ボクの名前はジークフリート 第1話  「ドイツ原産のテリア」

 ボクがこの家にやってきたのは、2000年9月だった。

 父ちゃんたちが、それまで住んでいたい賃貸マンションから一戸建てに引っ越して、これまで飼えなかったペットを飼うことになり、その結果として生後2ヵ月のボクが選ばれたというわけ。
 
 父ちゃんたちは最初、柴犬を飼うつもりだったらしい。アーモンド型のちょっと吊り目の小型犬。ほら、どの町にいっても必ずどこかの家でワンワンと吠え立てるあの茶色い犬を飼おうとしていたらしい。
 
 父ちゃんは名古屋の実家にいる時に、スピッツと柴犬のMIX犬を飼っていた。母ちゃんは静岡の実家にいる時に、白い柴犬を飼っていた。そんなこともあって、柴犬の性格はわかっているし、日本の気候でも飼いやすい犬ということで、柴犬が家族会議で第一候補になった。

 でも、父ちゃんはその結果にあまり満足していなかった。わざわざ二子玉川にあるペットショップにまで出かけて、洋犬を見に行ったほどだからね。

 母ちゃんの母ちゃん(ボクはもちろん会ったことはないけど)が亡くなって、母ちゃんの父ちゃんが静岡で独り暮らしをしなくてはならなくなった時に、寂しさを紛らわせるために犬を飼う話が持ち上がり(その時に白い柴犬はとっくにいなかった)、その時に父ちゃんは洋犬を提案したらしい。その頃、ちょうど流行っていたハスキー(あんまり賢いとは思えない)や、ゴールデンレトリバー(飼い主に従順なだけじゃね)や、ビーグル(あのうるさい犬)を候補に上げたんだけど、結局、世話をするのが大変というわけで、結局その話は流れてしまったんだけれど。

 そんなこともあって、父ちゃんは最初から洋犬を視野に入れていた。そして、いつものように出かけた二子玉川のペットショップで、ミニチュアシュナウザーとの運命的な出会いが待っていた。ガラスケースから少し離れたケージの中で、一匹の成犬のミニチュアシュナウザーが立ち上がり、愛嬌を振りまいていた。長い口髭に長い眉毛。ショードックのように断耳をして、まるでドイツのカイザーのように凛々しい顔つき。さらに、ちょっと他の犬種にはいないグレー(ソルト&ペッパーというんだけど)の毛色が、父ちゃんの興味を引いたらしい。ケージのプレートには「ミニチュアシュナウザー/ドイツ原産のテリア」という説明が書かれていた。

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 それまで父ちゃんの頭の中には、テリアといえば英国という認識しかなかったんだけど、「ドイツ原産」という文字が父ちゃんの目に留まった。部類のドイツ好きの父ちゃんのハートに火がついた。しかし、その店には、そのマスコット犬のミニチュアシュナウザーしかいなかったし、ガラスケースの向こうにもミニチュアシュナウザーの子犬はいなかった。さらに、当分ベビーが生まれる予定もなかった。

 飼いたい犬は決まった。でも、ベビーがいない。こうして、父ちゃんのミニチュアシュナウザーの子犬探しが始まった。


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