人魚姫コンプレックス
シャンプーの香りを選び髪を洗い、頬を磨き、睫毛と唇をグロスで濡らす、デコルテから胸を覗かせ、誘惑する者を気取っても、私の下半身は硬い鱗に覆われて、ひんやりと、青暗い海の中へ沈んでいました。
男たちを惹きつけたという確信は、過剰に満ち溢れたかと思うとたちまち引いてゆく。
とっくに見透かされているのかもしれないと恐れつつも、全身を見せる勇気を持てないでいました。
ところが、あなたと視線を合わせた一瞬が、我が身の鱗を、恥じていると認めようとしないほどに恥じていた、私を、陸に上がらせることになるなんて、何かを魔法という名で呼ぼうとするのなら、あの時私は魔法にかかったのです。
何の根拠もなく受け入れてもらえると信じあなたを追い、あなたに『私』を晒しました。
あなたは私をそっと抱き寄せ、キスをしました。
私の半身は熱を帯び、鱗はさらさらと溶け崩れ、剥がれ落ちました。
淡いしびれとともに、今まで聞くことのなかった、甘い、自分の声を聞き、気付かないフリを通していた、腰と、つま先、というものの感覚を、確かに掴みました。
二本の白い脚が開かれる。
海が、遠ざかります。