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翻訳者に求められる能力

あけましておめでとうございます。レビューアーの佐藤です。トップスタジオは全社リモートワークの体制を継続しながらも、おかげさまでコロナ禍の影響を大きく受けることなく年を越しました。これも皆さまのお引き立てあってのことと感謝する次第です。2021年は少しでも早く平穏な日々を回復できますように!

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さて、トップスタジオ翻訳部の業務は、社内外の多くの翻訳者によって支えられています。何はともあれ、原文をコツコツ訳す翻訳者がいなければ話は始まらないのです。翻訳者は翻訳工程の最初の成果物を生み出す存在であり、この段階での品質は最終的な仕上がりに大きく影響します。そこで、いかに優秀な翻訳者を確保するかがベンダーの重要な課題になります。

では、「優秀な翻訳者」とはどういう能力を持つ人でしょうか?トップスタジオの主要な業務である、技術系・マーケティング系の英日翻訳という観点から考えていきましょう。

(1)英語力

当然ですね。英語が読めなければ何も始まりません。

ただ、ここで言う英語力は、TOEIC 900点とか、英検1級とか、英語圏に長年住んでいて英語がペラペラとか、そういう能力を意味しません。もちろん、これらがあるに越したことはありませんが、必須の能力ではありません。

必要なのはもっと基本的なことで、特に重要なのは次の2つです。

・英文の構造をじっくり解析できる
・辞書が引ける

翻訳者は同時通訳ではないので、リアルタイムに解釈する必要はありません。時間をかけて構造を読み解き、知らない単語と、知っているつもりの単語(ここ重要!)を辞書で調べる余裕があります。ですから、その利点を存分に生かせばいいのです。正直なところ、英語がペラペラでなくても翻訳者は務まります(経験談)。

(2)日本語力

これもまた当然ですね。いくら英文を読んで理解できても、アウトプットする日本語が下手くそなら翻訳にはなりません。重要なのは読者に伝えることなので、英文の意味はわかるんだけどうまく日本語にできない……では翻訳者失格です(実は、ここでつまずく「英語がペラペラ」タイプの人が少なからずいます)。

理解した内容を自然な日本語でアウトプットするには、豊富な語彙と、柔軟な言い換え力が必要です。日ごろから表現の引き出しを増やす努力をしている人が、良い翻訳者になります。

試しに、“He said so.”をいろいろなパターンで訳してみましょう。すぐに3種類ぐらい案が出てくるようにしたいところです。訳例はこの記事の最後に。

(3)専門知識または調査力

ここまでに挙げた能力は、翻訳者を名乗るなら持っていて当然です。基礎能力です。問題はここから。

実は、英語力と日本語力があっても、それだけで翻訳はできません。

原文の内容を本当に理解するには、主題についての知識が不可欠です。英文法だけを頼りに内容を追おうとしても、どこかで絶対に行き詰まります。そして恐ろしいことに、原文著者がいつでも文法的に正しい英語を書いているとは限りません。そうなったとき、頼れるのは文脈の理解だけです。

また、理解した内容を日本語にするときも、その分野についての知識が必要です。辞書の一番上にある訳語がいつでもそのまま使えるとは限りません。対象分野でどんな用語が使われているかを知ったうえで、適切な訳語を選ぶ必要があります。

では、自分が完全に知っている分野の話でなければ翻訳できないのでしょうか?そんなことはありません。十分に知識が溜まるまで待っていたのでは、いつまで経っても翻訳を始められません。そこで必要になってくるのが調査力です。英単語を辞書で引くのもそうですが、わからないときは色々な手を尽くして調べればいいのです。玉石混交とは言え、今はGoogleで検索すればたいていの情報は出てきます。最低でも、その分野でどんな用語が一般的に使われているかを調べるのが翻訳者の責任です。

場合によっては、その技術やテーマについての参考書を買う必要があるかもしれません。紹介されているツールをダウンロードして使ってみる場合もあるでしょう。金銭的、時間的な負担はかかりますが、そうして身につけた知識や調査の勘所は、翻訳の力量に必ず反映されます。調査力のある翻訳者は、絶対に良い翻訳者です。

(4)共感力または演技力

上記3つはどこでも言われている話だと思うので、少し変わったポイントを挙げておきましょう。

翻訳の仕事の面白い部分は、「自分以外の誰かが書いた言葉を、その人の代わり身となって伝える」ことです。大切なのは、原文を書いた人の主張です。著者が何をどう伝えようとしているのかを原文から感じ取り、それをできる限りそのままの形で別の言語に置き換えるのが、翻訳者の仕事です。ですから、まず著者の視点に立つことが大切です。開発系の文書なら開発者であるかのように、マーケティング系の文書ならマーケターであるかのように考え、ときにはその役柄を演じるつもりで、それらしい言葉遣いを探すことが必要になります。この部分でも、先ほど挙げた専門知識や調査力が重要になってきます。

そして、それと同じくらい重要なのが、翻訳した文書が誰にどう読まれるかを想像し、読者の気持ちに寄り添うことです。自分はAのつもりで書いたことが、Bとして伝わったのでは意味がありません。自分が読者だったら、この書き方でスムーズに理解できるだろうか?途中で止まって最初から読み直したり、原文と見比べたりしたい気持ちにならないだろうか?と常に考えることが必要です。この視点が薄れている翻訳者は少なくありません。頭で理解したことを別の言語でアウトプットするのはそう簡単な作業ではないので、置き換えの努力をしている間に、「多少言葉足らずかもしれないけど、このぐらい書けばわかるでしょ?」とつい思ってしまうのですね。ただ、原文を目にできるのは翻訳者だけの特権で、読者にとっては訳文がすべてです。翻訳をしたら、一度頭の中をリセットし、初めてその文に触れる読者の気持ちになって見直しをすることが必要です。

結局のところ、重要なのは<語学力以外>の部分

以上、翻訳者に求められる能力について考えてきました。大きく4つのポイントを挙げましたが、ここに書いた文字量からもおわかりのように、語学力とそれ以外の能力のどちらが重要かと言えば、圧倒的に後者です。ある程度の語学力があるのは当然で、そこにプラスアルファができる人が優秀な翻訳者であり、トップスタジオが目指す翻訳者像です。機械翻訳に淘汰されないためにも、プラスアルファを伸ばしていきたいところです。

答え合わせ:“He said so.”の訳例3パターン

・「彼はそう言った。」
・「彼はそう話した。」
・「彼はそう語った。」

微妙な違いですが、こういう小手先のテクニックがあることも大切です!

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