はじめてクラブに行った日
「「いきてるみんな生きてるか!バーチャルアンデッドユニットBOOGEY
VOXXです!」」
「いええええい!!」
スクリーンに推しの顔面が映り、ステージ脇のスピーカーが爆音で震え出す。背筋がひとりでに伸び、勝手に口から声が飛び出る。音に乗る。名前も知らない人たちと共にジャンプしていると、悩みも全て溶けて消えていく。気持ちいい。超楽しい!
クラブに来たのは初めてだった。もともとお酒も飲まずタバコも吸わず、周
囲に夜遊びをするような友達もいなかったわたしには特に縁のない世界だ。たまに小説などで描写されて、薄ぼんやりと思い描くだけの距離感。人がたくさんいて、大音量で音楽が奏でられて、みんな踊っている。ミラーボールなども瞬いていて……それくらいの解像度。
ただ音楽を聴くのは人並みに好きで、それにあわせて体を動かすのも好きだ。そのせいか、クラブに対して謎の親近感はずっと持っていて、いつか行きたいところになっていた。
『いつかクラブ遊びをしてみたい』
Twitterで言葉にしてから、誰に気兼ねすることもないのだし行けば良いのでは?と、検索窓にイベントを打ち込む。クラブのこともDJのことも何も知らないから、知っている人たちが何かやっていればいいな……そういえばBOOGEY VOXXって二人組Vtuber音楽ユニットがクラブイベントやりたいとか言ってたな、彼らの歌みた凄い好きなのよ……お、やってるやってる。日程は……今日か……行くかぁ!
初めてのクラブは渋谷近くのラブホ街のど真ん中にあった。周りの建物はびか
びかした電飾で彩られ、黒服のお兄さんが道ゆく人に声をかけている。ときおり
道を走る車は後部座席が見えないよう、黒いスモークガラスで覆われていた。昼間に通り道として歩く時のラブホ街は閑散としている。たまにコンビニのレジ袋が道の真ん中に落ちていて、風に巻かれて宙を漂う。そんなオフの姿しか見ていないわたしにとって今夜の風景は新鮮だった。
ただ治安はあまり悪そうじゃない。制御された大人の街、人の行く方向はしっかり決まっていて、道はどこも明るく照らされている。皆似たような場所に吸い込まれていく。この統制された感じはとても東京っぽい。このわかりやすさがわたしは好きだ。
目当てのクラブハウスは”clubasia"という名前で、渋谷では老舗のクラブ
だそうだ。最寄り駅から向かう間も待機列に並んでいる時も、いろいろなクラ
ブを目にしたが、clubasiaに並んでいる人たちはTシャツやパーカーにズボン
といった日中に普通にいそうな若者の服装で、周囲の建物からいい意味で少し
浮いていた。開始は23時からで終了は朝の5時。1時間後には終電がほぼ消え
るので、必然的に徹夜コースとなる。入場券は前売り2500円と当日3000円の二
通りで、わたしは当日券の待機列に並んでいた。並んでから15分くらいで、
入り口の前まで列が進む。ガタイの良い警備員のお兄さんに身分証明証を見せ
て中に入れてもらう。ちなみに飲食物の持ち込みは禁止されている。
clubasiaは二階建てだった。入り口からすぐのところにはでっかいカウンタ
ーがあり、カウンター内ではDJが音楽を奏でている。ヘッドホンをつけ、ター
ンテーブルという四角と円で構成された機器をたまに動かし、横の様々なバー
を上げ下げしている。DJ、実は未だに何をやっているのかしっかりわかってい
ないので、いつかちょっとかじってみたい。
音楽を奏でるDJの周りで数人が飲み物片手に音楽に合わせてゆったり揺れて
いる。より多くの人は壁により掛かって、DJの様子を眺めている。階段を登っ
た2階はドリンクコーナー、お金を払って飲み物を買う。わたしはアルコール
を入れると具合が悪くなる気がしたので、(確か)500円でジャスミンティー
を買った。割高にはなってしまうけど、そこそこソフトドリンクの品揃えがあ
るのは嬉しい。選択肢がないと、好きでもない烏龍茶を連打するハメになるか
らね。こういう時、飲める人良いなあって少し羨む。
階段には複数人の男女がタバコを吸いながらたむろっていて、わたしの偏見
でしかないが、その退廃的な雰囲気に少しドキドキする。ただ裏を返すと、ク
ラブに漠然と抱いていたちょっと怖そうな感じは、この階段周辺くらいにしか
なかった気がする。予想の数倍、クラブは健全な場所だった。
一階のカウンターに続くロッカーエリアを抜けた先にclubasiaのメインステ
ージがある。どでかいフロアと一段高いところにあるステージ。天井にはミラ
ーボールがつるされ、ステージ上ではDJがパフォーマンスを行っている。DJの
頭上のスクリーンと、ステージ前に置かれ天井から吊るされた幾つものスピー
カーがそれに応えている。フロアは人で溢れていて、人々は思い思いに音楽に
のり体を揺らし飛び跳ねる。
「クラブってナンパとかあるのかな……夜の遊びだし…。少し怖いな」行く途中考えもしたが、ステージ上に鳴り響く爆音でそれどころではない。ナンパ以前に隣の人が何言っているかすらわからないだろう。周りは人で沢山だけれども、実質存在するのはステージ上のパフォーマーと自分だけ。ある意味とてもソロプレイヤーに優しい空間だ。
DJの流す曲が変わるたび、フロアのどこからか歓声が沸く。最近の曲にもサ
ブカル系の曲にも疎いわたしは、流れている曲のほとんどをろくに知らなかっ
たけれど、何も問題ない。 曲の合間でパフォーマンス中のDJが叫ぶ。
「今から流す曲、みんな知らないだろうけど、バチバチに格好いいので楽しん
でください」
「Foooo!」
声を上げつつ思う。
「大丈夫、これまでほぼ全部知らないから」
それから流れた数曲はハチャメチャには格好良くて、そのDJさん(DJ WILDPARTY)のことが大好きになった。DJの音楽にのるのは気分がよかった。一種の集団的な狂騒を伴う陶酔でもあった気はするけど、ほら、同じ阿呆なら踊らにゃ損々って言うじゃない。もちろん隣の人にぶつからない程度にだけど。
時間は飛ぶように過ぎて、BOOGEY VOXXの番がくる。画面に二人の姿が映る。クラブ全体から咆哮のような叫びが上がり皆が跳ぶ。ん、何かこれ、見たことあるぞ。これはオタクライブの会場・・・・・・だね?
今まで周囲の人たちのことは、夜な夜なクラブに繰り出しては踊るパリピの中のパリピと勝手な偏見で認識していたけど、この瞬間「いつものじゃん!?」と認識を改める。一気に肩の力が抜けた。大画面の巨大スピーカーで観る二人は
、設備に負けていないどころかばっちばちに映えていた。
感染症流行以来、久しくアーティストのライブには行ってなかったけど、ライブっていいものだな・・・・・・当たり前かもしれない感動に浸る。実はこの時点でBOOGEY VOXXのオリジナル曲はあまり聞けていなくて、ここでも大半は初めて聞く曲だったのだけど、文句なしに最高の時間を過ごせた。
このときのクラブ体験が衝撃的で、五月の川崎チッタ『Vの宴2022』を
予約し、そこでBOOGEY VOXXの全国ツアー発表にぶっ飛ばされたりもするのは
また別のお話。
さて、体験記をつらつらと書いてきたが、クラブ初心者としてクラブ行った
ことないけど行ってみたい\今度行く人には、できるだけ小さな手荷物で行く
ことを熱烈に勧める。
ポシェットとかすごくいい。ロッカーの数が場所によってはあまり多くない上に、そもそも基本的にずっと立っているので、パソコンとか暇つぶし用の広げる諸々とか持って行っても確実に邪魔になる。遠征でトランクとかゴロゴロする人も、トランクは別の場所に置いた方が安心して楽しめそう。どうしても人が多い場所だしね。
あと個人的に便利だったのが耳栓。もちろん音楽を聴く場所なのだけど、スピーカー近くにずっといると、爆音で耳がやられてくる。たまに演者が何か言って観客が歓声を上げたり応えたりすることがあったけど、耳が途中からもやもやしてて、正直何言っているかわからない状態で歓声をあげたりもしていた。
次に川崎チネッタのVの宴2022では、耳栓を付けたり取ったりしていたけれど、音はいい感じに耳栓を貫通してくれるし、ちゃんと演者の声も聞き取れる。
当分、気が向いたらクラブに赴く生活を送る気がする。次の日、一日、徹夜明
けモードでふらふらだけど、すっごく楽しくてどハマりしちゃった。
以上、久々の長文で送る千早とわだったよ!ばいばーい!
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