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10. 1995年「全性能モデルチェンジ」の破壊力


前項でレガシィの価値が単なるRVから、よりパフォーマンスへ変化進化することで新しい需要を創生してきたことを書きましたが、その最たる変化が1995年の「全性能モデルチェンジ」です。コピーは電通のSさんです。

思えばオリエンで「ここがこう進化した」「ここがこんなに良くなったんとだ」・・・とM氏から散々言われて要するに「全部すごく変わったんでしょ!」と思ったS氏のコピーは結果とても響きました(笑)

確かにこの頃のレガシィは月に1万台を販売するような勢いがあったのですが、通常クルマは5年(~6,7,8年)くらいでフルモデルチェンジをします。その間は大きな変更はあまりないのが通常です。SUBARUはまじめに毎年進化をすることは比較的知られていたのですが、1995年のこの変化は異常でした。ビッグマイナーチェンジという変な日本語でマイナーチェンジにしてはでかい。というのがビッグマイナーチェンジですが、この時のそれは外観等を除くとほぼフルモデルチェンジに近いそれです。

高級スポーツカーにしかついていないビルシュタイン製のダンパーを装着し、当時最大馬力であった280psを乗せサプライズと共に市場に現れました! その前から「速いレガシィ」であったのですが「そこまでやるか!!」のサプライズが市場のエンパシー(共感)を産むことに繋がります。

この時「タレント広告」は一休みで、一気呵成にこのモデルチェンジをキャンペーンを張りました。

ここまでは表面的な話でみなさんご存じなのですが、このころ実は大きな変化がありました。実名で言うとのちに98年の3代目レガシィを世に出す開発主管だった桂田です。たしか92年ころからは研究実験の長だったと思いますが、この時いまにもつながる変化を創出したのは(故)桂田さんだったと思います。


グランドツーリングと言う一貫したコンセプトでお客様の「情緒価値」にむけた提案をしてきたレガシィでしたがここに「機能価値」という概念が始まります。もちろんクルマですから「機能」の話はずっとしてきましたが、その方法論として。

情緒価値と機能価値。マーケの世界ではいまでもその戦いがあると感じています。結論から言うとどちらでもあり、どちらかではない。と思っています。ずいぶん後2010年に「ぶつからないクルマ?」アイサイトの導入がうまくいき、その後いろんなところで「機能価値(がもたらすユーザーベネフィット)が大事だ」といろんなところで話したら「情緒価値派」の方にアイサイトという機能はすぐに他社に追従されそこでの差がなくなる。だからその根幹にある情緒価値(スバルっていいね!)が大事なのだ。と反論されましたが、お陰様で10年以上経ったいまもアイサイトはその機能を評価していただけています。

https://www.itmedia.co.jp/makoto/articles/1207/24/news012_2.html

話がそれましたが、桂田はその機能がお客様に提供するベネフィットをきちんと市場に伝えろ。と言い始めたのです。
「左右対称、低重心AWD」「走りを極めると安心になる」「人馬一体感」「ステアリングフィール」「まっすぐ走ること」スバルをご存知の方はなんども聞いたことがある言葉が語られはじめたのはこの頃です。

桂田は2WDと4WDで高速道路をまっすぐ走っているときのハンドルの修正舵の差をグラフで見せたり(4WDは舵の修正が圧倒的に少ない)また危険回避でのレーンチェンジ(前の車がなにか落とした時に隣へ車線変更する:
清水和夫さんがダイナミックセーフティテストとかでやられているあれです)をいろんなクルマで営業に体感させたりし始めました。

全性能モデルチェンジでの広告もそういった「機能価値」訴求を行いましたが(担当は今は亡き先輩ITさん) それ以上に効果的だったのが全国縦断セールス試乗会でした。全国のセールスの方全員を対象に十勝からオートポリスまで全国のサーキットを借りて試乗研修会を実施しました。たぶん3000人くらいになったと思います。

そこで走る、曲がる、止まるをセールス自らが体感し、桂田の言う4WDの優位性、左右対称低重心がもたらすユーザーメリット・・を学ぶのです。こういった研修はその後もいろいろ続きますが、時代の追い風もあってレガシィがすごく売れている時代にあえて、その根本思想みたいなものを皆で共有するこのイベントがなによりも「全性能モデルチェンジ」を成功に導いたと感じています。

そしてそのころ トヨタのGOA(衝突安全ボディ)に始まり、各社一斉に「衝突安全性能」の訴求が始まります。もちろんSUBARUも衝突安全はやっていましたが、桂田曰く「ぶつからない方が大事だろ」と

そこでSUBARUは そのころ Active Driving, Active Safety というタグラインを使うようになりました。走りを極めれば安全になる。そのものです。もちろん、衝突安全性能は大事ですが「ぶつからないこと」へ、すなわち危険回避性能や基礎能力が大事と言う基本思想が営業の中にも確立しはじめたのはこの頃だと思います。ぶつからないクルマ?の原点も意外にこの辺にあります。(ちなみにアイサイトの前身ADAが初搭載されたのも98年です)

私が担当して2回目95年の東京モーターショーはそれらを具現化する展示でいまのスバル伝統の演出の原点ともいえるものです。これについては別途お話ししますが。

機能価値と情緒価値 どちらでもありどちらかではない。お客様の共感は「理解」や「納得」のうえにあり「なぜ?」の明快な答がないといけない。
「なるほど」「確かに」「理にかなってる」という納得の結果としてそのベネフィットを理解いただき、購買アクションにつながるものかと思います。

そしてここでも、現場のセールスの方が真っ先に「納得」して理解することが今思えば大事だったかと思っています。(宣伝マンはどうしても宣伝が良かったと思いがちですが、総合力ですね)

これも別途紹介しますがSOA(SUBARU OF AMERICA)のLOVEキャンペーンの成功も「情緒価値」として評価されることが多いですが、基本は機能がもたらすベネフィットを情緒的に語っていることだと思います。


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