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【翻訳部辞書:T】travel in my memories

こんにちは。翻訳者兼レビューアのミシマが、今回お届けする翻訳部辞書は「T: travel in my memories」。「思い出の旅」といった感じだろうか。

自由に旅しづらい昨今となってしまったが、物理的に移動できないからといって旅の楽しみを全部あきらめなくたっていい。書店に並ぶ誰かの旅行記や、興味のある国のことが書かれている本を読んだり、バーチャルツアーなるものを体験してみたりして、旅した気分を味わうのも結構楽しい。この場所にいながら、心は旅をすることができるから。

先日、ふとしたきっかけで、過去に行った旅先のことが頭に浮かんだ。でも、15年くらい前のことだったため、思い出すのにかなり手間取った。アルバムを探して押し入れをひっかきまわしたり、一緒に行った友人にLINEをしまくって、記憶の穴を埋めたり。そんなことをして、過去の思い出を反芻しているうちに、2度目の旅を味わったような気分になった。

その場所とは、15年前のウランバートル、モンゴルである。

ウランバートル、モンゴル

とあるオンラインイベントで、出演者たちがそれぞれの縁のある国の料理を作ってふるまうというものがあった。料理を食べながら、お互いの国のことを話そうというコンセプト。料理を作っているときは、「おいしいものを作りたい」という共通の思いがあるし、ごはんを食べている時は、みんな笑顔になる。なるほど、料理って素晴らしいコミュニケーションツールだなと感じた。

と同時に、もう15年ほど前になるが、ウランバートルを旅した日々が思い浮かんだ。友人と二人で訪れたモンゴル。そこで、現地の人たちと作ったモンゴル料理ボーズのことを。

モンゴルのボーズと日本のギョウザ

モンゴル式テント(ゲル)に泊まるツアーに参加した友人と私。ゲルは現代的で何不自由なかったが、とにかく暇だった。大草原に何もない。

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食事は専属のシェフが作ってくれることになっていたが、友人が「いっしょに作りたい」と申し入れたところ受け入れられ、ボーズ(モンゴル版の蒸しギョウザ)を作ることになった。

小麦粉をこねて、ひろげた生地に肉だねを入れ、包む。私たちにもなじみのあるギョウザの作り方にソックリだったので、これならきっとできると思った。

だがしかし、皮を閉じるところが決定的に違うことに気づいた。私たちのは、どうやってもギョウザっぽくなってしまうが、シェフの閉じ方とは全く違っている。

以下の写真にある、縄文土器模様みたいな閉じ方や、ぐるっとねじったような包み方は、結局最後までマスターできなかった。あまりに不器用な私たちを見て、シェフもとうとう「あなたたちのやり方でいいわよ」と言ってくれたのだった(ふざけてニコちゃんマークの顔の形にしたものや、肉が飛び出しそうなやつが私と友人の作品である)。

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ボーズを包んでいるときは、ただ、おいしくできるといいな、うまく包みたいなと、だけ考えていた。そして、手を動かして作業するのは楽しかった。あの瞬間は、私たちも心が通じ合っていたのかなと、今になって思う。

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流れ星にまつわる相違

夜になると、壮大な星空が待っていた。遮るものは何もない。長野県の田舎町出身の私は、「星降る夜空」は見慣れていたが、規模が全く違った。山や家々の間から見る星空とは、空の大きさが全然違っていた。

ガイドの女性と友人と3人で、川の字になって星空を眺めた。流れ星が1つ2つ、流れていく。「流れ星を生まれて初めて見た!」と興奮してはしゃぐ友人とは反対に、ガイドさんは浮かないようす。モンゴルでは流れ星は不吉なサインで、ツバをはくのだとか! 同じ星空を見ているのに、このテンションの差はなんなんだ。なんだか急に可笑しく思えてきた。ガイドさんには悪いと思いながらも、私たちは「きれいだねぇ」と小声で言い続けた。

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ウランバートルの町は、どこへいっても羊の匂いがしていた。記事を書いていたら、なんだか羊料理が恋しくなってくる。週末はジンギスカンにしてみようか…。(おしまい)

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