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アニメ感想 ゆゆ式 OVA

 『ゆゆ式OVA』のブルーレイを買いました。

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 発売は2017年2月22日。どうして今なのかというと、ずっと観たかったけど、お金がなくて観ることができなかったから。今やっとブルーレイを買うお金ができたから、「今しかない」と購入。3年越しにやっと視聴することができた。


 これから感想に入っていくけれども、概ね「酷評」です。ご注意を。

 アニメ本編のざっくりした感想だけど、演出、作画、ともに良くない。絵はどのシーンもパースが狂っているし、デッサンもおかしいし、トレス線はヨレヨレだし、動きにも冴えがない。テレビシリーズの頃の方がはるかに出来が良く、OVA版はテレビシリーズ後半でヘトヘトになっている時の絵で描かれてしまっている。
 テレビシリーズの『ゆゆ式』はあんな内容であんなキャラクターだけど、実は絵がしっかりしていた。だから私みたいな絵にうるさい人でも楽しんで観ることができた。『ゆゆ式』はキャラクターだけが全てではない。それが『ゆゆ式』の良さだった。
 『ゆゆ式』はあんな絵――やたらと頭が大きく、体の線が細い。しかしきちんと実在感が感じられる描かれ方をしていた。きちんとパースラインの上に立っているし、動きはいつも滑らかだし、だからこそキャラクターそれぞれの重さやエロスを感じられることができた。キャラクターデザインの善し悪しだけに甘えていないのが『ゆゆ式』の良さだった。

 ところがOVA版『ゆゆ式』にはテレビシリーズの良さが何一つない。特にデッサンの狂いは深刻。頭部、首、肩の連なりはいつもおかしく、頭の位置がおかしい・ズレているように感じられて気持ち悪い。肩から腕の流れは単純な線として捉えられ、腕のわずかな曲線が捉えられてないし、袖の厚みもない。それにブルーレイだとトレス線がヨレヨレなのが見えてしまう。下半身には力がなく、膝、ふくらはぎにかけての肉感が表現されていない。テレビシリーズ版は特にこのあたりの描写が良く、足の描写・動きにエロスが感じられる場面がいくつもあったのだが、OVA版はどのシーンもひょろひょろとしすぎて、立っている感覚、座っている感覚がどのシーンにおいても希薄。ビグザムの脚のようだ。なんとなくで絵を描いてしまっているからあんなふうに魂のこもっていない絵に陥ってしまう。
 背景画も良くない。テレビシリーズの頃のシャープな線の描き方が好きだったのだが、あの描き方がなくなってしまった。それにどのシーンもパースが怪しく、キャラクターの線と合っていないから、見ているとだんだん不安定な気持ちになってくる。どの構図も気持ち悪かった。
 具体的にどのカットのどの絵が悪かったのか……これを挙げるのはさすがに気が引けるし、言ってしまえば全てのカットの出来が悪い。修正を入れたくなるが、それはやらないことにする。

 絵の出来にいまいち冴えがない理由は、アニメ会社内でも企画内容によって優秀なアニメーターの取り合いが起きるから。アニメ会社は基本的に絵描き集団によって成り立っているが、その中で“本当に絵の描けるアニメーター”というのは2~3人くらい。その2~3人くらいで成り立っているアニメ会社はわりと多く、その2~3人が抜けただけで傾いてしまうところも結構ある。これが内実。
 プロデューサーのすべきことは作品の企画が立ち上がったとき、その優秀なアニメーターを説得して味方に付けることだが……。どうも『ゆゆ式OVA』は優秀なアニメーターの確保に失敗したようだ。
 その描けるアニメーターが誰なのかはわからないけども。
 キネマシトラスは同時期に『メイドインアビス』という大作にも挑んでいて、そちらのほうに優秀なアニメーターが吸収されていったのかも知れない。

 演出面だが、絵の出来が悪いと演出の出来も悪く見えてしまう。だから絵の出来は抜いて演出だけを見るのだけど、どうにも演出が余計で、キャラクター同士の喋りのテンポを阻害しているように感じられた。演出が余計だから、もっとスッと流れるべきところがうまく流れていかない。
 ではどれくらいのテンポなら良かったのか。というとオマケで付いてきたCDドラマがちょうど良い喋りテンポに聞こえた。あれが原作漫画を読んでいて頭の中で感じられた喋りのテンポだ。原作を読みながらあのCDドラマを聞きたい。
 そうすると思うのは、「25分」という尺に捕らわれすぎているのではないか。もっと短くてもよい。5~10分くらい切ってしまって、キャラクターの対話に集中しても良かったのではないか。OVAはテレビ放送作品ではない。だからもっと自由に作ってしまっても構わないはずなのに、「25分」のフォーマットに捕らわれて、そこに合わせるために一つ一つのシーンを引き延ばしにしてしまった。だから微妙な冗長さが感じられてしまう。

 映像と音声ドラマの違いは、音声ドラマは純粋に喋りのドラマで構築されるのに対して、映像は画で場面を見せられること。時間を使って余韻を感じさせられることにある。『ゆゆ式』のような作品であっても、私は映像作品としての余韻があったほうがよいと考える。
 テレビシリーズにはこの余韻があった。有名な第3話の自動販売機のシーンはまさにそれだけど、他にも色んな場面で挿入された脚の描写。なんでもない一瞬のフェチ的画。ああいう画を入れられるのは映像作品の強味だ。
 その余韻をどこに置くかで、作品の善し悪しはガッと変わる。ドラマの強さが変わったり、キャラクターがより可愛く見えたり……ゆゆ式の場合はそういった場面にほのかなエロスが感じられて、これがなんともいえない魅力になっていた。
(エロスといっても「性的な目線を表現した画」というのとははっきり違って、軽やかなエロスが間違いなくキャラクターの実在感を強めていたし、より可愛く感じられる理由になっていた。そういうものがOVA版にはなに一つなかった)
 『ゆゆ式OVA』には映像作品としての余韻がなに一つない。これでは「ただ映像化しました」それだけで終わってしまっている。映像化した意味を見いだせない作品だ。

 『ゆゆ式OVA』は絵の出来が悪いし、演出の悪さでキャラクターも魅力的に感じられない。一言で済ませるとキャラクターが可愛く見えない。テレビシリーズにあった良さが全て失われてしまった。「劣化テレビ版」がOVAだ……と言えてしまうのが残念だ。

 特典もいろいろ残念だ。わずか数ページのスタッフインタビューが付いているだけ。ブルーレイ本編には音声解説もない。「予算がなかったんだな……」というのが見てわかるような安っぽい内容になっている。
 その中で面白かったのは、演者、作者の落書きがほどこされた複製台本。ここに「ゆゆ式らしさ」が感じられたし、読んでいて面白かった。予算をかけず特典を面白くするなかなかいいアイデアだと思えた。

 ところで、実は原作『ゆゆ式』を1巻から10巻まで購入した(すべて電子版)。バイトをやっていた頃、休憩時間に少しずつ読み進めて、10巻までの内容を2週した。本当は時間があれば3週でも4週でもしたい。愛すべき作品だ。
 『ゆゆ式』は相当特殊な作品だ。これといって特にイベントは何も起きない。でもなぜか楽しい。ゆずこ、縁、唯の3人の中に流れている何でもない時間。それだけで全てが成立している。これは相当不思議な作品だ。この面白さをどう言語化すべきか。私は未だにうまく表現しきる自信がない(いつか『ゆゆ式』を語るだけの本を作るかも知れない)。
 読んでいると気付くが、3人の関係性は少しずつ変化している。特に唯は以前のように強く突っ込まなくなっている。ふざけるゆずこに対して、諦め、時に受け入れるような場面が多くなっている。それが3人の間に流れる空気感を象徴しているというか、ある種の“夫婦感“というような空気を感じる。より3人で3人の空気を作ろうという感覚が強くなっているように思える。優しさと愛が感じられる空気感だ。
 OVA、CDドラマ版双方に、そういった関係性の変化が取り込まれていた。必然、唯役津田美波の演じ方も変わっている。この変化が感じられるのがなんだか嬉しかった。
 縁の笑い方「ぷは」という原作に文字として書かれている通りの笑い方も再現されているのも嬉しい。音声で再現できるものなのか、という驚きもあった。
 こういった場面はテレビシリーズの頃より進んだ関係性だ。物語は一切変化しない、動かないが、しかし関係性は進んでいく。深くなっていく。こうした「かわいい女の子が出てくる作品」にありがちな嘘くささや胡散臭さがない。ただただ愛ある空気がそこに流れている。だからこそ私はずっと『ゆゆ式』という作品が好きであり続ける。

 今回は『ゆゆ式OVA』に対して批判的な内容に終始したが、しかしだからといって「嫌いな作品」ではない。私は『ゆゆ式』という作品自体を愛している。だからもしもいつかテレビシリーズが再開される日がきたら、喜んで視聴してブログに感想を書くことだろう。またOVAが発売される、となったら(お金があれば)必ず買うはずだ。
 OVA版で見えてきたのは、ただ映像化すればいいというものではない。OVA版はダメな映像化の見本のような作品だ。「こんなふうに映像化してはいけない」……という失敗例をあぶり出せたと思う。キャラクターデザインや声優のかわいらしさに依存してはいけない。演出と絵でかわいらしさを表現せねばならない。OVA版はそれに失敗した。だがすべての失敗は恥ずべきものではなく、意義あるものだ。教訓として生かせばいい。

 『ゆゆ式』はテレビ放送時、特に人気のなかった作品だ。『けいおん!』や『ご注文はウサギですか?』のように第1話が放送されるやいなや……というのとは違う。時間をかけて良さが少しずつ広がっていった、そういうタイプの作品だ。また『けいおん!』や『ごちウサ』といった作品とも傾向がまるっきり違う。いっそ「珍しいタイプの作品だ」といえる(だからこそ面白さに気付くのに少し遅れる人が多かった……のかも知れない)。
 『ゆゆ式OVA』のAmazonでの売り上げランキングは……ブルーレイ823位とやはり微妙なランク。まあそういう作品だ。『ゆゆ式』の良さに気付いている人はまだまだ少ない。
 ここから有名な定番作品に並ぶとはとても思えないが、まだまだ続いて欲しい作品だし、できればいつかテレビシリーズの続きが見られることを待ち続けたい。


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