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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第2回 ジョージア篇(14)

第2回 ジョージア篇の後編をお届けします!
全22章((0)~(18)+ブックガイドコラム3本)を3回に分けてお届けしています! 【編集部】
総目次

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ジョージア篇(14)
標高100mソロラキの丘をめぐる散歩道

 エレナのアパートがどんなに便利で快適だったか。滞在時間の経過とともにありがたさが沁みた。
徒歩5分内に緑豊かな公園が2つと大きなスーパー。それだけで十分リッチな滞在ができる上、街全体を見下ろせるソロラキの丘や旧市街地を散歩するのにちょうどいい場所。
ポケットにスマホと小銭だけを入れて街をうろつくのは、私にとって最高の旅の過ごし方だ。

ソロラキの丘とアパートをつなぐ小径。
両側には立ち寄りたくなるカフェやバーがずらり

 アパートから旧市街をつっきって約15分のロープウェイ駅へ。そこから2分間の空中散歩で到着する標高 100mのソロラキの丘からぶらぶら下るのが朝晩の散歩コースになった。

 ロープウェイ駅を降りるとまず左手方向、創建4世紀のナリカラ要塞をひとめぐり。ペルシャ占領時代に建てられた要塞は、その後モンゴル、トルコなど歴代の支配者によって増築されながら歳月を重ね、現在は16世紀頃といわれる形跡が “強者どもが夢のあと” の無常感と寂寥感とを漂わせている。

 ここからの眺めはどんな時間帯も絵になった。眼下の右手側から、トビリシで最初に建てられ13世紀に再建されたメテヒ教会、旧市街で最も由緒あるシオニ教会、ペルシャに支配された5〜7世紀の拝火教寺院跡のほか、シナゴーグ、キリスト教の教会、イスラムのモスクなどが狭いエリアに軒を連ねるように集まっている。川を底に盆地状に広がる市街地を一望するこの場所に、歴代の支配者が要塞を設けた理由がよくわかる。

 ロープウェイ駅から要塞と逆方面に5分ほど歩くと、街全体を見下ろすように立つ「ジョージアの母」像に出る。
 1958年、トビリシ建設1500年を記念して建てられた高さ約20mほどの女神像で、右手に剣、左手にワインの盃を持つ姿には「敵には剣を、友には盃を」との民族の精神が込められているそう。夜はライトアップされた白い姿がトビリシの夜空に浮かび上がる。
好きか、と問われると微妙だけど、帰国後トビリシを思い出すたび夜空を背景にしたこの白い巨像がなぜか浮かぶのだ。

ソロラキの丘に立つ「ジョージアの母」像

 像手前から丘をゆるゆる下る小径がまた楽しい。高低差100mとはいえ、少しずつ変わる景色を見比べる面白さもさることながら、家々の軒先やベランダをかすめる生活道には、料理やお菓子のおいしい匂いが漂い、石段で遊ぶ子どもたちや、世間話に興じる長老たち、ワンコやニャンコの往来でにぎわう街のふくよかな雰囲気がすばらしかった。

 一度、この道で人懐こいワンコの頭をなでさせてもらったら、地区のジョージア正教会を望むビューポイントまで導いてくれた。親切な飼い主さんとワンコと並んで通りを眺めながら、それまでよるべなくさまよう感覚だった知らない異国のまちに初めて足裏が触れた気がした。

ワンコに案内された街のビュースポットからの眺め
小道の先にジョージア正教会が見える

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