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ゲーム感想 アンダーテイル

この記事はノートから書き起こされたものです。詳しい事情は→この8か月間に起きたこと。

 小さな宝石箱の中に、もう一つ宝石箱があった……そんな感じのゲーム。

 『アンダーテイル』は基本的にはよくあるRPGのパロディだ。一方的に勇者たちから殺戮を受けるモンスターたちの気持ちであるとか、不要なものを店で売ろうとしたら「そんなガラクタいらないよ」と言われちゃったりとか。RPGにありがちな定石にあえてツッコミを入れつつ、この作品ならではのユーモアある切り返しを楽しませてくれる。
 ゲームを始めた最初は「ありがちなRPGパロディ」ゲームかな、と思って実際その通りだけど、進めていくとどんどん楽しくなってくる。石を押してスイッチに置こうとするが、突然石が喋り出してくる。はっきりいえばセンスがおかしい。でもこの微妙なセンスのズレ方が面白いし、次第に可愛らしく感じてきてしまう。
 続いて登場するのがサンズとパピルスだ。このパートに出てくる、世にも楽しすぎるパズルの数々。ゲーム全般に言えることだけど、敵となっている“悪の○○”は向かってくる主人公たちを本当に殺す気があるのか……という問題。というのも、ゲームに出てくる多くの謎解きは、だいたいが楽しすぎる。最初は優しいパズルから始まり、次第に難しくなっていくがその脇には必ずヒントが置かれていたりする。こういうのは「ゲーム作りの作法」ではあるが、ゲーム世界の人物からしてみれば奇妙なことだ。悪の大魔王は勇者を殺す気はなく、むしろ勇者を楽しませようとしてはいまいか?
 『アンダーテイル』はそこをツッコミつつ、より物語を楽しく、そして可愛らしく描いてしまった。パピルスたちははっきり主人公を殺すつもりがない。むしろパピルス自身もパズル作りを楽しんでいる。RPGの最後に待ち構えている魔王も、実はパピルスみたいな気持ちでパズルを作っていたかもしれない。

 後半、ロボットのメタトンというキャラクターが出てくるが、こちらは本気で主人公を殺しに来ている。それに対して、別のキャラクターが助けに来てくれる、という不思議な構図がそこにできあがっている。その時の画というものが、他のゲームで見たことのない、なんとも不思議な光景になっている。こんな画があり得るのか……と。でもそれが『アンダーテイル』だ。

 ゲームを始めたごく最初の頃、主人公のあまりのテキトーなキャラ絵に「なんだこれ?」となった。主人公なのにテキトーなドット絵。左右のバランスも悪いし、色もいい加減。なんだこりゃ、この絵がこのゲームの絵のベースになっているのだろうか、と思ったが、その後に出てくるモンスターたちがやたらと可愛い。モンスターたちが個性と愛着を込められているのに対し、主人公のこの絵はなんなんだろう?
 ゲームを進めていくうちに気付いたが、この主人公、“特定の誰か”ではない。太っているのか痩せているのかもなく、男なのか女なのかもわからない。ただの“シンボル・ニンゲン”だ。特定のキャラクターを定義していない。定義していることと言えば「ニンゲン」であること、それだけだ。モンスター世界にうっかり迷い込んだ“誰か”だ。ゲーム中、一言も喋ることもない、虚ろな人形。だからこそ、この“シンボル・ニンゲン”に感情移入して、この世界を歩いている気持ちになってくる。主人公キャラクターがただのシンボルでしかないから、キャラクターを通して、モンスターたちのセリフが画面を通り越してこちらに向かって語りかけてきているような、そんな感慨を作ってくれる。
 ただ、これが作者の意図的なものなのか、技術不足で結果的にそうなっただけなのか、その区別はわからない。ただどちらであれ、結果的にむしろ物語世界に入り込みやすい絵になっていた。

 せっかくなので、『アンダーテイル』に出てくる絵を紹介しよう。

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 喋る石。いったいどんなセンスだ。

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 ヒントというか、もはや答えが見えてしまっている。

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 氷を見つめる犬……なんか可愛い。

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 スノーフルのお店。モノを売ろうとすると拒否される。まあそうだよね。

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 アンダイン。アンダインで物語のトーンが一気に下がり、後半戦のメタトンが登場する展開へと繋がっていく。このシーン、物語の繋げ方もまた秀逸。
 ところでアンダイン……女の子なんだよね。完全に男だと思っていた。

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 シュールな生き物、テミー。これはわかりやすく『MOTHER』の「どせいさん」から影響を受けたキャラクター。かわいい。ちなみにここで最強の防具を買うことができる。

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 後半のハンバーガーショップに出てくるヤベーやつ。もちろん大のお気に入り。
 とにかくお気に入りなので、もっと画像を載せよう。 

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 もしこれを描いたデザイナーに会ったら何を尋ねたいか? 「お前正気か?」

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 ヘルシェイクやののほうがスキ!
「数えきれないほど何度も言われたけど、それでも嬉しいな」
 お前、メンタル強いな。

 さてさて、『アンダーテイル』は地下世界に封じ込められたモンスターたちの物語である。「勇者と魔王」の物語はすでに終わり、その後の物語だ。
 RPGで言われがちな謎「パズル楽しすぎじゃないか」という問いに正面から向き合ったこの作品。こんな楽しいものを作るモンスターたちって、実は“いい奴”なのではないか? 実は人間こそが略奪者であり、モンスターを追いやった悪だ……ここまではありがちな発想の転換だ。
 そこをゲーム全体の仕組みまでしっかり組み込まれているのがこの作品の良さ。私はある時に、ステータス画面に「倒したモンスターの数」がカウントされていることに気付いて「あっ!」となった。このゲームにおいてモンスターはランダムエンカウントで主人公の行く手を阻む障害物ではない。なんなのかというと、モンスター一人一人にストーリーがあり、モンスターを倒すということは、そのストーリーを一つ一つ潰しているということだった。だから倒したモンスターの数がカウントされているのに気付いたとき、「あ、これは倒さないが正解だ」と気付くことができた。倒さず、モンスターたちのストーリーを中断させない……これがこのゲームの基本骨子だったわけだ。
 秀逸だったのが、シューティングを模した戦闘画面。色んなメディアで見ていて「変なの。面白いのか、これ」と思っていたが、実際やってみて「ああ、なるほど」と感心した。あれは単にシューティングの画面ではなく、物語を表現しているのだ。
 物語を説明している場面だから、モンスターたちは一人一人攻撃方法が違う。モンスターのセリフを読んでみると、実はモンスターたちにも様々葛藤があることがわかる。主人公ニンゲンの「こうどう」によって、モンスターたちの葛藤を解きほぐし、戦意と敵意を失わせ「にがす」。これがこのゲームにおいての“たたうこと”だった。

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 それでも雑魚戦はちょっとしたショートショートでしかない。時にはネタっぽいものもあったりする。やはり本領はボス戦。ボス戦も雑魚戦と同じく、そのボス戦がどんなストーリーを抱えているか、を探ることが攻略になる。「戦う」で攻撃してはならない。どんな行動をとったら、ボスは戦意を失うのか……これを探らねばならない。
 このボス戦の秀逸さは、ボス戦という画面が孤立したシークエンスになっていないこと。フィールド上で展開されている対話、物語の延長上にあると感じられること。よくあるRPGでは機械的に「戦う」でこちらのHPが減ってきたら「回復」なんかをして、状況を読んでコマンドを決定していくゲームだ。しかし『アンダーテイル』の戦闘は、戦闘というより「物語」だ。ボス戦に入ったからといってフィールド上で展開していた物語が一旦中断になったわけでもなく、ボス戦もその続き。だからプレイヤーもその続きとしてどのようにすればこの局面……こちらに戦意がないことを知らせ、ボスが武器を引っ込めてくれるのか、考えなければならない。
 ボス戦は不可避な決闘ではなく、プレイヤーの行動次第で運命を変えることができる。これがちょっと衝撃的なことだった。ボス戦が「勝つ」か「負ける」かではなく、それ以外の第3の選択があり、ボス戦それぞれの葛藤を解くと、その第3の選択へ進むことができる。正面に提示されているものとは別のものが隠された選択肢になっていて、これがボス戦の宿命「殺すか殺されるか」とは別のルートへ進むことができてしまう。こんな選択のできるRPGは色んな作品に触れてきたけど、初めての経験だった。

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 『アンダーテイル』のいいところは何と言っても語り口。RPGはなんだかんだで言葉と対話の「読み物」であり、「文学」なのだけれど、『アンダーテイル』の場合は一つ一つが何ともいえないおかしさと可愛らしさに満ちている。
 最初の方に出てくる幽霊が涙がさかさまにおちて「ヒヤリハットだよ」……これが妙に好き。面白くないけど、好き。こういうのがあちこちに散りばめられている。スノーフルの「としょんか」とか、酒場で1人ポーカーをやっている犬とか、同じくスノーフルで氷を川に投げ込んでいるマッチョとか……。どれもこれも、単に「街の住人キャラクター」を配置しているのではなく、一つ一つに工夫とおかしさがある。これがどれも可愛らしくて、進めているとどんどん愛おしくなる。
 パズルがやたらとたくさん出てくるゲームだが、パピルスの「もう一度話しかけたらヒントをくれてやろう」というセリフとか。こういうところが各所にあってやたらと優しい。おかげで最初のプレイ時はゲームオーバーになることなく最後まで行けた。
 謎解きに対して「ヒントを出すこと」もゲームの作法だが、このゲームにおけるそれはひたすらに優しい。優しいといっても難易度が低いというのも違っていて、「心遣い」が優しい。気持ちを感じられる。こういう難易度調整の方法は大歓迎だ。

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 さて、このゲームはRPGのパロディが一つの軸となっている。これは表面的にRPGの仕組みそのものを薄くパロディに仕立てたものではない。RPGという箱庭の上でわちゃわちゃやっているだけの作品とは違う。実は大きな構造としてRPGそのものに対するアンチテーゼを示しており、さらにその構造全体をまるごと“一つのストーリー”にしてしまっている。
 普通にゲームをクリアするだけなら「まあ、こんなもんか」で終わる作品だけど、さらにその向こうに“裏モード”が存在していることに気付いたとき、『アンダーテイル』の底力に気付いた。『アンダーテイル』というゲームの価値が一段上のものへとグレードが上がるのを感じた。
 要するにそれは「第4の壁」なのだけれど、このゲームは色んなものにRPGのパロディ、アンチテーゼが仕掛けられている。ボス戦がそうであるように、通常選択できるはずのない選択「戦わない」がこのゲームではできてしまう。だからこのゲーム全体に対しても隠されている選択を取ることができてしまう。
 もちろんここにしっかりと物語がある。いや、そこにこそ、ここまで語られてきた全伏線が回収されていく。『アンダーテイル』は物語終盤において、「解きようのない選択肢」が一つ示されるが、この最後のピースがははまる瞬間のカタルシスが凄い。名作RPGに並ぶ感動がこの瞬間にあるし、多くの人が『アンダーテイル』をまさに名作と推す理由がここにある。このゲームには多くの隠された選択肢があったわけだが、ここにも実は隠されている選択肢があり、それを見つけるのがこのゲームの本領が発揮される瞬間だ。

 ゲーム自体はそんなに凄い技術で作られた作品ではない。はっきりいえば全てにおいてチープだ。物体の当たり方は変だし、横を向いたまま喋りかけられたり、調べたりできてしまうし、なによりゲーム全般において、ただひたすら「→」へ向かうだけのゲームだ。横スクロールのベルトゲームかと思うくらい、右へ右へ向かっていくだけ。この上なく単調だ。ここまで動きに変化のないゲームはそうそうない。
 いま星の数あるゲームの中において、“技術的”には大したことがない。それはプログラム技術についてだけではなく、ゲームの基本構造についてもそうだ。はっきり、素人の作品だ。
 しかし『アンダーテイル』の特異性はそこにあるのではない。むしろそれ以外のものを投げ出しているからこそ、特異なところがくっきりと浮かび上がってくる。技術はグラフィックの良し悪しではなく、『アンダーテイル』にあるのは可愛らしさと優しさ。さらにその向こうにある大どんでん返しと、やっぱり優しさ。時に暴力的な展開もあったけど、全体を優しさでそっと包み込んでくる……そんな感じがある。
 そういう「やさしさ」と「ストーリー」があるからこそ、ゲーム中の単調さが欠点として目立たなくなってくるように思える。すべての絵や仕組みが計算づくで設計されているような気がしてしまう――ここまで来ると、気のせいだけど。でもそんな気にもさせてくれる。
 とにかくも、この小さな宝石箱のようなゲームを、しばらくじっくり愛でていたい……そういう気持ちにさせてくれる。本当に素晴らしいゲームだった。

 ここでお知らせだ。
 ここまでたくさんのゲーム感想文を書いてきたが、今回で一旦終了となる。
 なぜここまでゲーム感想文を書いてきたかというと、パソコンが壊れて以降、バイトから帰ってきてもすることが何もなかったからだ。いや、すべきことは一杯あるけど、パソコンがないものだから何もできないし、何も始められない。だから仕方なくの暇つぶしだった。
 ゲームソフト1本のお値段は、バイト半日分程度だし、それで2~3週間は時間が潰せるから安いものだった。こういう感想文を書いてきたのは、ゲームで遊んだ「ついで」だった。
 こんなコストパフォーマンスが良くて、素晴らしい物語体験ができるものがあるのに、なんで国はパチンコやカジノなんかを推進するんだろうね。ゲームに対しては「ゲーム依存症」や「ゲーム規制」で何かと「怖いもの」として擦り込もうとするし……。同じようなことをパチンコやカジノに対しても言えばいいのに、それは言わない。いやひょっとすると我が国の知的エリート達は、パチンコ業界への批判が禁じられているから、本来パチンコ業界に言うべきことを任天堂に言ってきているのではないか……と推測したくもなる。
 まあ、それはいいとして。
 で、今月のはじめ、ようやく新しいパソコンを購入したんだ。といってもまだ届いてないけど。これを書いている現在は2月8日で、パソコンは月末届く予定なのでもう少し時間がかかる。
 パソコンが戻ってくると、バイト終了後の夜もいろいろやらなくちゃいけないことが出てくるので、ゲームの時間は一旦終了。これからはこういう手書きのものをパソコンに書き写さなければならなくなるし、他にもしなくちゃいけないものが一杯ある。暇なんてなくなる。『スカイリム』みたいなスケールの大きなゲームは、起動する暇もなくなる。
 ゲームの感想文は今後永久になし……というわけではない。ひとまずこれでお終い。そういう訳なので、また何かの機会にぽろっと書くかもしれないよ。

 個人的にゲーム感想文の最後が『アンダーテイル』で締めくくれて良かったよ。そう思わせくれるくらいいいゲームで終わらせることができた。『アンダーテイル』は誰にでもお勧めしたくなる良作。もっというと、たくさんRPGを終わらせてきた人たちにこそお勧めしたい。RPGに触れた数が多ければ多いほど驚きと感動が深くなるタイプのゲームだからだ。

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