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エクスペクト・パトローナム・アラサー・テレビディレクター



右目の周りが、なんかピリピリする。
そう思ったのは月曜の朝だった。
眼精疲労だろうか。それとも、新しいアイシャドウが合わなかったか。
肌に軽い痺れを感じながらも、無視した。

翌日、「痺れ」が「痛み」に変わった。範囲も広がっている。
数分に一回、目の下からこめかみ(ちょうどドラァグクイーンが頬骨のハイライトを入れるあたりだ)にかけて、ビリっと電気が走る。
なんか変だな、久々に鍼治療でも行くか、とぼやきながら眠った。


痛い!痛い!!!! 水曜朝、痛みは頭にまで広がった。
櫛やメガネのつるが表皮に触れると、激痛で眉間に皺が寄る。
でも、顔に腫れや赤みはない。
なのに、なぜか右の喉と扁桃腺は腫れていた。
昼から大事な会議があったのでとりあえず出社したが、ずっと右頭を押さえて目を瞑っていたので、同僚には寝ているように見えたかもしれない。

午後 会社で「顔と頭と喉が痛いんです」と申告。
社長には顔面麻痺を、先輩には扁桃腺炎を疑われる。
病院に行こうとするも、診察時間は終わってしまっていた。




木曜の朝、「で、何科に行けばええんやろか?」
と悩んだ。
頭部をニット帽で保護して、近所の総合病院へ。
家から徒歩15分の距離だが、歩くと衝撃が顔に響くのでバスに乗る。

受付のお姉さんに右側の症状を訴えると、怪訝な顔をされた。
先輩らしきお姉さんも出てきたが、やっぱり怪訝な顔をされた。
結局、「扁桃腺が腫れているなら、当院ではなく耳鼻咽喉科医院にいってください」と帰されてしまった。

こんなに痛がってるのに 受付すら通してくれないなんて・・・
とお姉さんを恨みながら、もらった地図を頼りに耳鼻咽喉科医院へ。
歩くとやっぱり頭が痛む。痛すぎてちょこちょこ立ち止まる。
やっと病院に着くと「今 担当医が不在でして・・・」と言われてしまった。なんでやねん。


この頃 痛みは頭まで広がり、1〜2分に一度ズキン!!と痛んだ。
ズキン!のたびに「うっ」とか「痛っ」とか声が出るくらい痛い。歩いていても立ち止まってしまう。
突然、右の額を抑えて顔をしかめる様は
まるでヴォルデモートの気配を感じたハリーポッターだ。





***

ハリポタ状態のまま、山手線に乗る。
車内で、【頭 痛い びりびり】などとググるが、全く病名がヒットしない。
痛みと絶望から抜け出せぬまま渋谷に着いた。


会社の近くに老舗の病院がある。(病院にも老舗って使うのか?)
入社当時、上司から「なにかあったらこの病院に行きなさい、夜間外来があるから」と教えてもらって以来、
編集中に寒気が止まらなくなって駆け込んだらインフルエンザだったときも、
嘔吐して連れ込まれたら胃腸炎だったときも、助けてくれた病院だ。

少し待つと診察室に通された。
痛みから4日、やっっとお医者さんに会えた。嬉しさで必死に症状を話した。

先生は70代くらい。ファーストネームが刺繍された白衣が貫禄を感じさせる。
私が話し終わると、先生は数秒、私の顔を見つめた。
そのあと、こう言った。
「自分でもよくわからない症状で怖かっただろう。ちゃんと病院に来た君はえらいよ」
びっくりした。じわっと涙が滲んだ自分にもびっくりした。


病院を彷徨っている間、いらぬ不安がずっとよぎっていたのだ。
脳の病気なのかなとか、めちゃくちゃ治療費かかったら貯金大丈夫かなとか
眼や耳に異常があったらテレビの仕事できなくなるかもとか、
表情筋が機能しなくなってもみんなとコミュニケーション取れるかなとか。







そこからは怒涛のようだった。
先生はすぐ、大きな病院の各科の部長さんに紹介状を書いてくださった。
「今から僕の患者さん行かせるから必ず診てやって」と目の前で電話までしてくださった。

言われるがままタクシーに乗って日赤病院に行き、
大病院特有の 広すぎるフロアと謎の予約端末にオロオロしながら
いろんな先生に診てもらい、病名がでた。

結果、ただの帯状疱疹だった。

「帯状疱疹」というと、腹部が赤く腫れるイメージがあるが、
私は珍しく顔・頭部の発症。
さらに珍しくヘルペスのような水疱が唇にもできており、
さらにさらにめちゃくちゃ珍しいことに、無発疹だったため、
各科の先生を悩ませたらしい。

最終的には、皮膚科の先生に唇の水疱を切りとられ、
菌を検査をした上で、翌日、正式に帯状疱疹と判明したのだった。




現在は、抗ウイルス剤を処方してもらい、
同居人が作る「免疫力アップ飯」を食べて快方に向かっている。(一生分のレバーを食べている)
髪を洗うときや、枕に頭を乗せるときは相変わらずズキン!とするが、痛み止めを飲めば日常生活に問題はない。

帯状疱疹の痛みは最長で3ヶ月ほど続くらしいが、まぁ、なんとかなるだろう。





***


あの優しい先生は、
紹介状を渡すとき、一緒に名刺をくださった。
「心配だから、日赤で診断が出たら僕にショートメールを入れて」と。
「この病気が治ったあとも、何かあったらいつでも電話しなさい」とも。

その後、数通 診断の経過や御礼のメッセージを送ったが、
先生から返事が来るのはいつも深夜か早朝だ。
お医者さんってすごいな。


”医者が診るのは病気ではなく患者”みたいなことはよく言われるが、その言葉に当てはめるのであれば、
私の病気を治したのは、薬でも、大きな病院でもなく
先生が「よく来たね」と言ってくださったあの言葉な気がする。


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