通学電車

僕が好きな彼女は、前髪を横に流したセミロング肌は透き通るような白い色をしている
私の好きな彼は、黒髪の癖っ毛で瞳はきらきらした薄茶色、そして肌は日に焼けて少し浅黒い

彼女は電車通学で僕はいつも彼女の座る同じ車両に同じ扉から乗る
彼は電車通学で私は彼が来る扉の一番近いところに座る

今日もいるかな?
今日も来るかな?

一度も話した事がない
恥ずかしくて話せない

もし話しかけたら彼女はどう思うだろうか
話しかけられたら平常心を保てるだろうか

彼女と同じ朝の15分間が幸せで
彼と同じ朝の15分間が大切で

話したら関係が変わってしまうような気がして
彼女の斜め上から横目で見つめて
見つめたら変わってしまうような気がして
彼の斜め下で視線を感じて目を逸らす

彼女はいつも3人の友人と楽しそうに話している
彼女がにっこり笑う時の笑窪は僕のお気に入りだ
彼はいつも同じ部活の人と2人で話している
彼が照れる時の鼻の頭をかく癖は私のお気に入りだ

この事は誰にも話せない
彼女を語る資格を僕は持ち合わせていないから
この事は誰にも話さない
彼の事を他の誰かと語れるわけがないから

青春時代の時間の流れは
息をするように過ぎて行く
青春時代は春に咲く桜のように
美しくそして散っていく

僕達の日常であった朝の15分間は
有限でありながらも無限であれと願った
私達の日常であった朝の15分間は
このまま永遠に続くように錯覚していた

初めての衣替えの日は心が踊った
早く彼女に会いたくて
いつもより10分も早く駅に着いた
初めての衣替えの日は気を入れた
早く彼に会いたくて
いつもより30分早く目が覚めた

2年の夏休み明け初日、
目覚ましには念には念をと3回もかけた結局、
目覚ましより早く目が覚めた
2年の夏休み明け初日、
髪型は汗で制服がシミにならないように
ポニーテールにした
彼の驚いた表情は嬉しかった

3年の11月、彼女のサラサラの髪に
赤い紅葉が付いていた事もあった
秋の彼女を見るのも最後になるのだろう
3年の11月、彼の真っ黒だった肌が薄くなっていた彼も部活を引退したのだろう
彼の試合見たかったな

12月、あと何回彼女と会えるのだろうと
カレンダーに小さく印をつけた
12月、あと何回彼と会えるのだろうと
スケジュールに小さく印をつけた

大雪の日、電車が止まり電車の中で2時間待った 
いつもの8倍の時間は
クリスマスプレゼントのようだった
大雪の日、電車が止まって電車で2時間過ごした
彼の指先は赤く霜焼けになっていた

3年の3月、初めて彼女と言葉を交わした
たった二言だけだった
3年の最後に電車に乗る日、
初めて彼の声が私に向けて発せられた

「あなたのことが好きでした。卒業おめでとうございます」
「私もあなたが好きでした。卒業おめでとうございます」

その二言のために僕も彼女も青春時代を捧げた
あの二言のために彼も私も青春時代を捧げた

あの日以来一度も会えないでいた
あの日以来一度も会う事はなかった

彼女は僕の記憶の中でずっと学生のままで
彼もまた私の記憶の中でずっと学生のまま

幸せな記憶は色褪せる事はあっても
なかった事にはならない彼女は僕の中で
ずっと花のように美しい

大切な記憶は色褪せる事はあっても
決して消え失せることはない彼は私の中で
今も花のように美しい


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