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11月5日 ファミ通買ってきたソラ 特集は桜井政博さんソラ

 ファミ通1718号を買ってきた。特集はゲームクリエイターの桜井政博さん。ご存じ『スマッシュブラザーズ』のディレクターで、その『スマブラSP』の長く続いたダウンロードコンテンツが終了、そのタイミングに合わせて18年間続いていてコラムも終了。世界的クリエイターが連載を終了するということになって、それを記念したでかい特集が組まれた。

 それにしても表紙は「ファミ通」の「ミ」と「通」に頭がどっ被り。雑誌タイトルを隠してでも桜井さんを引き立てる。雑誌としての余裕が見えて取れます。

ファミ通掲載版はこちら
『スマブラSP』インタビュー。桜井政博氏がDLC制作秘話や配信番組の裏話、今後のことなどを語り尽くした!

 桜井政博さんは若く見えるけど、もう51歳。とある動画番組で話をしていたけれど、そろそろ引退も見えてきた年齢だ。
 60歳引退って早くないか……??
 でも考えてみれば、「ゲームクリエイター」は「クリエイター」である以前に「会社員」であるから、「60歳引退」というか「定年」になる。
 ゲームの制作技術というものは会社が保持しているものだから、ゲームクリエイターは定年退職すると「ただの人」となる。インディーズで……というのもなくはないけれど、ゲーム制作技術やそれに必要な予算は会社が持っているものなので、個人に戻ってから同じようにゲームを作れるか……というとそういうわけにもいかない。一人だとできることが何もない……というのがゲーム制作に難しい話だ。

スマブラSP R

 『スマブラ』シリーズは『スマブラ for 3DS&WiiU』の制作の時に、バンダイナムコの中から選抜して集められたスタッフで、そのスタッフがSwitch版『スマブラSP』までの制作を担当した。それも今回解散となる。
 ゲームを会社で作っていたら、ディレクターが抜けたとしても、それに関わったチームは残るわけだから、そのチームが制作すればまったくかけ離れた作品ができるというわけではない。そういう作品は世の中一杯ある。ゲームシリーズの大半はこうやって属人性が排されて存続している。でも、『スマブラ』の制作チームも今回解散となる。
 するとまた『スマブラ』を作れるか……という話になると……。
 まずどこにもノウハウが蓄積されていない状態から始まる。またチームの選抜から始めなければならない。『スマブラSP』は3DS&WiiUのスタッフがそのまま続投したからあのスピード感でSwitch版が出せたのだけど、次ハードの新作……という話になると……。『スマブラ』を制作したノウハウがどこにも蓄積されていないから、そこそこ時間が掛かるはずだ。『スマブラ』の核となる人物は最後まで桜井政博さんだったから、そう考えるともう本当に次はないかもしんない。

 『スマブラ』はかなり特異な作品で、もしも私がこのゲームを作ろうと思ったら、まず時間が3倍くらいかかる。「あのゲームキャラクターを出しましょう」といっても、それを調べるところから始めなければならない。古いハードを引っ張り出して、中古市場を探して……。さらにそのゲームを最初からプレイして……。どんだけ時間が掛かるんだ。
 ところが桜井政博さんの場合、脳内にゲーム百科事典がインストールされている。Wikipediaにも載ってない情報満載だ。おまけにゲームコレクターなので、大抵のソフトは持っている。そんな人はそうそういない。本人がいるなら、ネットで調べるより聞いた方が早いくらいだ。
 いろんなゲームのキャラクターを掘り下げて格闘ゲームのキャラクターとして反映させて……。誰がやっても、時間が3倍くらいかかる。『スマブラ』を桜井政博さんと同じように制作することは、誰にもできない。

スマブラSP ソラ参戦

 最後の参戦キャラクターにディズニーが権利を保有する「ソラ」が登場したけれど、ソラの参戦が実現したのは桜井政博さんへの信頼感というのがまずあったはずだ。別の人がディレクターだったら実現はなかったかも知れない。

 『スマブラ』の追加ダウンロードコンテンツキャラクターをずらっと見ていても不思議なのは、これだけやっていてバグが出なかったこと。というのも、後の追加キャラクターは「特別仕様キャラクター」ばかりだった。
 まず『Minecraft』より参戦のスティーブ/アレックス。このキャラクターの追加により、どこを掘ってもアイテムが手に入るように、全ステージのプログラムを書き換えたそうだ。
 もう一つの難物キャラクターは『ゼノブレイド2』のホムラ/ヒカリ。明らかにキャラ造形が他のキャラクターと違っている。紹介ムービーでも「角数の多さ」を挙げていたけれども、実際、モデリングのこだわりようが凄まじい。しかもこのキャラクター、ゲーム中にいつでも切り替えができるという仕様だ。ということは8人対戦で全員がホムラ/ヒカリを使用した場合、16キャラクターがいつでも動くように待機しなければならない……ということになる(さらにアシストキャラも登場してくる)。これを実際やっても処理落ちすら起きないというから凄い。Switchのスペックはそんなに高くなかったはずなんだが……。

 他の意味でも特別仕様キャラクターばかりだった。例えば『餓狼伝説』のテリーは100%以上の蓄積ダメージが入ると超必殺技が使えるようになる。『ドラゴンクエスト』の勇者には魔法コマンドが出てくる。『バンジョー&カズーイ』には使用回数に制限のある技がある……などなど。格闘ゲーム出身キャラで1対1プレイをすると、ほぼ格闘ゲームのような対戦ができたりもする。
 普通、ゲームの「新しいシステム」というのは考案されたら全キャラクターに対して適応されるものだ。例えば格闘ゲームの超必殺技やEX技みたいなものが考案されたら全キャラクターが使えるようになっていなければ公平性があるとはいわない。しかし、『スマブラ』の場合、そのキャラクターだけに特別なシステムが付与されている……というものが多い。
 こんな構成にしたら、ゲームとしてのバランスがおかしくなるんじゃないか。特定のキャラクターばかりが強くなってしまうんじゃいか……。
 ところが先日開催された非公式大規模オフライン大会「篝火#5」で話題になったのは、選ばれたキャラクターに偏りがまったくないこと。参加選手がみんな違うキャラクターを使用して参戦した。ということは、それだけゲームバランスに偏りがない……ということになる。
 『ぷよぷよテトリス』という二つの違うルールの落ち物ゲームが合体した作品があるが、これに『パネルでポン』と『コラムス』と『ぱずるだま』などいろんなゲームが融合している……これが『スマブラ』だ。これだけ、あえて違う性質のものを融合させつつ、バランスを取る……。そういうとんでもないことをやってしまっている。
 89体というとんでもないキャラクターが登場しているのに、これだけのバランスの良さを保っているというのは驚嘆すべき話だ。
 ゲームの作りとしてだいぶ無茶なことをやっているのに、プログラムの破綻も起きてないし、ゲームバランスも破綻していない。これだけの無茶を許容するゲーム構造と、プログラムの強さ。トンデモゲーとしかいいようのないものに育ってしまっている。

 後半のインタビューを見てみよう。
 ダウンロードコンテンツキャラクターの紹介は桜井政博さんご本人が出演することになったが、これは本当に予算がなかったから。でも、結果的に良かった。桜井政博さんのパーソナリティーが動画に載っていて、この人の説明は不思議と、ゆるいけどきちんとしている、ふわっとしているけど、とんでもない大技を使う。コントローラーを2つ使ってキャラクターを同時に2体動かしながら、説明もする……なんてことをできる人は、世界中探してもそうそういなかったはずだ。何でもないようだけど、誰にでも作れないような解説動画が生まれていた。

 動画で詳しくキャラクターについて掘り下げられた理由について、こう語られる。

そういったテクニックは、勝つための方法ではなくて、より楽しく遊ぶための方法として紹介しています。たとえば、一般的な目線でソラを遊ぶと「ジャンプして、攻撃して、終わりか。ふーん」で終わる人も多いはずです。でも「こんな動きもできます」と可能性を見せておくことで、初めて、より触りがいのあるファイターだと気づいてもらえます。

 最近のゲームはチュートリアルとかレベルデザインとかがしっかり作られているから、「物語」を体験しながらそのゲームで何をするかを学び、実践し、身につけていくことができる。ゲームが終わる頃には、結構なテクニックを自然と使えるようになっている。
 でも格闘ゲームには「物語」がない。いきなり対戦に放り込まれて、複雑なコマンドもコンボも使えることが当たり前……という世界に晒される。大抵の格闘ゲームには「練習モード」なんてものが付いているんだけど、無味乾燥なフィールドでひたすらコンボの練習……なんてやってられない。あれをやり始めると「遊び」ではなくなってしまう。
 そういう世界に放り込まれると、大抵の人はそのゲームにどんな奥行きがあるか確かめずに去ってしまう。格闘ゲームがブームの頃は、覚えないと入っていけなかったからみんな頑張って勉強して覚えていたけれど……今でもそれをやれってのはハードルが高い。

サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣

 ちょっと個人的な話。
 私は昔、『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』(シリーズ3作目)という格闘ゲームが好きだった。このゲームで導入された「避け攻撃」というシステムがあって、これが理解できるようになると、対戦が格段に面白くなる。駆け引きの有り様にもう一つプラスするような仕組みだった。
 ところが、私の周囲では『斬紅郎無双剣』を面白いという人は少なかった。というのも、みんな「避け攻撃」の面白さに気付く一歩手前でゲームをやめてしまうから。そもそも「避け攻撃」なんてものがあることに気付く前にゲームをやめてしまう。
 客観的に見ても、「避け攻撃」は地味で、それを込みの対戦を見せても詳しい人でないと何が起きているのかわからない、それで何が面白いのか遊んでいる当事者にしかわからない、わかる人でないと面白さがわからない……そういうシステムだった。
(こういう例はわりとあるので、「目玉となるシステム」は無駄に思えても派手に演出していたほうがいい。そうしないと、伝わらないからだ)
 そういう体験は今まで一杯あるので、私の経験的にも、「面白さを理解できるのに時間のかかるゲームは、理解するとめちゃくちゃに面白くなる」――それも、「直感的に楽しいゲーム」よりも数倍面白い――という考えが私の信条のなかにある。
 ところが、そういうゲームというのは面白さを理解するまでなかなか遊んでもらえないもの。そこが難点。だって、「楽しい!」と感じられるようになるまで、しばらく苦~い時間を体験しなくちゃいけなんだもの。ライトなユーザーはそこまで行かず、去って行ってしまう。

 私も実のところ、そういう「面白さが理解できるようになるまで時間の掛かるゲーム」はあまりやらない。だって、時間がないんだもの。昔は1本のゲームを買ったら、それしか遊ぶものがないから大事に大事に遊んで、そこで「こんな楽しみ方があったのか」と気付くものだったけれども……今はそういう時代でもない。
 遊ぶゲームはそれこそ山のようにあるから、ちょっと触れて面白さがわからないゲームはパッと捨ててハイ次……みたいになっていく。これからはゲームもサブスクリプションの時代に入っていくので、大量に配信されているゲームを前にして、ちょっとずつ摘まんでいくプレイ方法が浸透していくだろう。すでにそういうプレイ方法で、遊ぶゲーム本数ばかり増やしていっている人もいる。
(アニメや映画を倍速で観る……という人が増えている時代に、「面白さがわかるのに時間の掛かるゲーム」が流行るわけがない)
 そこで、「こういう遊び方があるんだよ」という説明はこれからは大事になっていくはずだ。だって、このままいくと、「直感的に楽しいゲーム」ばかりがもてはやされるようになってしまうから。こういう紹介がうまくいっていない作品は、いい作品だったとしても誰も遊んでもらえない……。

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 例えば『Among us』というゲームは発表されてすぐに面白さが伝わってヒットした作品ではなかった。誰だったか忘れたが、有名プレイヤーが動画で遊んでいる姿を見せて、そこでようやくヒット。それが発売から1年以上経って……の話だったそうだ。今ではゲーム実況の定番作品だが、その以前の『Among us』はほとんど売れてなかった。  そのゲームをどう楽しめばより面白くなるのか。マニュアル的な操作説明だけではなく、「楽しみ方」を見せるほうが大事になっていく。かといって、楽しみ方を制約させてはいけない。ここが作り手にとって難しいところ。
 傑作ゲーム『ブレスオブザワイルド』は、それこそプレイヤーによってありとあらゆる「楽しみ方」があって、日々色んな人が色んな楽しみ方を動画で発表している。ああいったそれぞれの「楽しみ方」を紹介し合ってシェアし合う、というのも理想的な有りかた。あそこまで行くと、『ブレスオブザワイルド』のような傑作を作んなくちゃいけないけど。

 もう一つ引用しよう。

いかにもガチの1on1しかないゲームに見えることもあるかもしれませんが、実際にはそれぞれのご家庭で起こっていることこそが大事だと思っています。友達どうしや兄弟などで、ガチャガチャプレイし、思わぬアクシデントに笑うような対戦。共闘もできますし、ひとり用の各種モードを遊ぶのもよいかと思います。広くて深いゲームプレイを目指している『スマブラ』は、設定と選択次第でかなり幅のある遊び方ができます。

 大事なポイント。
 ネットの世界は少数の「声のデカい奴」の意見に傾きやすい方向にある。『スマブラ』の場合、「ガチ試合しか認めない!!」そういう面倒くさい連中で一杯だ。
 最近はeスポーツが持ち上げられ、ゲームがどんどんライト層から切り離されていく。
 実況動画で成功しようと思ったら、「出たばかりの話題のゲーム」をやるか「変なクソゲー」をやるか、あとは「滅茶苦茶にうまいこと」が条件になる。この中で一番格好よく見えるのは「うまいゲームプレイ」。若い人ならそういうのに憧れる。そしてそういうゲームプレイでなければならない……と囚われてしまう。実際はそんなことはない。ゲームなんてものは、エンディングまで進めるくらいの腕前があれば充分だ。それ以上の腕前は、「オマケ」だ。
 現実のゲームプレイヤーの大半はライト層だ。その存在を忘れて、声の大きなユーザーに飲まれて、なんでもガチ寄りに作りすぎると、いつか「大多数のプレイヤー」を失うかも知れない。「評価はされてもライト層が入っていけない」……そんなゲームになっちゃいけない。
 そうはいっても、ゲームプレイヤーは日々増大する傾向にあり、色んな層が存在しているだろうから、さほど心配もしていないけど。

 最後に、『スマブラ』の続編は出るのか……という話。もしも将来「Switch2」が登場するとして、そこで『スマブラ』新作が出るのか。そうなると、その制作にまた数年桜井政博さんを拘束することになる。引退まであと10年を切っているのに、残りの数年を費やすのか。『スマブラ』にかかりっきりになると、当然ながら桜井さんの「別の作品」という可能性がなくなってしまう(キャリアの後半は「スマブラばっかりの人」と言われかねない)。かといって、別の人をディレクターに立ててうまく成立するようなゲームでもない。なんとも言いがたい……というのが『スマブラ』の今後の話だ。
 もしも「Switch2」なるものが将来登場して、私がそれに合わせた『スマブラ』を作るとしたら……ほぼ『スマブラSP』の内容を引き継いで、追加キャラを足していく……というくらいしかもうないように思える(でなければ新ルール追加とか……)。なにしろ「全員参加」というパンドラの箱を開けちゃった後。新シリーズとして立てるほどの、ゲーム内容に確変を起こせるような追加要素を考え出せるかどうか……というとかなり難しい。
 「全てを一新して」……とやっても、『スマブラSP』を手にしたユーザーがどれだけ満足・納得させられるかというと……。
 さらにキャラを足していく……といっても、難しい問題は、『スマブラ』スタッフはすでに解散しちゃってるってこと。また同じスタッフを招集するか? 新しいスタッフで同じことをするにしても、練度の問題が引っ掛かっていく。スムーズに制作が進むというわけにはいくまい。

 でも私の心証として……あの人、60歳で引退しないだろうな……と思っている。ゲームクリエイターとしてのキャリアがそこで終わるとはぜんぜん思ってない。だって若いんだもの。これからもまだまだ素晴らしい作品を作り続けてくれるだろうな……と期待し続けている。

 まっ、私は『スマブラSP』持ってないんだけどね。


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