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富裕と浮遊と冬

今日は待ちに待った給料日だ。高鳴る気持ちを抑え足早にいつものたまり場である公園へと向かう。公園につくと幼馴染のけんじが先にいた。

けんじは会うなり早々「金持ちになりたい。」と言った。

僕はなぜそんなことを言うのか疑問に思いながら、便乗したように「うん。」と返す。

「人間ってなんでこんなお金に縛られてんだろうな。」とけんじが言うと私はまた便乗したように「うん。」と返す。

「これから先、俺らみたいなやつは就活の波に揉まれて社会の渦の中で誰にも干渉されず死んでいくんだよな。」けんじが言う。

僕は先程までの自分を反省し、けんじの言葉を包み込むかのように「うん。」と返す。

けんじは貧乏な家庭で育ち、幼いころに繊維業を営んでいた父と死別して以来、女手一つで育ててもらっている母に迷惑をかけまいと、中学生の頃から働けるところを探し、アルバイトを転々としていた。

そんなけんじだが性格は明るく、無邪気な笑顔が愛らしい誰からにも好かれるいわばクラスの人気者のような存在だった。そんなけんじが愚痴ともいえる言葉を放ったことに僕は「うん。」としか返せなかった。

「でも、俺らよりつらい思いしてる人たちっていっぱいいるよな」少し間を開けてけんじが言う。

「うん。」と僕はまた、オウム返しのように返す。

「俺最近さ、金についてよく考えるんだよ。いつの時代も金があれば権力者になれる。金があれば自由なんじゃないかって。」

「一生をかけて2億数千万の金を稼ぐサラリーマンと、短期間でそれくらい稼げる富裕層どっちがいいかとかさ。」

「本当の共産主義ってやつを成功させたら世界は丸く収まるのかなとか。」

僕は、機械のように早口になるけんじを横目に温めておいたカップラーメンをすする。こいつもいろいろ考えてんだなと思いながら100円のパンをかじる。

「まめはどう思う?」

まめ。そう僕の本名は瀬田まめだ。両親はまめになんでもできるようにという願いからつけた名前だそうだが明らかに豆の方でいじられることが多かった。俗にいうキラキラネームというやつだ。かわいい名前から女子受けは良かったが。

「難しくてわかんない。けんじは博識だな。」僕は答える。

「そっか。」けんじは言う。続けて「じゃあ質問変えるわ。もし貧乏じゃなくなったら何する?」けんじは言う。

「奨学金返す、消費者金融の借金返す、家賃とか諸経費に全部回す。」と僕は答える。僕は次のけんじの回答を予想する。つまらないか夢がないだなと。

「ぐすっ。」けんじは泣き出した。

「えっ。」と僕は反射的に声を出してしまった。予想していた全ての回答が頭から抜け落ちる。金縛りを受けたみたいに全身が硬直してしまった。

「だって、貧乏を抜けてもまめはまだ金に縛られてる。何をしたわけでもないのに自分の運命を背負ってただひたすらに生きているのを見て誰が幸せだと思う。」と嗚咽交じりにけんじは言う。

「いや、幸せだよ。お金じゃない。節約しながら楽しく生きてるよ。そんな人いくらでもいるし、別に不幸に思ってないよ。」金縛りを振りほどくように僕は言う。

「強いな、お前は。」けんじが言う。

「いや強いのはけんじだよ。中学生の頃から文句も言わずやりたいことも我慢して働いて、家族を助けてきたんだから。僕よりよっぽど現実に向き合ってる」僕は泣いているけんじの背中をさすりながら言う。

辺りはまだ5時すぎだというのに夕暮れに差し掛かっていた。公園から見える高層マンションからの光の反射が僕らの周りを覆っていた。このまま天に飛んでいく錯覚を覚えながらけんじと別れの挨拶をかわし公園を出た。

今月の給料は費用全てを差し引いても、5万円も残った。この5万円から2万円を何かあった時のために銀行に預金して帰った。









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