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ゲーム感想 INSCRYPTION

 えー今回の感想文ですが……残念ながらクリアできなかったゲームです。クリアを断念しちゃった理由を含めて、話を進めていきます。

 まずゲームの概要から。
 その前作である2018年の『The Hex』からお話しは始まる。制作者のダニエル・マリンズはゲームクリエイターのイベントである『ゲームジャム』に参加。このイベントは48時間のあいだに1本のゲームを制作し、その優劣を競う……というものだが、このイベントでダニエル・マリンズは対戦カード型ゲームを発表する。これがイベントの中で好評を博し、Ludum Dareで2位を獲得。  それが2018年の話で、『The Hex』をリリースし終えたダニエル・マリンズは続けてゲームジャムで発表したゲームを『Sacrifices Must Be Made』というタイトルで無料公開。その後、このゲームをさらに肉付けするアイデアを思いつき、そして2021年10月20日、Steamをはじめとした媒体で発表し、高い評価を得る。
 まずSteamでは「圧倒的に高評価」が9万7872レビュー。Metacriticでは100点満点中85点。発表後、この作品の評価は非常に高く、The Game Awards 2021では最優秀インディーズ賞受賞、最優秀シム/ストラテジー賞にノミネート。GDC2022でも大賞にあたるSeumas McNally Grand Prizeを受賞。GDCアワードとIGFアワードの大賞を同時に受賞した作品は本作が史上初である。Steamでは2021年もっとも革新的なゲームプレイにノミネート。その他様々なアワードにノミネートし、受賞している。
 売り上げは発表からわずか3ヶ月で100万本達成。その後も本作を絶賛する声は続き、ロングセラー化している1本である。

 ではどんなゲームだろうか? 実はこの作品、かなり“変”なところがある。
 まずゲームスタートしてこの画面に来るのだが、「ニューゲーム」が選択できない。「続きから」しか選択できない。この時点でちょっと妙な気持ちになりながら、ゲームが開始される。

 ゲームが始まると、デッキ構築型カードゲームが始まる。テーマとなっているのは「犠牲」。多くのデッキ構築型カードには、持ち札を犠牲にしてより強いカードを出す……というルールがあるのだが、これに“意味”を与えよう……というコンセプトだ。ただカードを出したり引っ込めたりするのではなく、カードは“生け贄”である。だから時々カードが「俺はやめてくれ」と語りかけてくる。画面のトーンも暗く、怪しい雰囲気がずっと漂っている。ある場面ではプレイヤー自身の指や目玉を犠牲にする場面もある。どこかホラーめいた空気感でゲームは進行する。

 ゲームを進行していると、唐突に実写パートが始まる。カーターという名前のカードコレクターがなにやら語っているが……。
 『インスクリプション』と呼ばれる珍しいカードゲームを手に入れた、というので、動画サイト(YouTube?)にパッケージの開封動画を発表していた。するとなぜかその中から手書きのメモが入ったカードが出てくる。座標のようだが……自宅に近いところだ。

 行ってみてその場所を掘ってみると、出てきたのはフロッピーディスク。そのフロッピーディスクをパソコンで読み込んでみると……。
 それが冒頭のゲーム、ということになる。なぜ「ニューゲーム」が選択できなかったのか、というとこの時ひろってきたフロッピーディスクの中に入っていたゲームであり、そのゲームはすでに誰かの手によって進行中だったからだった。

 という、ゲーム中のなかに一つの物語が存在していて、その物語の中に出てくるゲームを私たちが遊んでいる……という構造のゲームになっている。

 ゲームの第2幕に入ると、こんなふうにだいぶ陳腐なゲーム画面が出てくる。グラフィックを豪華にするのではなく、あえてチープに作ることで、実写パートとの落差を作る。ゲームの中に、いくつものフレームを持った物語が存在していることを表現している。これがかなり面白い試みだ。「なぜその表現なのか?」というところまで考え抜かれた構成だ。

 と、こんなふうにだいぶユニークな手法が採られている作品で、実は目に見えているもの以上に奥行き感のある作品なのだけれど……。
 そのゲームが面白いかどうか……と問われるとあまり面白くなくて……。といっても、この作品を絶賛する人は非常に多いので、ということは私がこの作品との相性が悪かったらしい。私はこのゲームをやっていて、「面白い」とはほとんど感じることができなかった。ただひたすらに苦行をやらされている……という印象だった。

 まず最初のカードゲーム。一回負けると、“最初から”だ。強いデッキを構築してても、ぜんぶ最初からやり直しをさせられる。うまくいけば、ちょっとだけ強いカードを得た状態でリスタートできるが、それも運次第。強いデッキ構築ができても、いい手札が来てくれないとゲームオーバー。最初からやり直しだ。運要素があまりにも強すぎで、運が悪ければこれまで進めていたものが全部消える。
 これで私は最初の数日間、えんえん最初のフェーズを繰り返す……というハメになった。この時点で、もうかなりウンザリ。「またやり直しさせられるのか」「何度目だ」「どうせまた最初からだ」「いいカード……来てくれないな」……何度も何度も同じシーンをリピート。最終的に運良く強カードが一杯手に入って、一気にクリアできたけれども、結局運が良かったからクリアできただけ。もう1回やれ、といったらできないし、やりたくもない。

 第2幕に入って、ちょっと難易度は緩めになった。というのも「最初からやり直し」ではなく、勝つまで何度もカードバトルをリトライできる。ああ、ありがたい。1回1回の戦闘前にデッキ構築をやり直す余裕があるから、「次はこのカードで行ってみよう」という戦略が立てられる。運要素がかなり抑えられる。

 ところが第3幕に入って……地獄のような「最初からやり直し」フェーズが再びやってきて、とうとう挫折した。「やってられるか」という気分だ。しばらく同じシチュエーションを何度もやり直したが、それも3日目に入って、フッと「ああ、やめようか」となった。

 途中で実写パートが入ってくるユニークな構成は面白いのだけど……字幕がないのが残念。かなり重要な話をしているはずなのだけど、言葉がわからない。何を話しているかわからないから、物語の展開がわからない。どうしてここに字幕を付けなかったのか。こういうところもマイナス要因だ。

 本作は世界中で大絶賛され、いくつものアワードを獲得した作品だが……しかし正直なところ、そんなにいい作品か? どうしてそんなに評価されたのか、理解できない。
 あまりにも運要素が強すぎ。いいカードが来ても、肝心のバトル中に来てくれなかったらそれで終わり。最初からやり直しになる。やり直しになったとき、何かしらの救済措置があるか……というと何もなし。何度も何度も同じシチュエーションをやり直しさせられる。それでウンザリさせられる。
 途中のパズルゲームもいまいち原理が不明で、デタラメに動かしていればどうにか解除できたけれども、最後までどういう仕組みかよくわからなかった。
 この作品がそういうコンセプトということがわかる。これは普通のゲームではなく、どこかの誰かが偶然入手した呪われたゲームだ。作中人物であるカートが体験したであろう、悪夢のような経験を追体験している。ゲームの構成や難易度まで含めて、すべてがこの世界観を表現するためにある。
 でも、それで面白いか……だが、正直に言うとつまらなかった。やりたいことはわかるけど、それはエンタメとしてはどうなのだろうか。プレイヤー側からすると、無神経な作り方をしているように感じられる。ゲームは基本的に、「しんどい」と思われたら終わり。しんどいと思われたら、それ以上続きを遊んでもらえない。このゲームはプレイヤーを追い詰める要素だらけ。クリアを断念させようとしているようにしか感じられない。どんなに頑張って作っても、「このゲーム、つまんないわ」と諦められたら、それは作り手としても敗北。なぜならそういう作品は評価されないから。
 途中の実写パートも字幕が入ってないから、重要なシーンが展開されているのに、何が起きているのかほとんどわからない。あれではストーリーがわからない。せっかく作り込んだ世界観や物語があるのに、字幕がないためにほとんど伝わらない。「物語がよくわからない」というのも、続けようというモチベーションを阻害する要素だ。

 それでも世界中で評価された作品だ。どうやら私とは感性が合わなかった。私からはお勧めしないけれども、ゲテモノを味わってみたい……という人は経験してみてもいいのではないだろうか。


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