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死刑囚再利用プログラム -Dead or Dream-〈13〉第二章-04


第二章
松本周平 編-04

《 フェーズ2 》


斎藤はDPAについて話し始めた。


——— DPAの活動は凶悪犯の再利用を主としている。

現行の法律だと、凶悪犯がカタチだけの更生をはかり釈放される。

しかし再犯率の高さは異常で、無実の人が常に危険にさらされているのが現実だ。

そんなやつらを野放しにするわけにはいかない。

しかし、囚人を抱えるにも多額の税金がかかってしまう上に、死刑判決を受けても、執行されるまでに相当長い年月を要する。


それまでの間も、多くの人が真面目に納めた税金で世話をしなければならない。

こんな悪循環に嫌気がさした男たちが知恵を絞り、全てを上手いことまわすシステムの一部としてDPAが生まれた。


アメリカ人の《ディーズリー》と《スミス》、日本人の《ヤナギ》、フランス人の《ローラン》、中国人の《リー》

当時、ハーバード大学のロースクールに通う5人の優秀な学生たちによってDPAは創られた。


彼らは常に学年で上位の成績を収めており、中でもディーズリーは別格で、一度もトップの座を譲ることはなかった。


優秀な彼らだからこそ、法律を学べば学ぶほどに、その限界を感じていた。


そして当時から釈放後の再犯率の高さに憤りを感じており、そんなことをランチタイムに話している時に、DPAの初期構想は生まれる。


しかし、どんなに優秀と言っても当時学生だった彼らには、これを現実のものにするための社会における力が不足していた。


そのため、まずは各々が各業界内で力をつけ、そこで得た権力とコネクションを利用し、これを実現させるという計画を立てる。


そして計画立案から12年が経った1970年。

各業界において、異例の速さで出世をした彼らは予定通り、大きな影響力を手にした。

そしてディーズリーの出身地であるカリフォルニアにDPAを設立。

その後、1985年に日本、1993年にフランス、2010年に中国、それぞれ各国の本部がつくられ、更に2012年にはカリフォルニアを世界総本部とし、フロリダに新たにアメリカ本部を設立。

しかし、圧倒的カリスマであったディーズリーはフランス本部を立てた3年後、病に倒れ命を落としてしまう。


正確には、死ぬ直前にコールドスリープをかけられ、現在もカリフォルニアの総本部の地下で静かに眠っている。

残った4人は現在総本部にて、DPAの理念に反する行動がとられていないかを入念に管理している。

つまり総本部の役割は、各国のDPAの監視及び管理だ。


更に、世界で増え続ける凶悪犯を、役目が来るまでの間ストックしておく場所として新たに、国際収容所の建設が検討されている。
最有力候補地は上海。

これは役割としては一般的な刑務所のようなものだが、ここにいるのは死刑囚のみで、尚且つ運営はDPAのため国民の税金を一切使わない。


死刑囚以外にも、たまたま死刑にならなかっただけの者や精神疾患を理由に無罪になった者。

社会復帰させても害悪でしかないと判断された者等も、このDream Programの対象となる。


そしてこれらの活動を当初から支援しているのが、世界的テーマパークのドリームランドだ。

そしてそれを運営するThe Brad Disely Company (ザ ブラッド・ディーズリーカンパニー)。

創始者であるディーズリーの親戚の会社だ。


しかし、いくら親戚と言えど、有名企業であるDiselyが無条件に支援するはずはない。

万が一このプロジェクトが公になったとき、支援をしていた企業や団体は、確実に大きなダメージを食らう。

そうなった場合良くて倒産、最悪の場合、命を狙われる危険も伴う。

支援することのデメリットはかなり大きいものだった。

しかし、それでもドリームランドがこのプロジェクトを支援した理由は、夢の国の住人であるマイキー達の人材確保問題において、利害が一致したためだ。


当時からブランドのイメージ戦略を徹底していたブラッド・ディーズリー。

彼の中で一番の懸念点は、ドリームランドは夢の国であるため、キャラクターたちは自分の意思で生きている。

つまり『中の人』がいてはいけない存在だった。

遊園地のキャラクターの中には、人が入っているのは大人なら当たり前に誰もが知っている。
それを暗黙の了解として人々は彼らをキャラクター本人として接する。


しかし、その当たり前がドリームランドではあってはならない。

彼らは着ぐるみを着た人ではなく、絵本やアニメの中から飛び出してきた現実そのものである。


その一点に関しては厳しく全てのスタッフに徹底されている。

だからこそアニメの中の様なセリフを言い、ボディランゲ―ジや表情なども日常生活では考えられないほどにオーバーに行う。

全員がそれを徹底することで、そこは初めて夢の国になる。

そんな世界観を作りあげることにブラッドは力を注いだ。


だからこそ老若男女すべての層の客が、暗黙の了解という大人の対応ではなく、心の底からマイキーたちと過ごせるドリームランドを楽しむことができる。


そうした徹底された世界観だからこそ、存在しないはずの『中の人』が内情を暴露するなどのことがあってはいけない。

その為キャラクターたちを外部の人間には任せることができず、ディーズリー家の一族がキャラクターを演じていた。

しかし、そのシステムでは遅かれ早かれ限界がくることはわかっていた。


仮に外部の人間に秘密保持契約を結ばせ、それが破られた場合に多額の賠償金を請求するとしても、『中の人』の存在が公になった事実は消すことができない。

それによりブランドが負う傷は修復不可能だ。


そこが解決しない限りは、今後の国内の運営どころか、世界にドリームランドを展開することは難しいとブラッドは頭を抱えていた。

そんな彼にディーズリーが死刑囚を洗脳してそれを労働力として再利用する計画を話した。


最初は怪訝な表情で聞いていたブラッドだが、彼もまた犯罪者を更生させることに税金がかかり、
更生し釈放された元犯罪者の多くが再度罪を犯し刑務所へと逆戻りするという悪循環に不満を感じていた。


まさにブラッドは、彼が幼いころに父親を路上強盗事件で失っている。

犯人には逮捕歴があり、その事件は釈放された僅か2日後に起こされたものだった。


更に、ブラッドの父を襲った20分後にカフェへ強盗に入り、そこでも抵抗した従業員1名を殺害している。

2人はどちらも善良な一般市民。
長期間刑務所で過ごしただけで更生されたと判断され、釈放されたことで尊い命が奪われた。


こういった過去の経験から、ブラッドも犯罪者の更生は無駄だという考えを持っていた。

この点においても大きく賛同を得て、見事DPAはドリームランドという表向きの姿を手にすることに成功した。


そうして徐々に規模が大きくなっていき、創設者5人の故郷に順番にドリームランドがつくられていった。


しかし、現在のDPAは当初とは違い、ディーズリー復活が最優先事項として掲げられている。

巨額の研究費を使い、凶悪犯罪をおこした直後の興奮状態のときに分泌される脳内麻薬が、コールドスリープからの覚醒に役立つということがわかった。

凶悪犯罪を未然に防いではならない理由がそこにある。

これはブラッドが共感したDPAの理念とは大きく異なる。

そのため彼が亡くなった翌年に創設者4人の中で新たにたてられた計画だ。

彼らはこれをDream Program : PHASE 2として位置付けている。


「そんなわけで、そろそろ着くぞ」

斎藤のその言葉で急に現実に引き戻された。
周平は思わず聞き入ってしまい、ここまでの道のりの記憶が殆どなかった。


車を止める直前、斎藤は周平に声をかける。

「さっきの上海に収容所建設の件、あれトップシークレットだから誰にも言うなよー」

......周平はただただ苦笑いするしかなかった。



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