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【翻訳部辞書:Q】quadrilemma―数に溺れて

あけましておめでとうございます、フジタです。「いまその話題?」と言われそうですが、おととし(2020年)の流行語大賞の年間大賞は「3密」だったそうですね。でも個人的には、当時なにかにつけ頭に浮かぶ言葉は「ジレンマ」でした。

dilemma(ジレンマ)

その年のジレンマといえば、まず「経済活動か、感染拡大抑止か」が挙げられるでしょう。といっても、そもそも人と人が直接会うこと自体が互いのリスクになるわけです。「経済」など持ち出さなくても、ダイレクトに心にのしかかるジレンマを多くの人が抱えていたのではないでしょうか。まさに「ヤマアラシ(ハリネズミ)のジレンマ」なのですから。

ある日のこと、「あー、いろいろジレンマだなー」とため息交じりについ「ジレンマ」という言葉を検索してしまいました。ヒットしたページを眺めていると、どうやらdilemmaはギリシャ語に起源があり、di(2つ)とlemma(前提、仮定)を組み合わせた言葉のようです。つまり2つの選択肢のどちらを選んだと仮定しても、望ましい結果が得られない苦境というわけです。

trilemma(3つの選択肢)

「なるほどね…」と思いつつウィキペディアの「ジレンマ」のページを眺めていると、意外な発見がありました。ジレンマのさらに上をいく「トリレンマ(trilemma)」という言葉があるではないですか。tri-が3を意味する接頭辞なので、選択肢が3つに増えるというわけです。いままで知らなかった言葉ですが、英語版のウィキペディアにはTrilemmaという独立したページもあり、意外と知られているのかもしれません。

しかもこのページには、宗教、法、哲学、経済、政治、ビジネス、テクノロジーなどさまざまな分野でのtrilemmaの実例が挙げられており、なかなかの充実ぶりです。

quadrilemma(4つの選択肢)

となると、「じゃあ4つは?」と思うのが人情というものです。「4の接頭辞ってなんだっけ」とウィキペディアの倍数接頭辞の表で調べ、quadrilemma(quadri + lemma)を検索してみると、案の定かなりのヒット数がありました。

しかし、さきほどの「倍数接頭辞の表」をあらためてよく見てみると、ラテン語の接頭辞quadri-よりも、ギリシャ語のtetra-のほうがなんだかなじみ深い気がします。テトラポットやテトラパックのせいでしょう。

重箱読み

じゃあ、quadrilemmaなのかtetralemmaなのかと、新たな疑問が生まれたので両方いっぺんに検索してみると、ちょっと古め(2016年)のブログ記事が見つかりました。

世の中には同じようなことを考える人がいるもので、この人もtrilemmaの発見を出発点として「quadrilemmaなのかtetralemmaなのか」という疑問を抱き、両者のGoogle検索ヒット数を比較しています。それだけでなく、5~10および20と100のlemma数ごとにギリシャ語接頭辞とラテン語接頭辞の比較をグラフにまでしてくれています。

思いつくところまでは同じでも、ここまでやるとは頭が下がります。

なおこのブロガーは、lemmaがギリシャ語なのでギリシャ語の接頭辞を組み合わせたtetralemmaに賛成のようです。ギリシャ語のlemmaにラテン語の接頭辞quadri-をつけるのは、さしずめ重箱読み(あるいは湯桶読み)といったところでしょうか。検索ヒット数でも、lemmaが4つの場合はtetralemmaがquadrilemmaを圧倒しています。

しかし世の中と同様、理屈どおりにならないのが言葉というものの常です。それ以上のlemma数ではラテン語接頭辞のほうが優勢です。そもそもギリシャ語接頭辞よりもラテン語接頭辞のほうがなじみ深いのであって、lemmaがギリシャ語であろうがなかろうが関係ないのかもしれませんね。

実は、tetralemmaの検索上位のページを眺めていると、どうやらこの言葉はインド論理学とやらの1つの概念(すみません、難しそうだったので詳しくは調べませんでした…)を指す用語でもあるらしく、検索ヒット数の多くはdilemmaやtrilemmaの延長上にあるものではなさそうです。

3つで十分

さて、こんなことをあれこれ調べたところで何の解決にもならないわけですが、私の頭脳がインド論理学を自由に操れるほど高度でないことだけはわかりました。きっと私の頭にはアイテムを並べるスロットが3つしか取り付けられていないのでしょう。

でも、3つもあれば十分でしょう。trilemmaに比べるとquadrilemma(tetralemma)はまったく一般的ではないみたいだし、日本語でも「三すくみ」「三つ巴」などの言葉がよく使われますが、4つ以上だと「四方山話」のように「いろいろ」「たくさん」扱いにされたり、「四の五の言うな」と面倒がられたりしてしまいます。

「3密」を避けることには賛成ですが、おととしの11月に小池都知事が「5つの小」というフリップを持って記者会見に現れたときに、まず思ったのは「え? 5つもあるの?」でした。

さいごに

さて、とりとめのない話になってしまったので、無理やり新たなライフハックを提案して締めくくりたいと思います。

やることが多すぎて頭がフリーズしてしまったら、最初に着手するタスクを3つに絞ってから優先順位を決める

どうでしょう? バカバカしいと思うかもしれませんが、意外とこの程度のことで気持ちが整理できたりするのではないでしょうか。

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