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死刑囚再利用プログラム -Dead or Dream-〈35〉第七章- 最終話 -


第七章
芳田裕介 編 - 最終話 -

《 Dead or Dream 》


裕介はコンビニでコーヒーを買い、ゆっくりと帰路に着く。


同じ道でも陽の当たり方によって印象が異なる。


数年前まで、こんなこと何とも思わなかったが、今では当たり前の光景の中にこそ沢山のヒントや発見があることに気付いた。



今になってやっと、目に映るもの全てがヒントになるという望の言葉の意味を理解できるようになっていた。



この小説が完成したら、記憶の中での望との対話も終わる気がして寂しさもあったが、
それは同時に小説家としての独り立ちを意味する。


それこそが望に対する恩返しになる、そう感じていた。



そのとき後ろから車の音が聞こえてきた。
道路の端によけると、黒いバンが裕介の真横にピタっと止まった。


不審に思うよりも早く、ドアが開き車の中へと引きずり込まれる。

引きずり込まれると同時に口に布をあてられた。

途端に意識が遠のき、夕陽の眩しさから一転、視界が暗闇で覆われた。



車が去ったあと、地面に転がる飲みかけのコーヒーだけが、そこに裕介がいた証として残されていた。


薄暗い部屋で、椅子に拘束された状態で目を覚ます。


大声で助けを求めるが、自分の声が反響するだけでそれは叶わなかった。


拉致されてから一体どのぐらいの時間がすぎたのだろう。

家族とも連絡は月に1〜2回メールをする程度で、更にバイトも辞めて外界との繋がりを断ってしまったため、自分がいなくなったことに気付く人はいない。



執筆に集中できる環境をつくったことが逆に仇となってしまった。


暫くすると正面にある曇りガラスがパッと透明に変わり、奥にあるドアが開いた。


くたびれたスーツを着た怪しい男が現れる。
その男はこの暗い部屋の中にもかかわらず濃い色のサングラスをかけていた。


裕介はそんな男の放つ異様な空気感に呑まれ、声を発することすら躊躇した。

男は手に持った紙の束をペラペラとめくりながら、しゃがれた声で話し始めた。


「想像力もここまでくるとサイキックだなぁ。小説家ってのは、みんなこうなのか?」




何を聞かれているのかまったくわからなかったが、この怪しげな老人は自分が小説家だということを知っているようだ。


まだ世に出ていない自分のことを小説家として認識している人物は限られている。
一体何者なのか、必死に思考を巡らせる。



「せっかくだから大先生に最後に教えてあげよう。君の小説はよく書けている。しかし1つ間違いがある。
DPAというのはDream Project AgencyではなくDream Program Agencyの略だ」



何故この男が書き途中の小説の内容を知っているんだ。
慶永さんにも内容はまだ話していない。


そのとき謎の老人の手元に目が行った。


「まさかその束は俺の...」



「ああ、読ませてもらったよ。私も小説が好きでねぇ、荒井端望の作品も読んだが、さすがその弟子といったところだ」



何故俺との関係性まで知っているんだ。

数多くの何故が溢れてくる。



次第に暗闇に目が慣れてきて、周りをよく見ると、初めて来たはずなのに既視感がある。



真っ暗な部屋、そして謎の男...

裕介の顔からサーっと血の気が引いていく。



先ほどこの男は、小説のために自分が考えたDPAという架空の組織の正式名称が間違っているということを言っていた。


その上でこの部屋で椅子に拘束されている自分。


今まさに完成を迎えようとしている小説の中での出来事が自分の身に起きている。
そうなるとまさかこの男は...



「普通の人間にはここまでの想像力は備わっていない。誇りたまえ、君もまた荒井端望とは違った類の天才ということだ、その類稀なる才能が故に、君はパンドラの箱を開けてしまった」


裕介は息を飲み問いかける。


「まさか、ガイド……?」
この言葉を発するだけで精いっぱいだった。


「ハハハハ、まさか自分の小説の中から登場人物が飛び出してきたとでも?面白い、小説家とは実に想像力豊かな生き物だな」


大袈裟なほどに笑われて恥ずかしくなった。

目の前の男は自分の小説を読んだと言っていた。
敢えてこの空間を演出して混乱させ、判断力を奪おうとしているに違いない。


男は突然笑うことをやめた。
室内に異様なまでの不気味な静けさが漂う。



「君の師匠の荒井端望もなかなか面白い男だった。この部屋に連れてこられても最後まで戦っていたよ」



望さんもこの部屋に、、、?
この男が次に何を言うのか、裕介は言葉を発することができずにいた。



「そう、私はガイドと名乗っている。君は今相当混乱しているだろう、だが私の身にもなってくれ。君の小説を読んだら、君と会ったこともないはずの私が登場人物として書かれているんだ。どう考えてもそっちの方が恐ろしいだろう」

しゃがれ声で笑いながら男は答えた。


裕介の心拍数がどんどん上がっていく。
心臓の音が頭の中まで響いているようだった。



「さてと、あまり長話をしてもしょうがない。君ならこの後私が言うセリフがわかるだろう?さぁ、君はどっちを選ぶ?」



『 Dead or Dream? 』




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