寺田和代【Book Review】『ソフィアの白いばら』八百板洋子
「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」
第3回 ブルガリア篇【Book Review】〔3〕
◆『ソフィアの白いばら』八百板洋子、福音館文庫、2005年6月
1970年秋にソフィア大学の留学生としてソフィアに渡り、1973年までその地で過ごした著者の青春群像エッセイ。
一見、甘いイメージの“白ばら”は愛の花ではなく、民族の自由と尊厳を求める抵抗の花。世界的に“政治の季節”だった当時、自国の政治・社会状況を背負ってソフィア大学に集まったさまざまな仲間の、それぞれに重く深刻な背景や豊かな文化にふれながら、人や歴史や社会について見識や洞察を深めていく著者のみずみずしい感性、時にその素朴さをナイーヴすぎるように感じてしまいつつも、奇をてらわない正直な表現にぐんぐん手を引かれ、一気に読了した。
著者の価値観をゆさぶり続けたアジア、アフリカ、アラブ、東欧出身学生らの言葉や背景は今読んでも新鮮で、異文化との向き合い方や多様性について読者に大きな示唆をもたらしてくれるはず。
留学後にブルガリア語翻訳者となり、やがて同国の民話や昔話を紹介する第一人者となった著者がその道に導かれたエピソードにも読み入った。
半世紀前のスケッチとはいえ、西欧とは違う豊かさで著者の暮らしと心を支えた食、自然、文化、人々の寛容さや包容力についての記述もブルガリアを知る上でさまざまなヒントをもたらしてくれる。(了)
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