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読書感想2023#5 「生き物の死にざま」

はじめに

今年5冊目の読書感想は稲垣栄洋さん著「生き物の死にざま」(草思社文庫)です。
いや、めちゃくちゃ面白かった!生きるとは何なのか考えさせられる、人生観が変わるほどの読む価値のある本だと思います。
全部で29章、29の生き物たちの死に様が、物語のようにわかりやすく描写されています。以下にそれぞれの生き物たちの印象に残った箇所をまとめていきたいと思います。

印象に残った箇所(生き物)

「ハサミムシ」
ハサミムシという虫(どんな虫だろうと検索したらGに似ていてギョッとした)は子育てをする生き物なのだそうですが、これは昆虫では極めて珍しいとのこと。昆虫というのは自然界では弱い存在なので子供を守ろうにも守れない。そのため子育てはせず、とにかくたくさん産む戦法で子孫を増やしていく。しかしこのハサミムシの場合、尻尾についたハサミがが武器になるので強い=子育てができるということらしい。この尻尾は時に人間に対しても振り上げて威嚇してくるそうです。一番驚いたのは母ハサミムシは卵から生まれてきた赤ちゃんたちに自分の体を食べさせるということ。衝撃的ですが、生き物とは新しい命を作ったら古い個体は死んでいくもの。子のためなら自分は死んでもいいと思うのは実は全生き物の母親共通の思いではないだろうかと思いました。

「サケ」
サケは読んでいてとても悲しかった生き物の一つです。人間活動によってその生態系が脅かされている生き物は非常に多いですが、サケもその一つ。サケといえば産卵のための遡上は有名ですが、近年はダムの建設によってそれが叶わなくなってしまったのだそう。
そもそもこの世界は完璧だったのに、人間があれやこれやと手を加えることで色々な美しいものが壊れてしまいました。米国ではダム撤去ムーブメントなるものが起こったそうですが、日本でもそのような方向に進んでいくことを願っています。2016年には熊本県で初めてダム撤去が行われたそうですが、減っていた生き物たちが戻ってきているそうです。

「アカイエカ」
アカイエカってよく見る茶色っぽい蚊のことだと思います。以前運河沿いのマンションに住んでいた時に夏になるとエントランスによくこいつらがいました。エレベーターに乗って部屋までついて来ることが度々あったので、私は不法侵入だ!と怒って壁中を探し、止まっている蚊を見つけるまで探して殺していました。しかしこの本を読んだ今、二度とそのようなことはしないでしょう。なぜなら人の血を吸う蚊は産卵のために必要なタンパク質を求めて決死の覚悟で動物に近寄って血を吸い、そしてまた決死の覚悟で重たい体を飛ばしながら汚れた水のある場所を探し産卵をしないといけないことを知ったからです。なんて壮絶な出産なのでしょう。子どもを産むために命を危険に晒して旅をしなければならないなんて。人間はというと、病院で豪華な食事をして多くの人に世話をされながら無痛分娩です(払う金によるけど)。いい気なものですね。

「アンテキヌス」
アンテキヌスという生き物を初めて知りましたが、有袋類のネズミちゃんだそうです。このオスは繁殖期間が2週間あり、その間はひたすら交尾に明け暮れるのだそうです。生物の進化を辿れば、オスとはメスの繁殖を助けるためだけに存在しているとのこと。まさにその存在意義に忠実に従っているといえます。そして2週間の繁殖期間を終えるとオスたちは精魂(精子?)尽きて死んでしまうのだそう。
「自分の死と引き換えに、「未来」という種を残すー。」
この言葉が非常に印象に残りました。これぞ男の生き様なのではないかと感じます。

「チョウチンアンコウ」
この本の中で目から鱗!びっくりした生き物の一つです。チョウチンアンコウは深海の生き物ですが、そのオスの生態にびっくり。オスはメスを見つけるとその体に癒着し、メスの体からオスの体に血液が流れるようになるのでヒレや目、内臓までも退化してしまうのだそうです。最終的には精巣だけとなり精子を放出した後はもう天寿をまっとうしたとばかりに消えていくのだそう。
「ー生物学的には、すべてのオスはメスに精子を与えるためだけの存在なのだ。」
人間のオスもこの原理に忠実に従えば戦争など余計なことをしなくなるのではないかな、そんな風に思いました。

「マンボウ」
マンボウは三億個卵を産むと言われているそうです。しかし大人まで生き残るのはそのうち数匹とのことでそのほとんどは他の生き物たちの餌となっている。これが自然界のバランスというものなのだろう、それにしても億単位から一桁というのはすごい。
人間の場合、若くして死ぬと人々は早すぎると怒ったり、まさかこんなことが起こるなんて、というのをよく聞きます。しかし寿命まで生きれるなんて確証はどこにもありません。
「寿命が長い、短いなど、そんなことは大した問題ではない。」
一つの個体が長く生きることは地球・宇宙という超長期的な視点から捉えたらどうでもいいことなのだと思いました。

「ウミガメ」
サケの時と同じく、読んでいて胸が詰まりました。人間の活動によってたくさんの命が奪われてしまいました。産卵しようと砂浜を目指しても護岸されて辿り着けない、辿り着けてもオフロード車に踏み潰される、運よく生まれた赤ちゃんガメも街灯の明かりを月と勘違いし海とは反対方向に進んでしまう、など。ウミガメに立ちはだかる壁は海鳥など人間だけではありませんが、人間活動の影響は大きなものです。海岸を護岸したところで何の意味もないのに。人間も何もせず、自然と調和して生きるべきです。

最後に

一番印象に残った生き物はなんだろうかと考えましたが、挙げるのが難しいくらいどの生き物も興味深く深く考えさせられました。
人間は科学技術を使いこなし知性のある発達した生き物だと考える人は多いですが、私は果たしてそうだろうかと思います。
元々この世界は調和のとれた美しい世界でした。近代以降、そこにあれやこれや付け加えて経済発展し、自分たちはすごいのだという気になっていますが、結果的に自らの吸う空気を汚し、自らの住む場所を汚染された世界に変えてしまいました。気候変動や食糧危機、水不足が地球規模で起き始めています。そのような愚かな行為をする生き物が他にいるでしょうか。

この本は同じ地球に生きる生き物たちの人間とはまるで違う世界の生き様、死に様を知ることができて視野が広がりました。小さなコミュニティで上司がどうだ、後輩がどうだと愚痴を言っている瞬間にもイエティクラブは深海の真っ暗闇を冷たい海域を目指して旅をしているのかもしれない。ほとんどの生き物が死と隣り合わせの生を生きている。人間の悩みなんて生ぬるいものです。
そして人間たちは自身が神であるかのように、研究のためにネズミに残虐行為をしたり、食糧のために鶏をひどい環境で飼育して大量殺戮したり、脅威だと感じたオオカミを全滅させたりしてきました。しかしそんな神のような悪魔のような人間も他の生き物たちと同じく死を前にすればできることは何もないのです。

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