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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第3回 ブルガリア篇(9)

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ブルガリア篇(9)
「この人を中央駅で降ろしてあげて」
と優しいメモ


 ソフィアに戻る時間が迫っていた。
ほんとうは街のもうひとつの見どころであるローマ帝国時代に建てられたローマ劇場跡を見たかったけれどタイムアップ。
たった1週間じゃ、ブルガリアの歴史と文化の広さ、深さにはとても追いつけない。

 宿に戻って預けた荷物を受け取り、きのう雨やみ待ちをした停留所に急ぐ。
来た時は気づかなかったけれど、上りと下りのバスが同じバス停で止まり、少し先のロータリーで行き先が分かれる複雑さ。
バス案内は例によってブルガリア語オンリー。運を天に任せ、きのう駅から乗ってきたのと同じ番号のバスに乗り込んだものの、しばらくすると車窓の景色から郊外に向かっているらしいことに気づく。

隣席の男性に、鉄道駅に行きたいのですが、と英語で訊くと、言葉がわからないと首をふる。なおも地図を見せて駅を指すと、メガネがなくて見えない、との仕草。
すると、やりとりを見ていた赤ちゃん連れの女性が、このバスは逆行き、とジャスチャーで示し、私が手にしたノートを、貸して、と言ってそこにブルガリア語でなにかを書き、反対側の停留所から乗り直して運転手にこれを見せて(雰囲気訳)と示す。
そして停車ブザーを押して私を降ろしてくれ、窓から停留所の場所を手で示しながらバスとともに遠ざかっていった。
抱っこした赤ちゃんの手をもってバイバイ、と手を降ってくれながら。
一連の対応のどこにもためらいがなく、ほれぼれした。
こんなに親切でカッコいい人がいるだろうか。親切にしたい気持ちはあってもモジモジしがちな私、逆の立場に立った時は、この時の彼女の姿を思い出そう。

彼女に言われた通り、やがて来たバスに乗り、運転手にノートを見せると、ああ、とうなずき、約30分後、たしかに目的の駅で降ろしてくれた。

 この時は持っていなかったスマホのグーグル翻訳機能で、今になってこの文字を確かめてみると「中央駅で降り(降ろさ)なければいけません」と翻訳された。
あの時は本当にありがとう。改めて彼女の面影に心のなかで手を合わせる。乗りたかった13時45分ソフィア行きの列車にはぶじ間に合った。

「運転手にこれを示して」と乗客がノートに書いてくれた現地語メモ

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