなく、陳列される商品にも本州との違いがある。

以前にも少し書いたが、この年の夏はとても暑かったのでアイスをよく食べた。アイス売り場を覗くと「ブラックモンブラン」「トラキチ君」「こんなアイスしっとるケ」など明らかにみたことのないアイスが並ぶ。運が良ければ棒には10点20点などのこれらのアイスのシリーズを買うときにつかえる金券がわりの文字が印字されているのだ。チープであるが、地元の人が普段食べるものを食べ、確かに九州にいるということが実感出来る。こんなことはメジャーな観光地ばかり回っていては経験できなかっただろう。下道の貧乏弾丸旅行にはこんなことがあるから面白い。

大分の山あいを抜けると宮崎に突入。視界が開け、ひたすら気持ちの良い海沿いの道。時間はだんだんと過ぎ、宮崎市内につくころには18時を過ぎていた。

この時、宮崎は東国原知事ブーム真っ只中。街中に「どげんかせんといかん」のスローガンが飾ってあったりした。ここで夕食をとる。夕食は宮崎県庁のすぐそばのお店で冷汁。本には農民食とかたしかそんなことが書いてあったのだが、入ったお店はどこかセレブリティーな雰囲気を感じさせるところで、パジャマ同然の僕たちの格好では少し場違いだった。

しかし、この冷汁がとても美味くてそんな気持ちは吹っ飛んだ。実は僕がこの旅で一番美味しいと思い、印象に残っているのはこの冷汁かもしれない。

外食というのはいかんせん味が濃くて脂っこいものが多いもんである。それはもちろん一概に悪いこととは言えないが、そういうものばかり食べているとこの冷汁のような素朴な食べ物はとても体がほっとする。

これ以来冷汁は食べていないが、是非ともまた食べたいと思える優しい味だった。

体に優しい夕食を食べてほっとしたのもつかの間、この日の予定地である鹿児島にはまだ到着していない。落ち着く暇もなく僕たちは車を走らせた。

鹿児島に到着したのはこの日も23時を回っていた。すっかりこの旅では夜中に目的地につくことがおなじみとなった。鹿児島では漫画喫茶がすぐに見つからず、いわゆる健康ランドに泊まることとなった。

少し歩いた夜の鹿児島の街は明治維新関係の歴史の匂いがたくさん残されていた。街全体が歴史の匂いと観光へと力を発揮していた。

健康ランドは漫画が少しだけ置いてあった。漫画喫茶では好きな本ばかり読んでしまうが、健康ランドではある本を手に取るしかない。僕たち3人はなぜか手塚治虫のブッダを手に取り、読みふけった・・・今まで読むことのない名作に触れ、新境地を開拓した気分。余談だがSは小田原に帰った後、ブッダを全巻購入していた。

仮眠室のテレビでは大人気アニメ「けいおん」の最終回が流れていた。旅に慣れてきた4日目。

漫画喫茶とはまた違う雰囲気のなか僕たちは眠りについた。


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